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サイクル ロードレース コラム 2020年10月24日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第4ステージ】ウフルパック7人の恐ろしい進撃!スペインでの栄光に酔いしれたベネット「素敵な気分だよ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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フィニッシュシーン

スプリントフィニッシュ

貴重な機会を逃さなかった。ツール・ド・フランスではポイント収集に連日走り回ったが、ここブエルタでは思いっきりフィニッシュへのスプリントだけに集中すればいい。3日間しっかり体力を温存してきたサム・ベネットは、凄まじい加速力で今大会1勝目をもぎ取った。

「シャンゼリゼ勝利以来の勝利を手にすることが出来た。素敵な気分だよ」(ベネット)

4日目にして、ようやく、スプリンターたちの出番がやって来た。なにしろオランダでの平坦な3日間が中止となったせいで、いきなり開幕から3日連続で山岳大戦が繰り広げられたのだ。「まるでグランツール最後の3日間みたいなストレスだった!」と総合首位プリモシュ・ログリッチが証言するように、あっという間に総合争いは数人に絞り込まれた。

たしかに4日も待たされたけれど、平地巧者にとってこの状況は、どうやらそれほど悪くもないらしい。1カ月前にグランツール最終日の栄光をつかみ取ったベネットに言わせると、グランツール初日スプリントは「(総合勢の)誰もがタイムを落とすまいと前へ前へと突っ込んでくる」。つまりは総合争いがばらけていくにつれて、前線からスプリントとは無関係な人数の割合は減っていく。「だから今日はスプリンターだけの純粋な戦いができるはず」と、モチベーション高くステージを走り始めた。

スタートと同時に猛スピードで4人が飛び出した。ハリー・タンフィールド、ルイス・マテマルドネス、そして前日の前半で逃げたウィリー・スミットに、後半で逃げたヘスス・エスケラ。その背後では至極当然のように、ベネットとドゥクーニンク・クイックステップの仲間たちがタイム差制御に乗り出した。山ばかりのブエルタに俊足を連れてきた数少ないチーム、ボーラ・ハンスグローエ(パスカル・アッカーマン)とトレック・セガフレード(マッテオ・モスケッティ)も作業に協力した。タイム差はしばらく2分程度で移行していく。

ただし簡単な1日ではなかった。さすがに同時進行中のジロほど悪天候ではないけれど(この日はひどい大雨で、選手たちがコース短縮を訴えた)、この日も強い風が、ブエルタ一行の周囲に吹き荒れた。しかも前半はかなりの追風。序盤2時間の走行時速は50kmを軽々と超えた。

さらにステージ序盤のちょっとしたアップダウンを抜け出して、いかにもスペインらしい、360度をぐるりと見渡せる雄大な荒野の一本道に差し掛かると..プロトン内にじわじわと緊迫感が充満していく。はるか向こうの地平線上には、巨大な風力発電タワーが立ち並び、タービンがくるくると勢い良く回っている。とうとう残り100kmを切った直後に、モヴィスターが最前列へと競り上がった。すでに十分すぎるほど高速で走っていたというのに、さらに一段ギアを上げた!

すぐにプチン、とは行かなかった。しかしモヴィスターは執拗に加速を続けた。長く、細く、集団は延びた。タイミング悪くユンボ・ヴィスマの数人が後方に下がっていたせいで、ログリッチの警護が手薄になっていたのに気がついたせいだろうか。アスタナとイネオスもスピードアップに手を貸した。もちろん逃げ集団との距離はまたたく間に縮まっていく。

ところが10kmほど行った先で、悪だくみは打ち切られた。黄ジャージ軍団がまるで問題なくマイヨ・ロホを連れ前に居場所を確保したせいであり、なにより「風は考えていたより強くなかった(エンリク・マス)」。わずか10分間の作戦だったが、その間の平均走行時速はなんと68.6kmにまで跳ね上がった。

