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サイクル ロードレース コラム 2020年10月28日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第7ステージ】失意の後には、必ず歓喜がウッズのもとにやって来る。マイケル・ウッズ「僕にとっては最高の報いがもたらされた」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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マイケル・ウッズ

ステージ優勝したマイケル・ウッズ

初日から全速力で走り始めたブエルタは、2週目もとてつもないスピードで幕を明けた。巨大な逃げ集団が出来上がり、総合系チームは前でも後ろでも熾烈な駆け引きを繰り広げた。やはり味方の総合ポジションを切り札に、最後は鋭い攻撃に転じたマイケル・ウッズが、賢く勝利をさらい取った。イネオス・グレナディアーズのアシストが激務に耐えたおかげで、大騒ぎの果てに総合上位に大きな変化はなかった。

「ほんのわずかな幸運と、脚のおかげで、勝利をつかむことができた。そもそも逃げる予定じゃなかったのに、僕にとっては最高の報いがもたらされた」(ウッズ)

2020シーズン最後のグランツールが、無事に2週目へと再び走り出した。1回目の休息日には参加22チームの全選手・全スタッフを含む「レースバブル」内の計684人がPCR検査を受け、幸いにも全員陰性の結果が出た。むしろ現時点の懸念は、日曜日にスペイン全土に緊急事態が宣言されたこと。これにより各自治体に都市間移動を制限する権限と、さらにはスポーツイベントを禁じる権利が生じた。

「最後までブエルタが走り続けられるかどうか、正直言って分からない。それでも信じ続けたい。ブエルタの進行を完全に妨げる自治体などきっとないはずだ、とね」(開催委員長ハビエル・ギジェン)

だからこそ誰もが毎日が全力投球。なにしろ明日があるかどうかすらわからない。マイヨ・ロホを奪い取るチャンスを、総合ライバルから1秒でもタイムを縮める機会を、悠長に待ってなんかいられない。それは区間を狙う選手にとっても、来季の契約を追い求める選手にとっても同じこと。つまりスタートラインに並んだ163人に、いわゆる「休息日ぼけ」に苦しんでいる暇などない。すぐに高速バトルを繰り広げた。

真っ先に飛び出しを成功させたのはレミ・カヴァニャだ。36kmにも渡り単独で逃げ続けた。フランス個人タイムトライアルチャンピオンは第6ステージの前半も、ついでに言うとツール第19ステージ前半も、やはりひとりで前線を突っ走った。「上手く行こうが行くまいが、前に出なきゃなにも始まらない」が信条の「クレルモンフェランのTGV」は、しかし後方からようやく14人が合流してきた直後に、メインプロトンからまとめて回収された。

たったひとりの逃げが終わった後、スタートから50km、次に前方で出来上がったのは15人を超える大きな集団だった。そこにはユンボ・ヴィスマのセップ・クス……すなわち総合4位プリモシュ・ログリッチのアシストの姿があった。また総合2位ヒュー・カーシー擁するEFエデュケーションファーストと総合5位・7位・10位を抱えるモビスターもそれぞれ1人ずつ送り込んだ。6位のボーラ・ハンスグローエと9位のUAEチームエミレーツも同様だ。

あっという間に差は1分半まで開いた。すると数キロ先で、新たに15人超がアタックを仕掛ける。やはりユンボ1人、モビスター1人、EF1人が紛れていた。さらに数キロ先で、もはや制御の効かないプロトンから、またしても数人が動いた。総合10位アレハンドロ・バルベルデさえもその波に乗った。

残り95km。とうとう38人が前方に集結する。最後のひと押しで総合7位擁するミッチェルトン・スコットも人員を派遣し、全員22チーム中、前に行けなかったのはわずか3チーム。つまり首位リチャル・カラパスを守るイネオスに3位ダン・マーティンのイスラエル・スタートアップネーション、そして11位ワウト・プールスのバーレーン・マクラーレンだけ。

一方でモビスターは3人、EFとユンボは2人ずつ選手を送り込んだ。しかも総合でわずか3分差のバルベルデ、3分22秒差ジョージ・ベネット、3分28秒差ミケル・ニエベ、4分11秒差ケニー・エリッソンド等々、タイムを与えたら後々厄介になりそうな面子さえ含まれていた。イネオスは強制的にタイム差制御に駆り出され、大会に残る7人全員でメイン集団を引いた。

大所帯となった逃げ集団内では、モビスターとユンボの面々が「イネオスを働かせるため」にせっせと牽引作業を行った。またギヨーム・マルタンを含み4人も前に揃えたコフィディスもまた、熱心に仕事に打ち込んだ。ただナンズ・ピーターズが「総合上位が何人も入っていたせいで、あまり雰囲気は良くなかった」と証言するように、決して一致団結していたわけでもない。

この日2回通過する1級オルドニャ峠の、1度目の山頂間際で、ピーターズは真っ先に加速を切った。しかしクスとマルタン(+ロブ・パワー)に合流され、上位通過のポイントも横取りされた。2つの山の合間で、メイン集団とのタイム差が2分45秒にまで広がると……「暫定」マイヨ・ロホまであと15秒に迫ったバルベルデが、ドリアン・ゴドンとスタン・デウルフを伴って飛び出しさえした。

バルベルデ

バルベルデ(右)

「逃げに乗ったのは総合争いのことを考えたから。ただ僕の順位ではなくて、むしろエンリク(マス)やマルク(ソレル)の助けになると考えたからなんだ」(バルベルデ)

