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サイクル ロードレース コラム 2015年5月31日

ジロ・デ・イタリア2015 第20ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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「調子が良くなかった。おそらく、これまでの努力が、一気に疲れとして出てしまったんだろう。でも、僕には、十分な総合リードがあった。だから自分のリズムで上るほうを選んだ。マイヨが危険にさらされていると感じたことは、正直、一瞬たりともなかった」(アルベルト・コンタドール、公式記者会見より)

ミラノ到着の前日に、マリア・ローザに試練が襲った。ゴールまで30kmを残して、ひとりぼっちになった。第16ステージのようにメカトラで遅れを取ったのでもなければ、第18ステージのように自ら望んで単独アタックを仕掛けたのでもない。軽い脱水状態となったコンタドールは、ライバル全員に置き去りにされた。それでも集中力を切らさず、一定リズムでペダルを回し続けた。総合2位ファビオ・アルが2日連続の区間勝利を祝った2分25秒後に、静かにフィニッシュラインを越えた。キャリアにおけるジロ区間優勝ゼロのまま――2011年に区間2勝しているが、成績は剥奪された――、人生2度目のジロ・デ・イタリア総合優勝に王手をかけた。

スタートから32kmで、9人のエスケープが出来上がった。今大会でステージ勝利を上げた3人(第7区間ディエゴ・ウリッシ、第10区間ニコラ・ボエム、第11区間イルヌール・ザカリン)が滑り込んでいた。なにより「TV賞(中間ポイント賞)」と「フーガ賞(大逃げ距離賞)」の首位を確定したいマルコ・バンディエーラが、きっちりと4度目の逃げに乗った。普段は表彰式に登場することのない小さな副賞かもしれない。ただし総合首位選手は、ミラノにて、華々しい表彰を受ける権利が与えられるのだ!

バンディエーラにとって少々厄介だったのは、TV賞4位&フーガ賞2位のボエムも一緒にエスケープについてきていたこと。しかも2度の中間ポイントでは、両者接戦の末にボエムが首位通過を勝ち取り、TV賞2位に躍進した。最終ステージを前に、両者の関係はTV賞6pt差、フーガ賞41km差。つまり、バンディエーラの最終勝利は、いまだ確定していない。グランツールの伝統に則るならば、最終日は、ミラノの周回コース(5.4km×7周)に入るまでは逃げは発生しないものだけれど……。

今ジロ最後から2番目の峠、最標高地点2178mの「チーマ・コッピ」フィネストレ峠に差し掛かると、逃げ集団からザカリンが独走を始めた。ツール・ド・ロマンディで総合優勝を飾り、初出場のグランツールでも区間1勝を挙げた25歳は、マリア・ローザ集団に1分半ほどのリードを保って「未舗装地区」に単独で突っ込んでいった。

その、ダート区間へ向かって、アスタナは猛烈に列車を走らせた。山に入ると同時に、メイン集団の制御権をティンコフ・サクソから奪い取った。パオロ・ティラロンゴ、ダリオ・カタルド、ディエゴ・ローザ、タネル・カンゲルト、ミケル・ランダ、そしてファビオ・アル。今ジロ通して山でレースを作り上げてきた水色列車が、今大会最後の難関山岳ステージも果敢に攻め立てた。

切り込み隊長はカンゲルトが務めた。道がいまだアスファルトの時点で、2度の加速を切ると、メイン集団を一瞬で小さく絞り込んだ。アルとランダは当然のように付いていった。3週目になってようやく本来の調子を取り戻したリゴベルト・ウランも反応した。コンタドールはいまだ、不調を露にしていなかった。

ライダー・ヘシェダルとステフェン・クルイスウィクも、いつものように、最前線に居残った。それどころか、両者はアスタナだけに加速を任せず、積極的にスピードレースのイニシアチヴを取った。なにしろ2回目の休養日を総合13位で迎えたヘシェダルは、第19ステージ終了時点で7位にまで順位を上げていた。カンゲルトの加速で4〜6位の3人が一気に千切れたこの状況を、最大限に利用したかった。一方のクルイスウィクは、前夜に青い山岳ジャージを手放した。第19ステージに大逃げで首位をさらい取ったジョヴァンニ・ヴィスコンティ、さらに自身とはわずか2pt差のベナト・インサウスティをどうにか振り払い、「チーマ・コッピ」での逆転ジャージを狙っていた。こうしてカナダ人とオランダ人は、チャンスと脚が許すたびに、がむしゃらに前へ突進した。

最初のサインは、未舗装ゾーンに突入した直後に現れた。今大会最大の「新発見」ランダが、ゴール前33km、単独アタックを仕掛けた。コンタドールは早速ダンシングポジションで追いかけ始めたものの、すぐにサドルに座り込み、追走を断念した。本格的な事件に発展したのは、残り30kmの地点だった。ヘシェダルの何度目かの加速に、クルイスウィクも付き添い、ウランも腰を挙げ……、ついにはコンタドールが動けないことを理解したアルも、マリア・ローザを捨てて走り去った。どんな大チャンピオンであれ、3週間のグランツール期間中には必ず、「空白の1日」が訪れると言われている。最終日前日に、コンタドールにそんな苦しい1日が訪れた。ひとりになった。

