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現役屈指のフィニッシャー、ディエゴ・ウリッシが、今大会2度目の勝利を射止めた。チーム全体でレースを見事に制御し、さらには総合1位と2位の不思議なランデブーを利用して、自身6度目のジロ区間勝利をさらい取った。鮮やかなピンク色に身を包んだボブ・ユンゲルスは、自らで飛び出してジャージを守ったどころか、貴重なタイムを稼いだ。総合3位以下とのリードは、1分以上に開いた。
プロトンは猛スピードで走りだした。すぐに9人が前方に飛び出した。ところが、かなりの強豪有名選手を揃えるエスケープは、どうやらランプレ・メリダのお気に召さなかった。「上れるスプリンター=サッシャ・モドロ」と「パンチャー=ウリッシ」という、2つの切り札で、ステージ獲りを目論ろんでいたからだ。
「大会序盤に区間を制したけど、もう1つどうしても勝ちたかった。今日は地形を見る限り、完璧なチャンスだと思った。だから今朝、サッシャと話し合って決めたんだ。僕はアタックを打つ、彼はスプリントを待つ、って」(ウリッシ、ゴール後インタビュー)
執拗な追走劇は、実に40km近くにも及んだ。序盤1時間の走行時速は、今大会最速の51.4kmを記録した。
危険な逃げを回収してからも、アタックの度に、ランプレは逃げの顔ぶれや人数を用心深く吟味した。スタートから72km地点、ベガールドステイク・ラエンゲン、アントン・ヴォロビエフ、リアム・ベルタッツォが逃げ出すと、ようやくお許しが出た。集団は静けさを取り戻し、3人にはあっさりと10分半もの大量リードを与えた。
ほっとした時間帯に、小さな失望がジロ一行を包んだ。前日に優勝候補ミケレ・ランダを失ったばかりだというのに、この日はトム・デュムランが戦いを去ったのだ。オランダから走りだした2016年大会の前半を、初日個人タイムトライアル優勝&マリア・ローザ6日間着用で存分に盛り上げた立役者は、股ずれの痛みにこれ以上耐えられなかった。8月のジロ五輪で個人タイムトライアル金メダル獲得を目指すルーラーは、まずは治療に専念し、新たなスタートを切る。
高速で始まったステージは、最終盤に向けて、再びうなりを上げていった。ジェットコースターのような起伏の連続へ好位置で突入しようと、複数チームが集団前方で隊列を組んだ。少ないスペースを、入れ代わり立ち代わり競いあった。ピリピリした雰囲気が、プロトン全体を覆い尽す。そして、最初の上りにさしかかる、ほんの直前だった。フィニッシュまで30km、大きな集団落車が発生した。
約40人もの選手が、地面や、草むらや、さらには道の脇の水路に投げ出された。エフデジやアスタナが大量に巻き込まれた。マリア・ローザを支えるエティックスも数選手が、とりわけ前夜に感動的なほどの献身を見せたジャンルーカ・ブランビッラが、ブレーキをかけた。
最も痛手を負ったのはドメニコ・ポッツォヴィーボだろう。前夜までの総合11位は腰を打ち付けただけでなく、前輪が壊れ、しばらく足止めを食らった。走りだした後は、アシスト総出でリーダーを牽引するも……、すでに臨戦態勢に突入していたライバルたちに、追い付くことはできなかった。1分以上のタイムを失い、総合では4分01秒差の14位へと後退を余儀なくされた。
落車のせいで一回りサイズダウンした集団は、この日唯一の山岳(4級峠)に取り掛かると、ランプレの高速牽引でますます小さくなっていく。逃げの3人を吸収し、そのまま山頂から一気にダウンヒルへと転じた時点で……集団は突如として、総合本命のみに絞りこまれた。最前線で、マリア・ローザを巡って火花を散らしあった!
