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サイクル ロードレース コラム 2015年7月23日

ツール・ド・フランス2015 第17ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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前評判通りだった。アロス峠からの下りは、ぞっとするほど恐ろしかった。遠くに連なる青い稜線から、ふと視線を落とすと、目の前には深い谷底と細いヘアピンカーブ。2人の選手の望みが断たれた。逃げ出したシモン・ゲシェケの後を単独で追いかけたティボー・ピノは、苦手「だった」ダウンヒルで滑って転び、区間優勝の可能性を逃した。メイン集団でライバル達と共に下っていたアルベルト・コンタドールもまた、落車の犠牲となり、2分以上ものタイムを失った。ゲシェケが歓喜の逃げ切りゴールを決め、マイヨ・ジョーヌのクリス・フルームは数々の攻撃を難なく交わしきった。

ドラマティックな運命に翻弄されたのは、なにもピノやコンタドールだけではなかった。3分32秒遅れで総合3位につけていたティージェイ・ヴァンガーデレンが、志半ばでレースを去った。2度目の休養日が明けて、パリ到着まで、あと、たったの5日だった。

「休養日にちょっと熱が出て、寒気を感じた。今朝、最悪の事態は過ぎ去った、と感じたんだ。でも、実際に走り出してみると、筋肉に力がまるで入らなかった」(ヴァンガーデレン、チーム公式HPより)

ステージ序盤の小さな3級峠で早くも遅れたものの、一旦はプロトンに追いついた。しかし、2級コル・サン・ミシェルの上りでマイケル・ロジャースとコンタドールが2人で軽い飛び出しをかけ、集団のスピードが上がると……、もはやこれ以上、しがみつけなかった。約70km地点で、ヴァンガーデレンは自転車を下りた。悔し涙を流しながら。

フィニッシュ地で嬉し涙を流したゲシェケの冒険は、「最後まで逃げ切れるエスケープ」に潜り込むところから始まった。いつものようにアタックと、吸収とが大量に繰り返された。ナイロ・キンタナとアレハンドロ・バルベルデのモヴィスター2人組さえも、まさかの序盤攻撃を繰り出した。上手くはいかなかったけれど。

28人の精鋭が、フィニッシュ行きの切符をつかんだのは、ようやく58km地点を過ぎてから。中でも最も存在感を放ったのは、もちろん、4区間連続で大逃げにトライしたペーター・サガン!

おかげでポイント賞2位のアンドレ・グライペルとの差は104ptに開き、4年連続のマイヨ・ヴェールへとさらに近づいた。ただし、これまでの3回とは違って、中間ポイントで1位通過はできなかった(3位通過)。すべて区間トップ5入りだったこれまでの3回とも違って、1級アロス峠で戦いが勃発すると、逃げ集団から静かに滑り落ちて行った。後方メインプロトンで走るアルベルト・コンタドールの、もしもの場合に、馳せ参じるために。

ティンコフ・サクソはサガンのほかに、ラファル・マイカがエスケープ集団にもぐり込んでいたし、ステージ半ばにはロジャースも先へと進み出た。ナイロ・キンタナ&アレハンドロ・バルベルデの2人で総合表彰台を争うモヴィスターは、3人ものアシストに前方待機を命じた。なによりフルームの親衛隊からは、リッチー・ポートとニコラス・ロッシュが逃げた。ちなみにポートもまた、アロス峠で、あっさりと後方脱落を選んでいた。

そんな様々な思惑の入り混じった集団から、ゲシェケが飛び出したのは、中間ポイントの直後だった。一緒に逃げていたジョン・デゲンコルブの2位通過を見届けると、たったひとり、先を急ぎ始めた。

「もし集団内に留まっていたら、アロスの長い峠で、脱落してしまっただろうね。だから、早めに、単独で飛び出すことに決めたのさ。もしも上手くいかなかったら、後方にいるワレン・バルギルの支援に回るつもりだったし」(ゲシェケ、公式記者会見より)

賭けは上手くいった。逃げの仲間たちはすぐには追いかけてこなかった。ようやく追走に本腰を入れだしたのは、差が2分近くまで広がってから。逃げ集団内で総合最上位(13位)のマティアス・フランクや、アンドリュー・タランスキーが積極的に加速した。なにより、ほんの3週間前にはヴァンガーデレン以上の「表彰台候補」として期待されてきたティボー・ピノが、度重なる悪運を振り払うようにアタックを仕掛けた。1度、2度、そして3度。ついにフランス屈指のヒルクライマーは1人になった。アロス山頂では、ゲシェケとの差を1分にまで詰めていた。

ただ、ピノは、プロトン屈指のダウンヒラーではない。むしろ、その逆だ。2013年にピレネーのパイエール峠で落車して以来、怖くて、どうしても思いっきり下れなくなった。オフ中に「スピードに慣れる」ためのメンタルトレーニングを積み、昨ツールでは、恐怖は完全に克服されたかのように見えた。ところが……。

「6つ目のカーブを抜け出すところで落車した。どうして転んだのかは分からない。ただアスファルトの上に、転がり落ちてしまったんだ」(ピノ、ゴール後インタビューより)

怪我や骨折がなかったのは不幸中の幸いだった。すぐに自転車に飛び乗って、先を続けた。しかし、落車の衝撃でハンドルがゆがんだ。勇気を、再び奮い立たせることも、できなかった。本人曰く、そこから先は、本人のセリフを借りれば「壊滅的」だった。的確な軌道を描き続けるゲシェケに追いつけないどころか、タランスキーに抜かれ、矢のように追いついてきたリゴベルト・ウランにも抜かれた。結局は区間4位で1日を終えた。

