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サイクル ロードレース コラム 2015年7月27日

ツール・ド・フランス2015 第21ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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7月最後の日曜日に、自転車乗りたちにとっての夏が、幕を閉じた。あんなに暑かった日々が嘘だったように、最終日のパリは、肌寒い空気に包まれた。

冷たい雨がシャンゼリゼの石畳を濡らし、色とりどりの傘や雨具が沿道を飾った。濡れた路面では、フランス語で「ヴェルグラ・デテ(夏の路面凍結)」と呼ばれる、アスファルトの油膜が染み出す現象が発生した。男子の到着前に行なわれた女子レース「ラ・クルス」では、大量の落車が発生した。
だからこそ最終日恒例のシャンパングラス片手の記念撮影タイムなどは、マイヨ・ジョーヌがうっかり滑って転んでしまうんじゃないかと、世界中のファンたちがひやひやしながら見守ったほど!

自転車レースというのは、本来は、いわゆる全天候型スポーツのはずである。ただしツール・ド・フランス最終日のシャンゼリゼ周回コースに限って、雨の場合の特別ルールが存在する。大会規則20条によると「最終周回コース突入前にシャンゼリゼの路面が滑りやすくなっている場合、第1回目のフィニッシュライン通過時にタイムを計測する」、「その場合でも、最終的なフィニッシュラインに変動はない。選手たちが全周回を完全に走った上で、ゴール順位を決定する」と規定されている。

2015年ツール・ド・フランスの時計は、第21ステージの41km地点で止められた。つまり全長3360kmのレースの、3291.5kmを走り終えた時点で、クリス・フルームの総合優勝が決定した。

「すごく厳しいツールだった。自転車に乗っている時も、自転車に乗っていない時も……。この3週間、難しい時を、幾度も過ごしてきた。だからこの地に、黄色でたどり着くことができて、本当に嬉しい」(フルーム、ゴール後TVインタビューより)

ストップウォッチの針が回転を止めても、選手たちのペダルは回り続けた。さすがに事故を恐れてか、世界で一番美しい大通りでの自己アピール合戦は、例年ほどは激しくはなかったかもしれない。それでも3周回目でアンドレー・グリブコやセバスティアン・シャヴァネルが前線に姿を表し、また4周回目からはフロリアン・ヴァション、ネルソン・オリヴェイラ、ケネス・ヴァンビルセンが小さなエスケープ集団を作り上げた。

周回が進むに連れて、灰色の雲の切れ間から、青い空が見えてきた。石畳のガタガタ道は乾き、隊列は速度を増していく。中でも、すでに区間3勝を手にしてきたアンドレ・グライペルを乗せたロット・ソウダル列車が、責任を持って追走を行った。最終週回で全てが封じ込まれた。

「みなさんご覧になったとおり、エスケープができた後、すぐに僕らのチームが主導権を握った。集団スプリントで締めくくるために、あらゆる仕事を僕らが行った」(グライペル、ゴール後TVインタビューより)

たとえ偉大なるマンネリズムと言われようとも、今年で40週年を迎えるシャンゼリゼフィニッシュは、いつも通りに華やかな閉幕大集団スプリントへと向かっていった。

フラム・ルージュの巨大なアーチが、2015年大会の最終1kmを告げると、ここまでの20日間どうあがいても勝てなかったスプリンターたちが、最後のチャンスとばかりにどっと前方へと詰めかけた。ジョン・デゲンコルブ、アルノー・デマール、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン、さらには緑のジャージのペーター・サガン……。

中でも最前列を奪ったのは、カチューシャの3両列車だった。そのままコンコルド広場を超高速で横切ると、最終ストレートへと突っ込んだ。1年前にはスプリント2勝をもぎ取ったアレクサンドル・クリストフが、最終日2連覇中のマルセル・キッテルのいないシャンゼリゼへ、先頭で解き放たれた。

「最後の1kmは、あまりに早いタイミングで最前線に飛び出してしまわぬよう、注意していたんだ。ところが、そのせいか、最終コーナーでかなり後ろの方へ押しやられてしまっていた」(グライペル、ゴール後TVインタビューより)

たしかに、S字カーブを抜けた時点で、グライペルは前から8番手でしかなかった。「でも、本当に、脚の調子が良かったんだ」と笑うロストックのゴリラは、とてつもなくパワフルに、あらゆるライバルたちをゴボウ抜きにした。失速したクリストフの横をすり抜け、急速に追い上げてきたブライアン・コカールも跳ね除けた。2015年大会における通算5回目の大集団スプリントで、グライペルが、4つ目の勝利をもぎ取った。

「これぞキャリア最大の成功だよ。シャンゼリゼとは、スプリンターにとっては『世界で最高の場所』なんだ。この4年間、この地での勝利を追い求めてきた。ついに僕は成し遂げた!自分を誇りに思う」(グライペル、ゴール後TVインタビューより)

シャンゼリゼ初制覇の感激に浸るグライペルの、そのはるか後ろでは、2度目の総合優勝をクリス・フルームがゆっくりと祝っていた。なにしろ「恵みの雨」のおかげで、もはやタイムを気にする必要はなかった。いつもの空色を、この日だけは黄色に塗り替えたスカイのチームメート全員と肩を組み、横一列になって、フィニッシュラインを越えた。

「なんて言い表せばいいのだろう。このレースは、あまりにも、偉大すぎる!だから(たとえ2度目でも)、たくさんの感情が、とてつもない感動が沸き上がってくる。とにかく、とてつもなくグレートな気分だよ!」(フルーム、ゴール後TVインタビューより)

マイヨ・ジョーヌを着たまま大会を去ったトニー・マルティンの後を継ぎ、第7ステージで総合首位の座に踊り出た。その後1度たりとも、フルームが黄色いジャージを手放すことはなかった。総合2位とのタイム差は、第14ステージ終了時点で最大3分10秒まで開いた。しかしモヴィスターコンビの連日の猛攻に、アルプスでほんの少しだけタイムを落とし、最終的には1分12秒にまで差を縮められた。

そのナイロ・キンタナとアレハンドロ・バルベルデが、総合表彰台ではフルームの両脇に並んだ。25歳キンタナにとっては人生2度目のツール参戦で、2度目の総合2位&新人賞受賞。35歳バルベルデは8度目のツールにして、初めての総合表彰台乗りだった。いずれのチャンピオンも、子供たちと一緒に記念写真に収まった。表彰台のてっぺんで、フルームだけが一人ぼっちだったけれど……、今年の12月にはパパになる予定だから、来年こそは子連れ表彰台を狙っているに違いない!

また山岳賞3位ながら、1位フルーム、2位キンタナというわけで、思いがけず最終日に赤玉ジャージを着て走る権利を手に入れたロメン・バルデが、赤いゼッケンでおなじみのスーパー敢闘賞に選出された。4日連続の大逃げで4年連続のポイント賞ジャージをむしりとったペーター・サガンか、それとも連日の挑戦の果てについに第18ステージで独走勝利を上げたバルデか、と審判団の意見は大いに揺れたそうだけれど。

3週間前にオランダを走りだした198選手のうち、160人が無事に大きな輪を締めくくった。しかし大多数の選手たちにとって、ほっとしている時間などない。2015シーズンも後半戦に突入した。ほんの4週間後には、スペインにて、激戦が幕を開ける。

そうそう、このところ「ツールのリベンジ合戦」として、かなりの熱戦が激戦が繰り広げられることの多いブエルタ・ア・エスパーニャだけれど、今ツール総合4位のヴィンチェンツォ・ニーバリが早くも出場を宣言している。日本からは新城幸也も参戦予定。また眠れない夜がやってくる。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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