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得意の独走力を生かして、アレクシー・グジャールが初めてのグランツール出場で、初めての栄光をもぎ取った。北クラシック部隊が持ち味をたっぷり発揮して、まるでツール・デ・フランドルのような石畳の坂道を、圧倒的なパワーで突進した。2人の発射台に解放されたマイヨ・ロホは、あらゆるライバルを退けて、フィニッシュラインを駆け抜けた。トム・デュムランとファビオ・アルの総合タイム差は、前日までの3秒から、6秒へと広がった。
あっさりと蓋は閉められた。危険のなさそうな、大きなひとかたまりが前方へと進み出ると、ジャイアント・アルペシンは逃げ切りの切符を24人に与えた。いつもなら1時間近く繰り返されるはずのアタック合戦は、わずか6kmで終了した。赤いジャージを運ぶ列車は、走行スピードを極端に落とした。総合ライバルを擁するチームたちも、「決戦は土曜日」「今日はエスケープデー」と口々に語っていたように、揃って体力温存に務めた。
タイム差は面白いように広がっていった。50km地点ですでに、差は12分に達していた。しかも、70km地点を過ぎた頃、メインプロトンで集団落車が発生する。総合トップ2さえ巻き込まれた。落車したジョン・デゲンコルブの背後で、首位デュムランは沿道に突っ込み、バイクが破損した。2位のアルは……、チームメート2人と共に地面に転がり落ちてしまった!
こうしてメイン集団は、すでに十分ゆっくりだった走行スピードを、さらに減速した。おかげでアルは落ち着いて治療を受けられたし、エスケープ集団のリードは18分近くにまで大きくなった。
つまり余裕は十分にあった。軽いバトルだけで逃げ出した24人は、ゴールまでいまだ45kmも残っているというのに、アタック合戦に再突入した。ティアゴ・マシャドの飛び出しがきっかけだった。残された選手たちは、あっという間に40秒近い差を押し付けられた後になって、必死の追走へと切り替えた。繰り返し、加速の波が続いた。
「マシャドが飛び出した時、かあっとなって自分を見失ってしまわぬよう、心がけた。力を上手く制御して、ぎりぎり最後のタイミングを待って、そして飛び出した」(グジャール、公式記者会見より)
昨春に180kmをひとり逃げしてプロ初勝利を上げた独走巧者にとって、最後のタイミングが、ゴール前30kmだったのだという。
「うん、僕にとってはね。確かに少し距離は長いけど。でも、後方に20〜30秒差をつけた状態で山頂を越えられたら、勝算はある、と考えていた」(グジャール、公式記者会見より)
後方から追走を仕掛けてきた4選手は、ゴール前19kmの2級山頂を、45秒遅れで通過した。ところがダウンヒルの終わりに、一時は15秒差にまで追い詰められた。
「正直に言うと、勝利を疑い始めたんだけど……」(グジャール、公式記者会見より)
第12ステージの嫌な記憶が頭をよぎった。1週間前は、約165kmも逃げた果てに、ゴールライン手前300mほどで吸収された。それに、城壁都市アビラへと誘う石畳の坂道では、詰め掛けたファンたちの歓声があまりにも大きかったものだから、無線がまるで聞き取れなかった。追いついてきているのか、追いついてきていないのか、それとも何か別の状況が繰り広げられているのか……見当もつかない状態だったそうだ。
石畳を抜け出した後に、ようやく、生まれて初めてのグランツール勝利を確信した。4人とのタイム差は、再び40秒以上に広がっていた。プロ入り前の4年間で59勝というとてつもない数字をたたき出した大物は、プロ転向してからすでに5勝目だから……「シーズンで一番美しい勝利」なんて思わず口にした。すぐに「キャリアで一番」と訂正したけれど、おそらく、22歳の若者は、この先もっと美しい勝利を積み重ねていくに違いない!
