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【アムステルゴールドレース/プレビュー】春のクラシックシーズン最終章、「トリプティック(三連祭壇画)」幕開け。地獄の丘陵バトルを制するのは誰か?
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか頑強な男たちによる石畳大戦は幕を閉じた。2016年の春クラシックシーズンはついに最終章、丘陵バトルへと突入する。短い急坂と曲がり角が無数に続くアムステル・ゴールドレース、自転車界屈指の激坂「ユイの壁」が立ちはだかるフレーシュ・ワロンヌ、そしてクラシック最古にして「最も美しい」と形容されるリエージュ・バストーニュ・リエージュの「アルデンヌ3部作」で、主役を務めるのは、細くしなやかなふくらはぎに爆発力を秘めたパンチャー&クライマーたち。1週間のうちに立て続けに行われるこれら3レースは、「トリプティック(三連祭壇画)」とも呼ばれ、グランツール総合狙いの強豪たちさえ天からの祝福を追い求める。
3部作の1話目は、1892年創設リエージュ、1936年フレーシュに比べると、1966年に誕生した比較的若いアムステル・ゴールドレース。正確にはベルギーのアルデンヌ地方ではなく、お隣オランダのリンブルフ地方で行われる。全長248.7kmの長旅は、古く美しき都市マーストリヒトから走りだす。春の緑萌える美しき丘陵地帯には、細道と、幾千のカーブと、34の激坂が待ち受ける。
といっても、なにはともあれ目玉はカウベルフの急坂!過去5回の世界選手権を迎え入れてきたファルケンブルフを中心として4つの周遊コースが描き出され、もちろんファルケンブルフから登り始めるカウベルフ坂も4回通過する(6、22、31、34個目の坂)。全長1200mの坂道は、平均勾配5.8%、最大12%。鉄道駅とほど近く、麓にはバーやレストランが立ち並び、しかも歩いて頂上まで上ることも可能だから、坂道の両脇にはファンたちがびっしりと詰めかけるに違いない!
カウベルフの頂点で、しかし、勝負が終わってしまうわけではない。いまだに賛否両論呼んでいるけれど、2013年大会以降、ラストに1.8kmの平地パートが付け加えられた。2013年(ロマン・クロイツィゲル)と2014年(フィリップ・ジルベール)は、坂道を一番に上り詰めた選手が、そのままフィニッシュラインへと真っ先に走りこんだ。一方で昨大会はジルベールがカウベルフを先頭で攻略したのだが、平地で次々と後続が追い付いてきて、最終的には18人のスプリントにもつれこんだ……。
アムステル・ゴールドレースは、「トランジション」のレースでもある。石畳を走り終えた選手と丘陵スペシャリストが同居することが多い。フランドルの激坂を上手くこなせる選手なら、アムステルの激坂も平気でいなせるはず。そんな理由で、ロンド→アムステルを掛け持ちするワールドツアー選手は約30人。決してアシストレベルだけの話ではない。たとえばヘント2位・フランドル3位・ルーベ4位のセップ・ファンマルクは、サンレモ初出場に続いて、アムステルにも初出場を予定している。8年ぶりにフランドルは欠場したけれど……、代わりにルーベで優勝をさらってしまったマシュー・ヘイマンさえも、なんとアムステルに乗り込んでくる(あくまでもアシスト役として、だが)。
逆もまた真なり。ということでトップ級のアルデンヌスペシャリストでありながら、今シーズンの石畳バトルに参戦し、とんでもない活躍を見せてしまったのががミハウ・クフィアトコフスキーであろう。2014年世界チャンピオンは、一昨年はフレーシュ&リエージュで表彰台に登り、昨季ついにアムステルを制した。石畳クラシックに関しては、いまだ「無名」だったり「若手」だったりしたころに、あれこれ体験した程度だった。しかし、スカイへと移籍した今シーズン、クフィアトコフスキーは黒いジャージ姿で石畳を爆走した。「ミニ・フランドル」と称されるE3ハーレルベークを制し、本家フランドルでも恐るべきアタックでレースを揺さぶったものだ(27位で終了)。
もちろんクフィアトコフスキーにとっては、今からの3連戦が大本番。なによりディフェンディングチャンピオンとして、優勝大本命として、アムステル・ゴールドレースを走る。少々気になるのが、石畳競争による疲労の残り具合だろうか。ただヘント&フランドルで好走を見せた後、ルーベをお休みしてから、アルデンヌ3連戦を全制覇している2011年ジルベールの前例を見る限り、むしろコンディションを上げてきている可能性のほうが高いのかもしれない!
