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圧倒的なスプリントの脚は健在だった。体調不良に苦しみ、昨季1年間まるまるグランツールから遠ざかっていたマルセル・キッテルが、再び勝利街道を突っ走り始めた。しかも自身初のマリア・ローザにさえ、わずか1秒差にまで近づいた。ばら色の1日を満喫したトム・デュムランは、少なくともあと1日、母国オランダを総合リーダージャージで走る権利を手に入れた。
まるでアルプ・デュエズのオランダコーナーが延々と190kmも続いているような、とてつもない人出だった。開催委員会の発表によると23万5000人ものファンが、レースをひとめ見ようとやってきた。もちろん、ここはアルプスではない。道は見渡す限り平坦だ。しかも、ほとんどの観客が「しらふ」で品行方正だったし、ディスコの大音量も響いてこなければ、関係車両にビールをぶっかけるようなエキセントリックな輩もいない。気温が29度まで上昇した土曜日の午後、アヒルや羊が餌を食む牧歌的な風景の中で、ピンク色のレースの通過を誰もが心から楽しんだ。
「今日の最初の目標は、レースをのんびりと楽しむこと」なんて出走サイン台でキッテルも笑っていたけれど、大急ぎで戦いへ飛び込んでいった選手もいた。6.7kmのパレード走行を終えて、大会委員長カーから出走フラッグが振り下ろされた瞬間に、3選手が前方へと勢い良く走り出した!
「3人がすぐに逃げ出してくれたおかげで、ボーナスタイムの心配もなくなった。だからチームにとってはイージーだったし、僕も心からステージを楽しむことができた。走っている間中、人々が名前を叫んでくれた。『トム、結婚してくれる?』なんていうボードさえ見かけたよ!あれはものすごく印象に残ってる。答えはノーだし、どんな人が言ってるのかも知りたくはないけど」(デュムラン、公式記者会見より)
今大会最初の逃げチャンスをつかんだのは、プロトン内でも指折りの逃げ巧者だった。オマール・フライレは昨ブエルタで大逃げの果てに山岳ジャージを勝ち取ったし、マーティン・チャリンギは2014年ジロの第1ステージで逃げて4日間山岳ジャージを着続けた。さらにジャコモ・ベルラートは、昨ジロで4回も逃げたという折り紙つき。当然3人の狙いは、今大会最初の山岳ポイントを先頭通過して、今大会最初の山岳ジャージを身にまとうこと。「中間スプリント賞」や「フーガ賞」という、小さいけれど嬉しいおまけだって、欲しかった。
勇んで飛び出した3選手は、ひたすら協力して道を急いだ。メインプロトンには最大10分ものリードを奪った。ゴール前35km、山岳に差し掛かる頃には、すでにタイム差は3分以下にまで縮まっていたけれど……。きっちり横一線に並んで山岳スプリントを争うだけの、十分な余裕は残っていた。
チャリンギは人生最後のジロで――6月の引退を宣言している――、チームに3年連続のジロ初日山岳ジャージをもたらそうと力を尽くした。ベルラートは、チームに初めての副賞ジャージを持ち帰ろうと、がむしゃらにペダルを回した。しかし2人に先んじて山岳ポイントをかすめ取ったのは、南アフリカチームのスペイン人、フライレだった。
楽しんで走っていたメイン集団だって、いつまでも楽しんでばかりはいられない。マリア・ローザ擁するジャイアント・アルペシンがきっちりタイム差を制御し――去年までキッテルが属していたチームだから、追走は得意分野だった――、ステージ後半へ向けて確実にスピードを上げていった。3人の山岳賞争いが無事に終了すると、スプリンターチームが次々と前線へ競り上がり、容赦なく逃げを飲み込みにかかった。「今日の最終目標は、もちろん、スプリントで区間勝利を手にすること」と、出走サイン台でキッテルが付け足したように、エティックス・クイックステップも作業に着手した。
市街地の周回コースに入った直後に、山岳賞フライレ、中間スプリント賞(+敢闘賞)チャリンギは静かに集団へと飲み込まれていった。ただベルラートだけが最後の力を振り絞り、単独で逃げ続けた。驚異的な粘りを見せ、「逃げ距離」を180kmまで伸ばし……、まんまとフーガ賞を手に入れた。こうしてエスケープ3人は、それぞれに成果を手に入れて、奮闘の1日を締めくくった。フィニッシュまで10km、集団はひとつになった。
先頭車両はめまぐるしく入れ替わった。0.01秒差の総合2位プリモシュ・ログリッチェにボーナスタイムのチャンスをもたらそうと、ロットNL・ユンボも黄色い隊列を走らせた。落車や分断の危険を避けるため、ヴィンチェンツォ・ニバリも前方に踏みとどまった。ゴール前1kmのアーチは、エティックス・クイックステップの4人が先頭で潜り抜けた。すぐにエフデジ列車が、前を奪い取った。
「チームは素晴らしい仕事をしてくれた。彼らの献身にはすごく感謝しているし、心から信頼することができた。だから今日は満足しているんだ。ただ、僕自身の動きが、まずかった」(アルノー・デマール、ゴール後テレビインタビューより)
発射台の背後でタイミングをうかがっていたデマールの、その背中に張り付いていたキッテルが、真っ先にスプリントを切った。フィニッシュまで200m。一瞬で全てを振り払うと、2位デマール以下をまったく寄せ付けないまま、両拳を天高く突き上げた。野獣のような雄たけびを上げながら、2014年ツール・ド・フランスのシャンゼリゼ勝利以来となる、グランツール通算12勝目を手にし入れた。
「特別にすごい勝ち方だったとは特に思わないんだけど……、でも、間違いなく、僕が勝ったフィニッシュ地の中では最も素晴らしい場所だった。だってあれほどの人々が応援に駆けつけてくれたんだから。それに、僕にとっては、パーフェクトな地形でもあったんだ。軽い下り坂だったから、自分の力を最大限に発揮できた。難しいシーズンを過ごしてきたから、そういう意味でも、特別な勝利だったね」(キッテル、公式記者会見より)
ところで元・個人タイムトライアルジュニア世界チャンピオンは、前夜の個人タイムトライアルで、11秒差の区間5位に滑り込んでいた。そしてこの日は、首位のご褒美であるボーナスタイム10秒を懐に入れた。すると「スプリンター向け」と評判の第3ステージの終わりに、再びボーナスタイムを収集したキッテルが、マイヨ・ローザを着ているかもしれない……!
「明日は赤いポイントジャージを着て走ることができる。これだけでもすでに素敵なことだよ。とにかく、フィニッシュラインで何が起こるのかを、見ていこう」(キッテル、公式記者会見より)
「明日もキッテルが同じようなスプリントを見せたら、ジャージを失う可能性は高いね。とにかく明日はまた逃げを行かせて、ボーナスタイムを潰しに行く。そうすれば、キッテル自身は、必ずフィニッシュで上位3位に入らなきゃならなくなるから。でもスプリント勝負になった時、彼を倒すのは難しいだろうな」(デュムラン、公式記者会見より)
たとえばキッテルが上位3位以内でフィニッシュし、一方のドゥムランとログリッチェが4位以下に沈んだ場合、キッテルは生まれて初めてのマリア・ローザに輝くことになる。たとえ後者2人が奮闘して上位3位以内に食い込んだとしても、キッテルが2人の上位に入りさえすれば、やはりピンクジャージはドイツ人の肩に羽織られることになる。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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