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ジロは決して一筋縄ではいかない。大集団スプリントで終わることが運命付けられた、大会最初の通常ステージでさえも、静かで平凡な1日にはならないのだ。
スタート直後には、5選手がこぞって飛び出した。マルコ・フラッポルティ、ルーカシュ・オフシャン、ジャコモ・ベルラート、エウゲルト・ズパの招待チーム選手4人に、唯一のワイルドツアー所属ベルトイヤン・リンデマンを加えた小集団は、初日エスケープの旨みをたっぷりと味わおうと、協力し合って先を急いだ。一時は最大10分程度のタイム差を開いた。ゴール前10kmまで、メイン集団の吸収に抵抗し続けた。そして、全てが終わってしまう前に、中間ポイント賞「アウトストラーデ・ペル・イタリア」と敢闘賞「ピッタロッソ」はフラッポルティが、大逃げ賞「フーガ・ピナレッロ」はオフシャンが手に入れた。エスケープが望みうる最もレベルの高い賞、山岳賞マリア・アッズーラは、ロットNLのリンデマンが核の違いを見せ付け、堂々と持ち帰った。
賞ジャージの中で、総合リーダージャージに次いで位が高いのは、ポイント賞である。a〜eまでの5段階に分けられたステージ難易度で、aに該当する第2ステージでは、中間スプリントで上位8人、フィニッシュでは上位15人にポイントが与えられた。で、つまりは、逃げの5人の後の残りポイントを狙って、中間ポイントでトレックが猛烈に仕掛けた。1度ならず2度までも、チーム総出でトレインを組んだ。すべてはスプリントエースのジャコモ・ニッツォーロに、赤いジャージを着せるためだった。
チームで一番のベテラン別府史之も、2度の中間ポイントに向けて列車を率いた。ゴール前74.9kmの第1ポイントではニッツォーロは6位通過、つまりメイン集団内でトップ通過を成功させ、まんまと3ポイント手に入れた。ゴール前64.1kmの第2ポイントでは、他のチームもポイント収集に雪崩れ込み、ニッツォーロは7位通過2ポイント獲得に終わった。
「振り返って見ると、2回目もスプリントに行くなんて、ちょっとやりすぎだったかも」とチーム監督のバッフィがコメントを残したのは、きっと、6位通過=3ポイントをエリア・ヴィヴィアーニにさらい取られてしまったから。
そして、おそらく、2つの中間ポイント直後に訪れた山岳――大会最初の山岳でもあった――で、ニッツォーロが随分と苦しんでしまったから。たかだか4級カテゴリーに過ぎない緩やかな上りで、別府や他のアシスト役を待たせたほどだったから。花粉症のせいで、「呼吸が上手くできなかった」せいだとニッツォーロ本人は語っているけれど。
「今後は、この状況を、もう少し上手くコントロールすべきだね。ゴールにより集中して、中間ポイントではそれほど力を使ってしまわないほうがいい。簡単に点が取れそうなときは、点を取りに行けばいい。ジロはまだ長いんだし、ポイント賞ジャージは最初のステージだけでは決まらないんだから」(ニッツォーロ、チーム公式HPより)
スプリンターが苦しんだのは、むしろ上りで、ティンコフ・サクソが強烈なテンポを刻んだからなのかもしれない。近ごろ、グランツール序盤の平坦ステージ終盤は、総合系チームに支配されるようになった。理由は「落車を避けるため」。この日も、総合大本命のアルベルト・コンタドールを無事にゴールまで運ぶため、ティンコフボーイズは隊列を組んだ。「最善策は、前にいること」とばかりに、チームタイムトライアルで2位に入った前日に続いて、猛烈なハイスピードを保った。
「今日のチームは本当によく働いてくれた。ステージ最終盤に集団後方で起こった出来事を見ると、僕らのやったことは、本当に意味のあることだった」(コンタドール、TVインタビューより)
ゴール前25km、大きな集団落車が起こった。IAMの選手が大量に巻き込まれた。さらに5kmほど先で、ダイエルウベルネイ・キンタナが落車し、ハインリッヒ・ハウッスラーは2度目の被害にあった。総合優勝を狙うリゴベルト・ウランのアシスト役、ピーター・シェリーは、右肩の腱を痛めながらも自転車をこぎ続けたが、あまりの痛みについに大会を去った。
