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サイクル ロードレース コラム 2020年10月29日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第8ステージ】ログリッチが大会史上初のモンカルビリョ覇者に「勝つというのはいつだって気持ちがいいものだね」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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プリモシュ・ログリッチ

プリモシュ・ログリッチ

カウンターアタックの応酬。見ているこちらさえ思わず歯を食いしばってしまうような、力と力のぶつかりあい。現マイヨ・ロホのリチャル・カラパスと、ほんの3日前までマイヨ・ロホをまとっていたプリモシュ・ログリッチとが、互いに一歩も譲らぬ激闘を繰り広げた。ついに単独で抜け出したログリッチが、山頂で勝利と貴重なタイムを手に入れ、首位カラパスまで総合13秒差に詰め寄った。

「いつだって勝ちたい。そこにほんのわずかでも勝利のチャンスがあるならば、僕は獲りに行く。タイムを取り戻せたのも嬉しいけど、やっぱり一番大切なのは、勝てたこと」(ログリッチ)

スペイン政府の非常事態宣言を受けて、いくつかの州が、都市間の移動制限を始めた。この27日にはアストゥリアス州でも同様の法令が出された。つまりブエルタが第11・12ステージで通過する州であり..アングリルのある土地だ!幸いにも州政府は、ブエルタ一行の移動は「許可する」と断言した。つまり日曜日のプロトンは、思う存分、自転車界屈指の激坂をよじ登ることができる。

この日は3人がスタートに姿を現さなかった。第7区間終了時点で総合17位のケニー・エリッソンドは、胃腸炎で大会を去った。ミハウ・ゴワシュは家庭の事情で母国ポーランドへ帰り、つまりイネオス・グレナディアーズの貴重なアシストは5人に減った。ユンボ・ヴィスマもまた親衛隊を1人失った。トム・デュムランだ。開幕初日から調子が上がらず、そもそも大会3日目には「あと2日走って調子が上がらなければリタイア」と公言していたのだ。それでもログリッチのためになんとか帰宅日を引き伸ばしたが、ついにさじを投げた。

猛烈なアタック合戦が繰り広げられた前日とは対照的に、ステージは静かに始まった。軽い攻防の後に15km地点であっさり7人が抜け出す。レミ・カヴァニャ、ルイ・コスタ、ロバート・スタナード、スタン・デウルフ、ベンジャミン・ダイボール、ジュリアン・シモン、そしてアンヘル・マドラソは、やすやすと5分のリードを奪った。後方メイン集団ではイネオスが、前日の重労働の疲れを癒やすべく、極めて静かに集団コントロールを続けた。

プロトン

モビスターが牽引するプロトン

あのまま逃げ切りを許すつもりだったのだろうか。とにかくこの状況に、カハルラル・セグロスRGAは満足できなかった。残り67kmでタンデムアタックを打つと、2人で飛び出した。エクトル・サエスは猛烈に牽引した。前方へと発射されたホアン・ガルシアは、前の7人をとらえるべく必死に奮闘した。

ただ残念ながら、すべては無駄な努力に終わる。ほんの10kmほど先で、メイン集団は突如としてスピードを上げるのだ。のんびりムードにしびれを切らしたのは、モビスターだった。

「かなり退屈でゆっくりとしたなスタートだった。もちろんステージが静かに始まるのは、嫌いじゃない。でもモビスターがペースを上げた時、実は嬉しかった。すでに調子の良さを実感していたから」(ログリッチ)

残り58km、イネオスを最前列から文字通り「押しのけた」モビスターは、全員で隊列を組み上げた。2級峠のふもとで猛烈に速度を上げると、メイン集団を小さく切り刻みつつ、前方との距離をどんどん縮めていく。もちろんガルシアもあっさり飲み込んだ。最終峠の、全長8.5kmの山道を上り始めた直後には、序盤からの逃げもひとり残らず回収した。

平均勾配9.2%のモンカルビリョ峠が、ブエルタのプロトンに、史上初めてその恐るべき姿を披露した。40年生きてきたアレハンドロ・バルベルデさえ、いまだかつて登ったことがなかったという。

見知らぬ山道で、モビスターは早々にアシストを使い尽くした。残り7kmで、残すは「総合トップ10圏内のトリオエース」、つまり5位エンリク・マス、7位マルク・ソレル、そして9位バルベルデのみ。だから大ベテランは、前日同様、自己を犠牲にすることに決めた。そもそも「今日はマスの日」と予想していた元世界王者は、残り6.7km、あらゆる総合上位に先駆けて加速を切る。

イネオスのアシストは穴を埋められなかった。代わりにユンボ・ヴィスマが速やかにバルベルデを回収した。そのままロベルト・ヘーシンクが最前列に立つと、速いテンポを刻み始めた。そもそもイネオス3人、モビスター3人、EFエデュケーションファースト2人、イスラエル・スタートアップネーションズにいたっては3位ダニエル・マーティン以外誰か残っているのかいないのかさえ分からない局面まで来ているというのに、ユンボはいまだ6人も先頭集団に残していた。

たった2人ではあったけれど、しかし、次はEFが高い攻撃力を披露する番だった。残り5km、黄色を押しのけ、ピンクのマイケル・ウッズが最前線を奪い取る。しかも前日ステージを制し、「これで(総合2位)ヒュー・カーシーのために全力を尽くせる」と語った激坂巧者は、ライバルたちに暴力的なまでの努力を強いた。いつしか総合6位フェリックス・グロスチャートナーが脱落し、バルベルデも力尽き、さらには総合ソレルさえも後退した。1.4kmにも渡る爆走でウッズは集団を10人に絞り込んだ後、エースにバトンを渡した。

山頂まで3.6km。つまりカーシーがアタックに転じる。勾配は12.5%へ、さらに15%へと跳ね上がり、しかもこの最大勾配が約1km続くという..最も難しいタイミングだった。この強烈な一撃に、ひらり、と反応したのはセップ・クスだ。そう、総合首位カラパスから2位カーシー、3位マーティン、4位ログリッチ、5位マスまでが名を連ね、さらには8位エステバン・チャベス、13位ワウト・プールス、21位アレクサンドル・ウラソフといわゆるエース級だけが踏みとどまった先頭集団に、唯一紛れ込んでいた「アシスト」だ!

