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昨日の失敗を、今日の成功に結びつけた。さんざん仕事をしたけれど、何も手に入らなかった翌日に、フィリップ・ジルベールは気持ちを切り替えて戦いに臨んだ。自らが最も得意とする地形で、見事な区間勝利をつかみとった。前夜のアルベルト・コンタドールは軽いジャブにとどめたが、今区間の激坂フィニッシュでは、ファビオ・アルを突き放した。区間2位のボーナスタイムも手に入れた。
前半3分の2は真っ平ら、残す3分の1はアルデンヌ風。スタート直後に5選手が逃げ出したが、プロトンは時速50km超という猛スピードで、2時間も執拗に追いかけ続けた。道がフラットなうちに、あっさり全員が吸収された。だからあっという間にアップダウンがやってきた。
ようやく、1人の若者が、逃げ出した。2015年ジロは「20代前半、ネオプロ、初グランツール」といった選手の活躍が目につくが、今日もまた、生まれて初めてのグランツールを戦う、プロ1年目の(正確には11ヶ月目)、21歳ルイ・ヴルヴァーグが存在感を見せた。昨夏の「若手登竜門」ツール・ド・ラヴニールでラ・トゥスゥイールの山頂フィニッシュを制し――2012年ツールでピエール・ローランが勝ち取り、2015年ツールにも登場する山だ――、将来が期待されるヒルクライマーは、一時は30秒近いタイム差を後方から奪った。
「今日は僕のチャンスを試しに行った。でも、1人では少し厳しかった。風もあったし、プロトンも追走してきたし」(ヴルヴァーグ、Twitterより)
もっと長い峠があれば、展開は違ったのかもしれない。しかし、下りと平坦を中心に20kmほど独走を披露した後、ヴルヴァーグはメイン集団に飲み込まれていった。
次に突入した3級峠は、ちょっとした激坂だった。ただし、ゴールまでいまだ25km以上も離れていたせいか、いわゆる「ユイの壁を3回通過するうちの2回目」的な、様子の探りあいに終始した。その隙を突いて、今度は、アレクサンドル・ジェニエが特攻を仕掛ける番だった。昨日はステージ半ばで、うっかりメインプロトンから1分半もの遅れを喰らった。しかし雨の中、夢中で追走し、最終的にはマリア・ローザ集団内で1日を終えられた。だから今日は自分から、前に出た。激坂アップヒルの裏側の、激坂ダウンヒルを、果敢に攻め立てた。ピレネー山脈の麓で生まれ育った27歳は、濡れた細い下りなんて、ちっとも恐れてはいなかった。2013年ブエルタの第15ステージだって、大雨の翌日、霧の中、長いダウンヒルで独走態勢に持ち込んで制したのだ。
「結論。イタリアの道は滑りやすい!」(ジェニエ、Twitterより)
その滑りやすい道をはみ出したり、片足を地面につけたりしながらも、ジェニエは危険を上手く回避した。ロードを始める前はマウンテンバイク乗りで、この4月には「ミニ・パリ〜ルーベ」トロ・ブロ・レオンのダートロードを制している。つまりハンドル捌きに優れていたのは、本当に幸いだった。
なにしろ、この下りでは、多くの選手が落車の犠牲となった。サイモン・ゲランス、ダヴィデ・フォルモロ、スタフ・クレメントは、幸いにも立ち上がり、フィニッシュまでたどりついた。昨日単独でアタックを見せたステファン・クンや、ヤロスラフ・マリチャ、マヌエル・ベレッティは、現場から救急車で搬送され、そのままジロの戦いから去っていった。
最終的には畑に突っ込んで、標識柱を危機一髪で避けているうちに、ジェニエは後方に追いつかれた。ゴールまで約20km。ここからはアスタナがレース制御権を握ることになる。
タネル・カンゲルトはゆっくりと牽引を続けた。昨日は大逃げにトライしたフランコ・ペッリツォッティが、今日はラスト15kmでアタックをかけても、当分は見逃しておいた。スピードを控えることで、後方からはいくつもの小集団が追いついてきた。ただし、それは同時に、千切れたアスタナのアシスト数人も再合流したことを意味していた。ラスト20km地点では3人だったアルのサポート役は、残り10kmで5人にまで増えた。安心な状況は整った。ラスト8kmで、カンゲルトは猛然と前方へ飛び出した。
