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サイクル ロードレース コラム 2016年5月20日

ジロ・デ・イタリア2016 第12ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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帰り間際にもう1勝。ジロ離脱を決めていたこの日に、ポイント賞首位に立つアンドレ・グライペルが、今大会最多の区間3勝目を手に入れた。チーム全員で勝ち取った栄光を、スプマンテの弾ける泡で祝った後は、7月のフランス一周のために頭を切り替える。総合候補たちは少し早目の「ニュートラル」のおかげで、フリーホイールで静かに1日を終えた。

起伏図だけを見れば、21日間で、一番簡単なステージのはずだった。しかし、朝から降り続いた冷たい雨が、少々難しい時間を演出した。

「路面が濡れていたせいで、常に集中力を必要としたからね」(ボブ・ユンゲルス、ゴール後インタビュー)

しかも平坦な道の果てには、市街サーキットを、約3周回る。1周8kmのサーキットには、広角3回+90度11回+鋭角1回=トータル15回のカーブが待ち受けている。市街地ゆえに、道幅は当然、それほど広くない。つまり、ただでさえテクニカルなサーキットだというのに、路面が濡れていれば、危険は大幅に増す。

……だからこそ審判団は、ステージのかなり早い段階で、周回コースのニュートラル化を発表した。2度目のフィニッシュライン通過=ゴール前8kmの時点で、タイムが計測されることが決まった。

雨の中で逃げ出したダニエル・オスとミルコ・マエストリの後ろで、メイン集団は淡々とペダルを回した。タイム差は最大3分程度しか与えなかった。濡れた路面では、つかず、離れず、一定距離を保つのが懸命だ。特に最後の1日に意欲を燃やすグライペルや、コース上からわずか10km程度の町で生まれ育ったサッシャ・モドロが、チームのロット・ソウダルやランプレ・メリダを総動員して、きっちりちとタイム差制御に取り組んだ。

陰鬱な雰囲気の中で、ステージ途中に2カ所用意されていた中間ポイントだけは、ほんの少しだけ戦いが色づいた。なにしろポイント賞首位が本日限りでリアイアする。翌第13ステージからは、次点選手に赤ジャージ着用の権利が譲り渡されることになるのだ。なにより、最終日トリノでの栄光も――大会が折り返し地点を過ぎ、誰がリタイア予定で、誰が完走予定なのか見えてきて――、そろそろ本格的に計算すべき段階がやって来た。

もはや得点収集には無関心なグライペルの目の前で、2度の中間スプリントが繰り広げられた。いずれも1年前に「無冠」のまま赤ジャージを仕留めたジャコモ・ニッツォロが、集団首位=3位通過(8pt×2)を果たした。区間2勝のまま立ち去ったスプリント・リーダーのマルセル・キッテルに代わって、マッテーオ・トレンティンが2度の4位通過(6pt×2)をさらいとり、前日第11ステージはチームTTばりの列車で獲りに行ったアルノー・デマール(4pt×2)は、いずれも5位に終わった。

周回コースに入り、逃げの2人があっさりと吸収される頃には、すっかり雨も止んでいた。それどころか、路面も、完全に乾いていた。それでも、周回コースに実際突入してみて、すべての選手が、マリア・ローザと同じように感謝したに違いない。

「ニュートラルは、非常に賢い決断だったと思う。おかげで僕たち総合上位の選手たちは、安全に、フィニッシュラインを超えることが出来たから」(ボブ・ユンゲルス、ゴール後インタビュー)

フィニッシュまで8km。残り1周回の鐘が鳴り響くのを聞きながら、多くの者がペダルを回す脚を緩めた。ただフィニッシュタイムではなく、フィニッシュライン通過の順位にこだわるスプリンターチームだけが、残された8周を全力で闘った。

サーキット突入してからは、ロット・ソウダルが決してコントロール権を手放さなかった。ポイント賞リーダーの赤いジャージを含む6人の赤ジャージが、ひたすら集団先頭で主導権を握り続けた。

ゴール前3.5kmまでは、ルーラーのティム・ウェレンスとラルスイティング・バクが交互に牽引。綺麗な一本の隊列に、横入りできるチームなど存在しなかった。2011年ブエルタから14グランツール大会連続で出場しているアダム・ハンセンも、いつものように、リレーを引き継いだ。タフガイの背後に滑り込もうと、イアムやロットNL、オリカが割り込みを仕掛けたが、ショーン・ドゥビーがパワフルに弾き飛ばした。

