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初めてのステージ優勝は、2003年だった。あれから12年経ち、35歳になっても、登りスプリントの切れ味はいまだ衰えない。アレハンドロ・バルベルデが、自身9つ目のブエルタ区間勝利を手に入れた。しかもボーナスタイム10秒をさらい取り、わずかながらも、総合争いのライバルたちからリードを奪った。マイヨ・ロホは、エステバン・チャベスがしっかりと守り切った。
平坦ステージだからといって、ピュアスプリンター向けではなかった。上りフィニッシュだからといって、パンチャー&ヒルクライマーチームがせっせと働くには、あまりにも平坦すぎた。それでは、果たして誰が、制御権を握るべきなのか?スタート直後に6選手が逃げ出した後、メイン集団の選手たちの頭の中では、しばらくこんな疑問がぐるぐると巡ったに違いない。そうこうしているうちに、エスケープは遠ざかっていった。たった30km走っただけで、13分半ものタイム差をつけられてしまった!
逃げる6人の中で、総合7分23秒遅れのマルケル・イリサールが暫定マイヨ・ロホに立つと、ようやく本物のマイヨ・ロホ擁するオリカ・グリーンエッジがプロトンコントロールに乗り出した。本格的な追走の音頭を取ったのは、ペーター・サガン率いるティンコフ・サクソだった。前夜第3ステージの勝利でようやく万年2位から脱出した「登れるスプリンター」は、ステージも折り返し地点に差し掛かると、チームメートたちと共にタイム差制御に励み始めた。ゴールへと近づくに連れて、プロトン屈指の「激坂ハンター」コンビ、ホアキン・ロドリゲスとダニエル・モレノを支えるカチューシャも仕事に着手した。さらにはモヴィスターも前線で隊列を組みだした。バルベルデを最高のポジションで坂道へと解き放つために。
イベリア半島最南端の、何一つ遮るもののない大地には、アフリカからの強い風が吹き付けていた。分断が危惧されたものの、風が苦手なモヴィスター陣が、しっかりとプロトンに蓋を占めた。BMCの総合リーダー、ティージェイ・ヴァンガーデレンが落車の犠牲となったが、幸いにもたいした影響はなかった。そして、あれほど開いていたタイム差が嘘のように……、特にティンコフ隊列の熱心な加速のおかげで、ぐんぐんと縮まっていった。最後まで粘ったイリサールとジミー・アングルヴァンも、ラスト11kmできっちりと回収された。
平坦な大通りから、ふいに道を曲がると、登りは突然やって来た。と、モヴィスターは猛烈な加速に乗り出し、サガンは自ら先頭に立ってレースを支配しようと試みた。ただしメイン集団の切っ先で、一定リズムを刻む権利を毟りとったのはカチューシャだった。
トッシュ・ヴァンデルサンドが飛び出し、入れ替わるようにペイオ・ビルバオがトップの座に立った時も、カチューシャが淡々と背後で監視の目を光らせた。ラスト2kmで軽い下りに入るタイミングを突いて、サムエル・サンチェスが鮮やかな特攻に転じ、ニコラス・ロッシュが張り付いて行った時だって……、常にほんの数メートル後ろにはロシア軍のスペイン親衛隊が控えていた。
しかし、この下りが、ロドリゲスの登りのリズムを狂わせてしまったという。しかも、ラスト400mで道は再び急激に上り始めるも、20%超が大好物のプリトにとっては「勾配は十分に厳しくはなかった」(カチューシャ公式リリースより)。
一方のサガンは、まるで正反対のセリフを吐いている。
「僕にとっては、恐ろしい上りだった。正直に言って、もう終わりだ、と思ったよ」(ティンコフ・サクソ公式リリースより)
インターネットで地形チェックを入念に行ってきたバルベルデにとっては、「この勝利が、僕のモノだというのは、明らかだった」(モヴィスター公式HPより)。しかも、最大勾配14%を軽やかに駆け上がれる脚だけでなく、極めて冷静な戦術眼も持ち合わせていた。
「ビルバオや、サンチェスとロッシュは、それほど大きな距離を開けないだろうと読んでいた。だから、ただサガンだけを、監視し続けた。地面の影を見れば、彼が僕の背後に張り付いているのは分かった。振り返るまでもなかった」(バルベルデ、モヴィスター公式HPより)
そしてラスト200mで、バルベルデはついに加速を切った。この春に3度目のフレッシュ・ワロンヌ勝利と、やはり3度目のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュの栄光を手に入れたチャンピオンが、自らの才能を存分に解き放った。カチューシャの敷く包囲網を突き破り、それでも果敢にスプリントに挑んだサガンをあっさりと振り払うと、軽々とフィニッシュラインを先頭で駆け抜けた。
「すごく嬉しいし、おかげでこの先のブエルタを、よりリラックスして戦うことが出来る。もちろん、これからも、冷静に戦い続けなきゃならない。まだまだ戦いは長い。それにブエルタは僕にとってはあまりにも大切だから、総合優勝のための戦いを投げ出すことはなんか決してありえないんだ」(バルベルデ、公式記者会見より)
区間勝利のボーナスタイム10秒を取りに行ったわけではない、とも本人は語ったけれど、それでも、このご褒美のおかげでバルベルデは総合優勝候補の中ではさっそく首位に立った。マイヨ・ロホを身にまとうチャベスから、28秒遅れの総合5位。6位ロドリゲスを7秒、チームメイトの8位ナイロ・キンタナを8秒、9位クリス・フルームを12秒上回っている。
それにしても……サガンは残念ながら再び2位に終わってしまったけれど、アルデンヌ巧者の2人(バルベルデと3位ダニエレ・モレノ)に挟まれてのこの結果は、むしろ素晴らしい快挙である。それに、この好走のおかげで、1日の終わりには本物のポイント賞ジャージを身にまとうことができたのだから。
「もしも事前に、フィニッシュがこれほどまでに厳しいことを知っていたら、トライしなかっただろうね。だから、こんなステージで2位に入れたというのは、良いこと」(サガン、チーム公式リリースより)
翌第5ステージも、平坦な1日の最後に、上り坂フィニッシュが待ち受けている。ただし、今度こそは、正真正銘の「登れるスプリンター」向け。フランスでは4日連続の大逃げで話題を振りまいたサガンが、スペインでは3日連続でスプリントに絡んでくるに違いない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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