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「残念ながらツールというのは、……1回負けないと、勝てないんだと思う」(バルデ、公式記者会見より)
第14ステージのゴール前1kmで、ティボー・ピノと警戒ごっこをしているうちに勝利を逃したロメン・バルデは、第18ステージの優勝記者会見でニヤリと笑った。あの敗北から、大切な教訓と、勝利への「食欲」を得た。2015年ツール・ド・フランスにおける2人目のフランス人区間覇者となった。アルベルト・コンタドールは遠くからアタックを打ち、ナイロ・キンタナは何度も攻め立てたが、マイヨ・ジョーヌにも総合表彰台にもまるで変動はなかった。
40年前にエディ・メルクスを倒し、マイヨ・ジョーヌに輝いたベルナール・テヴネは、常々断言していた。「アルプスで一番上りが難しい峠は、グランドン峠だよ」と。
その言葉に、間違いはなかった。スタートから5kmほどで出来上がった29人のエスケープ集団は、登坂口に入った途端に、粉々に打ち砕かれた。前日の落車で、区間勝利のチャンスを逃したティボー・ピノは、痛めた左ひじの影響か、ずるずると後退して行った。「借り物」の山岳ジャージを本物に取り替えようと、意気揚々と逃げ出していたホアキン・ロドリゲスさえも、21.7kmの長い山道の終わりで脚が動かなくなった。
難しいからこそ、最高の攻撃チャンスでもあった。前日のステージ――6月のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで制した区間とまったく同じコースだった――で低血糖に苦しみ、真っ白な顔で山頂にたどり着いたロメン・バルデは、ばら色の頬で前方へと姿を現した。同じくエスケープに潜り込んだフランス人ピエール・ローランやヤコブ・フグルサングと共謀し、グランドン山頂の2km手前でアタックを仕掛けた。
ところが、レース内のオートバイに接触し、フグルサングは不運にも落車してしまう。さらに「彼が吹っ飛ばされるのを見て、脚が止まってしまった」(ゴール後インタビューより)と語るローランは、そのまま行くべきか行かぬべきなのか、葛藤したという。その一瞬をついて、バルデは加速を切った。そのまま単独で、20kmもの長い下りへと飛び込んだ。
でもバルデは、アルプスで一番恐ろしいアロス峠の「下り」を利用してタイムを稼ぎ、区間勝利を手にした。ダウンヒルテクニックには自信があった。しかも今回のグランドンは、AG2Rのチーム本拠地シャンベリーや、この夏まで履修していた大学校のあるグルノーブルから、ほんの30km程度の場所にある。よく知っている山だった。
「今年だけでも何度もグランドンを上ったし、当然、下りのことも知り尽くしていた。本当は山の入り口でアタックしたかったんだけど……僕の脚の調子がすごく良いことを、あまり早い段階で周りに悟られたくなかったんだ。それに、今日の僕なら山頂付近で差をつけられる、って分かっていた。できる限り山頂までに人数を絞って、下りを上手く攻略すれば、そのまま勝利をさらい取れると確信していた」(バルデ、公式記者会見より)
下りで40秒近いタイム差を稼いだバルデは、垂直の崖に彫られたモンヴェルニエのヘアピンカーブも極めて冷静沈着にこなした。復活してきたフグルサングやローランたちが、後方で激しく追走を仕掛けていたけれど、リードはほとんど小さくならなかった。そして、経済学と法学の両方を修めているインテリ・バルデは、計算通りに、十分に余裕を持って、初めてのツール・ド・フランス区間勝利を手に入れた。
「僕は幸せな男だよ。うん。まだ現実味がわかないや。このツール・ド・フランスは、僕にとって、色々と難しかった。開幕時からずっと、僕の周りに、期待のようなものが渦巻いていた。もしかしたら、僕の本当のレベル以上のものを、期待されていたように思う。だから精神的に強くなきゃならなかった。幸いにもチームは常に僕を支えてくれた。でも昨日は、あわやすべてを投げ出すところだった。だから自分に言い聞かせたんだ。『がんばれ、諦めるな。この先何が起こるかわからないじゃないか』って。そしたら今日は、とてつもなく調子が良くて」(バルデ、公式記者会見より)
