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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 レースレポート:第1ステージ】マドリードへの希望を抱く季節外れのブエルタ開幕!第1ステージを制したログリッチ「チームは完璧な仕事をしてくれた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかスペインでは10月13日に非常事態宣言が発令されている
まどろっこしい前置きなどすっ飛ばして、初日から単刀直入に戦いは本題に入った。1級峠を上りきった先で、優勝大本命プリモシュ・ログリッチが両手を上げ、早々とマイヨ・ロホを手に入れた。しかもたったの173km走っただけで、総合10位以下をあっさり1分以上も突き放してしまった!
「最高だね。ファンタスティックなスタートだ。この勝利がとても嬉しいし、このリーダージャージをすごく誇らしい気持ちで身にまとう」(ログリッチ)
新型コロナウイルスの第2波がヨーロッパ全体を飲み込み、スペインでも10月13日に非常事態宣言が発令される中、2020年ブエルタ・ア・エスパーニャは幕を明けた。本来なら8月14日にオランダで始まるはずだった「情熱の赤いジャージ争奪戦」は、普段であればシーズンが閉幕しているはずの10月の終わりに、3日間少ない日程でバスク地方から走り出した。
開幕2日前には全22チームの参加選手とスタッフ498人(ツール・デ・フランドルからの合流組を除く)がPRC検査を受けた。幸いにも選手は176人全員が陰性だったが、バーレーン・マクラーレンとサンウェブのスタッフが1人ずつ陽性と判明。大会主催者ユニプブリックの委員長ハビエル・ギジェンは、親会社ASOアモリー・スポール・オルガニザシオンのツール・ド・フランス時の対策にならい、「連続する7日間で2人以上の陽性を出したチームは帰宅」ルールの徹底を宣言している。
「この時を迎えるまでにたくさんの準備が必要だったが、決して希望は失わなかった。希望が我々をここまで導いてくれた。これからはマドリード到着へ向けて希望を抱く」(ギジェン委員長)
曇り空の下で2020年最後のグランツールの幕は明けた。スタートと同時に数人が飛び出して行き、早々に逃げ集団ができあがる。レミ・カヴァニャ、ティム・ウェレンス、カンタン・ジョレギ、ヤシャ・ズッタリン、イェツセ・ボルの5人は、後方メイン集団から素早く4分近いリードを奪った。
しかし、いつもと違ったのは、序盤に降り出した雨の冷たさだけではない。後方で集団コントロールに乗り出したのは、グランツール初日によく見られるようなスプリンターチームではなかった。前回覇者にして今ツール総合2位のログリッチと元ジロ総合覇者トム・デュムランを擁するユンボ・ヴィスマであり、過去2大会の総合2位(2019年アレハンドロ・バルベルデ、2018年エンリク・マス)が率いるモビスターが、勢力的に牽引を引き受けたのだ。
なにしろステージ後半には、最終1級峠を含む4つの山岳が待ち構えていた。しかも山場では強風が吹き荒れ、濡れた路面には、まるで吹雪のように落ち葉が降り注いだ。慎重に、それでいて大胆に、強豪たちは3週間後の栄光に向け最初の楔を打ち込まねばならない。
だから逃げ集団の山岳「青玉」ポイント収集合戦に、のんびり時間を与えている余裕などなかった。メイン集団はすぐさまタイム差を2分半ほどにまで一気に縮め、山場に入るとさらにじりじりと差を詰めていく。
おかげで最前線の5人は、序盤2つの山岳でしかポイント争いを繰り広げられなかった。昨ブエルタ2日前、今ツール3日前の急遽招集に続き、今回もやはり3日前の土曜日に突如呼び出されたというカヴァニャが残り50kmで仕掛けたのをきっかけに、逃げ集団は分裂を始め、ついには1人ずつ後方へと脱落していく。仲間の志を継いで、2峠を先頭通過し最多6ptを手にしたジョレギだけは最後まで粘ったが、残り25kmで集団に飲み込まれた。
