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スタート前、チーム側は、「無理にジャージを取り戻しにはいかない」と公言していた。蓋を開けてみると、堂々たるマイヨ奪還劇が繰り広げられた。意図せぬ分断で、前日に総合首位の座を1秒差で失ったエステバン・チャベスが、見事な単独アタックを決めた。上りフィニッシュ2勝目を上げて、4枚目のマイヨ・ロホに袖を通した。大会前は総合争いに「無印」だったコロンビアの25歳は、一躍、表彰台候補として注目度を増しつつある。
今大会初めての「内陸戦」では、スタート直後から激しい飛び出し合戦が繰り広げられた。数々のアタックが生まれては、消えていった。序盤1時間は、時速48kmという高速でレースは進んだ。実に60kmもの試行錯誤の末、ようやくシリル・ゴチエ、ニキ・テルプストラ、クリスティアン・ドゥーラセック、ピーター・ベリトス、スティーブ・カミングスが前方に走り出した。ここに、ミゲール・ルビアーノも後から加わって、ついに6人のエスケープ集団が出来上がった。
初日マイヨ・ロホのベリトスや2014年パリ〜ルーベ覇者テルプストラ、さらには7月のツール第14ステージで鮮やかに上りフィニッシュをかっさらったカミングスといった実力者が潜り込んだ逃げ集団だったが、メインプロトンは決して4分以上のリードを与えようとはしなかった。タイム差コントロールを得意とするジャイアント・アルペシンが、後方できっちりと作業を遂行したせいだ。ただし、いつものような、スプリントフィニッシュに向けた追走隊列ではない。3級峠へと向かうこの日は、ひたすら、トム・デュムランの赤いジャージを保守するためだった。
ステージも残り50kmを切ると、モヴィスターも牽引に取り掛かった。2日前に上りフィニッシュを制したアレハンドロ・バルベルデを、この日も真っ先にゴールさせようと目論んでいた。さらには最終峠が近づくに連れて、総合本命有するチームも、単なる区間狙いのチームも、大小入り乱れたまま我先にと前方へと位置取りを始めた。ラスト12kmの横断幕をくぐった直後に、エスケープから、カミングスが単独で飛び出した。団体追抜の元世界チャンピオンは、最後の力を振り絞って、迫り来る脅威に抗い続けた。しかし、プロトンのスピードは増していくばかりで……。ゴール前2.1km、坂道の途中で、カミングスの望みは完全に断たれた。
そもそも真っ先に、英国人ルーラーを抜き去ったのは、チャベスだった。山の麓で、コロンビア人ヒルクライマーはアタックを打った。ゴールまではいまだ、2.5km残っていた。しかも、勾配が、最も厳しいパートだった!
「朝のミーティングで、上りの勾配がひどくキツイこと、14%ゾーンさえあることを知らされていた。だから僕は、その一番難しいゾーンで飛び出そうと決めていた。だって調子が本当に良かったから」(チャベス、ゴール後TVインタビューより)
あまりにも早すぎる仕掛けに、誰もが仰天した。慌ててモヴィスターのアシスト勢が追いかけようと努力するも、すぐに力尽きた。バルベルデとナイロ・キンタナのリーダー2人も、他の強豪ヒルクライマーも、動かなかった。
「上りに向けて、ライバルたちから決して目を離さなかった。でもチャベスのアタックには驚いた。だって一番勾配のキツイ場所だったから。僕はついていけなかった」(デュムラン、チーム公式リリースより)
ついていけなかったマイヨ・ロホの代わりに、アシストのローソン・クラドックが夢中でチームメートを引っ張りあげた。そして勾配が緩んだゴール前2km、デュムランはたった1人でチャベスを追いかけ始めた。虎の子の1秒リードを守り切ろうと、勇敢に山頂へと突進した。
しかし、チャベスの力強いペダリングが、弱まることは決してなかった。ゴール前1kmのアーチの下で、ダニエル・マーティンも攻撃に転じたけれど、すでに遅すぎた。苦しみに歪んだ顔で追いかけるデュムランとマーティンを5秒差で振り切って、ゆっくりと胸の前で十字を切りながら、爽やかな笑顔でチャベスは山頂へ姿を表した。
「最後は、それでも、激しくもがいたんだ。しかも向かい風が吹いていたから、捕まえられるんじゃないかと、すごく怖かった」(チャベス、公式記者会見より)
区間1位のボーナスタイム10秒も手に入れて、チャベスは念願の赤いジャージを取り戻した。大奮闘したデュムランは10秒遅れの総合2位に一歩後退。区間2位マーティンは総合3位・33秒差に浮上した。またバルベルデを始めとする総合争いの面々は、結局のところはみんな揃って11秒差でゴールした。
それにしても、オージー軍団は、グランツール1週目にめっぽう強い。2013年ツールは区間2勝&マイヨ・ジョーヌ4日間、2014年ジロでは区間2勝&マリア・ローザ7日間、2014年ブエルタでは区間1勝&マイヨ・ロホ3日間。そして今年のジロでも区間2勝とピンクジャージ4日間を堪能している。今大会は早くも区間3勝に赤ジャージ4日間。……ちなみに、2週目以降は、少々影が薄くなるのが恒例でもあるけれど?
「山の麓でアタックして、フィニッシュラインまで突っ走るなんて、チャベスがかなり手強いライバルであることの証拠だよ。まだブエルタの先は長いけれど、僕にとっては、大いに警戒すべき人物だ」(バルベルデ、チーム公式リリースより)
2011年ブエルタでクリス・フルームがどこからともなく姿を現したように、2011年大会でフアンホセ・コボや2013年大会でクリストファー・ホーナーが驚くべき総合優勝をかっさらったように、開幕前には思いもよらなかった選手が輝く大会。それがブエルタだ。すると2015年は、もしかしたら、エステバン・チャベスが一気に大物の仲間入りを果たす年になるのかもしれない。
「明日は長くて、難しいステージになるだろう。とにかく体力を回復して、自分のベストを尽くす。そして、できることなら、ベストライダーたちと競り合いたい」(チャベス、公式記者会見より)
第7ステージの終わりには、1級山頂フィニッシュが待っている。ここまで姿を潜めてきた強豪たちも、こぞって最前列へと姿を現すに違いない。本当のブエルタ・ア・エスパーニャが、いよいよ、始まるのだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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