そして、ジェノバの市街地周回コースに入り、逃げの5人を吸収する直前だった。道幅が不定期に変わり、ところどころ蛇行し、直角やヘアピンカーブさえちりばめられた危険なサーキットで、ゴール前12km、集団落車が再びプロトンを襲った。総合争いを目論むドメニコ・ポッツォヴィーボとライダー・ヘシェダルの2人も、足止めを食らった。
ヘシェダルは後に集団復帰を果たすが、地面に一旦足をついた上に、チェーンが外れて少々パニックに陥ったポッツォヴィーボは、最後まで集団に追いつくことが出来なかった。なにしろティンコフ・サクソが猛スピードで引っ張り、さらにファビオ・アルを擁するアスタナも平行に列車を走らせ、プロトンのスピードは上がる一方だった。AG2Rのアシスト勢の健闘もむなしく、小型クライマーは、この日だけで1分9秒ものタイムを失った。
ゴール前3km――ここからフィニッシュまでは、たとえ落車やメカトラで遅れても、遅れた時点で所属していた集団と同じゴールタイムが与えられる――で、コンタドールとアルのチームメートたちは、無事に任務を終えた。ようやくスプリンターチームに、主導権を引き渡した。
ここですかさず先頭に上がったのは、スカイだった。リッチー・ポートのためではなく、ヴィヴィアーニのために。トレックが猛烈な勢いで前を取り返した。マリア・ローザをチームに留めおきたいオリカ・グリーンエッジも急激に駆け上がり、そしてランプレが上がってくると、あっという間にスプリントを切るべき時間がやってきた。まるで体制が整わないままサーシャ・モドロが発車され、ニッツォーロが加速し、アンドレ・グライペルが飛び出し、モレノ・ホフラントが競り上がり……。
めまぐるしく先頭の顔ぶれが変わり、右や左にラインが揺らぐ中で、ヴィヴィアーニは、張り付くべき選手を絶妙にチョイスした。ニッツォーロの背中から、ホフラントの後輪に飛び乗り、そして最後は自ら飛び出した。
「ここ数年は、あと少しというところまで近づいていたのに、いつも、わずかに届かなかった。この勝利は、プロキャリアで最大の成果だよ。随分と時間がかかったけれど、でも、ずっと自分を信じ続けてきた。決して諦めなった」(ヴィヴィアーニ、公式記者会見より)
プロ入り6年目でつかんだ、初めてのグランツール区間勝利だった。これまでグランツールでは4度の2位に泣いてきた。しかし、あらゆる失敗や経験が、今の自分を作ったのだとヴィヴィアーニは語る。
「去年のツールで、ペーター・サガンのために働いたことも、ものすごく良い経験になった。それから、今年の年頭に、ドバイでマーク・カヴェンディッシュを破ったことが、ある意味、啓示だった。トラックの世界選手権でメダル(マジソン銀、オムニウム銅)を取ったことも、自信になった。それに、スカイが、僕に合わせたトレーニングメニューを作ってくれた。スプリントに特化した練習だけれど、上りのことも決しておろそかにしない、そんなプログラムだ」(ヴィヴィアーニ、公式記者会見より)
今年スカイに合流したばかりのヴィヴィアーニは、赤いポイント賞ジャージも身にまとった。チーム一丸となって奮闘したニッツォーロは区間6位に終わり、ひとまずポイント賞は8位につけた。
そしてサイモン・ゲランスのマリア・ローザは、予定通りに、チームメートのマイケル・マシューズが引き継いだ。1年前は6日間ピンク色のジャージを守った。今年は果たして何日間、トップの位置をキープするつもりだろうか。
「できる限り守りたいとは思うよ。でも、僕の次の目標は、区間勝利を上げること。第3ステージは僕向けだと思うから、マリア・ローザ姿で区間を勝ちに行くよ」(マシューズ、公式記者会見より)
日本の石橋学は、生まれて初めてのグランツールの、初めてのラインステージを、最下位20分11秒遅れでゴールしている。少々手痛い洗礼だった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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