大胆さは報われた。バルデは総合でも10位にジャンプアップした。さらには山岳賞争いさえも、どうにか念願の首位に立った「プリト」と、同ポイント(68pt)の2位に昇格してしまった!アルプスの残り2日も厳しい戦いになりそうだなぁ……と、困ったようにバルデは笑った。
グランドンの難しい上りでは、マイヨ・ジョーヌ集団の周りも少しだけ騒がしくなった。真っ先に仕掛けたのは、バルデより1つ年下の23歳、ワレン・バルギル。昨ステージ終了時点で総合10位のアタックに、昨夜の大逃げで総合8位に上昇したばかりのマティアス・フランクと、6位ロベルト・ヘーシンクも合流した。
そこから、さらに、2kmほど上った地点だった。総合5位のコンタドールが、飛び出した。前日の下りで落車し、2分以上失った32歳の大チャンピオンが、捨て身のアタックを試みた。歯を食いしばり、山道を突き進み、コンタドールはすぐにバルギル集団へと追いついた。
「何かトライしたかったし、何が起こるのかを見たかった」(コンタドール、チーム公式リリースより)
マイヨ・ジョーヌは動かなかった。クリス・フルームが唯一監視していた総合2位ナイロ・キンタナと総合3位アレハンドロ・バルベルデも、一瞬顔を見合わせたが、アクションには移さなかった。さらに数キロ上った先で、総合7位ヴィンチェンツォ・ニーバリが加速を試みても、上記3人は動く気配を見せなかった。
ただし、その後にモヴィスターコンビがアタックに転じると、状況は一転する。バルベルデが特攻をかけると、すぐにフルーム自らがペダルを高速回転させた。続けてキンタナが畳み掛けると、総合4位(というよりはマイヨ・ジョーヌ護衛の)ゲラント・トーマスが穴を埋めに走った。ところが、皮肉なことに、2度目のキンタナの加速で、チームメートのバルベルデが脱落してしまう。
「急に力が抜けてしまったから、少しスピードを下げて、呼吸を整えなおす必要があった。それに下りで集団に追いつけるだろうと分かっていたから」(バルベルデ、チーム公式HPより)
35歳にして、生まれて初めてのツール総合表彰台に手が届きそうなバルベルデは、上りで先に行ってしまったフルームやキンタナ、トーマスやニーバリに、予言どおりに下りで追いついた。長い下りは、また、コンタドールやバルギルの企ても飲み込んだ。終わってみれば、アルプス最難関のグランドン峠は、マイヨ・ジョーヌ集団に大きな影響は及ぼさなかった。
また「フォトジェニック」だけれど、「実際はそれほど難しくない」と開催委員会が語っていたモンヴェルニエの九十九折では、ラファル・マイカの助けを得て、コンタドールが再度一発を試みるが……。バルベルデを表彰台から引き摺り下ろすほどの威力はなかった。ただグランドンで飛び出したバルギルと、グランドンで遅れた総合9位バウク・モレマという対照的な2人だけが集団からずり落ちるも、フレンチは下りで総合の仲間たちに追いつき、ダッチも総合順位はしっかり守った。
「1日の終わりに、結局、何も特別なことは成し遂げられなかった。ひどく厳しいステージだったし、僕のアタックは『脚』というよりは、『暑さ』に左右された感じだった。ただ、いくつか、気がついたことはあったよ。とにかく大切なのは、明日に向けて、僕がどれだけ回復していけるかだ」(コンタドール、チーム公式リリースより)
アルプスも残り2日。2つの山頂フィニッシュ、しかも極めて短いステージ(138kmと110.5km)が2015年ツール・ド・フランス総合争いのトリを飾る。
「モヴィスター勢はきっと、どうにかして区間を取りに行くだろう。でも僕だって、もう1つ勝ちたい。ただ、無理にエスケープを追い立てて、チームメートたちを消耗させる気もない。ただ、バルベルデやキンタナが遠くからアタックした場合だけは、別だけど」(フルーム、公式記者会見より)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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