ちなみにグランツールのラインステージ初日に、逃げ選手が山岳ジャージを着られないというのはちょっとした珍事である。ただしブエルタでは意外とよくあること。たとえば2013年と2015年はTTTの翌日にいきなり山頂フィニッシュが組み込まれ、区間勝者がそのまま総合首位はおろか、山岳賞首位もさらいとっているのだ。
吸収前からすでにメイン集団内では熾烈なポジション取りが始まっていた。アスタナは生まれて初めてのグランツール=2020年ジロ・デ・イタリアを胃の不調でわずか2日でリタイアし、早くも人生2度目のGTにやってきたアレクサンドル・ウラソフのために、グルパマ・FDJは悲劇のエース、ティボー・ピノ..のためではなく(そもそも総合はまったく考えてないそうだ)、むしろ初日勝利を狙っていたダヴィ・ゴデュのために隊列を組んだ。
直後の中間ポイントはみな脇目もふらずに通過した。ツールではあれほど熾烈だった緑ジャージ用ポイント収集はおろか、貴重なボーナスタイム(3秒、2秒、1秒)さえ誰一人として興味を示さなかった。とにかくどのチームもひたすら最前列を死守したがった。
3つ目の山岳に入ると、位置取りの重要性がはっきりする。道が突如として細くなり、集団中ごろで落車が発生したのだ。巻き込まれたのは、総合候補の一角として名を挙げれられていたマイケル・ウッズ。自動車が1台やっと通り抜けられるような細道で、ただ成す術なく立ち往生するばかり。また同チームでエースナンバーをつける今クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ覇者ダニエル・マルティネスも、区間前半で落車し、やはり最終盤に遅れることになる。
ここで主導権を握ったのはイネオス・グラナディアーズだった。2011年ブエルタ以来グランツール総合10勝を誇るGTスペシャリスト集団は、今季は少々苦戦を強いられている。ツールでもジロでも総合エースが途中棄権。たしかに同時進行中のイタリア一周では区間5勝と強烈な存在感を示してはいるものの、やはり2014年グランツール総合0勝の轍は踏みたくない。4選手がメイン集団最前列に集結し、厳しいテンポを刻んだ。10タイトルのうち7つを勝ち取ったクリス・フルームが、落車分断にはまったせいで追走に手間取り、いつしかじわじわと脱落していくのも構わずに。
「ここにいられるだけですでに幸せだし、2年ぶりにグランツールを走り出せたことが嬉しい。感触は良かった。まだ少しなにかが足りないのは、レースをそれほど走ってこなかったせいなんだ。1日1日を戦って、このレースを通して自分にできるすべてを尽くしたい」(フルーム)
最終峠に入ってもイネオスの勢いは衰えない。特に昨季鳴り物入りでプロ入りした22歳イバン・ソーサが、リチャル・カラパスを背負って猛烈にスピードを上げると、集団はまたたく間に崩壊した。ウラソフやゴデュ、マルティネスも力なく千切れていった。ピノはとっくの昔に姿を消していた。
先頭でフィニッシュに向かうログリッチ
残り5km、ソーサが絞り込んだ集団は、18人にまで数を減らしていた。うち4人がユンボだった。夏の終わりのフランス一周で完璧な集団制御を行ってきたイエローマシンは、どうやらスペイン一周も同様に支配するつもりらしい。そもそも今大会メンバーの8人中5人がツール組。そしてツール第17ステージのロズ峠最終盤で見せたように..セップ・クスが軽いジャブを打つ。
「急勾配の難しい上りだと分かっていた。しかも爆発的なアタック向きの上りだったから、僕がアタックを打つことにしたんだ」(クス)
敵を揺さぶるような加速に、すぐさまカラパスが反応した。マスも背中に飛び乗り、落車で後退した2人のエースの代わりにヒュー・カーシーも続いた。ワンテンポ遅れてダニエル・マーティンが動き、そのままログリッチも合流する。少し先でフェリックス・グロスチャートナーとエスデバン・チャベス、そしてジョージ・ベネットが追いついた。つまり先頭が9人に絞り込まれてさえ、ユンボが3人も残っていた。
