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サイクル ロードレース コラム 2015年7月17日

ツール・ド・フランス2015 第12ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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バケツの底を一気に抜いたような、とてつもなく大量の水が山の上に落ちてきた。雨は時に、小粒ではあるけれど、雹に変わった。麓は酷暑、山頂は冷たい水びたし。まるで黙示録のような状況の中で、ホアキン・ロドリゲスが勇敢なる勝利を手に入れた。かつての総合ライバルに逃げ切り優勝を許したメイン集団では、ビッグネームが代わる代わるマイヨ・ジョーヌへ攻撃を仕掛けた。頑強なアシスト2人に支えられ、クリス・フルームはまるで危なげなくステージを終えた。

ピレネー3日目のこの日、2つのニュースがフランス国内をにぎわせた。1つ目は相変わらず記録的な熱波がフランス全土を襲っていること。6月29日以来、例年に比べて死亡者数は7%も増え、来週(つまりツール3週目)は今以上に気温が上がるであろうこと。そして2つ目は、ランス・アームストロングの来訪だ。7連覇→取り消しの堕ちたチャンピオンは、第12ステージのこの日、第13ステージのコースを「チャリティー目的」で走った。もちろんメディアは大騒ぎ。オートバイで全行程に張り付くテレビ局まで出現したほどである。ただし、ツール本体は、完全にその存在を黙殺したけれど。

スタートから20km地点の中間ポイントで、スプリンターたちが朝一番の勝負を繰り広げた。アンドレ・グライペルが先頭で通過し、ペーター・サガンが2pt差でマイヨ・ヴェールを守りきった直後に、本日の区間勝者がエスケープに乗り込んだ。

出来上がったのは22人の大集団。うちフランス人が11人で、名誉回復を狙う「元」総合トップ10候補がホアキン・ロドリゲス、ロメン・バルデ、ダニエル・ナバーロと3人、チームリーダーが崩れたせいで他の成果を追いかける必要に迫られたアスタナの2人、さらには世界チャンピオンのミカル・クヴィアトコウスキーも滑り込んだ。22チーム中15チームが作戦に加わり、しばらくは乗り遅れたキャノンデール・ガーミンが悪あがきするも、結局のところ大きなグループはどんどん先へと突き進んでいった。

「暗い穴の中から、ようやく抜け出せたような気がする。黒から白には、一気に変えることなどできなかったけれど……」(バルデ、ゴール後インタビューより)

「守備的に走る」と前日にマイヨ・ジョーヌのクリス・フルームが宣言していたように、スカイは落ち着いて後方集団を率いた。エスケープは最大13分半ものリードを享受し、悠々とステージ優勝争いへと突き進んだ。

22人が勝負を始めたのは、全部で4つある山のうち、3つ目の山1級ポール・ド・レルスに入る直前だった。クヴィアトコウスキー、セプ・ヴァンマルク、ゲオルグ・プライドラーの3人が、早掛けでメンバーを振り払った。登山途中にプライドラーは脱落し、さらに最終峠プラトー・ド・ベイユの上りに入ると、ヴァンマルクの脚が止まった。昨秋、雨降りしきるスペインでアルカンシェルジャージを勝ち取ったクヴィアトコウスキーだけは、粘り強く孤独に戦い続けた。豪雨の山頂に、虹の橋をかけるために。

「セップと僕は、ピュアクライマーとの距離を開くために、いい動きができた。最終峠の前の下りでアグレッシブに攻めて、リードを広げられたのは賢いやり方だったと思うよ。互いに協力し合って働いたし、彼には感謝している。我々の能力の範囲で、可能な限りベストの戦術を選択できた。雨でさえ、前向きにとらえたさ。1日中付きまとった暑さから、僕らを解放し、体を冷やしてくれたんだから」(クヴィアトコウスキー、チーム公式リリースより)

しかし、置き去りにされた「ピュアクライマー」たちは、決して諦めてはいなかった。エスケープに複数潜り込んでいたアスタナとAG2Rが執念深く追走を続けた。ついにはプラトー・ド・ベイユ序盤の、勾配きついパートで、アスタナのヤコブ・フグルサング、ロドリゲス、バルデの3人がとうとう頭角を現した。

フグルサングが幾度も加速し、ロドリゲスもスピードアップを繰り返した。いまだ灰色状態にあったバルデは、2人についていくので精一杯だった。そしてラスト8km、「プリト」が大きな一撃を決めた。さらには、そのままの勢いで……、クヴィアトコウスキーに追いつくと、あっさり置き去りにしていった!

