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新進気鋭のヒルクライマー、ファビオ・アルが、今大会2度目の山頂を勝ち取った。クリス・フルームは積極的に加速を繰り返し、ついに総合2位の座に上った。マイヨ・ロホのアルベルト・コンタドールはひたすら「コントロール」に終始し、2人のスペイン同胞、アレハンドロ・バルベルデとホアキン・ロドリゲスの背後で静かに1日を終えた。
ひどく蒸し暑い午後だった。ただじっとしているだけでも、汗が噴出してくるような不快な午後に、大量の選手たちが白熱のアタック合戦を繰り広げた。小さなアップダウンと、細かいうねりの続く複雑な道にも関わらず、レース開始1時間目の時速は50kmを超えた!全長62kmにも渡る追いかけっこの果てに、ようやくヨアン・ルポン、ユベール・デュポン、ルイスレオン・サンチェスの3人が逃げの切符を手に入れた。
ただし、逃げ切りの夢は、長くは続かない。前夜にコンタドールが「おそらくバルベルデやロドリゲス、フルームが積極的に動くだろう」(公式記者会見より)と予告していた通り、モヴィスターが逃げ集団吸収に向けて大いに力を尽くしたからだ。最終盤に2回登坂したモン・カストローベ峠への、1度目の登坂に入ると、カチューシャが前方におとりを送り出した。途端にスカイが5人隊列を組み上げ、ハイペースでの集団制御に乗り出した。
総合わずか3秒差で睨み合うバルベルデとフルーム、そして50秒差を引っくり返して総合表彰台に滑り込みたいロドリゲス。誰もがライバルを引きずり落としたかった。もちろん、区間勝利の栄光と、それに付随するボーナスタイム10秒も喉から手が出るほど欲しかったはずだ。
あらゆる逃げは、ゴール前20kmまでに飲み込まれた。かろうじて、青玉ジャージを着込んだLLサンチェスは、1回目の山頂通過で首位5ptを懐に入れた。ステージ終了時点で、山岳賞2位バルベルデとの差は28pt。この先で獲得できる総ポイントは第19区間10pt・第20区間38ptだから、いまだ戦いの結末は見えてこない。ちなみに、気になるポイント賞ジャージ争いは、前日の区間優勝で首位ジョン・デゲンコルブがリードを35ptに開いたばかりだというのに……、本日終わってみれば2位バルベルデに19pt差に再び接近されている。
つまりデゲンコルブにとっては幸いだった。2回登坂の合間の、ゴール前9.2kmの中間ポイントで、バルベルデはスプリントしなかったからだ。白ジャージを身にまとう「キング・オブ・オールラウンダー」は、チームメート2人に代理スプリントを命じた。一方のフルームは自らが猛ダッシュして――。フィニッシュエリアでレースを見守っていた他チームスタッフには、「ほんの1、2秒のために……」と唖然とされつつも、2011年ブエルタを実際に「ボーナスタイムの差」で落とした2013年ツール覇者は、なりふりなど構ってはいられなかった。結果は2位。2秒のボーナスタイムを懐に入れて、暫定総合タイムではバルベルデについに1秒差に迫った。
ゴール前7.7km、2度目の登坂は、コフィディスの突撃から始まった。大会スポンサーの赤いジャージに続いて、カチューシャ、ティンコフ・サクソ、アスタナ、キャノンデール、ジャイアント・シマノ……と色とりどりのジャージが繰り返し前方へと駆け上がった。数々の小さな企ては、浮かんでは消えていった。会心の一撃は、空色のジャージが決めた。ゴール前3.7km、ピュアな山男アルの、確信に満ちたアタックだった。
「勾配の最も厳しい場所でアタックを仕掛けたんだ。監督のジュゼッペ・マルティネッリからそうするよう助言されていたし、1周目でしっかりと確認をしていたから」(アル、公式記者会見より)
次に違いを見せたのがフルームだった。残り2.5km。ついほんのさっきスプリントしたばかりの英国人が、アルへと向かって突進した。すぐに2人は合流した。総合3位フルームと、総合5位アルは、共同戦線を張った。……といっても、がむしゃらに牽引を引き受けたのは、順位より、むしろタイム差を重視するフルームのほうだったけれど。
「僕らは協力し合って走ったよ。フルームはすごく力強く走った。おかげで僕は勝てたんだ!」(アル、公式記者会見より)
