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【ツール・デ・フランドル/レビュー】落車多発のカオス状態の中、アレクサンドル・クリストフが今季10勝目を挙げる!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかゴール前28km、この日最後から3つ目の坂道クルイスベルフの最終盤で、ニキ・テルプストラが攻撃に転じた。2014年パリ〜ルーベ覇者の背中に、2014年ミラノ〜サンレモ王者のアレクサンドル・クリストフがすかさず張り付いた。2人のモニュメントチャンピオンが、全てを置き去りにして、最後まで逃げ切った。勝敗を分けたのは、フィニッシュラインへ向けてのスプリントだった。
良く晴れた復活祭の日曜日だった。スタート直後に7選手が逃げだし、後方プロトンではスカイが集団制御の手綱を握った。フランドルの細く曲がりくねった田舎道では、石畳かアスファルトかに関わらず、いつものように落車が多発した。カオスの中で、本来ならば選手をトラブルから守る立場であるはずのニュートラルサービスカーが、選手を途中棄権に追い込んでしまう事故さえあった。
エスケープとのタイム差が徐々に縮まり、激坂巡りも10を数えた頃から、戦いはいよいよ熱を帯びていく。スカイのコントロール網を破ろうと、前方でも後方でも、特にロット・ソウダルがレースを活性化させた。エスケープ集団ではラルスイティング・バクが、石畳好きダミアン・ゴーダンと共に2人で先を急ぎ始めた。メイン集団では、普段はスプリントリーダーを張るアンドレ・グライペルが、この日はクラシックリーダーのために力を尽くした。幾度となく飛び出しを仕掛けては、集団を撹乱した。IAMやジャイアント、オリカ・グリーンエッジ、BMC等々もまた、次々とプロトン前方の黒い隊列を脅かしにかかった。トム・ボーネンとファビアン・カンチェラーラのいないプロトンで、唯一の優勝経験者ステイン・デヴォルデル――2008・2009年と連覇。2008年はリーダー、ボーネンのために「グライペル風」仕事を繰り返し、最後には自らが勝利へのアタックを打った――は、大会の名物激坂コッペンベルフで自ら加速を試みた。アスタナのアレクセイ・ルツェンコも、昨ツール・ド・フランスで石畳区間を制したラース・ボームのために、前方で長らく囮役となった。
一時は7人で集団にぴっちり蓋をしていたスカイも、じわじわと数を減らしていた。それでも、2度のオウデ・クワレモント登坂を経て、コッペンベルフを抜けだしても、リーダーのゲラント・トーマスの側にはいまだ補佐役が2人残っていた。一方のエティックス・クイックステップは、いつもとは違って、少々控えめに集団内に紛れていた。クラシック精鋭軍が初めて存在感を示したのは、ゴール前37km、タイエンベルフの坂道でテルプストラが軽く加速を試みたとき。ただこの時点では、すぐに集団内へ引っ込んだ。
そして勝負のクライスベルフがやってきた。またしてもロットが動き、トーマス、ボーム、ペーター・サガン、フィリッポ・ポッツァートといった大御所がついに自ら前へと競り上がり、それから、石畳ゾーンを抜けてほんの少々緊張感が緩んだ一瞬だった。テルプストラとクリストフが、飛び出していったのは!
「逃げのパートナーとしてはいい相手だと思った。確かに、(スプリントが)速い選手だけど、でも飛び出した時点では上りが3つ残っていたからね。だから、自分にも勝機があると考えた」(テルプストラ、チーム公式HPより)
「ニキの加速に、上手く反応することが出来た。一旦逃げ出してからは、2人で上手く協力しあったし、なにより彼を説き伏せたんだよ。僕とフィニッシュまで協力すれば、最悪でも2位に入れるはずだよ、って」(クリストフ、チーム公式HPより)
後方ではスカイのアシスト、ルーク・ロウが必死に牽引を試みた。ロットのグライペルもまた、惜しみなく追走に力を尽くした。3度目のオウデ・クワレモントでは、スカイのリーダー、トーマスが満を持して加速するも、テルプストラのチームメイト、ゼネック・スティバールが監視役として張り付いた。デヴォルデルが飛び出したときも、フレッフ・ヴァンアーヴェルマートが試みたときも、やはりスティバールがきっちり潰して回った。最後の激坂、ゴール前13kmのパテルベルフでようやく、ヴァンアヴェルマートとサガンがスティバールを振り切ることに成功する。しかし協力しあって先を急ぐテルプストラとクリストフとの差は、すでに30秒にまで開いていた。
そのパテルベルフで、テルプストラはライバルを振り払うどころか、スプリンターに先行されてしまう。
「パテルベルフでは、彼を上手く支配下に収めたと感じた。でも、真実は、決して分からない。とにかく僕は彼を先には行かせなかった。彼の強さを知っていたから」(クリストフ、チーム公式HPより)
「ラスト10kmに入っても、彼はまだ、そこにいた。もう、僕にできることは、それほど多くはなかった」(テルプストラ、チーム公式HPより)
後ろから追いかけてくる2人が、ヴァンアヴェルマートとサガンではなく、スティバールと誰かだったら……。もっと早く協力体制に「ノー」を突きつけられていたはずだ。ゴール前5km、タイム差は26秒。ここで一度は軽く首を振ったテルプストラだが、結局はラスト3kmまで前を引くよう強要された。はるか後ろの状況を気にして何度も振り返るテルプストラと、「追いつかれるかもしれないと思うと、怖かった」と後に告白しながらも、レース中は隣の敵から決して目を離そうとしなかったクリストフ。この時点ですでに、大方の勝負は決していたのかもしれない――。
ゴール前180m。クリストフの背後から、テルプストラがスプリントに打って出た。しかし、一瞬たりとも、ノルウェー人スプリンターを追い越すことは出来なかった。クリストフはあっさりとトップスピードに乗ると、そのままフィニッシュラインを先頭で駆け抜けた。サンレモでは2位に泣いた男が、オーデナルドでは喜びを爆発させた。
「子供の頃から、ツール・デ・フランドルの優勝を夢見ていた。そして今、夢がかなった。(パンヌ3日間の優勝も合わせて)素晴らしい1週間だった。これ以上の成功は望めないほどだよ」(クリストフ、チーム公式HPより)
クリストフにとっては今シーズン10勝目にして、人生2つ目のモニュメント勝利。ノルウェーに史上初めてのツール・デ・フランドルタイトルをもたらし、チームのカチューシャはルーカ・パオリーニのヘント〜ウェヴェルヘム勝利に続き2週連続でクラシック優勝を祝った。2月末のヘットニュースブラット2位、前週のヘント2位に続き、またしても2位に終わったテルプストラは、「2位で満足しなきゃ」と自分に言いきかせるように語った。
3位には7秒差まで追い上げたヴァンアーヴェルマートが入り、ラスト500mで力尽きたサガンは4位で終わった。前に後ろに、1日中仕事をし続けたロット・ソウダルからは5位にティシュ・ビノート、8位にユルゲン・ルーランツが入り、最後の力を振り絞ってスプリントしたグライペルも15位に食い込んだ。レース終盤までコントロールを続けたスカイは、トーマスの14位が最高位だった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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