「調子自体はずっと良かったんだ。ただピレネーの1日目はハンガーノックに苦しめられ、2日目はニュートラルゾーンで落車して腰を少し痛めた。タイムを大幅に失った。でも、調子は、すごく良かった」(ロドリゲス、公式記者会見より)

この山を越えた向こう側のアンドラに、ロドリゲスは数年前から暮らしている。プラトー・ド・ベイユは数え切れないほどトレーニングで上っている。そして、ツール前に最後にこの山へ、チームメートで親友でもあるアルベルト・ロサダとトレーニングに来たときもまた、雨が降っていたという。

「まるで奇跡だ。本当に大好きな上りなんだ。ほんの50kmほど先に僕は住んでいて、いつも上っている山だ。だから家族や友達が応援に来ていたし、彼らの存在が僕を奮い立たせてくれた。正直に言うと、ラスト5kmは、まったく苦しまなかった。むしろ楽しんだくらいだよ。そして僕は勝った。夢みたいだ!」(ロドリゲス、公式記者会見より)

第3ステージのミュール・ド・ユイに続く区間2勝目を手に入れたプリトは、「次は第14ステージのマンドを狙う」と笑った。しかし、本当に戦いたかったのは、総合表彰台だった。そしてロドリゲスのいない強豪集団の戦いは、最終峠で始まった。暑いときも雨降りのときも延々コントロールに勤しんだスカイから、まずはティンコフ・サクソが主導権をもぎ取った。前日に区間勝利を上げたラファル・マイカも、この日はアルベルト・コンタドールのために猛烈な牽引を行った。そこからだ。ビッグネームたちによる攻撃が始まった。

降りしきる雨の中、真っ先に飛び出したのはコンタドールだった。スカイのリッチー・ポートが先頭に立ち、ジロ&ツールのダブルツールを狙うスペイン人を追走したが、しかしリズムを急激に変えることもなかった。コンタドール本人も「僕と一緒に飛び出そうという選手がいなかったから、1人で行くのは辞めた」(チーム公式リリースより)と、メイン集団に静かに戻っていった。

次に仕掛けたのはヴィンチェンツォ・ニーバリ。すでに7分47秒も遅れている昨大会チャンピオンに、やはり誰も呼応しなかった。ポートは淡々とペダルを回し、フルームも「タイム差がすでに大きいからね」(公式記者会見より)と、あせらずチームメートの背後でペダルを回した。

最後にモヴィスターが動いた。アレハンドロ・バルベルデが隙を突くようにして上方へ突進すると、今度はポートとゲラント・トーマスがすぐに穴を埋めに行った。さらにはフルーム自身も独特な瞬間移動アタックを見せたのだが、むしろナイロ・キンタナが切れ味鋭く前へ進み出た!

「キンタナがアタックしたとき、『オー、ノー!』って思ったさ。だってリッチーがちょうど後方に下がっていった直後だったから。でも、幸いにも、僕には攻撃に応える脚があった。ゆっくりと彼に追いつくことができたんだ」(フルーム、チーム公式HPより)

ちなみにフルームによると、「キンタナのアタックは爆発的ではあったけれど、往年のコンタドールほどは爆発的ではなかった」(公式記者会見より)とのこと。結局はモヴィスターのダブルアタック攻撃も、実を結ぶことはなかった。バルベルデだけが前日同様、フィニッシュライン直前に飛び出してほんの1秒を掠め取ったが、フルーム、キンタナ、コンタドール、ニーバリ、さらにティージェイ・ヴァンガーデレンは同タイムでゴールした。山に入ってから俄然本領発揮のピエール・ローランも、プリトやバルデのように「リベンジ」開始のティボー・ピノもまた、ファンタスティック・ファイヴと肩を並べて山頂にたどり着いた。なにより……、ゲラント・トーマスの姿もあった!

この日のマイヨ・ジョーヌ記者会見の内容は、総合5位に上がったE3ハーレルベーケ勝者の件が約3割を占めた。「君がウィギンスのアシストを勤めた2012年みたいになると思う?」とか、「トーマスはキャリア目標を高めに修正すべきだと思う?」とか。

「彼はきっとクラシックへの情熱を抱き続けると思うよ。でも今きっと、自分のGCライダーとしての、ステージレーサーとしてのポテンシャルを発見しつつある最中だと思う。それにステージレースには、クラシックの経験が大いに役立つよね。1週目に彼が身を持って見せてくれたように」(フルーム、公式記者会見より)

そして残り3割の質問が、フルームが果たして「クリーン」なのかどうかというものだった。数日前からいくつかのメディアは、強すぎるマイヨ・ジョーヌに同じ質問ばかり繰り返している。「あなたはクリーンなんですか?」「モーター付自転車をつかっていないのですか?」と。

これに対して、フルームは常ににこやかに、礼儀正しく答えてきた。「僕はクリーンです」「チームもクリーンです」「みなさんがそういう質問をすることも、過去の経緯から、よく理解しています」という風に。しかし、そろそろ、紳士的態度にも限界が訪れつつある。この日は「そんな質問ばかりで、本当にがっかりだ」と、小さく首を振った。

ピレネーを抜け出して、ツール一行は中央山塊を舞台としたアップダウンコースへと向かう。総合争いは首位フルームに続き2位ヴァンガーデレン2分52秒、3位キンタナ3分09秒、4位バルベルデ3分58秒、5位トーマス4分03秒、6位コンタドール4分04秒と続く。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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