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180km近いエスケープの果てに、ジェローム・クザンはとんだハプニングで勝機を逃した。イリア・コシェヴォイは、攻撃を繰り返した挙句、フィニッシュの200m手前で力尽きた。ベルトイヤン・リンデマンがゲームを制し、今大会初の逃げ切り勝利をつかみ取った。「本格派」山頂フィニッシュでもエステバン・チャベスは難なく強豪たちに付いて行き、マイヨ・ロホを悠々と守った。ひどい暑さの中、この夏のツール王者クリス・フルームが、タイムを落とした。
スタート前から「今日は大逃げが決まる」と囁かれていた。行く先にはシエラ・ネバダの1級峠が立ちはだかっていたけれど、前向きな予測を頼りに、12km地点で5選手が飛び出した。リンデマン、クザン、コシェヴォイ、さらにアメッツ・チュルーカとカルロス・キンテーロは、連日の酷暑で疲れた体に鞭打って、熱心に先を急いだ。
チャベスを支えるオリカ・グリーンエッジは、メイン集団前方で、あくまでもタイム差のコントロールを心がけた。エスケープには最大13分10秒ものリードを与えた。逃げ集団内で総合最上位はクザンの14分06秒差だったから、マイヨ・ロホが脅かされることは決してなかった。
誰も積極的に「追走」を行わなかった。それでもゴールまで80kmを切ると、ようやくアスタナとスカイが、プロトン前線で速いリズムを刻み始めた。……ところが、ラスト40kmまで来ても、タイム差はいまだ9分50秒も残っていた!ここで両チームは、作業を放棄してしまう。結局のところ、モヴィスターが集団制御の責任を引き受けた。スペイン唯一のワールドツアーチームは、以降、最終峠の中腹まできっちりと隊列を組んだ。
全長18.7kmの最終峠へ、エスケープは5分40秒差で飛び込んだ。山の中腹にある平坦ゾーンでは、ほっと一息をつく間もなく、協力し合って必死でペダルを回した。そしてラスト9km、道は再び険しさを増した。ついに区間勝利へのバトルが始まった。
「普通に考えると、チュルーカが一番上りに強い。だから、彼を少し恐れていた」(リンデマン、チーム公式HPより)
2007年ツールのスーパー敢闘賞は、確かに、山道を猛烈な勢いで引っ張っていた。幸いにも、他の選手が、集中して揺さぶりをかけてくれた。クザンが何度も小さな加速を見せた。コシェヴォイは潔く飛び出した。あらゆる追走の責任は、チュルーカに押し付けられた。そして、イタリアチームのベラルーシ人の2度目のアタックに、ついにバスク人の脚が止まった。またしても敢闘賞で、チュルーカは1日を終えることになる。
クザンとコシェヴォイは、その後も積極策を押し通した。とりわけユーロップカー本拠地からほど近い町で生まれ育ち、下部組織「ヴァンデU」でアンダー23時代を過ごし、プロ入り後も現チーム一筋のフレンチは、来季の見通しが不透明なチームに……せめて創設史上初のブエルタ区間勝利をもたすべく突き進んでいた。すでに先に行ってしまった新人コシェヴォイをも、残り3km、力ずくで捕らえた。
空っぽになったチュルーカを捨てて、リンデマンも1人で追走に乗り出した。ただ、クザンよりほんの11日だけ年下のオランダ人は、派手に立ち回ろうとはしなかった。2013年末のヴァカンソレイユ解散により、一時はコンチネンタルチームにまで身を落とすも、わずか1年で再びワールドツアーチームまで戻ってきた苦労人は、非常に賢く立ちまわった。ゴール前2.5kmでライバル2人に追いつくも、それ以上の無駄な努力はしなかった。
「僕はゲームをしたんだ。これもまた自転車レースというものさ。最強の選手がいつも勝つとは限らない。だから体力の消耗は最小限に留めた。あらゆる攻撃に反応できるほど、自分は強くないと分かっていたから。ただスプリントに持ち込むことだけに集中した」(リンデマン、公式記者会見より)
代わる代わる繰り出される攻撃を、リンデマンは耐え続けた。勾配14%の最難関ゾーンでも力を誇示したクザンは、ところが、ラスト600mでバランスを崩してしまう。コシェヴォイの自転車後輪と接触し、落車こそ逃れたものの、アスファルトに足をついた。
