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サイクル ロードレース コラム 2015年7月6日

ツール・ド・フランス2015 第2ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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暴風雨を潜り抜けられた強者は25人しかいなかった。ツール史上「初めて」と謳われた海の上のステージは、アンドレ・グライペルが勝ち取った。ファビアン・カンチェラーラは予定より1日遅れでマイヨ・ジョーヌを我が物とした。そして総合優勝争いの「四強」はくっきりと明暗が分かれた。アルベルト・コンタドールとクリス・フルームは吹き付ける横風に負けず、ヴィンチェンツォ・ニーバリとナイロ・キンタナは、大会2日目にして早くもタイムを1分20秒近く失った。

ユトレヒトは相変わらず、うだるように暑かった。雲がほんの少し出ていたものの、日差しは焼け付くようで、気温は30度を越えた。開幕セレモニーを和やかに終えて、プロトン198人全員が本スタートを切ると、いわゆる恒例のゼロkm地点アタックで2015年ツール・ド・フランス最初のラインステージが始まった。

ヤン・バルタ、アルミンド・フォンセカ、スタフ・クレメント、ペーリ・ケムヌールの4人は、メイン集団に最大2分45秒のリードを許された。しかし山岳ポイントのない平坦な大地で、収穫物は中間スプリントの上位通過ポイントのみ。敢闘賞さえも手に入らぬまま、ゴールまで63kmを残した地点で、至極あっさり初日のエスケープには終止符が打たれた。

なにしろ行く先には轟々と風が吹き荒れていた。プロトン随一の風巧者エティックス・クイックステップが、絶好機を利用しようと考えないわけはなかった。狙いはもちろん、マーク・カヴェンディッシュの区間勝利と、トニー・マルティンのマイヨ・ジョーヌ。だからステージ序盤で集団の主導権を握った。ティンコフ・サクソがロッテルダム突入前に小さな分断の試みを行った後、ゴール前65km、北クラシックスペシャリスト軍団はついに引き金を引いた。虹色アルカンシェルジャージのミカル・クヴィアトコウスキーと緑色マイヨ・ヴェール姿のトニー・マルティンが、先頭に立って加速を切ったのだ!

前方の逃げ選手はあっという間に飲み込まれ、後方からは少しずつ弱者が振り落とされていった。間もなく集団は土砂降りゾーンへと突っ込んだ。さらには海の中の一本道に差し掛かると、暴力的な風が選手たちの体を打ち付けた。

「何が起こったのかはよくわからないんだ。落車のせいだったのか、それとも単純なる分断だったのか。でも、小さな町を通り抜け、ロータリーをいくつもこなし、そして雨と風に立ち向かって……。だから簡単ではなかった。とにかく僕は走り続けた。そして、突然、集団が小さくなっていた」(カンチェラーラ、公式記者会見より)

雨と風とで視界はひどく悪かった。テレビカメラが真っ先に教えてくれたのは、昨ツール総合2位ジャンクリストフ・ペローの脱落だった。若きチームメートのロメン・バルデもやはり遅れた。同集団には四強のナイロ・キンタナの姿も確認された。当然ながらアレハンドロ・バルベルデも一緒だったし、一昨年3位ホアキン・ロドリゲスも苦しんでいた。しばらく後には、マイヨ・ジョーヌのローハン・デニスもが分断にはまっていることが発覚する。イタリアンチャンピオンジャージのヴィンチェンツォ・ニーバリと、フランス期待の星ティボー・ピノさえも、第2集団で必死にペダルを漕いでいた!

数々の証言によれば、分断が発生した最大の理由は……、なんとナセル・ブアニであるという。ゴール前45kmのロータリーで、フレンチスプリンターは、ヤコブ・フグルサングを無理に追い抜こうとした。そのまま地面に滑り落ち、数人がなぎ倒された。ペローとバルデは転び、ニーバリを含む大部分の選手は落車こそ避けられたものの、痛い遅れを喫した。

ニーバリ集団とキンタナ集団はいつしか合流し、65人ほどの大きなプロトンとなった。ニーバリやピノー自らが先頭に立ち、前を行く25人を追いかけた。しかし先頭集団とのタイム差は一行に縮まらないどころか、むしろ広がっていくばかり。

先頭集団には絶対に追いつかれたくない3つの理由があった。1)カヴェンディッシュ、グライペル、ペーター・サガンは、後方のスプリンターに追いつかれることなく、小集団スプリントで区間勝利を争いたかった。2)コンタドールとフルーム、加えてティージェイ・ヴァンガーデレンは、後方の総合ライバルたちからできる限りタイムを奪っておきたかった。3)前日2位のマルティン、3位カンチェラーラ、4位トム・デュムランは、後方のデニスをできる限り突き放してマイヨ・ジョーヌを手に入れたかった。