つまり背後の逃げ集団ではなく、はるか後方のメイン集団を翻弄するために動いた。だから残り42.5kmの中間スプリントさえ特に争うことなく、静かに3位通過。40歳の大ベテランはボーナスタイム1秒をそっと懐に入れ、過去4度も持ち帰ったポイント賞にも特に欲を出さなかった。そして延々20kmほどイネオスを遠隔で働かせた後、残り35kmで逃げへと戻っていった。ただゴドンだけがさらに10kmほど粘った。

2度目のオルドニャ登坂では、やはりモビスターとユンボが逃げを精力的に引っ張った。ただし残り23km、ウッズが2度の加速を切ると、集団内で微妙に保たれてきた均衡は一気に崩壊する。1度目は、クスとバルベルデがすぐに反応し、ベネットとニエベはにらみ合う。2度目でいよいよウッズが飛び出していった背後では、ベネットとバルベルデが顔を見合わた。

その隙を突いてピーターズは抜け出した。バルベルデは力づくで総合争いのしがらみを切り捨てると、すぐさま後に続いた。地元バスクの星オマール・フライレは「知り尽くした道」で弾丸のように飛び出し、マルタンも背中を追いかけた。この4人は山頂を越えた先でウッズをとらえ、いよいよ残り17km、先頭は5人に絞り込まれた。

あくまで総合争いと区間争いが複雑に絡み合った。追走集団内では、UAEもサンウェブも2人ずつ選手を残していたというのに、しばらくはどこもユンボ2人に協力しようとはしなかった。むしろ最初から最後まで一切どこも手を貸してはくれなかったけれど、ラスト22kmをイネオスのアンドレイ・アマドールがひとり黙々と牽引し続けたメイン集団のほうが、タイム差を縮めるスピードがはるかに速かった。

なにより最前線を走る5人の中で、ウッズだけは先頭交代を断固拒絶した。

「バルベルデがいる集団を、僕が引けるはずがない。だってプロトン内にはカーシーがいるんだから。バルベルデにあれ以上の総合タイムを与えるつもりはなかった。そもそも僕は逃げる予定ではなかった。でも集団があまりに大きくなっていったから、チームから人数を送り込む必要が生じて、僕も動いたんだ」(ウッズ)

残り9km、いよいよ最終バトルの火蓋が切られる。「すごいパワーのぶつかり合いであり、風の中の化かし合いでもあった」と語るピーターズのアタックがきっかけだった。マルタンとバルベルデも駆け引きを繰り広げ、「追走集団内に同僚スプリンターがいる」と言う理由でそこまでほとんど動かずにすんだフライレも、いよいよ残り3kmから勝負に加わった。

しかしウッズだけは、やはり4人の動きにひたすらついていくに留まった。動いたのはラスト1.2kmの、ただ1度だけ。

その1度の加速で十分だった。なにしろラスト17kmから頑なに温存してきた体力を、一気に放出すると、ライバル4人をまたたく間に突き放したのだ。バルベルデはすぐに反応しなかったことを後悔し、フライレは「バルベルデが動くだろう」と判断して自らすぐに追わなかったことを後悔することになる。開いた空間はあまりにも大きく、もはや誰にも埋めることなどできなかった。

失意の後には、必ず歓喜がウッズのもとにやって来る。深い悲しみの後に区間勝利を上げた2017年大会も、この春の大腿骨骨折から9月に復活の大勝利を上げた時も。今大会は初日の落車で18分半近くもタイムを失い、総合争いからいきなり放り出された。しかし6日後には区間の栄光が転がり込んだ。ちなみに所属EFエデュケーションファーストは、2020年の3つのグランツールで、それぞれ最低1つずつ区間を制した初めてのチームとなった。

バルベルデは3位4秒遅れで1日を終えた。ボーナスタイムは最低限の4秒を収集。また追走集団のベネットとニエベ、エリッソンドは13秒遅れで、メイン集団は56秒遅れでフィニッシュラインを越えた。

「今日はかなりエネルギーを使う羽目になったけど、状況を上手くコントロールできたと思う。冷静さを失わぬよう努力したし、最終盤の地形がそれほど危険ではないことも分かっていた。最終的には悪くないタイム差で終えることができたと思うよ」(カラパス)

イネオスの努力の甲斐あり総合首位カラパス以下、総合8位まで一切の変動はなかった。バルベルデが総合10位から9位へとほんの1つだけ順位を上げ、タイムも3分差から2分03秒差へと縮めた。ベネットとニエベも揃って3つずつ順位を上げ、それぞれ総合10位2分39秒差と11位2分45秒差につける。

「ツールのときより積極的に動こうと努力してる。だから今日もチームが攻撃的に戦った点には満足してる。なにより今日のステージが(イネオスに)どんな影響を与えるか、見ていこうじゃないか」(ログリッチ)

「明日のモンカルビーリョは厳しいフィニッシュだ。そしてイネオスは1度目の上りからかなりハードに仕事をしたから、かなり体力を消耗しているはず」(マス)

また3区間連続で逃げながら、2位→6位→5位とやはり勝てなかったマルタンだが、山岳ジャージは手に入れた。コフィディスにとっても2008年以来5回勝ち取ってきた愛着のあるシャツだけに、「できる限り守りたい……できればマドリードまで!」と新たな目標に意欲を燃やす。また休息日明け早々に3選手が大会を去った。中でも激しい落車で沿道に放り出されたジェイ・マッカーシーは、右膝の痛みを訴えているが、幸いにも骨折等はなかった。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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