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中間でも、ゴールでも、アンドレ・グライペルがスプリントをもぎ取った。世界チャンピオンとマイヨ・ジョーヌの豪華アシストを享受したマーク・カヴェンディッシュを、圧倒的なパワーでねじ伏せ、陰鬱だったステージに鮮やかな緑色を差し込んだ。ドイツ公共放送局の4年ぶりのツール生中継再開を祝うように、ここまでの5ステージのうち3つがドイツ人選手たちの手に渡った。第一次世界大戦の激戦区を巡ったこの日、もちろん黄色いジャージは、ドイツ人のトニー・マルティンがしっかりと守った。
海の上でもなければ、激坂でも、石畳でもない。ようやく平坦で平和で平凡なステージが執り行われる予定だった。ところが、あれほど暑かった開幕が嘘だったかのように、ひんやりとした空気があたりを包み込んだ。頭上には灰色の雲が低く垂れ込み、牧草地にはごうごうと強風が吹き抜けた。真夏に似つかわしくない冷たい雨が、選手たちの肢体に降り注ぎ、アスファルトの道はまるでスケートリンクのように滑りやすくなった。
だからツール初出場ピエールリュック・ペリコンの、たった1人のエスケープを見送ると、集団はスローペースで慎重にレースを続けた。これ以上、落車で怪我人の山を築きあげたくはなかった。レースが活気付いたのは、フィニッシュ前を除けば、わずか2回だけ。
1回目は中間スプリント。すでに緑を着ているグライペルが他を圧倒した。そして、マイヨ・ヴェールを追い求めるカヴェンディッシュ、サガン、ジョン・デゲンコルブ、ブライアン・コカールが一斉に2位通過ポイント収集スプリントに走りだした。
2回目は分断の試み。ステージのちょうど半ばでペリコンを吸収したプロトンは、残り80kmで突然、加速ギアを入れた。ティンコフ・サクソやBMCが最前線で猛烈にスピードを上げ、キャノンデール・ガーミンも企てに乗った。集団は縦に長く伸び、ところどころで、プツンと切れた。後方には小さなグループがいくつも出来上がった。しかし前方はいつまでたっても60人程度の大きな塊のままだったし、後方は悟りきったように追走を放棄し、徐々に「グルペット」を作り上げていった。いつしかメインプロトンは再び歩みを緩めた。総合チーム(スカイ、ティンコフ、BMC、アスタナ、モヴィスター)+マイヨ・ジョーヌ保有チーム(エティクス)の5チームが、危険回避のために、最前列に厚い蓋を閉じた。
4時間39分のレースの、つまり大部分の時間は、プロトンは安全走行を順守していたことになる。それでも落車は避けられなかった。繰り返し選手たちはアスファルトに投げ出された。「シュット!!(落車)」の怒号があちこちで上がった。濡れた白線で自滅したり、沿道の広告フェンスに突っ込んだりする選手もいた。
大好物のスプリントステージを前に、ナセル・ブアニは、モチベーションを高めていた。ところが11kmほど走ったところで、チームメート3人と一緒に大きな落車に巻き込まれた。フランス選手権、第2ステージに続く12日間で3度目の落車に、もはや体が耐え切れなかった。救急車に乗って、静かにツールから離れていった。同じ落車でジャック・バウアーも左大転子を挫傷し、3週間の長旅予定を、5日間で強制終了することになった。
すでに2日前に大落車の犠牲となっていたマイケル・マシューズは、満身創痍ながらも、戦い続けていた。何度も集団から脱落し、時には孤独な戦いを強いられた。なんとかしてフィニッシュ地にたどりついたら、びっくりすることに、敢闘賞の赤ゼッケンを授与された。この日のオリカ・グリーンエッジは、第一次世界大戦の西部戦線で命を落としたオーストラリアの先人に敬意を現すため、黒い腕章を巻いていた。ゴール前18.5kmでは、オーストラリア兵士の記念碑の前も通過した。ゴール地で精密検査を受けたマシューズは、2つの小さな骨折を抱えていることが判明している。
フィニッシュへ向けた争いは、ラスト20kmで勃発した。来たるべきスプリントへ備えて、世界チャンピオンの証、アルカンシェルをまとうミカル・クヴィアトコウスキーが猛烈に先頭を引っ張った。ゴール地アミアンに近づくと、巨大ロータリーが連続して現れたが、幸いにも路面は乾いていた。つまり思い切り仕事をする条件は整っていた。マイヨ・ジョーヌ姿のトニー・マルティンが、全力での牽引作業に乗り出した。チームのエーススプリンター、カヴェンディッシュのために!
