人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
白い道が、トム・デュムランからピンク色の衣装を剥ぎとった。古豪チームの巧みな戦術、使命を忠実に果たしたアシスト、優勝大本命たちの強烈な加速、そしていわゆるサドル痛とエネルギー切れ。あらゆる要因が重なって、首位から総合11位へと一気に転落した。代わりにばら色と区間とを同時に射止めたのは、大きな逃げを成功させたジャンルーカ・ブランビッラだった。未舗装の砂利道を単独で突進し、危険をかえりみずダウンヒルを攻めた。トスカーナの熱狂的なファンたちは、今大会初めてのイタリア人マリア・ローザに歓喜した。
逃げが決まる。スタート前からそう運命づけられていた。地形的にスプリンターは追いかけてこないし、翌日に長距離タイムトライアルを控えているから、総合本命たちも区間最終盤以外は無駄に体力を使わないはず。大会開幕前どころか、3月上旬から、この第8ステージで逃げようと決めていた選手さえいる。
「ストラーデ・ビアンケで3位に入った時から、ずっとこのステージのことを考えていた」(ブランビッラ、公式記者会見)
スタート直後から、当然のように、激しいアタック合戦が巻き起こった。20km地点で13選手がエスケープの切符をもぎ取った。中でもAg2r、エティクス、そしてモヴィスターの3チームは、それぞれ2選手ずつ小集団に滑り込ませた。デュムランの同僚、ジャイアントのニキアス・アルントも前にいた。
エティクスとAg2rの4人は、区間勝利だけに焦点を絞っていた。だからマッテオ・トレンティンはブランビッラのために「自らを犠牲にして尽くした」し、ブレル・カドリはマッテオ・モンタグーティのために「クレイジーなほどに牽引」を続けた。トレンティンとカドリが全力で引っ張り合った逃げ集団は、メインプロトンから延々5分ほどのリードを保ち続けた。総合でわずか1分56秒遅れだったブランビッラは、「暫定」マリア・ローザとしてレース先頭を走っていた。
1度目のフィニッシュライン通過を終えると、2級峠アルプ・ディ・ポーティがやってくる。モンタグーティは山道で真っ先に加速を仕掛けた。数選手が後を追い、先を急いだ。
「上り序盤では他の選手たちにアタックさせておいた。だって一番重要なのは、ダートロードに入ってからの急勾配ゾーンだって分かっていたから」(ブランビッラ、公式記者会見)
山道を登り始めて約2km。ついに細かい砂利の道に突入した。勾配も10%から急激に14%へと跳ね上がる。そのタイミングを、ブランビッラは待っていた。全身全霊で加速をお見舞いした。あっというまに前をとらえ、そのまま他者には目もくれずに、あっさり振り払った。
「一番きついゾーンでやられてしまった。あそこで我慢してしがみついてさえいれば、その後は問題なく一緒にフィニッシュまで行けたはずなのに……」(モンタグーティ、チーム公式リリース)
必死に追走を続け、未舗装路の終わり=山頂を25秒遅れで通過したモンタグーティは、しきりに後悔する。ただし、たとえアタックに反応できていたとしても、下りで果たしてついていけただろうか?なにしろブランビッラは全速力で山を上った後、カーブの多い下りに入ると、危険をまるで恐れぬ高速ダウンヒルを敢行した。そして「ラスト1kmに来て、ようやく勝利を確信した」(公式記者会見)。
中世の旧き門をくぐり、石畳の坂道を上り詰めた先には、生まれて初めてのジロ区間勝利の栄光が待ち受けていた。所属チームのエティクス・クイックステップにとっては、同じベルギーチームのロット・ソウダルと並ぶ3つめの区間優勝。さらに第3ステージのマルセル・キッテルに続いて(残念ながらこの夜に大会離脱を発表した)、チームにとっては今大会2枚目の、ブランビッラにとっては人生初めてのマリア・ローザさえ手に入った!
