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サイクル ロードレース コラム 2016年7月10日

ツール・ド・フランス2016 第8ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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クリス・フルームが、2016年夏、ニューバージョンにアップグレードされた。長い上りに強く、短い激坂にも強く、タイムトライアルでも強く、そしてこの日、ダウンヒルさえクレージーなほどに強かった。1級峠ペイルスルド山頂からの下りで、驚異的な技術を披露すると、鮮やかに区間勝利をさらいとった。主要ライバルたちに13秒差をつけて、いよいよマイヨ・ジョーヌを身にまとった。

スタート地はツール登場68回のポー、フィニッシュ地は58回目のバニエール・ド・リュション、途中には史上84回目のトゥルマレ登坂も挟み込んで……。つまりツール史上数々の偉業の舞台となってきた土地が、プロトンの戦いをがっちりと受け止めた。

序盤はスプリンターたちの戦いだった。本格的な山に入る直前の、67km地点に、中間ポイントが控えていたからだ。だから前日以上に激しい飛び出し合戦が巻き起こり、それを上回るスピードで、スプリンターチームが制御に回った。今年はどうもマイヨ・ヴェールをつなぎとめておけないペーター・サガンも、何度もアタックを試みた。翌日からは雨の予報で、ピレネー全体を包み込むじっとりと重たい暑さの中で、序盤1時間の時速は51kmまで上がった!

ただし、中間ポイントのほんの数キロ手前で、スプリンターたちは機会を逃した。十数人ほどの選手たちを、先に行かせてしまったのだ。そこに上手く滑り込んだマイケル・マシューズだけが、首位通過で20ptをまんまと手に入れた。サガンは14位通過で小さな2ptを積み重ねるだけで満足するしかなかった。マイヨ・ヴェールの持ち主は、グルペットの下から2番目でゴールしたマーク・カヴェンディッシュのまま、変動はなかった。

直後にトゥルマレの上りに突入すると、今度はティボ・ピノの戦いが始まった。前日に3分近くタイムを失い、総合争いから脱落したフレンチヒルクライマーは、ある種のリベンジを誓っていた。山頂ステージをすでに3度制したことのあるラファル・マイカと連れ立って、ツールの伝説峠を先頭で上り始めた。

「戦いたかった。自分がどこまで行けるのかを、確認したかった。それに、ツール開幕以来、走る喜びをまるで感じられずにきた。昨日は特に。でも、トゥルマレでは、ようやく心から楽しむことができたんだ」(ピノ、ゴール後TVインタビュー)

ピレネーの巨人、トゥルマレの山頂は、争わずしてピノが先頭通過を果たした。ツールの2代目開催委員長の名を関した「ジャック・ゴデ」賞の5000ユーロと、超級の1位通過ポイント25ptも懐に入れた。下りでトニー・マルティンも合流してきて、3人になった先頭集団は、さらに先を急いだ。

残念ながらメイン集団は、ヒルクライマー2人+タイムトライアルスペシャリスト1人の少々厄介なトリオを、遠くに逃がすつもりなどなかった。特にスカイの列車がアップテンポを刻み--ジロ覇者ヴィンチェンツォ・ニーバリや前夜まで新人賞だったジュリアン・アラフィリップ、さらには3日間マイヨ・ジョーヌを守り続けたフレフ・ヴァンアーヴェルマートを後方に置き去りにして--、最大でも2分半程度のリードしか与えなかった。

「危険な賭でもあったんだ。だって僕の総合の遅れは、わずか3分でしかなかったから。それほど多くのタイムを与えてくれないだろうということは、理解していた」(ピノ、ゴール後TVインタビュー)

トリオの終わりは、3つ目の上りでやってきた。2つ目の2級峠では、またしてもピノが静かに首位で通過するも(5pt)、3つ目の1級峠に突入するころには、すでに猶予は40秒ほどにまで減っていた。そもそもピノはすでに息切れ状態で、マイカが見せた最後のあがきにさえ、一切反応することはできなかった。スカイ&モヴィスターの冷徹な隊列に、勇敢なリベンジは飲み込まれていった。

「また明日、トライするさ。ツールはようやく始まったばかりだし、巨大峠もこれからが本番なんだから」(ピノ、ゴール後TVインタビュー)

そのまま脱落していったピノに対して、マイカは吸収後にも先頭集団に留まり続けた。そのせいでピノは、山岳ジャージさえ手に入れられなかった。マイカとはほんの1pt差。サッカーが大好きなピノの、手元に残ったのは赤ゼッケンだけ。そして総合では19分44秒差と、取り返しがつかないほどの大きな後れを食らった。

そのマイカさえ、3つ目の山頂では、実はトップ通過を許されなかった。なぜなら突然スカイのワウテル・ポエルスとフルームが、なぜか連れ立ってスプリントを切ったから!山頂通過後に、すぐに加速は中断されたのだが……。あれは、4つ目=この日最後の山、1級ペイルスルドの山頂間際でフルームが見せた猛ダッシュの、予行練習だったのだろうか?

