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チーム全体の願いを背負って、若き選手が結果を導き出した。3人を逃げに送り込んだバルディアーニ・チエセエフェからは、21歳新人のジューリオ・チッコーネが独走勝利を手に入れた。集団前方で1日中働いたチームメートのため、なによりマリア・ローザ姿で必死の牽引を行ったジャンルーカ・ブランビッラのために、23歳ボブ・ユンゲルスはメイン集団に踏みとどまった。エティクス・クイックステップがチーム内にマリア・ローザを守り切った一方で、スカイはリーダーの不遇に見舞われた。優勝候補ミケル・ランダが、体調不良で自転車を降りた。
休養日明け症候群。グランツールの休養日は、突然リズムが変わるせいか、体調を崩しやすい。残念ながら、ランダも、調子を大きく落とした。休養日前日の個人タイムトライアルでは、損失を最小限に食い止め、得意の山で活躍を期待されていたはずだった。
ところが、スタート直後に登り始めた3級峠で、早くもプロトンから脱落してしまう。バスクの同胞2人(ミケル・ニエベとダビ・ロペスガルシア)が側に付き添い、なんとか先を続けようと努力した。しかし、早朝から腹痛に苦しんでいたスカイのリーダーは、苦痛にただ顔を歪めるだけだった。畳み掛けるように、去年まで所属していたアスタナが、ライバルの異変に乗じて走行スピードを上げた。スタートから66km地点。メイン集団とのタイム差は約4分半。ランダは足を止めた。
スカイはどうやら今年も、ジロ獲りを失敗してしまったようだ。2013年ブラッドレー・ウィギンスは雨と寒さで体調を崩し途中棄権、2014年リッチー・ポートは春先からの体調不良で欠場、2015年ポートは落車で満身創痍で途中棄権、そして2016年はランダの胃腸炎……。2013年に限っては、急遽リーダーに昇格したリゴベルト・ウランが、総合2位へと滑り込んだ。対する今回は、もはやスプリント勝利さえ期待できない。エーススプリンターのエリア・ヴィヴィアーニが、第8ステージに、制限時間アウトで失格となっている。
自転車界屈指のビッグチームが災難に見舞われた一方で、小さなプロコンチネンタルチームは、前方に積極的に飛び出すことで存在感を見せつけた。
山の多い今ステージで、ジョヴァンニ・ヴィスコンティが、真っ先に意欲を示した。1つ目の山岳で山頂スプリントを決めると、2015年ジロ山岳賞はそのまま前方へと走りだした。後を追うように、プリジミスラウ・ニエミエツとニコラ・ボエムも飛び出した。こうして3人の逃げ集団が形成された背後では、さらなるアタック合戦が繰り返された。山岳賞2位のダミアーノ・クネゴが、チッコーネを含む数人と共に加速した。3年前の山岳賞ステファノ・ピラッツィや、その他の面々も、長い奮闘の果てにクネゴ集団へと合流した。
3人の先頭と、10人の追走。ところが、この2つの集団の距離は、思うように縮まらない。すでに60km近く追いかけっこしているというのに、タイム差はいまだ1分45秒。ここでバルディアーニは、思い切った作戦を実行した。それは先頭集団のボエムを、あえて後方に下げ……、ピラッツィとチッコーネのために消耗覚悟で前を引かせるというもの。そして、この少々危険な賭けが、上手く成功する。ほんの20kmほどの追走で、先頭集団は大きくひとつにまとまった。
「ボエムには特別な感謝の言葉を捧げたい。彼こそ真のチームメートだ。僕とピラッツィを助けるために、自分自身を犠牲にしてくれた」(チッコーネ、チーム公式リリースより)
必死に働いたチームメートの労に報いるかのように、1級山岳の山道で、ピラッツィとチッコーネはクネゴ以外のライバルを全て突き放した。残念ながら、山頂1位通過=35ポイントは、2004年ジロ覇者に奪われた。しかも新人が、山岳賞を狙っているはずの先輩を差し置いて2位通過してしまったものだから、ピラッツィは怒号を飛ばしたようだが……。
「僕とステファノはそれぞれにチャンスを狙いに行ったんだ。彼はすごく調子が良かったし、周りの選手もそれに気がついていた。だからあまり自由に動けなかったみたいだね」(チッコーネ、チーム公式リリースより)
ネオプロで、ほぼ無名の21歳は、自由に、そして思い切って動いた。下りのヘアピンカーブで、ピラッツィがクネゴと接触している隙に、ゴール前15km、勝利へ向かって旅立ってしまった!