ちなみに肝心のジルベールは、大会の約10日前に左手の親指を骨折し、出場さえも微妙な状況だ。またアルデンヌの後半2戦でそれぞれ3勝ずつ上げながらも、アムステルだけは2位(×2回)止まりのアレハンドロ・バルベルデも、今年は10年ぶりにリンブルフ旅行を取りやめた。5月に初めてのジロ出場を控えているため、同時期に行われるステージレース(ブエルタ・ア・カスティーヤ・イ・リオン)での調整を選んだのだ。
昨2位のバルベルデは欠場だが、昨3位のマイケル・マシューズは、念願のクラシック勝利へと意気込みを見せる。パリ〜ニースで区間2勝&ポイント賞をさらい取ったオージーは、4月上旬にはスペインのワンデーレース、ブエルタ・ア・ラ・リオハ優勝で絶好調ぶりを再アピールしたばかり。オリカ・グリーンエッジのプレ出走リストには、昨秋の世界選手権から少々関係がこじれているサイモン・ゲランスの名前もあるが……。大方の予想によれば、アムステル&フレーシュはマシューズで、リエージュはゲランスで、ときっちり住み分けがなされるのではないかということ。
ダニエル・マーティンとジュリアン・アラフィリップもやはり、同じチームに所属する2人の有力選手、という構図となる。ただし昨春に初出場フレーシュ2位&リエージュ2位と驚くべき台頭を見せた23歳は、昨冬に単核球症を患い、「いまだ100%ではない状況」。ならばマーティンのためにしっかり働きたい……ときっぱり宣言する。一方のマーティンは3月末のカタルーニャ一周を区間1勝&総合3位と極めて好調に締めくくったが、4月上旬のバスク一周は低調のまま途中棄権。果たしてマーストリヒトのスタートラインには、どんな調子でやってくるのだろうか。石畳クラシックを大いに盛り上げながらも、勝利ゼロで終えた所属チーム、エティックス・クイックステップのためにも大きな勝ち星を持ち帰りたいところ。
トレーニングキャンプ中の自動車事故に6選手が一気に巻き込まれ、難しい春クラシックシーズンを送ってきたジャイアント・アルペシンは、ようやく本気の体制でレースに臨むことができる。地元トム・ドゥムラン、事故から復帰のワレン・バルギル、昨ツールの区間勝利で一皮むけたシモン・ゲシュケの3リーダーで勝利を狙う。石畳では苦戦したランプレ・メリダも、得意の起伏コースではルイ・コスタ&ディエゴ・ウリッシ&ヤン・ポランツェと強力な布陣を組む。当代一の激坂ハンター、ホアキン・ロドリゲスに、プリトと袂を分かちモビスターへ出戻りしたダニエル・モレノの争いも、ぜひお目にかかりたいところ。2004年にトリプティック同一年全制覇の偉業を成し遂げたダヴィデ・レベリンも、44歳8ヶ月にして、再びアムステル・ゴールドレースに帰ってくる。
また日本からはアルデンヌ3戦全戦に出場の別府史之の他に、ニッポ・ヴィーニファンティーニの窪木一茂と小石祐馬がワールドツアーレースに初挑戦する予定だ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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