ラスト1.2kmではランプレが先頭を奪い取ったが、またしてもドゥビーがトップの座を取り戻した。フィニッシュ直前300mの直角カーブは、ユルゲン・ルーランツが先頭で突っ込んでいき……。

「僕らの計画は、チーム全員で前線に留まった状態で、最終週回に突入すること。チームメートにはとことん脱帽してる。幸いにも僕は、脚の調子が良くて、スプリントを打つことができた」(グライペル、公式記者会見)

最後の花道を完璧な形でお膳立てしてもらったグライペルの、その背中には、カレブ・ユワンがぴたりと張り付いていた。21歳の伸び盛りは、右直角カーブを抜けた後、極めて自然にグライペルの右後ろに控えた。目の前のベテランも、カーブの流れに合わせるように、右へ右へと寄せていった。……そのままユワンは、右側のフェンスと、左斜め前のグライペルに挟まれて身動きがとれなくなってしまう。ほんの少しブレーキをかけ、軌道を変え、左側から抜けだそうとした頃には、すでにグライペルが区間勝利を手中に収めていた!

今大会3勝目、ジロ通算6勝目、記念すべきグランツール20勝目(ツール10勝、ブエルタ4勝)が、「ロストックのゴリラ」にとって2016年ジロ最後の勝利となった。ちなみに過去4度イタリア一周に参加して、完走は2008年のみ。2010年、2015年、そして今年2016年は、志半ばで大会を離脱している。。

「残念ながら今夜限りでジロを離れる。赤ジャージを着たままジロを帰るのは、ファンのみなさんに申し訳ない。でも僕は機械ではない。シーズンはまだまだ長いし、この先果たすべき目標はたくさんある。次の目標はツールの区間勝利。それに向けて体を休めて、準備していかねばならない」(グライペル、ゴール後インタビュー」

第13ステージは、区間3位・ポイント賞2位のニッツォロが、赤いジャージを身にまとうことになる。しかし、キッテルが去り、グライペルも抜けた今ジロで、果たして残されたスプリントチャンスは誰がもぎ取るというのか?

ニッツォロは2位8回、3位4回と高め安定ながら、いまだ1位は0回のまま。また本日は「腹痛」のため区間12位に終わったアルノー・デマールも、「モニュメント」ミラノ〜サンレモという大物こそ先に仕留めたが。実はグランツール勝利は未体験。昨ジロ2勝のモドロは、リードアウト役のリチェゼがチーム離脱したせいか、今ジロは3位止まり。ならば、今ステージこそ区間2位に甘んじたが、すでに昨ブエルタで区間1勝を手にた21歳伸び盛りが、新たな勝利を手にする番かもしれない。

総合争いの選手たちは、雨に悩まされた1日を、「0秒差」で静かに終えた。ユンゲルスは人生3度目のマリア・ローザ表彰式に臨み、ピンク色の栄光を思う存分満喫した。

「調子はいい。自分の中で準備はできていると感じている。ただ、明日が本当の意味で今大会初めての山岳ステージだから、強豪たちがどんな走りを見せるのかまるで分からない。もちろん自分自身がこういう立場で山岳を争ったことがないから、自分でもどの程度できるのかも分からないんだ」(ユンゲルス、ゴール後インタビュー)

23歳のユンゲルスにとって、2014年ブエルタ、2015年ツールに続く、これが3度目のグランツール挑戦にすぎない。ただエティクス・クイックステップのチームマネージャー、パトリック・ルフェヴェルが指摘する通り、昨ツールは最終週で4度のエスケープを打っている。結果は第14ステージ上りフィニッシュ8位、第16ステージ5位、第18ステージ5位、さらには第20ステージのラルプ・デュエズフィニッシュで13位。つまりグランツール後半を全速力で戦う能力は、すでに証明済み。あとは、ルクセンブルクの若者が総合首位としてどこまで戦えるのか、楽しみに見ていこう。

翌第13ステージから、ジロ一行はいよいよ、北アルプスのアルプス&ドロミテの難関山岳へと分け入っていく。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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