「総合争いの集団に残れて良かった。おかげで最後までプリモシュを助けることができたから。もちろんカーシーの動きについていったのも、プリモシュのためなんだ」(クス)

いよいよマイヨ・ロホには、自らの脚で追走する以外の選択肢がなくなった。なにしろカーシーに対する総合リードは、わずか18秒しかない。もちろん総合2位まで2秒差のマーティンも、必死にペダルを回した。ただログラだけは、クスが前にいたおかげで、ライバルたちの背中に張り付いているだけでよかった。ここでチャベスは落ち、プールスもじわじわと遅れていく。

しかも残り2.7km、獅子奮迅の努力でカラパスがカーシーをとらえた直後に、クスが改めて加速を切った。カラパスの脚はさらにうなりを上げ、「期待していたほど調子は良くなかった」マスはここで完全にとどめを刺されてしまうのだが、やはりログリッチは後部座席で悠々と過ごした。

クスを荒々しく追い越し、ライバルたちを蹴散らしたカラパスと共に、ついに先頭を突き進み始めた後でさえ、ログリッチは前を引かなかった。後方から必死で追いかけてくるのはあくまでもマイヨ・ロホの座を脅かす者たちであり、ただカラパスだけが惜しみなく体力を使った。

そのせいか残り2km、勾配が7%台に落ちると、カーシーとマーティンは粘り強く追いついてきた。総合6分34秒遅れ、つまり現時点では総合争い「圏外」のウラソフが打ったアタックなど気にも留めずに、総合上位4人は激しい睨み合いを繰り広げた。

勾配12%が終わる間際だった。残り1.2kmでログリッチが鮮やかな加速を切る。やはり「この山にはこれまで1度も登ったことがない。地形図を見ただけ」とステージ後に振り返ったディフェンディングチャンピオンは、一瞬にしてライバルたちを突き放した。しかしカラパスも負けてはいない。スタート前に「この山はよく知っている」と語った昨ジロ総合覇者は、がむしゃらに敵へと追いついた。若きウラソフを強制的に前から排除し、ついに残り850m、ただ2人だけの世界へと突入した。

プリモシュ・ログリッチ

ゴール直前で投げキスするプリモシュ・ログリッチ

このときばかりはログリッチは脇目も振らずに前へと突進した。カラパスが残り800mで加速を切ったが、すぐに後輪に飛び乗ると、ほんの50m先でさらに強烈なカウンターをお見舞いした。

「ステージ勝利を目指してアタックを打ったんだ。でもログリッチがスピードを上げると、僕はもはやついていけなくなった。そこから先は自分のペースで走り、できる限り引き離されないようフィニッシュまで努力した」(カラパス)

加速直後にちらりとマイヨ・ロホとの距離を確認すると、ログリッチは前を向きなおし、もはや後ろを振り向かなかった。まるでライバルなどそこにはいないかのように、ただ黙々と前だけを目指した。ひたすら山頂までペダルを踏み抜いた。ライン直前にようやく後ろを軽く確認し、勝利を確信した。

「実は想像していたよりもはるかに厳しい山だったけど、脚の調子は本当に良かった。勝つというのはいつだって気持ちがいいものだね」(ログリッチ)

こうしてログリッチは大会史上初のモンカルビリョ覇者となり、初日第1ステージに続く今大会2勝目を手に入れた。通算ではこれにてジロ3、ツール3、ブエルタ3と、各グランツールをそれぞれ3区間ずつ制したことになる。また勝者のボーナスタイム10秒も収集し、総合では4位から2位にジャンプアップ。おかげで翌日の31歳の誕生日を、爽やかな気分で迎えることができそうだ。

粘り強く追いかけ続けたカラパスは、13秒遅れで区間2位に滑り込んだ(ボーナスタイム6秒)。13秒差でマイヨ・ロホを守りきった。

「たくさんの攻撃が見られたし、最後の一騎打ちはすごく面白かった。おかげで今後に向け大いにやる気がかきたてられた。だってファンにとっても僕らにとっても、興奮いっぱいの面白いレースになったから。ログリッチは本当に強いけれど、戦いはいまだオープンだ」(カラパス)

区間3位には19秒差でマーティンが食い込み、山ではほぼ孤軍奮闘ながらも、調子の良さを改めて証明した。総合でも28秒差で3位を堅守。攻撃的に走ったカーシーは、ウラソフに続く5位で1日を終えた。総合では2位・18秒差から4位・44秒差へと後退したたが、いまだ目標は「マドリードで総合10位圏内」と語る26歳。逆に失敗を恐れず、今後も果敢なアタックを繰り返してくれるに違いない。

総合5位以下は1分54秒差へと大きく開いた。つまりチームを大いに働かせたマスは、白い新人ジャージは難なく守ったが、マイヨ・ロホ争いからは遠ざかった。もちろん総合5位・7位・9位と並んでいたモビスタートリオは、相変わらず5位・8位・9位(ただしソレルとバルベルデの順番は入れ替わり)と総合トップ10の一角を占領している。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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