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乾いた荒野が広がるスペインで、ガリシアは例外的に「緑の大地」と呼ばれる。まるで英国のように、1日の間で晴れたり雨が降ったり、ころころと変わりやすい天候でも有名だ。この日も、大西洋から、むくむくと雲がわきあがってきた。通り雨がプロトンを襲い、海からの強風が選手たちの体に吹き付けた。しかも、最終盤に少々難解な2級峠が待っていて……。あらゆる困難をはねのけて、「グランツール10大会連続完走」を目前に控えるアダム・ハンセンが、記念すべきステージ勝利を手に入れた。
ちょっとしたアタック合戦を制して、25km地点からローラン・マンジェル、ピム・リヒハルト、ワウテル・ポエルスが逃げ出した。メイン集団では早々とジャイアント・シマノがタイム差制御に乗り出した。スプリントリーダーのジョン・デゲンコルブにとって、5つ目の区間勝利のチャンスであり、なにより緑ジャージポイント収集の大切な機会だったから。コース上に2級峠が2つ聳えていようが、ちっとも構わなかった。しかもゴール前15kmには、登坂距離4.7%・平均勾配7%と、ひどく爆発的な上りが控えていたというのに!
噂によれば、マイケル・マシューズ擁するオリカ・グリーンエッジの協力も取り付けた。なんでもスタート前に、両チームは協力関係を結んだとのこと。とにかく、すべてはゴールスプリントに持ち込むために。ジャイアント隊列は、エスケープに最大3分半差までしか与えなかった。じっくりと、確実に、3人を追い詰めていった。
ゴール手前の2級峠入り口まで、いよいよ10kmに迫ると、追走スピードは急激に上がった。総合上位を抱えるチームが、こぞって集団前方へと競りあがってきたからだ。分断、落車、メカトラ、ライバルのアタック……、様々なトラブルを避けるためだった。ティンコフ・サクソが夢中で前を引き、続いてスカイが冷酷に加速していく。エスケープの3人は最後まで必死に粘ったけれど、恐ろしいうねりと化したプロトンに、山に入る直前に飲み込まれていった。
山道が始まると同時に、アレクセイ・ルツェンコが飛び出した。上りでの追走作業は、ほぼ、スカイトレインに一任された。デゲンコルブは漆黒ボーイズの最終車両に張り付いて、クールに上り続けた。下りでも、スカイが相変わらず仕事を引き受けた。差は15秒ほどついたが、あくまで静かに、追走作業は続行された。
しかし、ダウンヒルでサムエル・サンチェスが仕掛けると、状況は複雑になっていく。プロトン屈指の下り巧者の、高速アタックだった。道幅はひどく細く、しかも舗装状態は極めて悪かった。その上、ツールで落車骨折したクリス・フルーム擁するスカイは、「あくまで安全のために前を制御」(フルーム、ゴール後インタビューより)していたはずだったのに……、肝心のアシスト役ダリオ・カタルドが急カーブで自転車から滑り落ちてしまった!集団内は一気に緊迫感に包まれた。やはりツールの下り中に落車したコンタドールも、一瞬ヒヤリとさせられたという。
「下りでは落車のリスクがかなり大きかった。ダリオ・カタルドの落車を上手く避けられたのは、とにかくラッキーだったね。どうやって切り抜けたのか分からない。けれど、とにかく、何事も問題のないまま1日を終えられて本当にほっとしている」(コンタドール、チーム公式リリース)
総合チームがますます安全性を優先する一方で、ジャイアント隊は再び追走の主導権を取ることに決めた。列車要員はすでに2人しか残っていなかったけれど、前を走るルツェンコとサンチェスを引き摺り下ろそうと奮闘した。
もはや誰も、ジャイアントに手を貸そうとはしなかった。それどころか、2人を必死で吸収した直後には、次々と、謀反の試みさえ巻き起こった。ラスト5.5kmからの短い上りで、ライバルたちは我先にと攻撃に切り替えた。山を登る前までは仲間だったオリカも、いまや立派なライバルとして猛加速を切っている。デゲンコルブ自らが後輪に張り付き、事態の収拾に走り回ったけれど、1人ではついに対応しきれなくなった。その時だ。ゴール前4.8km。アダム・ハンセンが毅然と飛び出した。
