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黙々と働き続けたチームメイトの献身に応えて、アンドレ・グライペルが力強くスプリント勝利をもぎ取った。同じくチーム全体に支えられて、「脚の調子がそれほどでもなかった」というトム・デュムランは、マリア・ローザを守り切った。山入りを翌日に控えて、総合本命たちは特に動かなかった。ただフィニッシュ直前に小さな落車が発生したせいでで、わずかな分断が起こり、ライバルから「4秒」を奪った選手も存在した。
うんざりするほど長い1日になるのは明らかだった。しかも233kmの終わりには、起伏や石畳が待ち構えている。ならば、スタート直後にじたばた慌てて、体力を無駄遣いしてもしようがあるまい。こうしてプロトンは、ゆったりとサイクリングモードで走り始めた。前日の序盤1時間の走行時速が50km超に対して、この日はわずか34.3km……。
「でも実際のところは、ステージ全体を通して、かなり難しかったんだよ」(グライペル、公式記者会見)
そうは言っても、たとえばニッポ・ヴィーニファンティーニは、集団前方で奔走する必要はなかった。ダミアーノ・クネゴは山岳賞首位を守るために、のんびり走るプロトンから、1度軽く飛び出すだけでよかった。35km地点、区間唯一の山岳ポイント(3級)を仕留めると、最低でもあと1日は青ジャージ姿で過ごす権利を手に入れた。
40km地点、山からの下りで、ようやく本日のエスケープが発生する。いわゆる「逃げ常連」の集団だった。逃げまくっているうちに2007年ツール・ド・フランスでスーパー敢闘賞に輝いたアメッツ・チュルーカに、ちょうど1年前はカリフォルニアで大逃げ×2回を打ち山岳賞を持ち帰ったダニエル・オスに、2008年ジロ第5ステージを含むキャリアの勝ち星の大部分がロングエスケープの成果というパヴェル・ブラット……。そこにグランツール初出場のアレクサンドル・フォリフォロフを加えた4人が、スローペースのプロトンを置き去りにして、ぐんぐんと先を急ぎ始めた。最大7分のリードを奪い取った。
ステージの折り返し地点に差し掛かっても、スタートから4時間以上走っても、状況はそれほど変わらなかった。ただマリア・ローザ擁するチーム ジャイアント・アルペシンとグライペルのロット・ソウダルだけが、控えめに隊列を組み、淡々と集団を制御し続けた。
理由も目的も異なる2チームが、共通の作業を分けあった。「悪い1日を過ごすには良い1日」と公式会見でなぞなぞのようなことを言ったデュムランは、つまり調子が悪かった。自転車用語でいうところの「空白の1日」が、比較的簡単な平坦ステージに訪れたのは、幸いであった。とにかく無事にステージを乗り越えるため、チームメイトはコントロールに専念した。
一方のグライペルは、第2ステージ15位、第3ステージ4位と、どうもスプリント勝負に絡めずにきた。状況を打破するため、チームは積極策を取ることにした。「僕を常に前方から10番以内に留めおいておくこと」(グライペル、公式記者会見)、それが決め事だった。
フィニッシュまで60kmを切ると、いよいよロット・ソウダルが、本格的な追走を開始する。もちろん、あまりに早く吸収してしまわぬよう、じわり、じわりと差を詰めていく。4人を完全に飲み込んだのはゴール前6.5km、周回コース上の、1回目のフィニッシュライン通過直前だった。
フィニッシュまで続く道は上り基調で、加えて石畳。「こんなにキツイ地形だとは予想していなかった」(公式記者会見)とグライペルも驚いた約1kmの坂道で、プロトンは散り散りになった。デュムランと一緒にオランダステージを盛り上げ、やはりデュムラン同様にこの日は調子が最悪だったというキッテルは、この1回目の通過時点で、早くもメイン集団から脱落していた。28歳の誕生日当日に、スプリントを切ることすら叶わなかった。
「1回目の通過で、大丈夫、いける、と思った。予想外の地形だったけれど、自分の脚にまだ十分なパワーが残っていることを感じたから」(グライペル、公式記者会見)
しかもチームメイトは、ここでも驚異的な仕事をしてくれた。フランドルクラシックではリーダー役も務めるユルゲン・ルーランツが、最終周回のほぼ最初から最後まで、グライペルを背負って突っ走ったのだ!
「今日はチームすべての選手が、僕のために力を割いてくれた。なによりラスト5kmから1.5kmまで、ルーランツが先頭を引いてくれた。自分のやるべきこと以上の仕事をしてくれたんだ。あまりに一生懸命働いてくれたものだから、僕にはもう、勝利以外の選択肢は残っていなかったさ」(グライペル、公式記者会見)
ルーランツが脇に逸れた後は、周囲を封じ込められないようひたすら気をつけた。ランプレ・メリダが先頭を奪い去っても、エフデジが割り込んできても、カチューシャのレイン・タラマエがカーブで転んでも、グライペルは集中力を切らさなかった。
むしろゴール前1.2kmの落車で被害を被ったのは、ランプレだった。リーダーのサッシャ・モドロは一瞬の減速を余儀なくされ、列車の再編成に予想外のエネルギーを費やす羽目になった。おかげで発射台ロベルト・フェラーリは、フィニッシュ手前200mまで体力が持たなかった。「リードアウトが消えるのがあまりに早すぎた。そこで一瞬、空白の時間が出来てしまった」(ゴール後TVインタビュー)と、ランプレの背後に控えていたエフデジのリーダー、アルノー・デマールは証言する。「その空白の隙を、グライペルにつかれたんだ」
圧倒的なパワーを見せつけて、ドイツの「ゴリラ」が、チームの仕事を勝利で締めくくった。チームメートのアダム・ハンセンが35歳の誕生日だったから、最高のバースデープレゼントになったに違いない。
すでにツールで区間10勝、ブエルタで区間4勝を手にしてきた33歳にとっては、ジロでも4勝目。今回が4度目のジロ参加で、毎回几帳面に1つずつ区間を制してきたことになる(2008年、2010年、2015年 2016年)。もちろん2009年ブエルタや、2015年ツールのように、一気に4勝を叩き出せる実力の持ち主だ。2016年ジロにはあと4回のスプリント機会が残っているから……、果たしてどこまで数字を伸ばしてくれるだろうか?
本来ヒルクライマーであるタラマエが、ほぼ最前列で落車してしまったことは、総合本命たちにも小さな影響を及ぼした。区間13位と14位の間に、4秒のタイム差が記録された。さらには上位13位には、イルヌール・ザッカリン(12位)と、なによりアレハンドロ・バルベルデ(13位)が滑りこんでいた。おかげでザッカリンは総合11位から8位にジャンプアップ。バルベルデは順位こそ7位のままだが、ヴィンチェンツォ・ニーバリまでわずか1秒差に迫った。
……まあ、ニーバリは、「4秒なんて大したことない」と笑い飛ばしているし、なにより、翌日第6ステージは大会初の山頂フィニッシュが待ち受ける。19kmの長い山道は、総合本命の間に、分単位のタイム差さえ生み出すかもしれない。とにかく、トリノでの最終マリア・ローザを目指す者たちが、いよいよ最前線で本気のぶつかり合いを始めるのだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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