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【ヘント〜ウェヴェルヘム/プレビュー】突風には要注意!完走すら難しい過酷なレースに、名スプリンター達が挑む。
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか3月22日、火曜日。ベルギーの首都ブリュッセルで複数のテロが発生した。多くの犠牲者を出した痛ましい事件に、自転車ロードレース界にも衝撃が走った。なにしろ、翌23日から、ベルギーのフランドル全土を熱狂させる「フレミッシュ・サイクリング・ウィーク」に突入する。ドアーズ・ドア・フランデレン(23日)から始まって、E3ハーレルベーク(25日)、ヘント〜ウェヴェルヘム(27日)、パンヌ3日間(29日〜31日)、そしてツール・デ・フランドル(4月3日)でクライマックスを迎える伝統のクラシックシリーズが、不安に揺るがされることになってしまったのだ。
フランドル自転車週間のど真ん中に位置する2016年ヘント〜ウェヴェルヘムは、テロ現場からほんの70kmしか離れていないデインツから走り始める。もちろんスタジアム競技とは違って、公道を使用する全長243kmのコース上では、身分証明書や荷物のコントロールを行うことはほぼ不可能だ。しかも事件後には飛行機や鉄道の多くが運航停止に追い込まれた。欧州・世界全土に散らばる選手やスタッフは、ベルギーへの移動に苦労を強いられている。セキュリティ問題、選手たちに課される精神的ストレス・身体疲労など、今回のテロがレースに与える影響は決して少なくない。
たとえ平和な世の中であっても、たしかに、ヘント〜ウェヴェルヘムは恐るべきレースである。降り続く小雨と、北海から吹き付ける海風とが、例年、選手たちを極限まで苦しめる。とりわけ1年前は、大会史上稀に見るほどの、とてつもない大風がコース上に吹き荒れた。レース序盤からプロトンは細かく分断され、落車が続出した。横風でバランスを崩したり、……突風にあおられて側溝まで吹き飛ばされたり!出走200人中、完走者がわずか39人という、過酷な戦いだった。
だから2016年大会も、真っ先に確認したいのは、やはり気象条件だろう。3月22日現在の天気予報によると、気温は10度前後、体感気温は7度前後。数日前から小雨が降り続き、ところにより西〜西南西〜南西の風が吹き付ける。最大予想風速は28km/h程度。1年前の最大風速が42km/hだったことを思えば……、前回大会ほどは風に苦しめられることはなさそうだ。
それでも、レース序盤50kmは、左斜め前からの向かい風を全身に浴びることになる。また今年は、例年に比べて海沿いの道は短縮されたけれど……たった5kmながらも、暴風吹き荒れる北海の近くを通過する。50km地点すぎから120km地点までは、複数の90度進路転換(=風向きの変更)も待ち受ける。おそらく、風巧者を揃えるチームたちが、この手の直角カーブを利用して急加速や分断を仕掛けてくるはず。
その後コースは北フランスを通過し、さらにはラスト100kmからの急坂群へと突入する。例年登場する石畳の坂道カッセルは、残念ながら迂回する。ちょうど大会当日がキリストの復活祭に当たるため、プロトンの代わりに、115年の歴史を誇るカーニバル隊列が坂道を行進するそうだ。それでも2016年ヘント〜ウェヴェルヘムには、昨大会より1つ多い、10の坂道が待ち受ける。
中でも戦略的要地として有名なのは、ご存知、ケンメルベルフの石畳の坂道。登坂距離2.5km、平均勾配4.4%。最大勾配23%と上りがとてつもなく厳しいのはもちろん、下りだって厄介だ。最大勾配はなんとマイナス20%超。ところどころに石畳が顔を出し、道幅は極端に狭く、直角カーブさえ待ち受ける。上りも下りも絶対にミスできないこのケンメルベルフは、7番目(172km地点)と10番目(209km地点)の2回登場する。
ただし急坂群を終えても、ウェヴェルヘムのフィニッシュラインは未だ遠い。一旦は小さく絞りこまれた集団も、最終盤の平地30kmで、再び大きくなってしまうことも多い。例えば2年前は、プロトンは30人程度にまで膨らんだ。そして、そんな時はやっぱり、スプリンターたちに勝機が訪れる。
この場合、優勝候補の筆頭に上げられるのは、いわゆる「スプリンターズクラシック」ミラノ〜サンレモを近年勝ち取ったマーク・カヴェンディッシュ(2009年)やアレクサンドル・クリストフ(2014年)、アルノー・デマール(2016年)となる。中でもカヴは、ずっと昔から、ヘント〜ウェヴェルヘムに憧れてきた。プロ入り時に立てた「キャリア7大目標」の1つでさえある。しかし過去6回出場して、最高成績は初出場2008年の17位(70人以上の大集団スプリントだった)。近年はと言えば、2012年大会はケンメルベルフの下りで分断に巻き込まれた。2013年は「チームリーダー」のトム・ボーネンの落車が影響し、昨2015年は強風に自らがなぎ倒されて……。
そのボーネンは2004年・2011年・2012年と過去3度の栄光をつかみとった。いずれも21人、35人、15人という、小さな集団スプリントを制してきた。ただ地元フランドルの雄も、今では35歳大ベテランとなった。おそらく今大会では、フェルナンド・ガビリアとリーダーの座を分け合うことになるのだろう。そもそも勝利請負人に任命されるのは、なにもミラノ〜サンレモのフィニッシュライン手前で落車した21歳の若者だけではない。北クラシックスペシャリスト精鋭軍団のエティックス・クイックステップは、ニキ・テルプストラ、ズデネク・シュティバル、トニー・マルティン、マッテオ・トレンティンという強豪を揃えている。たとえどんな展開になっても、勝ちに行けるように。
最終盤の平坦路は、単なる残酷な吸収・合併の舞台ではない。スプリンターの追及の手を振り払い、逃げ切りの最終加速を決める、そんな力強いシーンが見られるのもここだ。2013年大会では、ゴール前4kmで、ペテル・サガンが完璧なる独走態勢に持ち込んだ。昨年は残り6kmで、さりげなく、しかし巧妙に、ルーカ・パオリーニが優勝への飛び出しを決めている。後者は残念ながら、現在出場停止処分中だが、前者の現役世界チャンピオンは、今年も優勝大本命に上げられる。
つまり過去スプリンターたちにやり込められてきたグレッグ・ヴァンアーヴェルマートやニキ・テルプストラ、さらにファビアン・カンチェッラーラは、勝ちたいなら、過去の例に倣って平地アタックを決めるしかない。特に3月18日で35歳となったカンチェッラーラは、人生最後の春クラシックシーズンを過ごしている。サンレモからルーベまでの5つのワールドツアー登録クラシックのうち、すでに4つは入手済みだ(サンレモ1回、ハーレルベーク3回、フランドル3回、ルーベ3回)。ところがヘント〜ウェヴェルヘムに限っては、2005年の4位がこれまでの最高順位。「歴史に名を刻む」ことへの意識が人一倍強い男は、こんな平凡な順位でキャリアを終えたくないはず……。
26日(土)から27日(日)の深夜に、ベルギーはサマータイムへと移行する。つまり選手たちも、沿道に観戦に訪れるファンたちも、いつもより1時間だけ睡眠時間を削られる。日本のファンにとっては……、レース放映時間が1時間早まるのだから、ありがたいことこの上なし!J SPORTSではこのレースを生中継でお届けする。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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