「もちろん今日の目標は、マイヨ・ジョーヌを守ることだった。でも、その上で、チームメートの区間勝利に貢献したいと考えたんだ。アシストの任務を課された時には、僕はいつだって全力で任務を果たしてきた。それにチームの1人がマイヨ・ジョーヌを着ているからといって、他のチームメートが区間勝利を取りにいけないという理由はないからね。そもそも僕は、こんな風にチームメートのために働くことが好きなんだ」(マルティン、ゴール後ミックスインタビューより)
マルティンの献身が終わると、スプリントの時間はすぐにやって来た。ジョン・デゲンコルブ有するジャイアント・アルペシンや、グライペルのロットが主導権を奪いにやってきたが、エティクスは常に先頭を取り返した。ラスト500mのゆるやかなカーブには、最終発射台マーク・レンショーが真っ先に飛び込んだ。しかし……第2ステージはあまりにも早すぎるタイミングで前線から退いたと非難されたが、この日は、そもそも、カヴはレンショーの背中を見失っていた。
「すごいカオスだった。僕はサガンの背後に入り、そこからスピードを上げた。(アルノー)デマールがスプリントを切り、その右側で(アレクサンドル)クリストフが仕掛けるのが見えた。そしてフィニッシュ直前に、僕はクリストフを抜き去った」(カヴェンディッシュ、エティクス公式リリースより)
300mの長いスプリントに挑んだカヴは、しかし、あとわずかの伸びが足りなかった。マイヨ・ヴェールのグライペルと、マイヨ・ブランのサガンに抜き去られ、3位に沈んだ。初出場2007年と、第1ステージで落車し翌日不出走だった2014年を除いて、2008年から2013年までのカヴェンディッシュは少なくとも第5ステージまでにはステージ1勝目を上げてきたというのに……。あと1勝さえ上げれば、通算区間26勝で、ツール区間勝利数ランキングで史上単独3位に上がることができるのに!
「面白い状況だったよね。トップスプリンターの誰1人として、本来のリードアウト役が残していなかったんだから。だから臨機応変に行かなくてはならなかった。僕はオープンスペースを探して、左側に道を見つけた。300mで飛び出したのは少し早すぎたけれど、幸いにも、僕には十分なエネルギーが残っていた。勝利を引き寄せることができたんだ」(グライペル、公式記者会見より)
重機のように力強く前方へと競り上がり、勝利をむしりとった後に右腕でガッツポーズ。さらには左手でガッツポーズ。1勝目を追い求める仇敵カヴェンディッシュを尻目に、早くも2勝目を計上した。またポイント賞ルール変更のおかげで(平坦ステージで優勝選手に与えられるポイントが増加)、4年連続の緑ジャージを狙う2位サガンとの差を、6ポイント→32ポイントと拡大することにも成功した。「プロデビューしてからというもの、僕はいつだって、ちょっとカヴェンディッシュの影に入ってた」と語ったグライペルが、「超スター選手」たちを実力ではねのけて、ついに光のある場所へと出た。
総合争いの選手たちは、ほぼ全員が、大きな事故もなくタイムロスもなく1日を終えた。また明日は、ものすごい風と、分断がやってくる。「平坦だけど、試練続き」の2015年ツールの1週目は、まだ終わらない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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