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サイクル ロードレース コラム 2016年7月6日

ツール・ド・フランス2016 第4ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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200km以上の長距離走の果ての、またしてもミリ単位の勝負だった。この日、アスファルトの上で膝を抱えて、肩を落としたのはブライアン・コカールだった。軽い上り坂フィニッシュで、パワフルにペダルを踏み倒した後、静かに喜びを噛みしめたのはマルセル・キッテルだ!空白の1シーズンと体調不良を乗り越えて、新しいジャージに着替えて、2014年パリのシャンゼリゼ以来の嬉しい区間勝利を手に入れた。

南へと、大またで、プロトンは下がっていく。どこにも寄り道せずに。夏の太陽と暑さを追い求めて。前日の223.5kmよりも、さらに14km長い「今大会最長」ステージは、ツール一行を一気に気温30度の世界まで誘った。それと同時に、フランス南部の山深い地方へと、一気に近づいた。翌日は大会最初の「本格的な」上りフィニッシュが待っている。だからこそスプリンターたちは、絶対に勝機を逃すつもりはなかった。たとえステージ最終盤には、リムーザン地方の細かいアップダウンが待ち受けていたとしても。

前日のサイクリングモードとは違って、この日のプロトンは時速40km超で走り始めた。またほぼゼロkm地点で逃げ集団が出来上がった序盤3日間とは異なり、4人の逃げが出来上がったのはスタートから29km地点だった。こうしてオリヴル・ナーセン、マルケル・イリサール、アレクシー・クジャール、そしてアンドレアス・シリンガーが、蒸し暑く、長い午後へと、飛び出していった。

ステージのほぼ折り返し地点、補給地点でのタイム差は6分あった。これが最大ギャップとなる。残り約3分の1の地点で、中間スプリントを激しく争ったメイン集団は(マイヨ・ジョーヌのペーター・サガンが集団内で首位通過した)、猛烈な勢いで4人を追い詰めていった。

今大会いまだ勝ち星がなく、前日わずかの差で敗れたアンドレ・グライペル擁するロット・ソウダルが、積極的に集団コントロールに励んだ。すでに区間2勝のマーク・カヴェンディッシュも、ディメンションデータの仲間たちに隊列作りを委ねた。29歳のバースデー勝利を狙うアレクサンドル・クリストフのために、カチューシャの面々も前方に位置取りした。

さらには前日第3ステージに、ぐだぐだムードをぶち壊すアタックを打ち、後輩ブライアン・コカールのための「間接的な」アシストを行ったトマ・ヴォクレールが、この日は集団牽引で「直接的な」アシストを買って出た。

「序盤4ステージはしっかりフィニッシュ地を下見していたんだ。特に今日は、自分の脚質にぴったりのステージだと考えていたからね」(コカール、ゴール後インタビュー)

ラスト50kmに入ると、道は典型的なリムーザン地方の色を帯びてきた。小さなアップダウンが無数に続き、細いうねりが繰り返し襲い掛かる。もしもグランツールの3週目にこの道を走っていたら、疲れたプロトンを尻目に、逃げ切りの可能性だってありえたかもしれない。だからこそ、大会4日目のエスケープメンバーも、最後まで諦めようとはしなかった。

しかし、最年少のクジャールが、真っ先に遅れ始めた。昨ブエルタの3週目に、驚異的な逃げ切り勝利を手にした23歳は、ラスト40kmで先頭から脱落した。「ドーフィネでの落車以降、調子がまだつかめてない。逃げたのは間違いだったかも」(ゴール後テレビインタビュー)と後悔しながら。

畳みかけるような起伏の連続に、シリンガーも消えていった。最後までもがいたナーセンとイリサールも、ゴール前約8kmの急坂で、むなしくプロトンに飲み込まれた。

今大会なにやら賛否両論を呼んでいる「総合系チームによる隊列」も、あいかわらず目についた。最後はもちろんピュアなスプリント列車が主役の座を張った。ロットにカチューシャ、エティックス……。

ラスト500mは上り基調だった。「自分の脚質にぴったり」と考えたのは、コカールだけではなく、サガンも同じだった。だから絶好調カヴェンディッシュの加速に、すかさず反応した。

「今日は僕が勝てると思っていたんだけどな。ちょっと加速を切るタイミングが速すぎたようだね。カヴェンディッシュと一緒にスピードを上げて、同時に勢いが落ちてしまった」(サガン、公式記者会見より)

チーム全員の後押しを得たグライペルも、「普通なら、こういったフィニッシュ地形は僕に向いている」と考えていた。しかし山入り前の最終日に、全てをかけてきた同朋の勢いを、決して上回ることはできなかった。

「最後の数メートルで、力尽きた。ベストを尽くしたけれど、どうしてなのか、力が足りなくなってしまった。ステージ中はずっと調子が良かったから、もしかしたら、最終盤が厳しすぎたのかもしれない。本当に、どうしてなのか、分からない。チームは責任をもってレースを制御してくれた。単に僕の責任なんだ」(グライペル、ゴール後インタビューより)

むしろキッテルにとって、「自分の脚質にぴったり」ではなかったはずだ。しかし、2013・2014年大会ではそれぞれ初日勝利+マイヨ・ジョーヌ&最終日シャンゼリゼ勝利と輝かしい成績を収め、「最速」を誇ったスプリンターは、自らの完全復帰をどうしても勝利で祝いたかった。「ど平坦でしか勝てない」という烙印を消し去りたかったし、なにより自らを迎え入れてくれた新しいチームに、勝利で報いたかった。

「今大会の目標は、1日目の区間勝利で、マイヨ・ジョーヌを取ること。しかし、それは、叶わなかった。2位にしか入れなかった。2日目はアラフィリップがまたしても2位。白ジャージは取れたけれど、黄色には手が届かなかった。3日目は完全に失敗だった。だから昨晩、チームでミーティングを行ったんだ。目標と戦術を見直して、改めて勝利を狙いに行った。今日は僕にとって非常に大切な日になった。復帰の日であり、なにより上り坂で、勝てたんだから!」(キッテル、公式記者会見より)

ぎりぎりまで追いすがりながら、2位に泣いたコカールは、「自分にはミスはなかった。ただキッテルが強かっただけ」と白旗を上げた。

「僕は素直に負けを受け入れられるタイプじゃないんだよ。ほんとむかつくね。区間勝利にまた一歩近づいたって?いや、いつか勝てるかもしれない、じゃ納得できないんだ。僕は今年勝ちたい。今年のツールで、フィニッシュラインで両手を上げたいんだよ」(コカール、ゴール後インタビュー)

サガンは3位でちょっとがっかりしたけれど、「キッテルの勝利は嬉しいね。いろいろな選手が順番に勝つのは、レースにとって良いこと」と模範的な感想を述べた。

なにより、ツールでは2位や3位が多い現役世界チャンピオンは、ツール史上最高の「エターナル・セコンド(永遠の2位)」から、マイヨ・ジョーヌを授与された。そう、マイヨ・ジョーヌこそ1度も着用したことはないけれど、アンクティル→メルクスの最大のライバルとして活躍し続け、マイヨ・ジョーヌのイメージキャラクターとして長年ツールに帯同しているレイモン・プリドールである。今年80歳になった「ププ」は、この日のゴール地リモージュの出身だ。

自らの最終目標であるマイヨ・ヴェールも、わずか1日で取り戻したサガンは、「マイヨ・ジョーヌは目標ではない」と語ってはいるけれど……。

「明日はどうなるかな。まあ、もちろん、できる限り、イエローを守るためのトライはするつもり」(サガン、公式記者会見)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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