「ハンガーノックではなかった。脱水状態だったんだ。それほど暑くなかったから、奇妙に聞こえるかもしれない。でも、今朝、体重が落ちていた。気にも留めていなかったし、ステージ中はしっかり水分補給をしていたんだけど……、もしかしたら十分ではなかったのかもしれない」(コンタドール、公式記者会見より)

決して焦りはしなかった。フィネストレの山頂ですでにランダから1分27秒、アル集団から55秒も突き放されたが、下りでしっかり水分補給に努めた。カンゲルトが背中に張り付こうが、前方との差がじわじわと広がっていこうが、「セルフコントロール」を心がけ、一定のペースを保ち続けた。

ランダはザカリンを捕らえ、前方へと突き進んでいた。ヘシェダル、クルイスウィク、ウラン、アルの4人は、まるで「逃げ集団」のように先頭交代を繰り返して、コンタドールから遠ざかっていった。セストリエールの上りで両陣営が合流し、アスタナが2人となってからは、ランダが積極的に牽引作業を引き受けた。

「今大会中のランダの献身は、本当に素晴らしかった。たとえばモルティローロでは、僕の調子が最悪だったにも関わらず、6、7kmも僕に合わせて走ってくれたんだからね。あのことはいつまでも忘れないだろう。今日もまた、彼がとてつもない仕事をやり遂げてくれた。彼は素晴らしいチャンピオンであるということを、再び、こうして、証明した」(アル、公式記者会見より)

自らの限界に達したザカリンが、後方へと脱落して行った後も、先頭集団の5人がスピードを緩めることはなかった。後方のコンタドールとの差は、ラスト5kmで1分25秒、3kmで1分40秒……。そしてゴール前2km。アルが飛び出した。最後までしがみついたウランもラスト1700mで振り払い、セストリエーレの山頂へと真っ先にたどり着いた。2日連続の山頂フィニッシュ勝利で、少しほろ苦い思いも味わった2015年ジロを、美しく締めくくった。

「経験がまだ足りない。今は数年かけて経験をつんでいる最中だ。それに今年は少しいつもと違った。11月から責任とプレッシャーの中でトレーニングを始めた。繰り返し言っている通り、プレッシャーは怖くはない。むしろいい仕事をしなきゃ、とモチベーションが高まる。だけど、責任もプレッシャーもなくジロを走り始めるのと、チームやメディア、ファン、そして自分に対して大きな責任を感じながら走り始めるのとでは、やっぱり違うものだ。ちょっと挫けたこともあった。でも、責任を果たし続けた。今大会の区間2勝とならんで、このこともまた、僕にとっての勝利なんだ」(アル、公式記者会見より)

大はしゃぎでフィニッシュラインを越えたアルの、2分25秒後に、コンタドールが小さくガッツポーズしながら辛い1日を終えた。総合2位以下とのタイム差は、いまだ2分02秒残っていた。2008年大会に続く2枚目のマリア・ローザと、自身7度目のグランツール総合優勝が、大会1日を残してほぼ確実となった。つまりは、年頭から宣言していた「ジロ&ツールのダブル優勝」の、基本条件である「ジロ優勝」をクリアすることになる。

「今年のジロは本当に厳しかった。ステージを追うごとに登坂距離が増えて行き、毎ステージが狂気に満ち溢れていた。我々は追走に駆り立てられ、おかげでスピードがどんどん上がっていった。とにかく、ジロとツールの両方を走ると決めた時点で、ジロでかなりのエネルギーを消耗するだろうことは分かっていた。これからは休養を取って、できる限り体力の回復に努めていく。早速、今夜から始めたいね」(コンタドール、公式記者会見より)

アスタナは総合2位アル、3位ランダと表彰台に2人を送り込み、2人がそれぞれ2つずつ区間勝利を持ち帰り、チームランキングでも総合首位をほぼ確定させた。猛烈に動きつづけたヘシェダルは、2日連続の2位で総合5位に上がった。クルイスウィクは奮闘実らず、山岳賞は取り戻せなかった。ただし2011年の8位(コンタドールの成績剥奪による繰り上がり)よりも、ひとつ上の順位で、つまり個人としてはグランツール最高順位で大会を終えることが出来そうだ。

山の熱き戦いが幕を閉じてから、40分ほど過ぎた後に、赤いジャージ取り囲むトレック集団が仲良くフィニッシュ地へとたどり着いた。「明日のミラノに備えて、今日は体力温存するよう指示されてました」と、5度目のグランツール完走間近の別府史之は語った。「明日はきっと厳しい1日になりますよ!」とも。そう、戦い終えた総合ライダーたちがリラックスした1日を過ごす一方で、スプリンターチームには最後の大仕事が待っている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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