フルーム本人は、「すべては即興だったんだよ」と笑った。もちろん確かなチーム戦術と予備知識、そして正しい状況判断に基づいての、即興だった。

「今日は下りフィニッシュではあるけれど、とにかく、チームの選手たちには『まるでペイルスルドの山頂がフィニッシュであるかのように仕事をしろ』と指示をだした」(ニコラ・ポルタル、スカイ監督、ゴール後インタビュー)

だからスカイのアシストたちは、「下りの15km」など考えずに、山頂までに持てる力を全てフルームに捧げた。超ハイスピードな牽引で、メイン集団のライバルたちを大いに苦しめた。特に2回の落車から、いまだ完全復帰できていないアルベルト・コンタドールが、少しずつ遅れ始めていた。山頂まで約1.5km、「まるで山頂がフィニッシュであるかのように」フルームがペダルを高速回転させると、グランツール7冠の大チャンピオンは完全に脱落した。

「あの下りに関しても、昨夜、クリスに話をしていたんだ。去年のルート・ド・シュドでは、あの下りで、コンタドールがキンタナを突き放したことをね。それを聞いたクリスは、何か大きなことを試したがっていた」(ポルタル、スカイ監督、ゴール後インタビュー)

つまりフルームにとって、コンタドールの息の根を完全に止め、キンタナからリードを奪う絶好の機会だった。だからペイルスルドの山頂で勢いよくスピードを上げると、そのままスピードを緩めずに、下りへと突進していった。

「僕がちょうどボトルを求めて手を伸ばしたところだった。フルームはその隙をついてアタックを打つと、高速で坂を駆け下りていった。僕の元から、去って行ってしまった」(キンタナ、ゴール後インタビュー)

アップヒルでの強さならとっくの昔に証明済み。そんなフルームが、まさかダウンヒルで加速するとは……。自転車界にある意味、衝撃が走った。なにより見るものを驚かせたのは、そのポジションだった。なにしろトップチューブの上に腰を落とした状態で、例のくるくるペダル高速回転を行ったのだから。

「トレーニングキャンプでは、クフィアトコフスキーとよく一緒に練習したんだけれど、確かに、彼と一緒にやってきたことを、今日の僕は上手く再現できたんだと思う。練習が役に立ったというわけさ。タイムを大きく稼げるかどうかはわからないけど、とにかく、この技術のおかげで、自分としては最大限の速さで進むことができた」(フルーム、公式記者会見)

畳みかけるように、何度も、フルームは不思議なテクニックを披露した。しかもカーブはギリギリを攻め、山頂からフィニッシュまでの15.5kmの間で、一度たりとも集中力を切らすことはなかった。

「リスクは犯したけど、でも、犯しすぎないようにも心がけた」(フルーム、公式記者会見)

2013年も2015年も、いずれもピレネーの上りフィニッシュにて圧倒的な力を見せつけ、フルームは総合首位の座に躍り出た。今回は下りの果てに、後続の13人に13秒を押し付けて、マイヨ・ジョーヌを手に入れた。

「タイム差はそれほどつかなかったけれど、なにより大切なのは、このジャージを着られたこと。まさか今日すぐにジャージが取れるとは思っていなかったから、なおのこと素敵な気分だよ」(フルーム、公式記者会見)

総合では、2位アダム・イェーツと3位ホアキン・ロドリゲスとの差は、わずか16秒でしかない。アレハンドロ・バルベルデが19秒差、キンタナ、ファビオ・アル、ティージェイ・ヴァンガーデレン、ロマン・バルデ、バウク・モレマは23秒差で追いかける。

またコンタドールが1分41秒を失い、総合でも3分12秒差に後退した一方で、本来アシスト役だったはずのロマン・クロイツィゲルは34秒差で踏みとどまっている。またこの日のステージ前半は新城幸也が護衛役を務めたルイス・メンチェスも、同じく34秒差。それ以下の選手はすでに1分51秒もの遅れを喫している。この日は13秒差でしっかり終了したものの、第2ステージで不運なパンクの犠牲になったリッチー・ポートは総合で2分08秒差だ。

ピレネー2日目のこの日、ミカエル・モルコフが自転車を降りた。前例を見ない棄権者ゼロ記録は、8日目で打ち止めとなった。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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