「最高のタイミングで飛び出せた。コース地形は僕にとってパーフェクトだった。それに、最終盤は、プロトンの人数はかなり減っていて、スプリンターはデゲンコルブとマシューズだけになっていたんだ。しかも2人とも、チームメートをそれほど残してはいなかった。だから、もしも僕がアタックを仕掛けたら、彼らが追いつくのは難しいだろうと予想していた」(ハンセン、大会記者会見より)
アンドレ・グライペルのスプリント列車要員を務めることも多いオーストラリア人は、他のスプリンターチームの動きをしっかりと把握していた。読みはぴたりと当たった。ジャイアントの残されたアシストだって、確かに奮闘した。しかし、どうしても人員不足だった。ラスト2kmで、ついに追走を放棄せざるを得なかった。他チームは顔を見合わせるか、バラバラにアタックを仕掛けるかに終始するだけ。残り1kmでタイム差は12秒。この遅れを、埋め合わせることなど、もはや不可能だった。
「ブエルタで勝つことが出来て、本当に嬉しいんだ。僕はグランツールが大好きだけれど、特に、ブエルタがお気に入りだからね。いつも暑くて、天気が良くて、ファンも熱狂的で。スペインが大好き。だから、ブエルタで勝てたというのは、ホント、スペシャルだよ」(ハンセン、大会公式記者会見より)
グランツールには今大会を含め、過去16回出場してきた。特に2011年ブエルタを走り終えてからは、3年×3グランツール、つまり9グランツール連続で完走を果たしてきた。2013年ジロでは、大逃げの果てに生まれて初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。素晴らしき連続完走「5回記念」だった。そしてこの2014年ブエルタでは、終盤のアタックを勝利に結びつけ、連続完走「10回記念」を大々的に祝った!……もちろん、今の時点では「前祝」に過ぎない。本当の意味で、区間勝利と連続完走を満喫できるのは、日曜日の夜になる。
「来年も、また同じスケジュールで走りたいと考えている。そう、つまりはグランツール!グランツール!グランツール!」(ハンセン、大会公式記者会見より)
5秒後にたどり着いた54人の集団スプリントは、当然のように、デゲンコルブがさらい取った。5つ目の区間勝利は果たせなかったけれど、ゴールポイントは20pt収集した。緑ジャージ争いでは、2位アレハンドロ・バルベルデのリードを39ptに開いた。残す2日間で獲得できる最大ポイントは58ptだから、まだまだ決して予断は許さない。
「チームはまたしても素晴らしい仕事をしてくれた。5勝目はつかめなかったけれど、責任を持って仕事をしたし、チャンスを逃さず大切なポイントを積み重ねた。これで、バルベルデとの差が十分だったら、嬉しいんだけど。緑ジャージを守りきって、チームの厳しい仕事に報いがあるよう願ってる」(デゲンコルブ)
ナーバスな最終盤を上手く乗り切って、総合上位5選手はデゲンコルブと同集団でフィニッシュラインを越えた。つまりタイム差の変動はなかった。マイヨ・ロホのアルベルト・コンタドールは、総合2位以下に1分19秒リードを保ったまま、最終難関山岳ステージを迎える。
「明日はひどく難しい1日になるだろう。特にフルームが、僕からタイムを奪いにくるはずだ。どんな風にレースが進んでいくのか、しっかり見ていかなきゃならない。僕にアタックに反応できるだけの脚があるよう、本気で願っているよ」(コンタドール、大会記者会見より)
勝者たちの記者会見が終わった頃、ブエルタのプレスルームでは、来るべき世界選手権へ向けての「プレ」スペイン代表が発表された。地元ポンフェラーダ大会に向けての仮メンバー14名の中には、世界選不出場を宣言したばかりのコンタドールの名も入っていた。代表監督ハビエル・ミンゲス氏は、「私にはベストメンバーを選ぶ義務があるし、コンタドールはベスト選手の1人だ」との理由を語っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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