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サイクル ロードレース コラム 2015年7月25日

ツール・ド・フランス2015 第19ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ディフェンディングチャンピオンは、敗者としてツールを立ち去るつもりなどなかった。ゴールまで60km。少々議論を巻き起こすようなやり方で単独アタックを打つと、山頂フィニッシュをさらい取った。総合争いでも3人をごぼう抜きにして、4位へ上昇した。連日揺さぶりをかけてきたナイロ・キンタナは、ついにクリス・フルームを山道で突き放した。タイムは少し縮まったが、それでもマイヨ・ジョーヌの座を脅かすことはなかった。

「区間優勝を狙うためであり、総合順位アップのためでもあり、そして、自らの誇りを取り戻すためでもあった。うん、その全てだ」(ニーバリ、公式記者会見より)

プロトン全体に、ありとあらゆる野望が渦巻いていた。区間、マイヨ・ジョーヌ、総合表彰台、総合トップ10、山岳賞……。だからこそ138kmの短距離ステージは、まるでスプリントのように始まった。なにしろスタート直後の、ツール初登場1級ショシー峠への上りで、ヴィンチェンツォ・ニーバリやアルベルト・コンタドール、さらにはアレハンドロ・バルベルデさえ飛び出したのだ!メイン集団のスピードはうなるように上がった。あっという間にグルペットが出来上がり、マイヨ・ジョーヌを守るスカイ軍団さえ、散り散りになった。

一旦すべての逃げが回収されると、谷間で新しい逃げ集団が生まれる。そして2つ目の上り、超級クロワ・ド・フェールで、再び戦いに火がついた。

19人が潜り込んだエスケープには、すでに1度目の逃げに乗った選手の姿もあった。たとえば山岳ジャージ姿のホアキン・ロドリゲス、前ステージ覇者ロメン・バルデ、そして前日2位のピエール・ローラン。しかし3人の運命は、22.4kmという果てしなく長い山道の途中で、大きく分かれることになる。ローランはアタックを選んだ。3年前にラ・トゥッスイールを制した際、フレンチヒルクライマーは最終10kmから独走態勢に入った。今年は、上りゴールまで67kmを残して早くも1人になった。

1つ目の1級峠を先頭通過したロドリゲスは、いつしかちぎれていく。一方で、前ステージを終えた段階で「プリト」と山岳ポイントが同点だったバルデは、マイヨ・ジョーヌ集団に再合流し、ステージ最後まで前線に留まることになる。2人のその後を左右した原因は、ニーバリだった。

「今日の僕らは素晴らしいチームワークを発揮した。いずれの逃げにも、1人ずつ選手を送り込んだ。1つ目がスカルポーニて、2つ目がタネル・カンゲルトだ。クロワ・ド・フェールではリズムがすごく上がっていた。だから思ったんだ。総合順位を上げるために何かできるかもしれない、って。それに、もしかしたら、区間勝利も。とにかく、遠くから飛び立つのが、最高の解決策だった」(ニーバリ、公式記者会見より)

ニーバリはクロワ・ド・フェールで3度加速する。1度目の加速で、メイン集団を絞り込んだ。2度目の加速で、逃げ集団を捕らえた(つまりバルデがマイヨ・ジョーヌ集団に回収される)。カンゲルトに前を引かせ(ロドリゲス脱落)、次なる加速へ向けて準備をした。そして遺恨を残すことになる3度目……。

ちなみに、2度目と3度目の合間には、バルベルデもちょっとしたアタックを試みている。このときはスカイのワウテル・ポエルスが牽引を行い、たった1人でフルームを引っ張りあげた。すなわち前日の段階で総合4位のゲラント・トーマスも、山岳巧者のリッチー・ポートも、もはや前線には姿がなかった。ところが、アシストのいないマイヨ・ジョーヌを、総合2位と3位を擁するモヴィスターも、他のチームも、この場ではこれ以上は攻撃しなかった。

ゴールまで約60km。フルームにトラブルが発生する。フレームと後輪の間にアスファルトの破片が挟まった程度の、軽いアクシデントだった。ただ、まさにマイヨ・ジョーヌが立ち止まっている数秒の間に……、「アクシデント中のリーダージャージを攻撃してはならぬ」というプロトン内の紳士協定を無視して、ニーバリが3度目の加速をかけた!

