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すでに幾度かレース前方を賑やかしてきた顔ぶれが、路面を濡らす雨にも負けず、この日も奮闘を見せた。7人にまで絞りこまれたエスケープ集団内から、ラスト23kmで飛び出したイルヌール・ザカリンが、見事な逃げ足で勝利をさらい取った。リゴベルト・ウランがイモラのモーターサーキットの水たまりで落車したり、アルベルト・コンタドールが最後の山でファビオ・アルに揺さぶりをかけたりしたが、総合争いに特段変更はなかった。
スタート直後から速いスピードでレースは進んだ。アタック合戦の隙を突いて、7.6km地点の中間スプリントを、ポイント賞4位につけるジャコモ・ニッツォーロが制した。24km地点の3級峠に差し掛かると、山岳賞2位のベナト・インサウスティが加速し、1位通過を成功させた。大会も折り返し地点に差し掛かり、副賞ジャージの争いも徐々に激しさを増しつつある。
その3級峠を下った谷間で、逃げ集団が徐々に形成されていった。スタート地で生まれ育ったマッテオ・モンタグーティは、宣言通りに飛び出した。第8ステージを沸かせたインサウスティ、ザカリン、フランコ・ペッリツォッティ、カルロス・ベタンクール、ステフェン・クルイスウィクが、またしても一緒に逃げていた。後者2人は翌第9ステージにもトライしたが、その時に一緒だったライダー・ヘシェダルが、この日も先頭集団に紛れ込んだ。さらにはルーベン・フェルナンデス、マレク・ルトキヴィチ、ディエゴ・ローザ。10人のエスケープ集団は、後方集団からは最大3分40秒ほどのリードを許された。
起伏の多いただでさえ難解なルートに、断続的に雨粒が落ちた。メイン集団の制御は、大部分の時間帯はBMCが請け負った。総合系チームはおしなべて控えめで(ティンコフ・サクソが一度だけ下りで猛分断を試みたことがあったが)、他のチームも一切協力を申し出ようとはしなかった。それでもフィリップ・ジルベールを擁するチームは、黙々と追走作業を続けた。残り40kmで45秒差にまで追い詰めた。
ところが、第8ステージを制したインサウスティが、前方でスピードを上げた。すでにイモラ・サーキットのフィニッシュラインを1回通過し、全部で4回あるトレモンティ峠の、2回目の登坂に差し掛かっていた。そのせいでエスケープ集団はモンタグーティ、フェルナンデス、ルトキヴィチを失ったが、おかげで再びタイム差を1分近く取り戻した。
赤と黒のアメリカ・スイスチームも、黙って指を加えていたわけではない。ゴール前35kmまでくると、スイス・リヒテンシュタイン人のステファン・クンを前方に飛び出させた。この3月にトラック個人追走で世界チャンピオンに輝いた21歳は、ちょうど20日前の、やはり雨の降りしきるツール・ド・ロマンディ第4ステージでは、見事な独走勝利を決めていた。プロ1年目で、いきなり連れて来られた初グランツールの大舞台でも、堂々たるもの。すでに2回もアタックを打っていた。そして、この日が、3回目の挑戦。……残念ながら、それ以上の興奮を産み出すことはできなかった。BMCの追走作業も、最後まで報われることはなかった。
ちなみに、このクンが勝った翌日に、山頂フィニッシュで区間2位に飛び込んだのがザカリンだ。同時にイエロージャージを手に入れると、そのままクリス・フルームを抑えて、ツール・ド・ロマンディの総合優勝さえもぎ取った。とてつもないセンセーションを巻き起こし、すわ、ベルズィンの後継者か(1994年に23歳でジロの総合を制したロシア選手)と関係者を興奮させたものだ。
このジロにも「総合争いを」と大いに期待されて乗り込んできた。ところが初日から調子が上がらず、第4ステージで17分以上ものタイムを失った。しかし、ワールドツアー1年目でグランツール初体験の25歳は、すぐに区間勝利へ頭を切り替えた。イタリアでもビッグな旋風を作り出すために。
3回目のトレモンティと半だった。この回だけは、山頂に山岳ポイント(4級)がかけられていたけれど、すでにステージ後の山岳賞奪還を決めていたインサウスティは、どうやらポイント以外のことに気を取られていた。
「山岳賞を少しずつでもリードしていくことが、僕にとっては大切なことだった。でも、もしも可能なら、区間勝利も狙っていこうと考えていた。これはかなり難しいことなんだけどね。そうして、逃げ集団の選手たちと互いに顔を見合わている隙に、ザカリンに飛び出されてしまった」(インサウスティ、チーム公式HPより)
頂きがほどよく近づいた頃に、ふらふらっと何気なく前に出たザカリンは、突如としてペダルを強く踏み込んだ。そのままトップスピードで下りへと飛び込むと、危険を顧みず前方へと突進していった。
「インサウスティが勝った日、教訓を得たんだ。あの日の僕はミスを犯した。アタックをかけるのが早すぎたんだ。だから今回は、ぎりぎり最終盤まで待った」(ザカリン、公式記者会見より)
そうは言っても、いまだフィニッシュまでは20kmと遠かったし、2回の下りと1回の上りが待っていた。残りの6人にはすぐに1分近い差を開いたけれど、雨の中、果敢に独走を続けるのは決して簡単ではなかった。
「ラスト10kmは苦しかった……。それでも、僕はやったんだ!まだ信じられないよ。ロマンディの総合を勝って、ここではジロの区間を勝ったなんて!感動でいっぱいだし、嬉しくて、興奮しているよ。きっと、あと何日かたたないと、この勝利を実感できないんだろうなぁ」(ザカリン、公式記者会見より)
ベタンクール、ペッリツォッティ、クルイスウィクは3度目の、ヘシェダルは2度目の大逃げを53秒差で虚しく終えた。ただし、区間2位に入ったコロンビア人に限って言えば、「ようやく戦える体調を取り戻せた!今日だって、前に飛び出そう、という強い精神が持てた!」(チーム公式リリースより)と極めてポジティヴに1日を終えられたようだ。
同じコロンビア人のウランは、3回目のイモラ通過時に、地面に滑り落ちた。「前にいる選手がギアチェンジしながら少しスピードを緩めたから、ホイールに接触してしまった」(チーム公式リリース)。左肩のジャージが破けるほど衝撃は大きかったが、チームカー隊列を上手く利用して、すぐにメイン集団に復帰を果たした。
マリア・ローザのコンタドールは、4回目のトレモンティ峠で軽くアタックを打った。「ライバルの1人が調子を落としているように感じたから、それを確認してみたかったんだ」(公式記者会見より)。つまり3秒差で総合2位につけるアルが、どうも、疲れているように見えたそうだ。案の定、アルは反応できなかったけれど、それ以上は何も起こらぬままメイン集団はひとつにまとまった。
総合上位の選手たちは、ザカリンの独走勝利から1分02秒遅れで、揃ってゴールラインを越えた。区間が欲しかったジルベールだけは、最後まであがいたが、メイン集団の4秒前・追走集団の5秒後という何もない場所で1日を締めくくった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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