「まだアルプスは3ステージ残ってる。つまりチャンスは3回ある。明日からすぐに、アタックするさ」(ピノ、ゴール後インタビューより)

ヒルクライマーでもなければ、スプリンターでもなく、ゲシェケは「全地形型ルーラー」だと自らを称した。アロス峠の上りを見事なテクニックで攻略し終えた時点で、追走タランスキーとのタイム差は1分45秒。生まれて初めてのステージ優勝へ向かって、最終峠プラ・ルーの6.2kmの山道で、ルーラーは最後の力を振り絞った。

「ひどく脚が痛かった。どんどん走行速度が落ちていくのが分かった。タランスキーとの差がそれほど多くないのは知っていたけれど、正確にはどれくらいなのかは把握していなかった。幸いなことに、十分だった!ツール・ド・フランスで区間勝利が手に入れられるなんて、信じられないよ。自転車競技を始めた頃から、ずっと抱き続けてきた夢が、ついに現実のものとなったんだ」(ゲシェケ、公式記者会見より)

タランスキーを32秒差で振り切ったゲシェケは、ジャイアント・アルペシンに、待望の2015年大会初勝利をもたらした。マルセル・キッテルのおかげで、過去2大会は初日であっさり大会1勝目をさらってきたチームは、今年は17日目まで祝杯を待たねばならなかった。

キンタナ&バルベルデが50km地点で、コンタドールが90km地点でまさかのアタックに転じるも、メイン集団の本格的な戦いは、やはりアロス峠で勃発した。まずはトレックが猛烈な牽引を行った。続いてアスタナが高速列車を組み上げた。予想通りにヴィンチェンツォ・ニーバリが、得意の下りを視野に入れつつ、上りアタックを打った。直後にはナイロ・キンタナも鋭い加速を切った。

いずれも、ひたすら穴を埋めに行ったのは、マイヨ・ジョーヌだった。その他のライバル達を背中に引き連れて、フルームが、たった1人で追いかけ役に回った。……と、ちょうどそのタイミングだ。前方からゆっくりと降りてきたポートが、マイヨ・ジョーヌ集団と合流を果たしたのだ!当然のように、すぐにキンタナの前に入り込み、スピードコントロール役に努めた。

「リッチーがエスケープから戻ってきてくれて、総合ライバルたちの制御を担ってくれたのは、すごく助けになった。それにしてもライバル達は、やけっぱちになっているのかな。なんとなく、どんどんリスクを冒すようになってきた。ひどく遠くからアタックを仕掛けたり、今日の下りでも危険を顧みず加速したり」(フルーム、公式記者会見より)

果たして、コンタドールはどれほどのリスクを冒したのだろうか?下りに転じると共に、始まったニーバリの高速攻撃に、フルーム、キンタナ、バルベルデ、コンタドールはきっちり反応した。しかし、数キロほど下った先の、でこぼこが多いカーブで、今年のジロ覇者だけが落車した。さらに不運は重なった。衝撃でメカトラブルが発生し、すぐには再出発できなかった。アロス峠の山頂でロジャースやサガンと合流したはいいけれど、自転車の不具合は誰も解決できなかった。つまるところ、サガンの自転車を拝借して、コンタドールはひとりで下っていった。本来ならば下りはサガンがアシストする予定だったのに……。最終峠の麓では改めて自転車を交換する必要があった。前に1人残っていたマイカは「無線の故障」のため一切の情報を得ておらず、上りアシストを務める術がなかった。破れたジャージ姿で、コンタドールはフィニッシュエリアにやってきた。マイヨ・ジョーヌから改めて2分17秒を失っていた。

「自転車レースというのは、こういうものさ。時には上手くいき、時には上手くいかない。でも、今現在で最も大切なのは、リカバリーすること」(コンタドール、チーム公式リリースより)

今から40年前、マイヨ・ジョーヌ姿のエディ・メルクスが、若きベルナール・テヴネに総合リーダーの座を奪い取られた。伝説的「敗北の地」、最終峠プラ・ルーで、若きキンタナは加速を繰り返した。しかし、2015年のマイヨ・ジョーヌは、一切の弱点を見せなかった。ニーバリが落ち、バルベルデがついていけないのを尻目に、黄色いジャージはますます強烈に前方へと突進した。相変わらずフィニッシュラインでは、スプリントさえ切った!

「ナイロは僕に圧力をかけ、僕の調子を試してきた。特に最後の1kmで、こんなことを強く感じた。僕が反応できるかどうかを見るために、僕に揺さぶりをかけにきた。でも今ステージの僕は、調子が良かったんだ。だから、すべてに応えることができた」(フルーム、チーム公式HPより)

ただし、スプリントだけは、残念ながらキンタナに負けた。もちろんゴールタイム自体は同じで、つまりは両者の総合3分10秒差も変わらなかった。ヴァンガーデレンの抜けた総合3位の位置には、キンタナのチームメート、バルベルデが格上げとなった(4分09秒差)。フルームのチームメート、ゲラント・トーマスは、自動的に総合4位へと昇格した(6分34秒)。コンタドールは総合5位のまま変わらず、しかしタイム差は6分40秒と大きく後退した。また大逃げに乗ったフランクが、総合8位まで一気にランクアップを成功させている。総合順位のシャッフルのチャンスは、後3回残っている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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