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風も、起伏も、ぎりぎりの追走劇も、マルセル・キッテルの勢いを止めることはできなかった。ドイツ国境へ10km程度にまで近づいたこの日、またしてもドイツ人が、ずば抜けたスプリント力を見せ付けた。2日連続の区間勝利で、ボーナスタイムも10秒×2回を収集した。人生初めてのマリア・ローザを肩に羽織って、キッテルは颯爽と南イタリアへと乗り込んでいく。
移動アイス屋さんは大繁盛。夏休みが2ヶ月も早くやってきてしまったような、そんなピンク色のビッグパーティーを、大人も子供も思い切り楽しんだ。相変わらず日差しは強く、しかし心地よいそよ風も肌をなでた。古い風車をくるくるとまわす風は、プロトンにとってはそれほど楽しいものではなかったようだけれど……。
第2ステージを先頭で長時間わかせた2選手が、この日も主役に躍り出た。「中間スプリント賞」首位のマーティン・チャリンギと「フーガ賞」首位のジャコモ・ベルラートが、またしても0km地点で果敢に飛び出したのだ。新たにヨハン・ファンジルとフレン・アマズクエタを伴って、長いエスケープを始めた。
前日は3人で仲良く賞を分け合った。今回は先に逃げていた2人にアドバンテージがあった。たとえば中間スプリント×2回は、特に異議申し立ても行われぬまま、チャリンギが懐に入れた。山岳ポイントに関しては、第2ステージですでに2ptを手にしているチャリンギと、1ptのベルラートの一騎打ちとなった。上手く先駆けたのはチャリンギだった。追いすがるベルラートも、さらにはアマズクエタも振り払って、鮮やかに山頂をさらい取った。人生最後のジロを戦う38歳は、大会初日からずっと一緒にジロを回っている妻子の目の前で、誇らしそうに青いジャージを身にまとった。
「スプリントに全てをかけたんだ。沿道の観客たちが僕を勇気付けてくれた。ひたすらジャージが欲しかったし、ジャージ獲りに集中し続けた。だから山頂では思わず感情が爆発した。ペダルを上手く回し続けられないほどだったよ」(チャリンギ、ゴール後インタビューより)
チャリンギは祖国のステージを成功で締めくくったが、メイン集団は、簡単にオランダを抜け出せたわけではなかった。初日2日間とは違い、幾度かの難しい時間帯を潜り抜ける必要に迫られた。
たとえばステージの折り返し地点に突入する直前、スタートから80km地点で小さな落車が発生する。チャリンギと同じく、「人生最後の」シーズンを戦っていたはずの38歳ジャンクリストフ・ペローが、アスファルトに顔面から叩きつけられた。2014年ツール総合2位は「引退する前にジロも経験したい……」と意気込んでいたのだが、イタリアに入る前に、イタリア一周から永遠に立ち去ることになった。
「ペローは頭部と顔面に外傷を負い、一時は意識を失った。ただしオランダの救急病院で検査を行った結果、骨折や脳の異変は一切見られないことが判明した」(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル リリースより)
ゴール前80kmでは、オランダ名物、風による分断の試みも見られた。アルノー・デマール属するエフデジが、まとめて罠にはまった。ブチブチッ……と切れ切れになり、30秒ほどの距離を一気に開けられた。隊列となって追走を行い、なんとか前方集団を捕らえたエフデジの悪夢は、これだけに留まらなかった。4級峠の上りでは、デマールがまさかのメカトラブル。またしてもアシスト数人がかりで、リーダーを必死になって引き上げた。
しかもゴール前12kmで発生した落車が、四葉のクローバーを完全に散らす。「ああ、なんて、オランダらしい!」と会場全体がため息をついたように、オランダ特有の小さな交通島が引き起こした事故だった。総合首位から0.01秒差のプリモシュ・ログリッチェも地面に転がり落ちた。なにより「チームの半数以上が巻き込まれた」とエフデジの公式ツイッターが嘆いたように、ゴール前12km、デマールの列車要員はことごとくアスファルトになぎ倒された。