英伊同盟の背後では、協調性に欠けるスペイン3人組が追いかけていた。バルベルデがひたすら前を引き、コンタドールとロドリゲスはただ後輪に張り付いているだけ。さすがにフルーム&アルとの差が15秒以上に開くと、コンタドールがわずかに加速したり、プリトが突進したりしたけれど……。大部分はバルベルデただ1人に、追走の責任がなすりつけられた。
「だってアレハンドロには、率先して追いかける理由があったはずだから。表彰台の2番目の位置を失いたくなかったはずなんだ。だから考えた。仕事をするのは僕じゃない、アレハンドロが行くべきだ、って。いつも以上に、僕は冷静だったかもしれない」(コンタドール、公式記者会見より)
「誰もが警戒しあうばかりで、協力関係が一切なかった。僕はフィニッシュラインまで力いっぱい走った。時々は後ろを振り返って、プリトがまだ背後にいるのか何度も確認したよ。フルームが僕らより強かったとは思わない。みな同じ程度のレベルにいると思うんだ。ただ今日のフルームは、やるべき事を上手くやっただけ。いや、確かに強いけれど、コンタドールを頂点から追い落とせるほどではないだろう」(バルベルデ、大会公式リリースより)
ラスト500mに入ると、アルは2度目の区間勝利に向かって、再び自らの加速を切った。力いっぱい拳を天に突き上げて、第11ステージに続く山頂フィニッシュを勝ち取った。生まれて初めて年間2グランツール(ジロ+ブエルタ)に挑んだ24歳は、「3週目に体力が持つかどうか、ちょっと怖い」(大会公式会見より)と1週間前には言っていたけれど……、閉幕4日前に全てが若者の杞憂だったことが証明された。
「本当に満足してる。あと3日間残っているから、この勝利を存分に味わうことは出来ないけどね。まだ集中し続けていかなきゃならない。だってこのブエルタを、絶対にトップ5で終えたいんだ。ビッグチャンピオンたちと戦った末に、総合5位以内で終えられたら、それこそ僕にとっては勲章モノだ。参加するあらゆる大会で、なんというか、僕の『指紋』を残して行きたいと思っているんだ」(アル、大会公式記者会見より)
1秒遅れてフィニッシュラインを越えたフルームは、第6、第16ステージに次いで「また2位だった」(ゴール後インタビューより)と、苦笑いで肩をすくめた。
「もちろん、区間勝利が欲しかったよ。でも、飛び出した目的は、まず第一にライバルたちにタイム差をつけるためだったからね。だから、チームが再びファンタスティックな仕事をしてくれて、僕自身がこうして山でいい走りが出来て、総合でも2位に上がれたことには、すごく満足しているんだ」(フルーム、ゴール後インタビューより)
2位のボーナスタイム6秒も手にした英国人の12秒後には、コンタドール以外の2人が「区間3位=4秒」を巡るスプリントを繰り広げた。さんざん引っ張ってきたバルベルデが、なんとか3位入賞で溜飲を下げた。総合トップ5が区間トップ5を独占したこの日、総合5位が区間1位に輝き、総合1位は区間5位で走り終えた。コンタドールはまたしても危なげなくマイヨ・ロホを守りきった。バルベルデとフルームは立場を入れ替え、英国人が1分19秒差の総合2位に浮上した。スペイン人は総合3位に順位を1つ落としたが、総合タイムは4秒縮めて1分32秒差につける。ロドリゲスは前日と変わらず2分29秒差の総合4位で、区間2勝アルは遅れを3分38秒→3分15秒と縮めた。
2014年ブエルタ・ア・エスパーニャも、最後の週末を迎える。強豪トップ5による直接対決は残すところ1回。土曜日、第20ステージ超級山頂フィニッシュ決戦のみ。ステージ後半に立ち並ぶ4つの難峠を利用して、誰が、どんな攻撃を企ててくるのだろうか。
「土曜日は、今日とはまるで違ったレースになるだろう。今日の最終峠はクラシック風な、爆発的な上りだった。でも、第20ステージのアンカーレス峠は、本物の超級峠だ。だから僕やフルームに向いている上りだし、間違いなく、最も警戒すべき選手はフルームとなる。僕も今日とは違う戦術を取ることになるだろうね」(コンタドール、公式記者会見より)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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