グジャールが飛び出した2級峠で、後方では、モヴィスターが動いた。ゆったりとした流れは、急激に断ち切られた。ガツン、とスピードが上がった。反応できなかった選手は、その場で脱落していった。反応できた選手は、慌てて前へ詰め掛けた。ひどいラッシュの中で、ステファヌ・ロセットが、アルノー・クーテルを巻き込んでアスファルトに転がり落ちた。そこで分断が発生し、反応できた選手も、大半が置いてけぼりにされた。新城幸也もまた、目の前の落車でブレーキをかけ、メイン集団からはじき出された1人だった。加速と落車分断とで、集団は一気に小さくなった。
下りに入っても、モヴィスターは攻め続けた。特にアレハンドロ・バルベルデが、捨て身で、何度でも、飛び出しを試みた。かつて「エル・インバティド(無敵)」のあだ名を欲しいままにしたはベテランは、総合6位につけている。首位デュムランとの差は3分15秒と大きく、表彰台も2分差とひどく遠い。
「もはや何も失うものがない時こそ、トライ、トライ、トライ、なのさ。僕はもう、ブエルタの総合優勝を望めやしない。だからといって、座り込んだりもしない。だから今日もアタックを仕掛けた……」(バルベルデ、チーム公式HPより)
往生際が悪いからこそ、6度のブエルタ表彰台(うち1回は優勝)、6度の世界選手権表彰台を筆頭に、数々の好成績を積み重ねてきたのかもしれない。そんなバルベルデの危険性を、ライバルたちは十分に承知していた。アスタナのアシストたちは代わる代わる潰しにかかった。ついに残り5.5kmでバルベルデが1人になると、ティンコフ・サクソが牽引作業に従事した。一方では、ライバルたちの大いなる奮闘を横目に、ジャイアント・アルペシンはじっと息を潜めていた。
「1日中、後輪に張り付いているわけには行かないからね。僕は、自分の行くべきタイミングを、自分で選んだ」(デュムラン、公式記者会見より)
デュムランがひたすら待っていたのは、ゴール前1.8kmの、石畳坂の到来だった。
「今朝のチームミーティングで、話は聞いていた。僕らにチャンスあり、と。フィニッシュの地形は本当に僕向きだったからね。いわゆる『パワーハウス(人間発電所)』的なフィニッシュだった」(デュムラン、公式記者会見より)
2010年パリ〜ルーべ「ジュニア部門」3位のローソン・クラドックと、2015年パリ〜ルーべ「エリート部門」覇者デゲンコルブに引かれて、赤ジャージは一気に前線へと競りあがった。昨季のE3ハーレルベーケでパヴェの激坂巡りをたった1度だけ体験したことのあるバルベルデは、がたがたの上り途中で、あっけなく追い抜かれた。頼もしい2両編成の背後でトップスピードに乗ったデュムランは、ついには、石畳の道でアタックを仕掛けた!
他のグランツールライダーと同じように、4月のデュムランは「アルデンヌ派」であり、決して「石畳派」ではない。ツール・デ・フランドルは過去1度だけ出走し(2011年)、途中リタイアしている。しかし、スペインやイタリアで生まれ育った軽量級ヒルクライマーと比べれば、オランダの大地で鍛え抜かれたパワー系ルーラーには、どうやら一日の長があった。たった1人だけ後輪に飛び乗ってきた以外は――興味深いことに、石畳とはまるで縁のなさそうなダニエル・モレノだった――、すべての選手が一瞬で置き去りにされた。
「石畳では苦しんだ。リズムをつかむのが難しかったけれど、幸運にも、あそこで苦しんだのは僕だけじゃなかった」(ホアキン・ロドリゲス、チーム公式HPより)
快走するマイヨ・ロホの、数十メートル後ろでは、ぎこちないダンシングでアルが追いかけていた。最終数百メートルはアスファルトの舗装道路に戻るも、一旦開いた距離は、もはや縮まらなかった。デュムランとモレノがフィニッシュラインを越えた3秒後に、アルとドメニコ・ポッツォヴィーボが努力を終えた。他の総合トップ10ライダーたちは、さらに6秒遅れてゴールへとたどり着いた。
「この3秒が何かの役に立つかどうかは分からないけれど……。明日どうなるのか、まあ見て行こう」(デュムラン、公式記者会見より)
普段より言葉少なめだったデュムランと、アルとのタイム差は、3秒から6秒へと開いた。総合トップ10圏内では、タイム差こそわずかに上下したものの、順位に変動はなかった。
それにしても、自転車史上でもまれに見るほどの接線が繰り広げられている。1989年ツール・ド・フランスの8秒差、1948年ジロ・デ・イタリアの11秒差、2011年ブエルタ・ア・エスパーニャの13秒差……。第20ステージは、事実上、2015年ブエルタ総合争いの最終日だ。1級峠を4つ上り、4つ下る。肉体的にハードでありながら、しかもテクニカルなコースが、歴史的なラストバトルを演出してくれるに違いない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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