「苦労続きの1年の終わりに、大勝利が、目の前で逃げていっちゃった!サンタクロースさん、僕に小さな車輪をプレゼントしてください。ブエルタを走り終えるために。」(クザン、本人ツイッターより)
不運に襲われたクザンを尻目に、残り500mでコシェヴォイはこの日何度目かの、そして最後の全力アタックを仕掛けた。
「調子は良かったし、最後の上りでも脚は絶好調だった。地形だって僕にぴったりだった。でも残念なことに、リンデマンは諦めなかった」(コシェヴォイ、チーム公式リリースより)
最後にゲームに勝ったのは、リンデマンだった。フィニッシュラインまで200mで、温存してきた力を全て解き放った。たった1度の加速で、勝利には十分だった。
「人生で最大の勝利だ。だってワールドツアー大会で勝ったことさえなかったのに、もっとすごい成功を手に入れたんだからね。明日になってようやく、自分が一体何を成し遂げたのか、理解できるんじゃないかと思う」(リンデマン、公式記者会見より)
メイン集団の強豪たちもまた、厳しい戦いを繰り広げていた。アレハンドロ・バルベルデとナイロ・キンタナのために、モヴィスターが山岳列車を走らせた。すでにリーダー格(ヴィンチェンツォ・ニーバリ)と山岳アシスト(パオロ・ティラロンゴ)を失ったアスタナも、ファビオ・アルを引っ張りあげた。そしてラファル・マイカを背負って、ティンコフ・サクソのジェスパー・ハンセンが高速でペダルを回し始めた。ちょうど山道が、最難関の勾配14%ゾーンへと差し掛かっていた頃だった。
「フルームの調子が良いのか、悪いのか、まるで知らなかった。単純に、ステージを通して、フルームの姿を見る機会がなかった。だって僕らはずっと集団前列で走っていたから」(バルベルデ、チーム公式HPより)
そんなフルームは、集団から、ずるずると遅れ始めた。ツール終了からブエルタ開幕までの4週間で、9つのクリテリウムに参加してきたマイヨ・ジョーヌは、同じくツールで競り合ってきたバルベルデやキンタナ、マイカやホアキン・ロドリゲスに付いて行けなくなった。当然ながら、ジロ総合2位のアルの、鋭いアタックにも!
バルベルデとは違って、アルは、フルームの苦しみを見逃さななかった。弾かれたように飛び出すと、そのまま一心不乱に山を駆け上がった。今ツール覇者だけでなく、全ての総合ライバルを置き去りにした。不幸なクザンさえも追い抜いて、区間3位に滑り込んだ。
「最初の長い上り、リーダーたちからタイムを奪う最初のチャンス。そして誰が3週間を戦い抜けるのかを見極める、最初の機会」(アル、チーム公式HPより)
フルームはアルから34秒(+ボーナスタイム4秒)、その他のライバルから27秒を失った。実はアルのチームメートで、ジロ総合3位のミケル・ランダも、フルームと同時にフィニッシュした。ツール総合3位のまま涙のリタイアしたティージェイ・ヴァンガーデレンは、さらに22秒遅れてフィニッシュラインへたどり着いた。いわゆる開幕前に「総合優勝・表彰台候補」とみなされてきた面々の中では、バルベルデが現時点で首位に立つ。ロドリゲスが7秒遅れ、キンタナとアルが8秒遅れ、フルームが33秒遅れ、ランダが50秒遅れ、ヴァンガーデレンが1分16秒遅れと続く。
ただし、バルベルデは現時点で、49秒遅れの総合5位に過ぎない。総合首位チャベスから、2位トム・デュムラン(10秒)、3位ダニエル・マーティン(33秒)、4位ニコラス・ロッシュ(36秒)までの4人全員も、バルベルデらと一緒に1日を終えている。そして、おそらく、この順列は土曜日の夕方も変わることはないだろう。第8ステージは最終盤に小さな上りを2つ乗り越えた後に、平坦な市街地フィニッシュが待っている。ただし故郷のムルシアで、バルベルデが勝利を取りに行った場合だけは別だ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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