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普段は巡礼客でにぎわうオブラドイロ広場が、自転車ファンでぎゅうぎゅう詰めになった。夕闇の中で赤い光が舞い、アルベルト・コンタドールに栄光の赤いジャージが与えられた。2年ぶり3度目のブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝。公式にはツール・ド・フランス2回とジロ・デ・イタリア1回を含む、キャリア6回目のグランツール王者となった。表彰式が終わっても、ファンたちの熱気はちっとも冷めなかった。コンタドール、コンタドール、コンタドール!おなじみの掛け声が石造りの街角にいつまでも鳴り響いた。
3239.9kmの巡礼は、終点のサンティアゴ・デ・コンポステーラへたどり着いた。アンダルシアを走り出した198人は、159人にまで減っていたけれど、誰もが長い旅の終わりにほっと安堵のため息をついた。デーヴィッド・ミラーは、満身創痍ながら、人生最後のグランツールを感涙で締めくくった。
9.7kmという短距離走は、ロードブックを一瞥しただけ決して分からない、各種の難しさを秘めていた。大きなアップダウンに急カーブ、序盤と最終盤にはたくさんの石畳と減速帯。こんな、テクニカルなコースを、44番出走のアドリアーノ・マローリが制した。走行タイムは11分12秒02、時速は51.964km。ジュニア→U23→エリートとイタリア選手権個人タイムトライアルを制し、U23時代には同種目で世界チャンピオンにも上り詰めた26歳は、第1ステージのチームタイムトライアル勝利で始めたブエルタを、個人としては生まれて初めてのグランツール区間勝利で締めくくった。
「とても満足している。カンチェラーラとマルティンの不在を、上手く利用したかったんだ。僕のような選手に勝利の可能性があったからね。今日の出来は、世界選主権に向けてよい合図だ。マルティンに関しては、メカトラでしか倒すことができないけれど、僕がトップ5で終えられる可能性は大いにある」(マローリ)
マローリが走り終えた約25分後、空から、雨粒が落ちてきた。小雨は、次第に本降りとなった。石畳は極めて滑りやすくなり、うねりの多い下りはとたんに危険度が倍増された。少々運が悪かったのは、ローハン・デニスかもしれない。中間計測ポイントではマローリを6秒上回るぶっちぎりのトップタイムを叩き出していた。しかし、ステージも後半に差し掛かると雨が降り始めて……、仕上げの加速の邪魔をした。全速力でフィニッシュラインを越えたけれど、マローリに9秒足りなかった(区間3位)。しかも、ゴールした途端に、石畳の上でつるりと滑って転んでしまう不運さえ襲った!区間2位には、トラック競技で数々の五輪&世界選手権メダルを手にしてきた、ジェシー・サージェントが割り込んだ。
結局のところ、難解なコースでは、雨が成績の大部分を左右した。区間1位から20位までは、全員が、アスファルトが濡れだす前に走り出した選手だった。しばらくすると雨は上がり、空には綺麗な虹がかかった――約1週間後にここスペインで世界選手権が幕を開けることを、改めて思い出させてくれた――。最終走者コンタドールが道に飛び出す頃には、確かに、ところどころ路面は乾いていたけれど……、全体的につるつるした状態であることには変わりなかった。
だからこそ、前夜まで激しい総合争いを繰り広げてきたトップ5の選手たちは、控え目なペースで、安全に最後まで走り切るほうを選んだ。最も好成績だったアレハンドロ・バルベルデさえ55秒遅れの区間32位で、優勝大本命に上げられていたクリス・フルームなどは1分13秒遅れの63位に沈んだほどだ!コンタドールは1分40秒遅れの101位。予想以上にタイムを失ったのは、きっと、ラスト50mで何度もガッツポーズを握り締めていたから。
「ツール・ド・フランスで落車した後に、専門家たちから、口々に言われたもんさ。ブエルタ前の回復は無理だろう、と。だから僕は、あえてその言葉にたて突いた、最初に総合優勝が可能かもしれない、って思ったのは第9ステージだった。あの日までは、実際、まだ痛みもあった。でも、常にチームメートたちが、僕を支えてくれた」(コンタドール、大会記者会見より)
総合タイムには多少の変動があったが、トップ5の順番には変わりはなかった。コンタドールの両脇には、フルームとバルベルデが並んだ。2013年ツール覇者の英国人にとっては、2011年ブエルタ、2012年ツールに次ぐ、人生3度目のグランツール2位。一方のスペイン人にとっては、2009年ブエルタ総合優勝を除くと、実に5度目のグランツール表彰台だった。しかも、その全てが、ブエルタだった。
「3つのブエルタ勝利は、それぞれにスペシャルだね。2008年の最初の勝利は、トリプルクラウン(ジロ、ツール、ブエルタ)の成功を意味した。2012年の2回目は、トップの調子ではなかったけれど、クレイジーな戦術でもぎ取った。そして今回、ツールでの落車後に、思い通りの準備ができたわけじゃなかった。だから、まずは、なんとか必死に生き残りを図った。それから、アタックへと移行した。トップライダー相手に勝てたなんて、ホント、たまらないね。2015年のことを話すのはまだ早いかもしれないけれど、僕には夢がある。グランツール全てを戦うこと!実現可能なのかどうか分からないし、今夜はそんなこと考えたくもないけれど……、でも、可能だといいなぁ」(コンタドール、大会記者会見より)
また、スペイン一周では過去4年連続で区間勝利を手にしてきたホアキン・ロドリゲスは、今年は残念ながら区間勝利も総合表彰台も手に入らなかったけれど、代わりにチーム総合首位の座を勝ち取った。ジロやツールならば、新人賞に値するのは総合5位ファビオ・アルだった。山岳ジャージはルイスレオン・サンチェスが、スプリンタージャージはジョン・デゲンコルブがきっちりと守りきった。
「本当に満足しているよ。僕の感動を言葉で正確に表すのは難しい。このジャージはチーム全員にとって素晴らしいご褒美であり、僕にとっても世界でひとつの栄光なんだ。世界選手権に向けてとんでもないモチベーションを掻き立ててくれるね」(デゲンコルブ、大会公式リリースより)
夜空には花火が打ち上げられ、スペイン人にとって歓喜の夜は、喧騒のままに暮れていった。ファンたちはいまだ熱い大会の名残を惜しんだが、選手や関係者たちの視線は、すでにアルカンシェル争奪戦スペインのポンフェラーダに向けられている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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