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道は完璧にフラットで、補給地点さえ設置されない短距離コースだった。退屈でもいいから、安全な大集団スプリントで終わって欲しいと、多くの関係者は願っていた。しかし、降りしきる雨は、選手たちに優しくはなかった。ゴール前3.3kmで集団落車が発生。サーシャ・モドロが区間勝利を手に入れた背後では、アルベルト・コンタドールがタイムとマリア・ローザを失った。ファビオ・アルは翌日の個人タイムトライアルを最終走者として走る権利を手に入れ、リッチー・ポートのグランツール初制覇の可能性は、絶望的なほどに遠ざかった。
逃げ切れないことは、百も承知だったに違いない。それでもジェローム・ピノー、リック・ツァベル、マルコ・フラッポルティは飛び出した。雨の中、踏切で足止めされたりもしたけれど、ゴール前17.6kmまで仲良く逃げ続けた。吸収される前には、2時間半ほど共に濃密な時間を過ごした逃げの友たちは、固く握手を交わした。そして、ナーバスの塊となったプロトンに、先頭を譲った。
最前列では、ティンコフ・サクソやアスタナが、猛烈なスピードで列車を競っていた。総合本命と、そのアシストたちは、ひたすら場所取りに固執した。大集団スプリントで終わるステージは、落車・メカトラ・分断を回避するために、先頭にポジションを確保せねばならない。今までもそうしてきたように、少なくとも、ラスト3kmのアーチをくぐるまでは……。
しかし、いつもなら3km地点まで待って、それから作業を再開するスプリンターチームが、この日は早めに前方へ競り上がってきた。なにしろ路面は水浸し。その上ゴール前6km前後には大きなカーブが2つ、5km地点と4km地点にロータリーが1つずつ、さらにラスト2kmからはカーブとロータリーの連続が待ち受けている。
「最終盤の道がトリッキーだと分かってたから、チームを早めに働かせた。前方で安全に走りたかった」(ジャコモ・ニッツォーロ、チーム公式HPより)
残り7kmでトレックが先頭を奪い取ると、凄まじい勢いで曲がりくねった道へ飛び込んだ。2度の中間スプリントでポイントを収集し(6pt+4pt)、区間勝利へモチベーションを燃やすニッツォーロを連れて、3人のリードアウトが全力疾走を始めた。他のスプリンターチームも、ライバルに遅れを取らぬよう、一斉に前へと急いだ。
「落車はいつか起こるだろうと、分かっていた。ひたすら残り3kmの表示を待った。でも、不運なことに、フィニッシュまで3200mの地点で落車は起こった」(コンタドール、チーム公式リリースより)
ジロ開催委員会のリリースによれば3300mとのことだが、とにかく、大会規則15条で定められている「フィニッシュまで3km以内で落車・パンク・メカトラブルが発生した場合、巻き込まれた選手には、事故が起こった時点で所属していた集団と同じゴールタイムが保証される」という救済措置は発動されなかった。だから体の状態を確認する前に、コンタドールは大急ぎで自転車を探した。チームメートのマッテオ・トザットが、自らのバイクを提供してくれた。ポートも、ヴァシル・キリエンカの少々大きすぎる自転車に飛び乗って、フィニッシュを目指した。
ラスト2kmのうねったコースでは、アシストを2枚残していたランプレが先行した。全てのカーブを攻略し、ラスト500mの最終ストレートに先頭で飛び込んだ。エースのモドロが残り200mで加速を切った。一方で早めにアシストを使いきっていたニッツォーロは、ぴったりとモドロの後輪に姿を潜めていた。ぎりぎり残り75mまで待って、そして飛び出したーー。
「右側に扉が開かれたのが見えたから、そちら側に全力で飛び出した。でも、当然だけど、モドロは僕をフェンス側に押しやろうとするわけで……。こうして、勝利をつかむことが、できなかった。モドロは軌道を変えたけれど、扉を閉じたわけじゃない。彼の立場にいたら、誰だって同じことをするさ」(ニッツォーロ、チーム公式HPより)
激しい接戦の末に、ニッツォーロは人生6度目のジロ区間2位に終わった。ポイント賞でも首位と同ポイント119ptに並んだけれど、「並んだ場合は区間勝利の数の多い方を上位とする」というルールに泣かされた。第2ステージを制しているエリア・ヴィヴィアーニに赤ジャージが手渡され、2位どまりのニッツォーロはポイント賞も2位だった。
やはり今まで、勝ちたくても勝てなかったモドロは、人生初めてのステージ勝利を手に入れた。地元からわずか40kmほどしか離れていないイエゾロの町には、たくさんの友達が応援に訪れていた。
「全てがパーフェクトだった。ずっと長い間追い求めてきた成功を、ついにつかみとった。第2ステージでも失敗した。第6ステージはあとわずかのところまで迫った。でも第7ステージは幸運を逃した。第10ステージでは、逃げ集団にスプリントを取られてしまった。そして今日のゴールは、スプリンターにとって、ミラノ到着前の最後のチャンスだった。その機会を僕は逃さなかった。チームメートたちの素晴らしいサポートに、感謝したい」(モドロ、チーム公式リリースより)
雨の中で、モドロが雄叫びを上げた4秒後に、アルとリゴベルト・ウランはゴールラインを越えた。コンタドールは40秒後(2人からは36秒後)に、ポートは2分08秒後(2分04秒)に悪夢を終わらせた。そして、体調不良で3秒→17秒遅れへとタイムを落とした翌日に、アルが、19秒差で逆転総合首位に立った。
24歳のファビオ・アルは、満面の笑みで、生まれて初めてのマリア・ローザに袖を通した。イタリアのファンたちも大いにわいた。2015年ジロで、初めて、イタリア人にリーダージャージが手渡されたのだから。ただし、レース委員長マウロ・ヴェーニが「イタリア人マリア・ローザは喜ばしいことだけれど、本音を言えば、やっぱりちゃんとした勝負で勝ち取って欲しかった」と語ったように、アル本人も、喜びに浸っているだけではないようだ。
「数日前、マリア・ローザに大きく近づいた。でも、どうしても取ることができなかった。悲しいことに、今日のステージは、紙の上では簡単に見えたけれど、天候と難解な最終盤のせいで、ひどく難しくなってしまった。常に前線で走らなければならないことは分かっていたし、チームが僕を前線へお仕上げてくれた。おかげで落車も免れた。今日のようなステージでは、どんなことだって起こりえる。僕にとっては、上手く行った。アルベルトには申し訳なく思うよ」(アル、公式記者会見より)
36秒失い、総合では19秒遅れ。コンタドールは「取り戻すのは簡単ではないだろう」(チーム公式リリースより)と語ったが、59.4kmの長距離個人タイムトライアルの終わりには、タイムは大きく変動しているはずだ。プラスにも、マイナスにも。
ちなみに、キャリアで8回のグランツール制覇を成し遂げてきたコンタドールだが(うち2度は成績剥奪)、一旦手に入れたグランツールリーダージャージを手放したことは、かつて1度たりともなかった。初めての不吉な経験だった。本人はむしろ、落車時に他のバイクのチェーンが当たった左足を心配している。
ポートの総合の遅れは5分05秒に広がった。いかにオージーがプロトン屈指のタイムトライアル巧者でも、取り戻すのは、もはやほぼ不可能に近い。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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