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サイクル ロードレース コラム 2015年7月18日

ツール・ド・フランス2015 第13ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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のんびり、のち、パニック。延々と続く猛暑と、粘り強いエスケープに悩まされて、メイン集団はぎりぎりまで必死の追走を行った。ラスト300mでようやくすべて飲み込むと、短い、しかし激坂でフレフ・ヴァンアーヴェルマートがペーター・サガンとの一騎打ちを制した。総合有力勢に大きな変動はなかった。

「ステージとしては簡単な部類だったのかもしれない。でも、暑さとのコンビネーションで、ひどく難しいものになった。気温は40度近くまで上がったし、10分おきに水分補給しなければならない状況だったからね。終わりのほうは脚がうまく動かない選手もいた。願わくば、明日は少し穏やかになってほしいものだけど」(フルーム、ゴール後インタビューより)

天然のサウナに入っているような暑さだった。目を開けていられないような強烈な日差しの下で、それでも、スタートとほぼ同時に6選手が飛び出した。ゴール地ロデーズで生まれ育ったアレクサンドル・ジェニエを筆頭に、トーマス・デヘント、シリル・ゴチエ、ネイサン・ハース、ピエールリュック・ペリコン、そして本当は総合トップ10争いに加わるためにツールに初めて乗り込んできたウィルコ・ケルデルマンが、前方で過酷な1日を送ることを選んだ。

ピレネーを抜けてほっとする総合有力勢は、ほんの少し仕事はお休み。「ちょっと一息つけるといいなぁ」(公式記者会見より)と願っていたというフルームとスカイボーイズは、メイン集団の主導権をあっさりとスプリンターチームに委ねた。その責任を請け負ったのはジャイアント・アルペシンだった。なにしろフィニッシュは「上れる」スプリンターだけに許された……、もしくはばりばりパンチャー向けの全長570m・平均勾配9.6%の短い劇坂だ。逃げる6人には最大4分45秒ほどしかリードを与えず、きっちりとコントロールしていたはずだった。

ところが、中央山塊の道は、いつだって一筋縄では行かない。特に後半は4級カテゴリー×2、3級カテゴリー×1というデータ以上に、無数のアップダウンが隠されていた。しかも大逃げの末に2012年ジロ総合3位を勝ち取ったデヘント、昨年ジロ総合7位ケルデルマン、さらにはジャパンカップ2回優勝のハースらを含むエスケープ集団は、予想以上にしぶとかった。ラスト40kmに迫ってもタイム差はいまだ3分開いていた。

ジャイアントだけでなく、サガンのために珍しくティンコフ・サクソが猛烈に列車を引いたし、オリカ・グリーンエッジやMTNクベカも追走に参加した。しかし残り30kmで2分差、20kmで1分45秒、10kmで50秒と、思うようにタイム差は縮まない。控えめに走っていたマイヨ・ジョーヌも、「ラスト40kmはパニックだったね」と語る。

地元ファンの胸を大いにやきもきさせたのは、むしろ、前方での事件だった。残り15km、デヘントが大きな鉄槌を食らわした。第5ステージに落車し、肋骨を折ったはずのベルギー人の加速で、フランス人ペリコンが落ち、ロデーズっ子ジェニエが落ち……。

「唯一の望みは、せめて最後の山岳まで逃げることだった。でもデヘントがアタックして、ケルデルマンとゴチエが飛び出して。3人が仕掛けるまではずっと信じていたんだ。地元で吸収されていくというのは、ひどく胸が痛かった。最後まで逃げ切りたかった。でも脚が応えてはくれなかった。……失望もあるけれど、地元で逃げられて満足もしてる」(ジェニエ、ゴール後インタビューより)

デヘント、ケルデルマン、ゴチエの3人は、そこからも驚異的な逃げの脚を見せた。残り6km、30秒差。エティクス・クイックステップが前方へと張り出してきた。残り3km、19秒。再びジャイアントが猛烈な牽引を行った。残り2km、15秒。カチューシャがアレクサンドル・クリストフを引き連れて、集団先頭に上がってきた。そしてフラムルージュ、7秒。ラスト500mの激坂に、3人は先頭で突っ込んだ。

「がっかりだ。もしかしたら僕は勝てなかったかもしれない。でも、少なくともトップ3位には入れたはずなのに。フィニッシュぎりぎりで吸収されるのは、初めての経験じゃないけれど、本当に、残念だ」(デヘント、ミックスゾーンインタビューより)

「時々振り返っていたんだけど、後ろから集団が追いかけてくるのは見えなかった。だから、逃げ切れるぞ、と確信していた。激坂で、他の2人がサドルに座りなおした瞬間こそが、アタックの好機だと考えていた。でもフレフ・ヴァンアーヴェルマートが猛スピードで僕らを追い抜いていって、全てが終わった」(ゴチエ、ゴール後インタビューより)

他のあらゆる選手にとっても、ヴァンアーヴェルマートの加速の瞬間に、全てが終わったのかもしれない。1日中チームメートを働かせてきたデゲンコルブは「足がなかった。パワー切れだった」(チーム公式リリースより)と、肩を落とす。ラスト2kmから前方に迫り出したクリストフは、「上りの真ん中で僕は終わった。僕に対応できる上りの2倍の長さだったよ」(チーム公式リリースより)と、勝者から45秒も遅れてゆっくり激坂を登った。唯一張り付いていったのが、緑色のジャージのあの人!

「後輪に誰がついてるのか、分からなかった。ただ背後に誰かが1人だけいることは察知していた。それがサガンだと分かった時、どうか彼が追いついてきませんように、って願ったよ。ラスト200mはすごく、すごく長く感じた。でも僕はうまくしのぎ切った」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見より)

今大会4回目の区間2位に泣いたペーター・サガンの目の前で、この春ツール・デ・フランドル&パリ〜ルーべを3位で終えたヴァンアーヴェルマートが、生まれて初めてのツール・ド・フランス区間勝利を手に入れた。

「ようやく、ようやくビッグ勝利を手に入れた。今年は大きなタイトルを、ほんのあとわずかなところで逃してきたからね。もしかしたら僕は、年間に20勝上げられるような選手じゃないかもしれない。でも、僕はいつだって、6勝か7勝は狙ってる。今シーズンはこれで4勝目。しかもシーズンはまだまだ続くんだ」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見より)

ただし、彼のツールがこの先どれくらい続くのかどうかは、分からない。希望としては1週目のクラシック風ステージで勝って、あとは家に帰って、子供の誕生に立ち会うつもりだったのだから!もちろん、責任感の強い未来のパパは、チームメートのティージェイ・ヴァンガーデレンの支援を最後まで続ける予定だとか。

そのチームリーダー、総合2位のヴァンガーデレンは、フルーム、ナイロ・キンタナ、アルベルト・コンタドール等々と共に区間勝者から7秒遅れでフィニッシュラインを越えた。

また昨大会の総合2位、ジャンクリストフ・ペローが、ゴール前60kmで激しく地面に転がり落ちた。チームメートの位置を確認するために後ろを振り向き、その時に前方の選手のバイクと前輪が接触したせいだという。左半身を大きく打ちつけ、無数の切り傷・擦り傷ができた上に、左小指の皮全体がめくれ上がった。それでも38歳大ベテランは走り続け、5分44秒遅れで完走した。今後も大会を離れるつもりはない。「ボトル運び」でもなんでもして、チームのために尽くしたいから、だそうだ。

ちょっとした移動日を終えたGCライダーたちは、第14ステージは再び戦いへと繰り出していく。マンドの激坂は「かなりセレクティヴ」なものになるだろう、とマイヨ・ジョーヌは予言する。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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