なにより、ヴィンチェンツォ・ニーバリが、下りで加速を切った。ゴール前18km、アレハンドロ・バルベルデとエステバン・チャベスだけを引き連れて、フィニッシュ地アーゾロへと突進を始めた。
「僕は下りが得意だから」と下りでアタックを仕掛け、ニーバリがアーゾロの町を勝ち取ったのは2010年大会のことだった。今では3大ツール全てを手中に収めたチャンピオンにとって、初めてのグランツール区間勝利だった。2002年にイタリアジュニア王者に輝いたのも、またここアゾーロだった。「この場所は僕に幸運をもたらしてくれる」と、6年前のニーバリは歓喜の声を上げたものだ。
ただし、先を急ぎたい「メッシーナのサメ」に、「無敵男」と「エル・チャビト」は積極的に手を貸そうとはしなかった。3kmほど進んでようやく先頭交代を始めるも、さらに2km先で、ユンゲルスが力を惜しまず牽引してきた集団にあえなく追いつかれた。
総合2位アンドレイ・アマドールが飛び出したのは、吸収とほぼ同時だった。フィニッシュまで残り13.5km。ここでも、顔を見合わせてばかりいる強豪たちを放り出して、若きマリア・ローザは単独で追いかけた。総合でわずか26秒差につける危険人物を、逃してしまわぬために。
「僕は1人だった。落車にチームメートが巻き込まれ、もはや助けは期待できなかった。だからアマドールが飛び出した時、自分で行かなきゃならなかった」(ユンゲルス、ゴール後インタビュー)
タイムトライアル巧者は、すぐにライバルを捕らえた。しかも追いついて集団に引き戻すのではなく、逆に先に立って猛烈に引っ張り、アマドールにも先頭交代を要求した。グランツールのリーダージャージを着て走る初めてのステージで、23歳は、余計な計算や駆け引きなど考えなかった。ただ素直に、タイム差を稼ぐ絶好機に、集中した。
「こんなにあっさり逃してもらえるとはね。できる限り秒数を稼ぐよう全力を尽くした。ステージ勝利だって狙っていた。アマドール相手なら、もしかしたら、スプリントでも勝てるかもしれない、と考えた」(ユンゲルス、ゴール後インタビュー)
取り残された総合本命たちに、区間ハンターたちが次々と追いつき、真剣な追撃も開始された。オリカとバルディアーニ、さらにランプレが加速の責任を受け持ったが、グランツールの総合1位と2位は、しぶとくリードを守り続けた。残り10kmで10秒、5kmで7秒……。
「アマドールとユンゲルスは前方をとてつもない高速で走っていた。もしもギャップを埋めたいなら、最後の上りでアタックしなきゃならないと分かっていた」(ウリッシ、チーム公式リリースより)
ゴール前4.5km、勾配が7%台に跳ね上がるゾーンに突入した瞬間だった。パンチャーの脚が炸裂した。激坂巧者(のはずの)カルロスアルベルト・べタンクールだけが一瞬反応したが、すぐに追随は諦めた。ウリッシは1人で追いかけ、あっという間に、前を行く2人に合流した。
「ひとたび追いついてからは、ユンゲルスが自ら協力してくれた」(ウリッシ、チーム公式リリースより)
「ウリッシに追いつかれて、すぐに悟ったんだ。区間勝利は無理だ、って。だから自分の持てる力を、ひたすらタイム差を稼ぐためだけに費やした。フィニッシュ前もスプリントや駆け引きなど考えず、とにかくペダルを回した」(ユンゲルス、ゴール後インタビューより)
ライン手前200mまで、まるでタイムトライアルでも走っているかのように、ユンゲルスは黙々と回し続けた。その背後からウリッシは軽々と飛び出すと、今大会区間2勝目を鮮やかにさらいとった。
区間2位にはアマドールが駆け込み、ボーナスタイムの2秒分だけ(2位6秒、3位4秒)、マリア・ローザとの差を詰めた(24秒)。総合上位勢はその13秒後にフィニッシュラインに雪崩れ込んだ。つまりユンゲルスは大多数の総合本命から13秒+ボーナスタイム4秒=17秒を奪い取り、総合3位との差を1分07秒へと広げた。
いわゆる「総合本命」たちの間では、タイムの変動はなかった。ただデュムランの途中棄権や、ポッツォヴィーヴォとブランビッラの落車による遅れで、数人が順位を自動的に繰り上がった。ちなみにウリッシも、総合で2つ順位を上げて、2分47秒差のトップ10入りを果たしている!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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