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巡礼の終わりまで、残り5日。2度目の休養日を終え、一行は旅の目的地ガリシアへとたどり着いた。南スペインで走り出した198人のプロトンは、169人に小さくなっていた。ほんの5日前まで総合3位につけていたというのに、山岳3連戦で大きく崩れたリゴベルト・ウランは、気管支炎の悪化によりこの朝スタートを断念した。
スプリンターにとっては、3週間で、ほぼ最後のチャンスだった。一方で総合ライダーにとっては、お休み代わりの移動ステージ。いわゆる定石通りにステージは始まった。スタート直後から高速のアタック合戦が巻き起こった。20km地点で5選手が逃げ出すと、ジャイアント・シマノが隊列を組む。タイム差は最大4分しか与えなかった。普通に考えれば、ゴールまで適度な距離を残して逃げは吸収され、様式美に則った大集団スプリントへと向かうはず――。
この日のプロトンは、しかし、ことのほか苦労させられた。先を行くことを選んだボブ・ユンゲルス、ローハン・デニス、ダニエル・テクレハイマノ、エリア・ファヴィッリ、リュイス・マスは、虎の子のリードを守り切ろうと奮闘した。特に元ジュニア世界タイムトライアルチャンピオン(ユンゲルス)、現アフリカ大陸タイムトライアルチャンピオン(テクレハイマノ)、さらには元チーム追抜世界チャンピオン(デニス)が引っ張るエスケープが、そう簡単に匙を投げるはずもなかった。道だって決して単純ではなかった。ロードブックを眺めていただけでは決して分からない、やけにハードな上り下りが、あちこちにちりばめられていた。
すでに区間3勝を上げ、緑ジャージを2週間前からしっかり着込んでいるジョン・デゲンコルブは、チームアシストたちとタイム差管理に乗り出した。それでも、思うようにタイム差は縮まらない。レースも残り3分の1を切ると、他のスプリンターチームも、ようやく事の重大さに気が付いた。トム・ボーネン有するオメガファルマ・クイックステップや、マイケル・マシューズを守るオリカ・グリーンエッジも、積極的に追走に手を貸した。
とにかく一心不乱に逃げた。ゴール前30km、タイム差が2分半の時点で、マスは仲間たちについていけなくなった。残された4人の中でも、初グランツールを戦う21歳ユンゲルスが、力を惜しまずハイペースで踏み続けた。いつしか他の逃げ選手たちは、ちっともリレー交代に協力しなくなったけれど、ならば、とライバルを試すように何度も加速を切った。自転車選手特有の「サドル病」、つまり股ずれに苦しみ、スタート前には走れるかどうかさえ分からなかったというのに……。
ゴール前10kmでタイム差54秒。ここから道は上り始める。ユンゲルスが何度目かの加速を仕掛け、ついにテクレハイマノが脱落した。
「ほかの2人を引き離すことはできなかった。それでも、とにかく、嬉しいんだ。だって僕はまだ生きてるぞ、ってところを見せられたから!」(ユンゲルス、チーム公式HPより)
メイン集団も猛烈に追いかけた。総合上位選手を抱えるチームも、次々とプロトン前方へ位置取りを始めた。落車やメカトラを避けるため。なにより、起こりうる分断を避けるため。なにしろ上り坂にはびっしりと石畳が敷き詰められていたのだから!
