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サイクル ロードレース コラム 2016年7月13日

ツール・ド・フランス2016 第10ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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3年越しの念願を、マイケル・マシューズがついに実らせた。オリカ・バイクエクスチェンジのチームメート、ルーク・ダーブリッジとダリル・インピーとの3人体制で、戦術的につかみとった勝利だった。「逃げでは僕が最強だった」とうそぶくペーター・サガンは、大いに働き、大いにライバルを警戒させ、大いにファンを魅了して…、区間2位でマイヨ・ヴェールを取り戻した。スプリンター集団は途中で追走を断念し、翌日の平地ステージに気持ちを切り替えた。霧の深いダウンヒルや、風の強い平地で、総合系選手は極めて守備的に走った。

どのチームバスの周りにも、選手全員分のローラー台が用意されていた。誰もが早めに出走サインを済ませると、黙々とペダルを回した。数人の選手たちは……、たとえばシルヴァン・シャヴァネルや、ティンコフの数選手は、コース上へ実際に走りに行った。ともかく、すべての選手にとって、ウォーミングアップは必須だった。なにしろスタートフラッグが切られた瞬間から、1級アンヴァリラへの上りが始まるのだ!

事前準備に念を入れたのは、選手だけではない。数チームは大きなアンテナを付けた偵察カーを先行させた。地形や天候状況を、チームカーへ逐一連絡するためだ。ティボ・ピノが逃げに乗るはずだったから、エフデジはチームカーそのものを先に走らせた。山道では、脱落組みや、メイン集団を、速やかに追い抜くことは難しい。あらかじめ前を走っていれば、逃げが出来上がり、十分なタイム差がついた瞬間に、たやすく先頭集団の後ろに入り込むことができる。

シナリオ通りに、休養日明けの193選手は、アグレッシブに山道へと走り出した。最も意欲的だったのが、おなじみ「山でマイヨ・ヴェール獲り」が得意なペーター・サガン。十分に足慣らしを済ませたチームメートたちの協力を得つつ、前方行きの切符をもぎ取った。ちなみにティンコフの面々は、もう1つ大切な課題を抱えていた。それはラファル・マイカの山岳賞獲りのために、現時点で赤玉を着ているピノに山岳ポイントを取らせないこと。

「とにかくスタートから何度もアタックを試みた。でも、マイカが僕の逃げを警戒して、必ず飛び出しを潰しに来た。どうしても逃げられなかった」(ピノ、ミックスゾーンインタビュー)

こうしてエフデジのチームカー先行は、結局のところ無駄に終わった。ローラー台でじっくりウォーミングアップして臨んだルイ・コスタが、今大会最標高地点のアンヴァリラ山頂で「アンリ・デグランジュ記念賞」を手に入れた。

下りに入った途端に、天候はがらりと変わる。アンドラ側は、素晴らしくお天気だった。フランス側は、視界がすべてが真っ白になるほどの、濃霧に覆われていた。すると1964年第14ステージ……つまりアンドラ休息日の翌日、上りで遅れたジャック・アンクティルが、下りでスーパーダウンヒルを実現させた時と、まったく同じ条件だ!そして、この伝説的な下りで、怖いもの知らずの15選手が逃げ集団を作り上げる。

とにかく豪華で、確かな実力者ばかりが揃っていた。新旧ロード世界チャンピオンのサガンにコスタ(マイケル・マシューズもU23世界王者)、元トラック世界チャンピオンのダーブリッジ、グランツール総合優勝4回のヴィンチェンツォ・ニーバリに、2015年ジロ総合3位ミケル・ランダ。マイヨ・ジョーヌ着用経験者が5人で、区間勝利経験者は8人。ついでにクラシック覇者だけでも6人、etc……。

霧に紛れて逃げ出した実力者15人は、しかも霧から、好アシストを受ける。3日前に下りの上級テクニックを披露したばかりのクリス・フルームだが、視界10メートルの世界で、さすがに無茶な危険を冒すつもりなどなかったからだ。チーム総出で集団前方を制御し、きっちり状況を制御する方を選んだ。

「数年前のジロで、ナイロ・キンタナが前方へと走り出していったあの区間と、ちょっと状況が似ていた(2014年第16ステージ)。だから僕は、彼から絶対に目を離さなかった。キンタナが同じことを再びやらかしてしまわないように」(フルーム、公式記者会見)

おかげで順調にタイム差は開いた。山を登って降りた後の、補給地点では最大7分のリードを得た。中間ポイントでは、まったく争わずして、サガンが満点の20ptを懐に入れた。この現役世界チャンピオンが、念願のマイヨ・ヴェールを取り戻した時点=残り75kmでも、タイム差は6分半近く残っていた。

後方のメイン集団が、追走を試みなかったわけではない。スプリンターと呼ばれる部類の中で、アンヴァリラ登坂を終えても力を残していた者たちは、集団フィニッシュに持ち込もうと目指していた。とりわけアレクサンドル・クリストフが、チームに追走作業を命じた。しばらくはカチューシャが孤独に隊列を走らせ、イアムも途中から協力体制に入った。前方にシャヴァネルを送り込んだディレクトエネルジーも、後方ではブライアン・コカールのために牽引作業を開始した。