少し先でペッリツォッティに追いつき、さらにスピードを上げた。ベテランが先頭交代を拒否しようが、雨脚が強くなろうが、カンゲルトは構わず突き進んだ。後方ではジルベールとヨン・イサギーレインサウスティが、チラリと、飛び出したこともあった。きっちりと後方のアスタナ隊列が潰しに動いた。果たして水色軍団は純粋にカンゲルトを勝たせたかったのか、前の2人に上位2位のボーナスタイムを手にして欲しかったのかは、分からないけれど。
「カンゲルトに、すぐに30秒くらい開かれてしまった。だから僕はイサギーレインサウスティと飛び出してみた。でも、すぐに、難しいと感じた。風が強かったからね。だから集団に戻る方を選んだ。チームメートがさらに2人、後ろから追い付いてきていたから。追走を編成できると確信したんだ」(ジルベール、公式記者会見より)
皮肉なことに、カンゲルトがゆっくり走ったおかげで、ジルベールのサポート役も4枚に増えたのだった。また、ジルベールを吸収に動いたおかげで、BMCを本気の追走に駆り立てた。赤と黒の列車は、最後の上りの中腹で、2人の背中をとらえた。
全長1200m、平均勾配7.1%、最大11%。最終坂モンテベリコのデータは、アムステル・ゴールドレースのカウベルフと似ていた。つまりは、ジルベールが過去3度(+世界選手権1度)制した大好物の坂道と、登坂距離は同じで、平均勾配はちょっとこちらがキツイけれど、最大勾配は少し弱め。まさに自分のために作られたようなフィニッシュだ、と感じても不思議はない。だから、今年のミラノ〜サンレモ前に、この坂の下見に来た。道は隅々まで把握していた。どこで加速すればいいのかも、完全に理解していた。
ラスト600mから1人でよじ登っていたカンゲルトを、ジルベールは、ラスト200mで抜き去った。この春のアルデンヌ3戦は、不調と落車で1つも勝てなかった。自分のコレクションに唯一足りない「マリア・ローザ」も、結局は手に入れられなかった。それでも、雨の坂道で、クラシックハンターの真骨頂を発揮した。
「ようやく!という感じだね。シーズン最初から、ずっと、勝利を追い求めてきた。でも勝てなかった。昨日も1日中チームが働いてくれたのに、やっぱり失敗した。かなり落ち込んだし、難しい夜を過ごしたよ。でも、今朝、気持ちを切り替えた。改めて作戦を練り直した。チームメートは僕を最後まで信じ続けてくれた。本当に感謝してる。努力に値する素晴らしい勝利だと思ってる」(ジルベール、ゴール後TVインタビューより)
ジルベールの後ろでは、パオロ・ティラロンゴが2位に入ろうと(ボーナスタイムを潰そうと)、必死で加速していた。しかし、ピンクのコンタドールに、さらりと抜き去られた。一方のアルは、アシスト2人に支えられるようにしながら、なんとか坂のてっぺんへとたどり着いた。「補給に失敗して、ハンガーノック気味だった」(ゴール後TVインタビューより)とのコメントを残したが、コンタドールからこの日だけで8秒+ボーナスタイム6秒=14秒を失った。総合タイム差も前日までの3秒から、17秒へと開いた。
「今日のアルは調子が悪かったね。彼らの作戦が何だったのか、理解するのはちょっと難しいけど、とにかく、リーダーに脚がないと、チームが戦術的に動くのは難しいんだよ」(コンタドール、公式記者会見)
左肩の脱臼などもはや遠い昔のことのように、コンタドールは調子を上げつつある。一方のアルは不調で、リッチー・ポートはペナルティでタイムを失い(総合3分18秒差)、調子を戻しつつあるリゴベルト・ウランもタイム差は大きい(2分19秒差)。もちろん、マリア・ローザ争いは、これからが本番を迎える。まずは第14ステージの、長距離タイムトライアルに、総合勢の意識は向いている――。
「今日の夜、メカニックのファウスティーノが、タイムトライアル用自転車を持ってホテルの部屋に来る予定なんだ。ポジションがしっくりいくかどうか、そこでテストするつもり」(コンタドール、公式記者会見)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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