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【リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ / レビュー】有能すぎる補佐役が栄冠掴む「ここまでたどり着くために、どうしてこんなに時間がかかったのかわからない」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか冷たい雨の中、春の主役たちが次々と脱落していく一方で、これまで主役になりきれなかった選手がついに舞台の中央に躍り出た。
「今日は君に勝って欲しい」
ストラーデ・ビアンケ、ミラノ〜サンレモ、フレッシュ・ワロンヌと今季3つのクラシックを制したジュリアン・アラフィリップに、……つまりはストラーデ・ビアンケ、アムステル・ゴールドレース、フレッシュ・ワロンヌで一騎打ちを繰り広げた最大のライバルに、レースの最終盤、ヤコブ・フグルサングはこう声をかけられたという。
水曜日にラスト130mで自らを追い抜いたアラフィリップを、「良い友達」と称したフグルサングは、その言葉に背中を押されるようにラ・ロッシュ・オ・フォーコンで飛び出した。2019年リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで、34歳ベテランが、プロ人生で初めてのクラシックタイトルを手に入れた。
ちょうど10年前にサクソバンクからUCIプロチーム(現UCIワールドチーム)デビューを果たしたフグルサングにとって、実は、初めて「エースを勝たせたクラシック」もまたリエージュだった。
当時24歳の新人は、チームの絶対的スターであるアンディ・シュレクのために、重要な任務を帯びていた。「常に速いテンポを刻むよう命じられた」とレース後に語ったように、最終盤まで猛烈にメイン集団を牽引するフグルサングの姿を、映像でもはっきりと確認することができる。
「僕と同じく、アンディもスプリンターではなかった。だから、彼に倣って、僕もラ・ロッシュ・オ・フォーコンでライバルたちを振り払うべきだと分かっていた」
そう、まさにアンディが優勝に向かって飛び出した同じ坂道で、フグルサングも独走態勢へと持ち込んだ。「坂の上をフィニッシュラインに見立てて、全力で踏見抜いた」後、濡れた路面など構わずに、残り15kmを単独先頭で走り抜いた。
ちなみに2019年リエージュ前夜、ベルギーのル・ソワール紙のウェブサイトに、アンディによる優勝予想ビデオが掲載された。実はフグルサングより3ヶ月年下の若きご隠居さんが、大本命5つ星に推したのは、もちろんかつての忠実なるアシスト!
それにしても長い道のりだった。本人は「ここまでたどり着くために、どうしてこんなに時間がかかったのかわからない」と頭をひねっているらしいが、おそらく理由の一つは、補佐役として有能すぎたせいだ。
リエージュ優勝どころか、2010年と2011年のツール・ド・フランスでは、アンディを総合2位(2010年は繰り上げ優勝)に導いている。「もっと自分の成績を追い求めたい」と2013年にアスタナ入りし、同年のツールでは総合7位と堂々たる成績を残した。しかし、ここでも、むしろニバリのアシスト役として重宝された。2014年ツール&2016年ジロでは総合優勝にきっちり貢献。特に元U23マウンテンバイク世界王者は、2014年ツールの石畳ステージで、見事すぎる働きを披露している。
有能な仕事人が、エースへと生まれ変わったきっかけは、2016年のリオデジャネイロ五輪での銀メダル獲得。自らの高いポテンシャルに改めて気がつき、フルサングはチーム上層部に直訴した。僕をエースにして欲しい、と。
チームマネージャーのヴィノクロフは、つまりこの願いを聞き入れたわけだが、きっと後悔はしていないはずだ。翌年のクリテリウム・デュ・ドーフィネでは、見事な大逆転総合優勝を収めた。昨季はツール・ド・スイスで総合2位に食い込んだ。残念ながら2019年リエージュ当日のヴィノは、ウズベキスタンでアジア選手権に立ち会っていたのだけれど……。
ただしフグルサングが最も熱望するツール・ド・フランスは、いまだ思うような成績を出せずにいる。2017年は絶好調で乗り込みながら、落車負傷が響き、第13ステージでリタイア。2018年大会は10日目まで総合4位と極めて好調さを保ちながらも、アルプス中日にハンガーノック気味で順位陥落(総合12位で終了)。
幸いにもこの7月も、チームから総合エースの座を確約された。狙いはずばりパリの総合表彰台。人生最高の春を過ごしたフルサングに、人生最高の夏が訪れるかもしれない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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