エスケープが想像以上に粘ったことも、メイン集団の「弱者」……、たとえば体調不良のファビアン・カンチェラーラ等々にとっては痛手だった。しかも市街地の難解な周回コースに突入し、2度目のフィニッシュラインを通過した直後に、ファンジルが単独で前方へ打って出た。最大8分あったタイム差は、ゴール前12km地点で、すでに1分近くにまで縮まっていた。それでも孤独な逃避行は、10km近くも延々と続いた。
エフデジ以外のあらゆるチームが追走に力を尽くした。思うようにタイム差が縮まらず、焦りの色が濃くなっていく中で、最後の止めを刺したのはエティクス・クイックステップだった。ゴールまで1.7km、ようやく吸収が完了する。
「タフな1日だった。前半はほぼ平坦だったのに、風のせいで簡単ではなかった。プロトン全体が緊張感に満ちていた。後半は横風を利用しようとするチームも多かった。でも僕らチームは、常に落ち着いていた。しっかり制御を続けた。なにより逃げをきっちりと吸収した。こんなチームの作業が、今日の僕の成功要員の大部分を占める」(キッテル、公式記者会見より)
赤いジャージ姿のキッテルは、チーム全体の仕事を完璧な方法で締めくくった。圧倒的な加速力で、全てを一瞬で置き去りにした。フィニッシュラインを越えた後には、ピンク色の喜びが待っていた。
「区間2勝とピンクジャージ。今ジロの最初の章を、最高のやり方で終えられた。でも今回のマリア・ローザは、ダイレクトに手に入れたわけじゃなかった。ちょっとした回り道が必要だった。良いタイムトライアルをして、2つのスプリントを勝って、ようやく手に入ったジャージなんだ。だから僕にとっては、すごくスペシャルなリーダージャージだよ」(キッテル、公式記者会見より)
ちなみに2014年、アイルランドから走り出したジロで、やはりキッテルは第2&第3ステージを連勝している。しかし長い移動を経て、イタリアで迎えた第4ステージの朝に、「高熱」を理由に大会を離れた。今回はどうしてもイタリアで走りたい。最終日のトリノ行きについてはまだ考えていないが、まずは「マリア・ローザ姿で1勝したい」と熱望している。
「これでイタリアへ行けますね!」
オランダの3日間で早くも2選手がリタイアした一方で、無事にフィニッシュへたどり着いた山本元喜は笑顔で第一声を上げた。
「ちょっとほっとしています。でも、これから、レースはきつくなっていきます。今日も起伏はありましたけれど、今後の起伏に比べたら今日なんて完全な平坦……にしか思えないような起伏がやってきます。だからほっとしつつも、集中しなおさなければなりません。これからいよいよ、ジロ・デ・イタリアが始まる、という感じですね。とにかく次のTTの前日までは、脚をしっかり使いながらも、完全に使い切ってしまうことはせず、しっっかり走り続けたい。そしてタイムトライアルの前日あたりが逃げに乗る狙い目なのかな、と考えています。」(山本元喜、ゴール後インタビューより)
北の大地で熱狂の週末を過ごした選手たちは、アムステルダムの空港近くでオランダ最後の夜を過ごす。そして翌朝のフライトで、イタリアの長靴のつま先部分へ飛ぶ。一方で大半のチームスタッフや開催関係者は、徹夜でドライブしつつ、2500km近い距離を一気に移動する。
フィニッシュ地のアルンヘムから高速道路に飛び乗って、南へ車を走らせていると、ふと、陸橋や沿道から、無数の人々が手を振っているのに気がついた。それこそ50km以上にもわたって!
よくよく目を凝らすと、彼らが身につけているのは、ピンク色ではない。赤と白のカラーを身にまとい、PSVと記されたフラッグを振っている。実はジロ第3ステージの、フィニッシュまで30kmほどの時間帯に、2015/16エールディビジ(サッカーオランダ一部リーグ)に決着がついた。前節まで首位だったアヤックスが引き分けに終わり、PSVアインドホーフェンが奇跡的な逆転優勝を決めたのだ。
実はジロそっちのけで、オランダの放送局は、15分ほどたっぷりサッカーニュースを挿入するという暴挙に出たわけだが……。とにかく、ジロに熱狂したこの国は、スポーツを心から愛している。またきっと、近いうちに、グランツールはオランダに帰ってくるに違いない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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