クスは執拗に加速を繰り返す。「山頂まで先頭集団で連れていければ、あとはログラに勝機あり」との信念通り、ライバルたちを大いに苦しめつつ、ラスト2.5km地点の1級山頂をおそらく無自覚に先頭通過した。一気に10ptを収集し、青玉ジャージ獲得を決めたクライマーは、静かに仕事を終えた。
あとはフィニッシュまでほんの緩やかな下り坂。先頭に残る7人は加速と牽制とを繰り返す。そんな隙きを突くように残り1km、ログリッチが大きく加速を切った。わずかにうねる道を迷わず突き進み、そのままフィニッシュラインで両手を突き上げた。
「チームはまたしてもすごく強いところを見せつけたし、ステージを通して完璧な仕事をしてくれた。最終峠も全力で攻めた。みんなの努力を勝利に結びつけることが出来て本当に嬉しい」(ログリッチ)
ツール中に幾度となく「チームは完璧、でも僕自身はみんなに勝ちをもたらせなかった」と悔しそうに繰り返してきたログリッチにとっては、最高の瞬間だったに違いない。ブエルタの区間勝利は、昨第10ステージ個人タイムトライアルに次ぐ通算2つ目。また2016年ジロでグランツールデビューを果たして以来、出場した7つ全てのグランツールで最低でも区間1勝を果たしたことになる(ジロ3勝、ツール3勝、ブエルタ2勝)。
2位以下にペダルで1秒以上の差をつけた上に、ログリッチはボーナスタイム10秒も収集した。昨大会第10ステージから最終日まで12日間着用してきたマイヨ・ロホにも、当然のように袖を通した。しかもこの日のスタート前まで、いや、最終峠のラスト5kmまでは、「果たしてエースはログリッチか、それともトム・デュムランか」とユンボのダブルエース体制が議論を呼んできたが、ログラ本人が「今日で早くも状況が分かるかも」と語っていたように、あっさりと初日で決着をつけた。
なにしろ1秒遅れの2位にはカラパスが飛び込み、3位にはマーティンが入った。7位カーシーが4秒遅れで、クスは10秒差で区間8位、ベネットが40秒差の9位で終えた。そして51秒遅れの小グループに、ダブルエースの片割れのデュムランはいた。もちろん8人の集団を牽引するバルベルデやその他ライバルたちに、ログラのチームメートとして、デュムランは協力する理由などなかったからでもある。
ユンボ内のエースの行方どころか、たった1日でブエルタ全体の総合争いが大きく動いた。総合首位ログリッチに続き2位カラパスは5秒差、3位マーティンは7秒差につける。11秒遅れには4位チャベス・5位グロスチャートナー・6位マスが並び、総合7位カーシーは14秒遅れ。8位と9位はログラの「アシスト」で、総合10位アンドレア・バジョーリ以下は早くも1分01秒以上の差を背負う。
もちろんツール最終日前日に57秒差をひっくり返されたログリッチにとっては、バルベルデやダビ・デラクルス(やデュムラン)の1分01秒差やギヨーム・マルタンの1分18秒差は、いまだレッドゾーンに違いない。ワウト・プールス2分01秒差あたりまでは要警戒区域だろうか。ウラソフ4分41秒差やマルティネス4分59秒差もいまだ過小評価すべきではないが、ピノ10分06秒差、フルーム11分22秒差、ウッズ18分39秒差に関してはもはや大逃げを打つ自由を手に入れたとも言える。
季節外れのブエルタに、体と心がついていかない選手もいた。マティアス・フランクは強い疲労を訴え、イラン・ファンワイルダーは膝の痛みで、ステージ半ばで自転車を降りた。またアレクサンドル・ジェニエスも終盤にリタイアし、AG2Rラモンディアルから早くも2人が大会を去った。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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