「追い風のせいでものすごくスピードが速かったし、ちょっと怖かった。集団内はひどくピリピリしていた。常に集中し、警戒し続けなければならなかった。一瞬たりとも気を緩めることはできなかった。こういったステージでは絶対にミスを犯してはならないんだ」(ログリッチ)

プロトンが減速したおかげで、一時は20秒にまでリードを減らした逃げ集団は、もう少し生き長らえることができた。再びタイム差は1分半まで開いた。最後まで粘ったスミットの逃げ距離は177kmに達し、残り15kmで吸収された。

後方ではやはりウルフパックが最前線で制御役を務めた。ボーラとトレックも1人ずつ人員を配置した。いつしかジャスパー・フィリプセン擁するUAEチームエミレーツも作業を分担した。さらにステージも残り30kmを切ると総合系チームも隊列を組んだ。立て続けに訪れる2度の方向転換に警戒し、プロトン最前線には何本もの列車がせめぎ合った。

サム・ベネット

第4ステージを制したサム・ベネット

ところで残り10kmを切った前後から、なにやらドゥクーニンクの影が薄くなる。総合勢の隊列に混ざって先頭を奪い合ったのはむしろボラやUAEで、さらにはサンウェブやNTT、カハルラルも前方へと突進した。

「プランがある」とベネットはスタート前に宣言していたが、これがその作戦だったのかもしれない。そして残り3km、つまり「タイム救済地点」で総合系チームが後方へと下がるタイミングで、レミ・カヴァニャが猛然と引っ張る隊列は最前線へ駆け上がった。

「ある時点で僕ら全員はまとまらなきゃならない、って事前に話していたんだ。そしてまさにそのタイミングで、全員が完璧にまとまった。しかも3人いれば十分だよって言ってたのに、チーム全員が揃った!」(ベネット)

ウフルパック7人は恐ろしい進撃を披露した。残り1kmになってもいまだ3人の牽引役がベネットを引っ張った。残り500mの右カーブは上手くインを突き、先頭で抜け出した。しかし続けてすぐさまやってきた残り300mの左カーブでは、反対側に寄せている暇がなかった。UAEとボラに内側を取られてしまう。

「ジャスパー(フィリプセン)がインから上がってくるのが見えた。そのまま彼はコーナー直後に爆発的な勢いで飛び出していったから、果たして追いつけるかどうか分からなかった」(ベネット)

ちなみに10月上旬に関係者に配布された地図と、開幕3日前に再度配布された地図とは、フィニッシュラインの場所が異なる。おそらく観客の集中を避けるために、街中の住宅街をまっすぐ突っ切るものから、町外れの工業地帯でカーブを2度こなすコースへと変更されている。

つまり最終直線はわずか270mで、一瞬下ってからの微妙な上り坂。ツールのマイヨ・ヴェールは道路の右端から無我夢中で飛び出した。ジャスパーの背後にぽっかりあいた空白を埋めるために。残り150mでついに後輪に入り込めた。そして残り50m、改めて飛び出した。今度はもちろん勝利をつかむために!

アイルランド人ダン・マーティンが勝利を掴んだ翌日、やはりアイルランドからやってきたベネットが、スペインで栄光に酔いしれた。ブエルタでは昨大会の2勝に続く通算3勝目。また2018年ジロ以降、グランツール4大会すべてでスプリント勝利を上げたことになる。しかもジロ3勝、2019年ブエルタ2勝、2020年ツール2勝といずれも複数回両手を上げてきた。いつもよりも3日間少ないせいでチャンスも少ない2020年ブエルタでも、果たして2度目の歓喜を味わえるか。次のスプリント機会は第9ステージだ。

総合勢はそろって先頭集団内でステージを終えた。アレハンドロ・バルベルデの言うように、終わってみれば「静かでなにも起こらない」1日だった。ダニエル・マルティネスは初日の落車の影響で、サイモン・ゲシュケは疲労のため、このピリピリした平地ステージを走らぬまま家に帰った。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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