「正直に言うとジロ出場だけでも驚きなのに、勝てるなんて、まるで夢みたい。素晴らしい成功だ。ただし、これは、最初の一歩に過ぎない。学ぶべきことはたくさんあるし、目の前に続く道は長い」(チッコーネ、チーム公式リリースより)
2015年「若手の登竜門」ツール・ド・ラヴニールで総合6位に入り、今季はステージレースの難関区間で幾度もひと桁の順位に入っているヒルクライマーは、7.5kmの最終峠を、力強く駆け上がった。プロ生活わずか5ヶ月で手に入れた初勝利が、グランツールの山頂フィニッシュだった。「彼は強かった。おめでとうと言いたいよ」と、12年前、22歳の若さでジロ総合優勝を果たしたクネゴも素直に脱帽する。
「僕も区間を狙っていたんだけど、猛スピードで下って行ったチッコーネに、まるで追いつけなかった。でも、とにかく、ジャージを取り戻せて本当に嬉しい。できる限り長く守りたい。今後2日間は幸いにも簡単なステージだから、きっと問題ないだろう。週末の山岳ステージに向けては、ロードブックを見て、じっくり研究しておくつもり」(クネゴ、TVインタビューより)
逃げが飛び出していった後、メイン集団は、エティックスが制御を続けた。オランダの平地ではスプリンター、マルセル・キッテルのために完璧なコントロール能力を発揮したが、この日は起伏だらけの道で、大いに苦労させられた。それでもマリア・ローザのブランビッラと、総合でわずか1秒遅れのマリア・ビアンカのユンゲルスのために、必死に主導権を握り続けた。
ヴィンチェンツォ・ニーバリ率いるアスタナは、幾度となく揺さぶりをかけてきた。さらに1級山岳の山道に入ると、力づくで集団先頭を奪い取った。……ここで、まずは、トム・デュムランが千切れた。ピンクジャージを守ろうと6日間奮闘してきたオランダ人の、疲弊しきった体は、休養日だけでは回復しなかった。股ずれにも苦しみ、もはや強豪が刻むリズムについていくことはできなかった。休養日明けを総合7位・58秒遅れで走り始めたデュムランは、走り終えた時には、総合29位・11分42秒遅れへと大きく陥落していた。
恐ろしいアスタナの山岳戦隊は、さらに集団を小さく切り刻んでいく。エティクスのアシストは、もはや全員後方へと消え去った。そして山頂の手前3kmから急激に勾配が上がると、ユンゲルスはしがみつき、ブランビッラは滑り落ち……。
「アスタナには苦しめられた。ただ一旦脱落してからは、自分のペースで登ろうと決めた。下りで追いつけると分かっていたから」(ブランビッラ、チーム公式リリースより)
山頂でのタイム差は17秒。翌日、彼女と愛娘が応援にやって来る地元ステージを、なんとしてでもマリア・ローザ姿で迎えたい。そう強く願ったブランビッラは、全力でダウンヒルを行い、前方集団を捕らえた。しかし、今度は、モビスターに苦しめられる番だった。追いついた時には、総合でわずか32秒差につけるアンドレイ・アマドールが、すでに集団から飛び出していたからだ。
ここでマリア・ローザは、大きな決断を下す。すぐに集団の先頭に駆け上がると、ゴール前6.5km、懸命に引っ張り始めた。自らのジャージを守るためではなかった。アマドールとの差を最小限に食いとどめ、チーム内にマリア・ローザを留めおくためだった。残された力を、全て、ユンゲルスに捧げた。
「自分自身をチームのために犠牲にしよう、ボブのために走ろう、って思った。チーム全員が僕らのために本当に必死に働いてくれて、全てを費やしてくれた。そんな彼らのために、僕はそうしたんだ」(ブランビッラ、チーム公式リリースより)
「マリア・ローザが自ら、僕のために引くと決めてくれた。自分の人生の中で、これほど大きな恩義を感じたことはないくらい」(ユンゲルス、TVインタビューより)
ゴール前6kmでは、アマドールが「暫定」マリア・ローザだった。ゴール前3km、あともう少しで、ジャージを取り返せるところまで近づいた。ブランビッラからバトンを引き継いだユンゲルスは、最後は自らで力を振り絞った。幸いだったのは、前に逃げていたヴィスコンティと、後ろから追いかけたアマドールが、すぐには合流しなかったこと。
おかげでユンゲルスは、アマドールと「ほぼ」同時にフィニッシュへとたどり着いた。わずか4秒を失っただけだった。マリア・ローザを手に入れたチームメートから遅れること1分12秒、ブランビッラも勇敢に1日を締めくくった。
「ブランビッラには大きなありがとうを贈りたい。もちろんチームのみんなにも。きっと今夜、チームのみんなは、死ぬほど疲れているんだろうな。でも、やったかいがあった、と思ってくれるはず。僕はチームの仕事をしっかり完成させることができて、本当に誇らしい」(ユンゲルス、TVインタビューより)
ルクセンブルクのシャルリー・ゴールが生まれて初めてマリア・ローザに袖を通したのは、今からちょうど60年前。23歳だった。ボブ・ユンゲルスも23歳で、生まれて初めてのマリア・ローザを肩に羽織った。2年前のジャパンカップの際に、「夢はツールの総合優勝。……あくまでも夢だよ」と語っていたユンゲルスだけれど、今宵はピンク色の夢を見るのだろうか。シャルリー・ゴールは同年1956年ジロで総合を制し、2年後の1958年にはツール総合も勝ち取っている。
総合本命たちに関しては、あいかわらず10名前後が、連なった団子状態でフィニッシュラインへ駆け込んだ。モビスターのアマドールが26秒差の総合2位に、リーダーのバルベルデも「小さなスプリント→分断」を成功させて総合6位→3位(50秒差)とジャンプアップ。総合4位キープのステフェン・クルイスウィク(51秒差→50秒)、同じく総合5位ニーバリ(53秒差→52秒差)との立場を僅差ながら逆転した。また前日までの7位デュムラン・8位ランダの空いた2枠には、そのまま9位と10位がスライドし、ラファル・マイカとヤコブ・フグルサングが入った。個人タイムトライアルの2度の落車で大きく後退したイヌール・ザカリンも、再びトップ10へ返り咲いた(9位)。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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