「トラブルのことは、あとから無線で知らされた。加速時に後ろを振り返ったのは、単にカンゲルトに声をかけるため。僕はすでにアタックの体制に入っていたし、自分のレースを戦っただけ。それに僕だってジロで落車中にアタックされたことがあるし、コンタドールとアンディ・シュレクの事件だって有名だよね。別にルールで決まっているわけじゃないから」(ニーバリ、公式記者会見より)

後に表彰台裏でフルームから「アンチスポーツマンシップ」と糾弾されることになるのだけれど、そのままニーバリは毅然と突き進み、メイン集団から遠ざかっていった。山頂を越えたところでローランに合流すると、一緒に山道を駆け下り、ゴール前17kmまで行動を共にした。

「最終峠ラ・トゥッスイールの入り口で、ニーバリが加速した。もはや僕にはついていけなかった。だって彼ほどのチャンピオンが、『行く』と決めたんだもん……。3大ツールすべてを制してきたニーバリに負かされたことは、屈辱でも恥でもないさ」(ローラン、ミックスゾーンインタビューより)

フランス産ヒルクライマーを突き放したニーバリは、そのまま独走で歓喜の区間勝利をつかみとった。何度も拳を握り締め、腕を振り上げ、「ファンタスティック・フォー」のメンバーはやはりファンタスティックであったことを改めて世界中に知らしめた。

一方でフルームはニーバリ以外のライバルに合流し、無事にレースを再開した。それに、たとえフルームが腹を立てたとしても、総合7位・8分04秒差のイタリアチャンピオンの攻撃は、マイヨ・ジョーヌに直接的な被害など降りかかるはずもなかった。

「ニーバリのような選手がアタックをすると、他の総合トップ10選手たちが、自らのポジションを守るために攻撃的に走るかもしれないと恐れていた。コンタドールとか、バルベルデとか……。そのドミノ倒し効果で、僕にも影響が出てくる可能性はあった」(フルーム、公式記者会見より)

いわゆるドミノ倒し効果を恐れるマイヨ・ジョーヌは、クロワ・ド・フェール山頂間際で、総合10位バルデが単なる山岳ポイント収集に向かったときでさえ、自ら穴を埋めに走ったほど。次の2級モラール峠では、フランス人の意図を理解して、もはや無駄な反応は見せなかったけれど。

実のところ、総合5位コンタドールは、体調不良でニーバリを追いかけるどころではなかった。一定テンポを刻み、他のアタックをできる限り封じ込めるために、チームメートのラファル・マイカにあえて前を引かせたほど。また総合3位バルベルデは、コンタドールの監視と、ナイロ・キンタナへの協力だけでなにやら手一杯だった。結局はニーバリとのタイム差を気にし、熱心にスピードアップを続けたのは、総合6位のロベルト・ヘーシンクだけだった。

むしろフルームにとって直接的な被害となりえる、そんな恐るべきアタックが、フルームの身を襲った。ラスト6km、キンタナが力強い加速を切ったのだ。

「フルームから最大限のタイム差を勝ち取るために、最高のタイミングを見極めてアタックした」(キンタナ、ミックスゾーンインタビューより)

単発では終わらなかった。何度でも、執拗に、ダンシングを繰り返した。その他大勢のライバルたちはもちろん、マイヨ・ジョーヌをついに振り払ってしまうまで、何度でも。望みどおり、フルームはついに、ライバルの加速についていけなくなった。この3週間で初めての現象だった。新人賞マイヨ・ブランを身にまとうコロンビア人は、最終的にフルームから32秒(実際のタイム差30秒+区間2位ボーナスタイム6秒−フルームの区間3位ボーナスタイム4秒)をもぎ取った。総合では2分38秒差へと、わずかながらも、詰め寄った。

「でも考えていたほどは、タイム差を縮められなかった。あとたった1日しか残っていない。さらに強くアタックするつもりだし、ステージ優勝もチームで狙っていきたい」(キンタナ、ミックスゾーンインタビューより)

「パニックには陥らなかった。なんのストレスも感じなかった。ただタイムトライアルモードに切り替えて、明日のために、あまりエネルギーを使いすぎないように気をつけつつ、かといってタイムもあまり失いすぎないように注意した。すでに十分なタイム差をつけていたから、落ち着いていたんだ」(フルーム、公式記者会見より)

むしろキンタナのアタックと、フルームのTTモードの影響をもろに食らったのは、バルベルデやコンタドールのほうだった。いずれも加速についていこうと無茶をして、それぞれに後退して行った。両者共にキンタナから1分42秒、フルームから1分12秒遅れでフィニッシュラインにたどり着いた。総合5位コンタドールはニーバリに総合順位を抜かれ、総合3位バルベルデはニーバリに1分19秒差に詰め寄られた。

2人の偉大なるベテランチャンピオンと同集団でゴールした若きバルデは、1日の終わりに、念願の赤玉ジャージを手に入れた。2位フルームとの差はわずか3pt。今年40周年を祝う山岳ジャージの最終保持者は、すると、翌日のアルプ・デュエズ最終決戦の結果を待たねばならないだろう。

「アルプ・デュエズの終わりが待ち遠しい」とフルームは語る。また伝説的な山を勝ち取ることは「夢」ではあるけれど、「あくまでもマイヨ・ジョーヌをパリまで持ち帰ることだけに集中する」とも宣言する。オランダで走り出した2015年ツール・ド・フランスは、シャンゼリゼ最終ステージの前に、オレンジ色に染まる「オランダカーブ」を経由する。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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