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7時間22分21秒。気の遠くなるような長いサイクリングの果てに、ディエゴ・ウリッシが復活の勝利を収めた。前日のフィニッシュ直前で落車負傷したアルベルト・コンタドールは、チームメートたちの献身のおかげもあり、直接のライバルたちから1秒も失わずに済んだ。左肩は傷んだが、この日は表彰台でマリア・ローザを身にまとった。
まるでワンデークラシック並みの距離だった。UCI国際自転車競技連合のルールによると、男子エリートカテゴリーの、10日以上のステージレースに限って、2日間だけ240km超えのステージを含むことが許される。また2015シーズンの春クラシックではミラノ〜サンレモが293km、ツール・デ・フランドルが264.9km、アムステル・ゴールドレースが258km、パリ〜ルーベが253.5km、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュが253kmだったから……、ほぼフランドルと同じ距離がこの日のプロトンには用意されたことになる。ちなみにフランドルの優勝タイムは6時間26分38秒だった。つまり、この日のプロトンは、フランドルより約1時間もオーバーしたことになる!
平均36.215kmという控えめな時速が記録された理由は、複数あった。ワンデーレースのように、1日で全力を使い果たしてもよいレースではかったこと。翌日も走らねばならない選手たちは、それだけ体力温存を意識する。強い向かい風が吹いていたことも、プロトンの脚にブレーキをかけた。
なにより、マリア・ローザのコンタドールが、静かに走りたいと望んだに違いない。脱臼した左肩にテーピングを施し、「どれだけ走れるか分からない」状態でこの日のスタートを切った。ティンコフ・サクソは全員体制でメイン集団前方に位置取りし、リーダーに無理のかからない速度で、集団コントロールを行った。
「今日の戦術はかなりシンプルだった。小さな集団を前方に飛びださせて、あとは我々が状況をコントロールするというもの。というのもコンタドールにどんな走りができるのか、まるで確証がなかったからね」(ティンコフ監督ステフェン・デヨンフ、チーム公式リリースより)
スタート同時に、いつも通りアタックの嵐が巻き起こった。別府史之やアダム・ハンセンも飛び出しを試みたが、20km過ぎにプロコンチネンタルチーム4人衆が前方に走りだすと、この日の逃げメンバーが決まった。
長すぎるほどのジャージアピールタイムを手に入れたのは、マルコ・バンディエーラ、ニコラ・ボエム、ニコライ・ミハイロフ、ピエルパオロ・デネグリの4人。最終的にミハイロフは225km、その他3人も224kmも逃げた。……もちろん、フーガ賞(大逃げ勝)の総合上位4席を、彼ら4人が独占した。前日も逃げたバンディエーラが373kmでぶっちぎりの首位に立ち、さらに2位ミハイロフ225km、3位デネグリと4位ボエムが224kmで続く。4位と5位との差は、なんと56km!
そんな勇敢な逃げも、ゴール前20kmで静かに終了した。プロトン全体が、区間の終わりに向けて、戦闘モードに切り替わった。それでも、ティンコフ列車は、第一列目を頑なに守り続けた。ゴール手前14kmほどの上りでは、イヴァン・バッソとマイケル・ロジャースがリーダーを牽引した。下りに入ると、前日41歳の誕生日を迎えたばかりのマッテオ・トザットが、制御役を引き受けた。ゴール前3kmまで、手負いのリーダーを、しっかりと先頭で守り続けた。
区間勝利へ向けた争いは、まずはロット・ソウダルとオリカ・グリーンエッジが激しく列車を戦わせた。ミラノ〜サンレモとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュと2つのモニュメントクラシックを制したサイモン・ゲランスに、加えて今サンレモ2位、アムステル・ゴールドレース3位のマイケル・マシューズという「アップダウンクラシックハンター」を2人抱えるオージー軍団に、ピュアスプリンターのアンドレ・グライペルが叶うはずはなかった。なにしろフィニッシュへと向かう道は、延々と登り基調だった。
フラムルージュ手前では、ランプレ・メリダが4人で競り上がってきた。やはり4人残していたオリカから力ずくで先頭を奪い取ると、勾配3〜4%のラストストレートに真っ先に突っ込んでいった。マキシミリアーノ・リケーゼとロベルト・フェラーリが、フィニッシュラインの200m手前まで、全力疾走を行った。すべてはスプリンターのサーシャ・モドロを、最高の位置で発射するために。
「チームの作戦は、モドロが最終盤に残っていたら、リケーゼとフェラーリが彼をリードアウトすること。一方の僕の任務は、他のステージ優勝候補のカバーに回ることだった。だからオリカに付いて行き、それからフィリップ・ジルベールの背後に入った。でも、そこが好ポジションではないと悟って、すぐにゲランスの後輪に飛び乗った」(ウリッシ、公式記者会見より)
モドロは発射されなかった。ランプレ列車をマークしていたあらゆるライバルたちは、慌ててモドロの背後から塊で飛び出した。単独で立ちまわったウリッシは、その隙に、道の左端から大胆に加速を切った。
「今朝、目が覚めた時に、自分に言い聞かせたんだ。『僕は行かなきゃならない』って。トップ10入りの感触を、再び味わいたかった。だから9位か10位でも、きっと十分に嬉しかったと思うよ。僕は遠くから飛び出した。行く手を閉ざされてしまうのが怖かったから。幸いにも足の調子は良くて、フィニッシュラインまで先頭をキープすることができた」(ウリッシ、公式記者会見より)
勝利直後の歓喜の雄叫びは、ウリッシが長く辛い日々を過ごしてきたことを物語っていた。昨ジロでは上りフィニッシュを2区間(第5・第8ステージ)制した。イタリア代表監督ダヴィデ・カッサーニに「この秋の世界選手権でリーダーを張れる素質がある」と大いに称賛され、多くの自転車関係者を「もしかして総合争いも行けるのでは?」と期待させたものだ。ところが後日、第11ステージゴール後のドーピング検体から、基準値を超える喘息薬サルブタモルが検出された。治療目的使用の許可を得ていたこと、落車により解熱剤も併せて処方されたことを本人は主張したが、最終的に9カ月の出場停止処分を下された。そして2015年3月28日に、レース復帰を果たした。この勝利は、ウリッシにとって、「解放」に他ならなかった。
もちろん早々と、去年以上に、イタリア自転車界は秋の世界選手権に期待をふくらませている。かつて世界選手権2勝のパオロ・ベッティーニも、どうやら「後継者を見つけた」と興奮しているらしい。
3秒遅れの大集団で、ファビオ・アルやリッチー・ポートと共に、コンタドールは長い1日を終えた。7時間以上も耐え続け、無事にマリア・ローザを守り通した。
「このとてつもなく長い1日を切り抜けることができて、本当に嬉しい。走る前は、それが本当に可能なのかどうかさえ、定かじゃなかったんだからね。もちろん痛みに苦しめられた。レースも4時間目を過ぎた頃には、ハンドルバーのどこに手を置いたらいいのかさえ、分からなくなったほどだった」(コンタドール、チーム公式リリースより)
アルとの2秒差、ポートとの22秒差は変わらなかった。左肩の痛みを抱えつつ、コンタドールはこのわずかなリードを守り通せるだろうか。翌第8ステージには、1級山頂フィニッシュが待ち構えている。
「うん、明日は僕にとって、難しい1日となるだろう。落車前は、この日が来るのを、待ちかねていた。だって僕がアタックに転じられるステージだから。でも今の僕は、自転車の上で静かにしてなきゃならない。ライバルたちがどう動いてくるかを、見ていくしかない」(コンタドール、チーム公式リリースより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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