ところが終盤に入ると、またしても悪天候が、逃げ集団に味方する。細かい雨と強い横風の中、メイン集団に、軽い分断が発生したのだ。ここでも、やはりフルームが、危険回避に動いた。スカイの面々と共に集団先頭に進み出ると、プロトンに「蓋」を閉めた。追走チームは完全に封じ込まれた。万事休す。一方で逃げ集団の選手にとって、この横風こそが、目的を「逃げ切り」から「ステージ優勝」へと切り替える絶好の機会だった。

「僕はステージの間中、エネルギーをたくさん使った。こういった大きな逃げでは、多くの選手が働こうとしないんだ。だから全員がしっかり先頭交代するよう、常に目を配った。そして横風区間に入ったところで、自らアタックをかけた」(サガン、ゴール後TVインタビュー)

ゴール前25km。サガンが猛烈に加速を切ると、集団内の邪魔者を一気に吹き飛ばした。15人中9人が犠牲となった。ただオリカの3人に、フレフ・ヴァンアーヴェルマート、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン、サミュエル・ドゥムランだけが、サガンに足並みをそろえた。

サガンはその後も、寛大すぎるほどに、努力を惜しまなかった。最後の3級峠に突入する手前まで、ダーブリッジとほぼ2人で、スピードアップを繰り返した。オリカでは続いてインピーが、牽引役を引き継いだ。時に猛烈な加速で、世界チャンピオンを引きちぎりにかかるも、必ずサガンは自ら穴を埋めに行った。マシューズはただ2人のチームメートの仕事を信頼して、ひたすらアルカンシェルに張り付くだけだった。昨秋の世界選手権で銀メダルに泣いたときのような状況には、決して陥らない自信があった。あの日はサガンの独走を許し、チームメートが自らに対してスプリントを打ってきて……。

「僕とサガンは、これまで何度も一騎打ちをしてきた。たとえばツール・ド・スイスでは、彼に2度敗れている。サガンこそが、今日、破るべき男であることはわかっていた。間違いなく、逃げ集団の中で、彼こそが最強だった」(マシューズ、公式記者会見)

残す3選手も、サガンとオリカの仕事を利用しつつ、勝負の時をうかがった。ドゥムランとヴァンアーヴェルマートは、どうやらゴールスプリントを狙っていた。ボアッソンハーゲンは向かい風吹き付ける下り坂で、大きな一発を打つことにした。やはりサガンに回収された。

「僕も幾度もアタックをかけたけど、上手くいかなかった。オリカの選手がラスト3kmでも仕掛けてきたけれど、いつものように僕自らが追いかけた。そして、こういったすべての作業が、僕の脚に蓄積されていった」(サガン、ゴール後TVインタビュー)

4人によるスプリントフィニッシュへともつれ込んだ。常に最後尾で力を温存していたヴァンアーヴェルマートが、今大会2勝目に向かって、真っ先にスピードを上げた。サガンは前をふさがれ、タイミングが遅れたが、やはり最後の力を振り絞ってペダルを回した。ボアッソンハーゲンとドゥムランも、それぞれツール区間を制したことのある俊足で、スプリントに加わった。

しかしオージーの勝利への執念が、この日はすべてを凌駕した。自分のためにあらゆる力を尽くし、犠牲にさえなってくれたチームメートを、絶対にがっかりさせたくはなかった。しかもブエルタではすでに区間3勝+マイヨ・ロホ3日間、ジロでは区間2勝+マリア・ローザ8日間の経験を持つというのに、ツールだけは今だ1勝もしたことがない。

「2年前は渡英直前に落車して、大会にさえ出られなかった。1年前は第3ステージで落車して。今年もすでに3回も落車している。だから、きっとこのレースは、僕ためのものじゃないんだな……とさえ考え始めていた。でも休養日に、妻が応援に来てくれた。色々と話を聞いてくれて、僕のやる気を奮い立たせてくれた。そして今日、夢がかなった」(マシューズ、記者会見)

精一杯働いたサガンは、2位で1日を終えた。第2ステージの優勝で、ようやく2位シリーズは終わりを告げたか……と思われたのだけれど。人生17度目のツール区間2位だった。ただ中間ポイント20ptに加えて、2位のゴールポイントを25pt手に入れたおかげで、表彰台では悠々とマイヨ・ヴェールを着こんだ。山にてこずり、悪態をついた2位マーク・カヴェンディッシュとの差は38pt。

マイヨ・ジョーヌの思惑通り、静かに淡々と走り続けたメイン集団は、9分39秒遅れでフィニッシュへとたどり着いた。「今はただ、7月14日のモン・ヴァントゥのことを、考えている」と、クリス・フルームは公式記者会見で語った。ピノもほぼ同じ発言を、表彰式後のミックスゾーンで繰り返した。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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