25人・8チームの利害関係は、それでも、完全に一致したわけではない。集団内では小さな駆け引きが繰り返された。たとえば先頭に6人送り込むことに成功したBMCは、マイヨ・ジョーヌのデニスが遅れているからという理由で、積極的な集団牽引には加わらなかった。……と、少なくともコンタドールは考えていたようだ(そして不満に思っている)。たとえばエティックスは、「3人もスプリンターが残ってるから、カンチェラーラのボーナスタイムを取りはさすがに難しいだろう」(マルティン、チーム公式リリースより)と、ラスト5kmでカンチェラーラへの警戒を解いた。

……しかし、現役選手としてはマイヨ・ジョーヌ着用日数ナンバーワンを誇る王者の、黄色へのこだわりを甘く見ていたようだ。初日個人タイムトライアルで3位に終わった直後に、加熱しすぎた頭に水をかぶりながら、「本当はマイヨ・ジョーヌ着用30日まで伸ばしたかったんだけどなぁ」とカンチェラーラが漏らした本音を、聞き逃してしまったのだろうか。

「誰かを倒そうと考えていたわけじゃなくて、ただひたすら、黄色へと突き進んだ。サガンの後ろに入り込んで、待って、待って。それから突如として、彼らはスピードを上げた!まだまだフィニッシュまでは遠かったのに!とにかく先頭の選手との距離を出来るだけ縮めるよう、そしてマルティンとの距離をできるだけ開くようにがんばった」(カンチェラーラ、公式記者会見より)

長すぎるスプリントの果てに失速したカヴェンディッシュ(4位)と、コンタドールのために大いに力を尽くして少々疲れ気味のサガン(2位)の間に、カンチェラーラはまんまと入り込んだ。区間3位に入り、ボーナスタイム4秒を手に入れた。つまりは総合でマルティンを3秒突き放し、自身29枚目の黄色いジャージを堂々と手に入れた。そして「想像さえしていなかった」ジャージ獲得劇にあまりに感激したものだから、カンチェラーラはめっぽう長い記者会見を開いた。

「素直に嬉しい。もちろん29回目という数字のおかげでもあるけれど、なにより、初めて着てから11年後というのが僕を一層感動させてくれる。だってこのジャージは僕にとって大きな意味を持つし、今年がもしかしたら最後のツールになるかもしれない。最後のツールでこのジャージを着れるというのが、ひときわ嬉しいんだ。手ぶらで最後のツールを離れたくはなかった。昨日は『ああ、もう台無しになっちゃったな』とがっかりしたし、むしゃくしゃしたんだけど……。おかげで月曜日は1日マイヨ・ジョーヌで過ごすことができる。これまでよりもきっと、黄色の時間を満喫できるだろうな」(カンチェラーラ、公式記者会見より)

黄色30日目も目前のカンチェラーラに対して、グライペルは生まれて初めてのマイヨ・ヴェールを身にまとった。ステージ中盤には、チームメートと共に積極的に分断の動きに加わった。大雨の中、トニー・ギャロパンとマルセル・シーベルグと共に先頭にきっちり踏みとどまった。最後はかつてのチームメートであり宿敵でもあるカヴの後輪に入り込み、そして自らのタイミングで飛び出した。嵐が去り、青空が見え始めた海の上の小さな島で、自身7回目のツールで区間勝利を手に入れた。カンチェラーラと違って口数の少ないドイツ人は、ほんの数語で喜びを表した。

「自分自身に強さを感じた。勝つことが出来て本当に嬉しい。だってすごく、すごくハードなステージだったから」(グライペル、公式記者会見より)

フルームはグライペルやカンチェラーラと同タイムでゴールし、スプリントに混ざらなかったヴァンガーデレンとコンタドールは4秒後にフィニシュラインを越えた。2014年ジロ総合2位リゴベルト・ウランも密かに4秒遅れの集団で終えている。ニーバリとキンタナは1分28秒遅れの集団で帰りついた。四強だけで比較した場合、総合ではフルーム(カンチェラーラから48秒遅れ)がトップに立ち、12秒遅れでコンタドール、1分21秒遅れでニーバリ、1分39秒遅れでキンタナと続く。ちなみにウランはフルームの6秒前、ヴァンガーデレンは4秒前につける。

「大きなアドバンテージだ。フラットステージを1つ終えた段階で、この順位に付けられているなんて、ファンタスティックだね。でも大会は3週間続く。それに、今日のように、今後も日々状況は変わっていく。今日は僕らが前に行けたけれど、残りの日々で、僕らの身になにが降りかかるのかなんて誰も知らないんだから」(フルーム、チーム公式ページより)

昨ジロ・デ・イタリアでグランツール完走連続11回の記録を樹立したアダム・ハンセンは、雨の中で激しい落車の犠牲となったが、チームリーダーのグライペルから11分06秒遅れの最下位で無事に1日を終えた。エティックスはステージ序盤からさんざん積極的に動き、伝説に残るような見事なレースを演出したけれど、クヴィアトコウスキーの敢闘賞以外は手ぶらでオランダを立ち去った。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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