そんな石畳路の、中央部分30cmほどだけは、セメントの細道が走っていた。この安全地帯に選手たちは殺到し、プロトンは細長く一列に伸びた。貴重な最前列をすかさず奪い取ったのはスカイだった。総合3位クリス・フルームを背負って、アシストが露払いを務めた。肝心のスプリンターチームだって負けてはいない。総合9位につけるワレン・バルギルが、ヒルクライマーの脚を存分に生かし、たった1人で細長い集団をぐんぐん引っ張った。ラスト5kmで、タイム差は23秒。上り詰めた先に、ア・コルーニャの市民ビーチが、見えてきた。
「スプリントに加わろうっていうんじゃなかったんだよ!ただ、あらゆる問題から、できるだけ離れていたかっただけなんだ。最終盤は罠がいっぱいだったから。今日もまた、チームメートたちが良い仕事をしてくれた」(フルーム、大会公式リリースより)
いまだ海水浴を楽しむ人々を横目に、プロトン内の緊張感は高まる一方だった。フィニッシュラインにつながる高速ダウンヒルに取り掛かると、ユンゲルス、デニス、ファヴィッリは諦めるどころか、ペダルをがむしゃらに回した。メイン集団はぶちぶちと細かく千切れ、総合リーダーたちは被害を避けようと夢中で前へ向かった。
ラスト3kmで6秒差。一番働いてきたトレック所属のルクセンブルク人は、最後の力を振り絞った後、ついに脱落した。残す2人はしぶとく粘った。しかし、残り1kmのアーチをくぐり、プロトンが2人に構わずスプリント体勢に入ると、もはや抵抗など不可能だった。次々と飲み込まれ、そして後方から吐き出された。デニスとファヴァッリは22秒遅れで、ユンゲルスは43秒遅れで勇敢にステージを終えた。
逃げた者たちの努力は、チームが引き継いだ。ジャイアント、オメガファルマ、オリカの追走作業に一切手を貸さずとも済んだランプレ・メリダは、フィリッポ・ポッツァートとロベルト・フェラーリのタンデムがさらりとプロトンの前方に躍り出た。トレックも同じく。ジャスパー・スタイヴェンとファビアン・カンチェラーラが、2人でスプリント前線へと突進していった。
それでも、最後に大笑いしたのは、1日中働き通したジャイアントだった。アシストを使い切り、もはや発射台のいなくなったデゲンコルブが、たった1人であらゆる挑戦を跳ね除けた。2014年ブエルタ区間4勝目。2012年大会の5勝と合わせて、通算9勝へと伸ばした。ジャイアント・シマノとしては、ジロ2勝(マルセル・キッテル)+ツール4勝(キッテル)+ブエルタ4勝(デゲンコルブ)と今シーズンだけでグランツール通算10勝をたたき出したことになる!
「心から満足している。だって、今日勝つために、チームは本当に必死に仕事をしたからね。集団スプリントに持ち込むために、1日中レースをコントロールし続けた。仕事をした甲斐があったというものさ。フィニッシュの地形は知っていたんだ。ホテルがすぐ側だったから、休養日に下見に行った。それでも、簡単じゃなかった。500m前にはいまだ逃げ選手がいて、僕は200mで飛び出した。最後は本能に従ったまでさ」(デゲンコルブ、公式記者会見より)
ゴールポイントも満点25ptを積み重ねた。緑ジャージの争いでは、2位アレハンドロ・バルベルデからのリードを再び35ptへと開いた。残すは山頂フィニッシュ2回、2級峠×2の後の平坦フィニッシュが1回、タイムトライアルが1回だ。
「現実的にならなきゃ。まだジャージを完全につかみ取ったわけじゃない。今日の勝利で、大きな一歩を踏み出したけど、この先の展開次第だね。エスケープが逃げ切るか否か、総合リーダーたちがどれだけポイントを取るのか。きっと運も必要だと思う。でも、それで、イライラと悩んだりはしない。中間ポイントをいくつか取りに行くつもり。それが今の僕に出来る精一杯のことだと思うから」(デゲンコルブ、公式記者会見より)
やはり良く働いたオリカのマイケル・マシューズが2位に滑り込み、一方のオメガファルマは全員が分断にはまる失態を犯した。そして……、あのカンチェラーラがスプリントで3位に食い込んだ!来る世界選手権では、すでに4回もの栄光を味わってきた個人タイムトライアルをスキップし、狙いはずばりロード一本。ちなみに過去の世界選では2009年5位、2011年4位、ついでに2008年五輪2位と、栄光まであと一歩のところにまで近づいている。
また、スカイの積極的な動きで分断は確かに出来上がったけれど、結局のところ総合トップ10は全員が先頭グループで1日を終えた。切れ目ができたのは、区間41番目のホアキン・ロドリゲスの背後だった。
「移動ステージだと思っていたんだけど……。最終盤は道が難しかったし、プロトン内もひどい緊迫感に包まれたね。でも、まあ、終わってみれば、やっぱり単なる移動ステージだったんだけど」(コンタドール、公式記者会見より)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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