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サイクル ロードレース コラム 2015年5月12日

ジロ・デ・イタリア2015 第3ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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大会最初の山岳ステージで、前方は大いに活気付き、後方はティンコフ・サクソが鍵をかけた。オリカ・グリーンエッジは作戦を完璧なまでに遂行した。74人のゴールスプリントを制したのは、前夜のマリア・ローザ記者会見で「第3ステージは僕向き」と宣言していた、マイケル・マシューズだった。

気温は30度近くまで上がり、真夏のような陽気がジロ一行を包み込んだ。すっかり熱に浮かれたプロトンは、ヨーイドンで、とてつもないアタック合戦へと飛び出した。小さな一塊がアタックし、前方に集団を作る。また別のグループが前へ出て、前方集団に追いつく。単独で追いかけを図り、賭けを成功させる者もいれば、自滅する者もいた。いつしか25人の大きな集団が出来上がった。エスケープの顔ぶれはひどく豪華だった。なにしろディエゴ・ウリッシ、フィリップ・ジルベール、アダム・ハンセン、トム・ボーネンという強豪が勢ぞろいしたのだから!

「あれほど大きな逃げ集団が出来るとは思っていなかった。でも、僕らのチームも前に2人送り込んだから、追走の必要もなく、安心して走ることができた」(マシューズ、公式記者会見より)

開幕前の水曜日に、オリカ・グリーンエッジは、チーム全員でこの第3ステージの最終80kmを下見していた。ハードな戦いが繰り広げられるだろうことは、あらかじめ覚悟していた。「おそらく60人程度の集団スプリントで終わるだろうね」と、オリカのヴィットーリ・アルジェリ監督は、レースの締めくくり方さえ予言していた。

「緊張感を強いられるコースだよ。でも自信はある。我々には、まだ4人、マリア・ローザの可能性がある選手が残っているからね。マイケル・マシューズ、サイモン・ゲランス、サイモン・クラーク、エステバン・チャベス、この4人でジャージを守りに行く」(アルジェリ監督、スタート前)

こうしてクラークとチャベスの山岳強者が、逃げ集団にきっちり滑り込んだ。エスケープが最後まで逃げ切った場合は、この2人が、マリア・ローザのために戦う予定だった。マシューズとゲランスは後方待機組に回った。集団フィニッシュにもつれ込んだら、もちろん、彼ら2人の出番がやってくる。

総合優勝本命を抱えるティンコフ・サクソも、マヌエーレ・ボアーロをエスケープに潜り込ませた。それにも関わらず、アルベルト・コンタドールは、残るチームメート総動員で隊列を組んだ。理由は前日と同じ。どんな些細な問題が入り込む余地さえ、与えるつもりはなかったから。

逃げ集団の背後では、イエローの列車が、1分差前後を延々とキープしながらついていった。ツールのマイヨ・ジョーヌ、ブエルタのマイヨ・ロホに続いて、ジロのマリア・ローザを虎視眈々と狙うジルベールが、ボーナスタイム収集のために中間スプリントに打って出ようが(結果は1位×2回×3秒で6秒獲得)、激しいアップダウンの連続で、前方からばらばらと選手が脱落してこようが、ティンコフは黙々と速いテンポを刻み続けた。

2級峠で、パベル・コシェトコフが、逃げの仲間たちを尻目に飛び出した。山岳ジャージを我がものとし、そのまま下りでもスピードを緩めることなく独走を続けた。置いてけぼりをくらったジルベールやウリッシ、ハンセン、クラーク、チャベス等々は、必死に追いかけた。コンタドールボーイズはあくまでも冷静に集団コントロールに専念しつづけた。

「SRMパワーメーターの値を見たところ、僕はステージの間中、まったく休みなしにハイパワーで走り続けてきたみたいだね。サプライズや落車を避けるために、チームが1日中、前方で働いてくれた。チームメートは僕を信頼して、素晴らしい仕事をしてくれた」(コンタドール、チーム公式リリースより)

ゴールまで13km。あれだけ起伏とカーブの連続だった道は、すでに平坦の直線になっていた。コシェトコフは相変わらず独走を続け、メイン集団はほんの20秒ほど背後に迫ってた。ついに我慢が出来なくなったハンセンがロシア人捕獲に動くと、マチェイ・パテルスキーが共鳴し、そしてオリカのクラークが張り付いた。セストリ・レバンテの海岸道路に出ると、ラスト5km、コシェトコフは最後の賭けに出た。そこにクラークはクールに飛び乗ると、背中に入り込み、ただプロトンが追いついてくるのを待った。メーン集団内で力を温存していたチームメートに、こうしてバトンは渡された。

ティンコフのかけた鍵は、ラスト3kmで開けられた。少し上り気味のフィニッシュラインへと、74選手が一気に雪崩れ込んだ。アスタナがほぼ全員いっせいにスプリントを切り、ファビオ・フェリーネが加速し、3時間以上前線で戦い続けたジルベールは最後の力を振り絞った。しかし、初日マリア・ローザのゲランスの懸命な発射作業に応えるかのように、ピンク色のスーパーカーが全てを抜き去った。

「今日はすごくスペシャルだった。朝にマリア・ローザを着た瞬間から、ずっと特別な気分だった。このジャージが僕に自信をくれたし、チームが僕のために100%の力を尽くしてくれることも分かっていた。チームが積み重ねてきた仕事を、最後に僕が完成させられたことを、本当に嬉しく思うよ」(マシューズ、公式記者会見より)

1年前のジロでも、チームTT勝利のアドバンテージを手に、大会2日目にピンクのジャージに着替えた。第8ステージの終わりまでマリア・ローザを守り、区間勝利は第6ステージに手に入れた。今年は、ジャージの取り方こそ同じだったけれど、勝利は3日も早くやって来た。

「僕にとっても、チームにとっても、去年のジロは本当に良い思い出なんだ。それと同時に、僕らにはもっと凄いことが成し遂げられるのかもしれない、と気が付いた。だから今年の僕らは、あらゆる銃をぶっ放して、手に入れられる限りの全てをむさぼり取るためにやって来た。自信に満ち溢れている。チームの誰かにふさわしい区間があれば、残りの選手は彼のために100%を尽くす。チームのリーダーは1人じゃない。だからどんなタイプのステージでも、取りに行けるんだ」(マシューズ、公式記者会見より)

16時20分、95km地点。2級峠からの下りで、ドメニコ・ポッツォヴィーボが激しい落者事故を起こした。レースのヘッドドクターのジョヴァンニ・トレディチ医師の説明によると、顔面をアスファルトに強く叩きつけ、ほんの一瞬ながら意識を失った。

事故直後には観客が、ポッツォヴィーボの安全確保に動いた。さらにレースドクターが事故の20秒後に到着し、生命兆候の確認を行った。そこで顔以外には目だった外傷も痛みもないこと、手足を動かせること、自発呼吸が正常に行われていることが認められた。7分後には脳専門の救急医師が到着。その後は救急車とヘリコプターを乗り継ぎ、ジェノバの救急病院へ搬送された。

当夜届いたチームの公式リリースによれば、精密検査の結果、脳の異常は認められず、容態も安定しているという。ただ右目上部を大きく切ったため、縫合の必要はあるそうだ。また、事故の際の記憶は、一切無いとのこと。

落車事故の発生時、ポッツォヴィーボの4人後ろを走っていたというマシューズは、「今日の優勝を僕のチームのみんなと、ポッツォヴィーボに捧げたい」と語っている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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