後方のメイン集団は、ブランビッラから1分41秒差でフィニッシュラインにたどりついた。もしもデュムランが問題なく1日を終えていたら、5秒差でジャージを死守できていたはずだった。
2級峠に入るまでは、ジャイアント・アルペシンが集団前方を制御していた。ところが、やはり未舗装の難勾配ゾーンで、アレハンドロ・バルベルデが猛烈な加速を見せた。しかも1度と言わず、何度も、畳み掛けるように。ジロ初挑戦のスペイン人が、これほど積極的に動いたのは、前方にモヴィスタ―のチームメート2人が逃げていたからだった。
「前に2人いたから、トライする価値があると考えた。山の麓から全力で山頂まで駆け上った。(逃げていた)ホセホアキン・ロハスもヤッシャ・ズッターリンは僕を待っていてくれて、あらん限りの力を尽くしてくれた。上手く行ったね。彼らは素晴らしい仕事を成し遂げてくれたよ」(バルベルデ、チーム公式HP)
バルベルデ+モヴィスター精鋭軍のスピードアップに、ほとんどの総合上位候補はしっかり食らいついた。2日前のアタックの失敗で不調が心配されていたヴィンチェンツォ・ニーバリは、この日は一切の隙を見せなかった。イヌール・ザカリン、ステフェン・クルイスウィク、エステバン・チャベス、ラファル・マイカ、リゴベルト・ウランも、極めて好調にペダルを回した。ほんの一瞬こそ出遅れたものの、ミケル・ランダやドメニコ・ポッツォヴィーボも追い付いてきた。
ただ、ピンク色のジャージだけが、あっさりと一撃で振り払われた。「未舗装路は僕にとって問題ではない。ストラーデ・ビアンケは2回出場して、2回とも20位以内で終えているし」と前日の記者会見で語っていたデュムランは、しかも、そのまま、ずるずると、後方へ沈んでいく。
「単にバッドデーだっただけ。昨日もそれほど良くなかったけれど、大した問題にはならなかった。今日だって重大な問題ではなかったんだ。ただレース中に、エネルギーがなくなってしまった」(デュムラン、チーム公式HP)
モヴィスターの逃げ2人が上りでたっぷりバルベルデを助けたのだとしたら、やはり逃げていたアルントが、苦しむデュムランのもとに駆けつけたのは、上りがほぼ終わってから。判断ミスか。伝達ミスか。それとも下りを利用して、距離を縮めるつもりだったのか。山頂では、すでに1分10秒以上のタイム差がついていた。
昨ブエルタの第20ステージでは、結局は追いつけなかったけれど、赤ジャージ姿のデュムランはたしかに下りで凄まじい追い上げを見せた。しかし、この日は、ライバルたちとの距離はまるで縮まなかった。
なにしろ下りでは、プロトン屈指のダウンヒル巧者、ニーバリも先頭を積極的に牽引した。翌日に個人タイムトライアルを控え、2014年世界選手権個人タイムトライアル銅メダリストから1秒でも多くタイムを奪おうと、メイン集団の11人は決して仲間割れを起こさなかった。ただひたすら、一塊になって、フィニッシュへと飛び込んだ。今ジロはどうやら、フィニッシュラインでの「分断」を厳しく取り締まることに決めたようで、またしてもメイン集団内で3秒の分断が発生したけれど。
ブランビッラがゴールしてから2分51秒後、デュムランがフィニッシュラインを越えた。バルベルデからは1分10秒遅れ、ニーバリからは1分07秒遅れだった。また総合では2位23秒差ザカリンから10位1分03秒差ランダまで、メイン集団に居残った選手がズラリと並んだ。デュムランは1分05秒差の11位に後退した。総合表彰台候補、すなわち総合2位から11位までのタイム差は42秒だ。
「今の状況を見る限り、本来のA計画に戻すことになるだろう」(デュムラン、チーム公式HP)
初日TTを勝った直後から、デュムランは幾度も繰り返してきた。今大会一番の目標は、第9ステージの個人TTを勝つこと。もしも調子を取り戻して、A計画を成功させられたら、再びデュムランが総合上位に踊り出ている可能性は大いにある。
「明日は最初から最後まで全力を尽くす。TTを最終走者として挑むのは生まれて初めて。全選手が僕の前を走っているわけだから、彼らに追いつき追い越すつもりでがんばらなきゃならない」(ブランビッラ、公式記者会見)
体重58kgと小柄な大逃げ野郎も、マリア・ローザを1日で手放すつもりはない。2年前、同じような地形のTTステージでは、2位以下に1分17秒という大差をつけて優勝したリゴベルト・ウランの、わずか1分53秒差の区間5位で終えている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース
9月29日 午後5:25〜
-
Cycle* J:COM presents 2024 ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
11月2日 午後2:30〜
-
10月12日 午後9:00〜
-
11月11日 午後7:00〜
-
【先行】Cycle*2024 宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
10月20日 午前8:55〜
-
10月10日 午後9:15〜
-
Cycle* UCIシクロクロス ワールドカップ 2024/25 第1戦 アントウェルペン(ベルギー)
11月24日 午後11:00〜
-
【限定】Cycle* ツール・ド・フランス2025 ルートプレゼンテーション
10月29日 午後6:55〜
J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!