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サイクル ロードレース コラム 2016年7月17日

ツール・ド・フランス2016 第14ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ピレネーを終え、モン・ヴァントゥを越えても、マーク・カヴェンディッシュの勢いは止まらなかった。古なじみの最終発射台マーク・レンショーは途中リタイアしたけれど、代わりにライバルのマルセル・キッテルの後輪に滑り込んだ。そのキッテルからは、「スプリントラインを変えた」と抗議も受けたが……。何の問題もなく、カヴが今大会4勝目を手に入れた。ツール・ド・フランスにおける通算ステージ勝利も、ついに30勝に届いた!

朝のスタート地は、ゆるりとした雰囲気が漂っていた。連日の暴風に、選手たちが少々疲れ気味だったせいだろうか。それとも山だらけの最終週に突入する前に、ほっとしたひと時を味わいたかったのだろうか。ヴィラージュ(スタート地のスポンサーブースゾーン)にはたくさんの選手たちが、リラックスしにやってきた。コーヒーを飲んだり、お菓子を食べたり、ただおしゃべりしたり。

2日前にニースで起こったテロの犠牲者に、1分間の黙祷を捧げた後、音楽のないスタート地をプロトンは走り出した。その後もスローモードは継続された。北へとほぼ真っすぐに上がっていく道に、ひどく強い向かい風が吹き付けていたせいでもある。25km走っても、アタックは一切かからなかった。

「こんな日だから、自分から逃げに乗ろうとう選手など、まるでいなかった。でも僕は何もせず、ただプロトン内で過ごしたくなんてなかった。特に(ティボ)ピノがリタイアっしたから、チームの士気を立て直すためにも、何かしたかったんだ。だから逃げを打った。幸いにも、3選手が僕についてきてくれた」(ジェレミー・ロワ、ゴール後ミックスゾーンインタビュー)

こうして2011年スーパー敢闘賞のロワが、28km地点で、真っ先にアタックをかけた。チェザーレ・ベネデッティ、アレックス・ハウズ、マルティン・エルミガーが試みに賛同した。こんな勇敢な4人を見送った後も、メイン集団はあいかわらずゆっくりとペダルを回した。序盤3時間の走行平均時速は33.5kmと、開催委員会が予想した時速40〜44kmを大幅に下回った。

「今朝は疲れを感じていた。おそらく総合系の選手たちも、みんなぐったりしていたと思うよ。辛い数日間を終えた後だったから、静かに過ごしたかった。特に明日からは難しいステージが待っているし……。体調を回復させ、リラックスするためには、こんな1日はウェルカムだった!」(フルーム、公式記者会見)

沿道の声援は変わらず、にぎやかにツールを盛り立てた。フランス選手の今ツール初勝利を待ちわびるフランスのファンたちは、特にフランス人のロワを贔屓した。またリヨンのグランゼコールでエンジニア免状(フランス最難関資格のひとつ)を取得したロワにとって、この日のステージ地はいわゆる第2の故郷でもあった。

「特に最終盤は、道を隅々まで知っていたから。それに、自分のために自由に走れるこんな機会を、最大限に利用する手はなかった」(ロワ、ゴール後TVインタビュー)

タイム差は最大4分45秒にまでしか開かなかった。スピードは速くなかったけれど、それでも、メイン集団のスプリンターチームは逃げ切りを許すつもりもなかった。なにしろこの日を終えたら、残すチャンスは第16ステージのベルヌと、最終日シャンゼリゼの2回しかない。だから、じわり、じわり、と4人との距離を縮めていった。

中間スプリントに向けてエティックス・クイックステップが列車を組み、しかし緑ジャージのペーター・サガンが先頭をかすめ取った後、メイン集団は本格的な追走体制に切り替えた。ほぼすべてのスプリントチームが、交代で先頭を猛烈に牽引した。ゴール前25kmでタイム差は17秒。吸収は時間の問題だった。

ロワとエルミガーは、その時間をできるだけ引き伸ばそうと、夢中でペダルを回した。ゴール前15kmでハウズが先行を断念し、残り10kmでベネデッティが力尽きても、決して諦めようとはしなかった。特にラスト10kmは「ドンブ地方」と呼ばれ、平原と沼地とかが混在し、風の吹きぬける土地として知られている。もしも突風がメイン集団を煽れば、何が起こるか分からないのだから……。

しかし、もしも、は起こらなかった。フィニッシュ前3.5kmまで粘り続けた2人は、握手で互いの健闘を称えあい、大きな集団に飲み込まれていった。先頭の座を、無念にもスプリント集団に譲り渡した。

今大会いまだスプリント初勝利を追い求めるカチューシャのアレクサンドル・クリストフが、積極的に隊列を組み上げた。エーススプリンターのナセル・ブアニは欠場したものの、スプリント用アシストはそのままそっくりツールにやってきたコフィディスが、クリストフ・ラポルテのために列車を引いた。なにより34歳の誕生日を勝利で祝いたいアンドレ・グライペルのために、ロット・ソウダルはラスト1kmのアーチを先頭で潜り抜けた。

3つの真紅ジャージを切り裂くように、先頭に走り出たのは、エティックスのブルートレインだった。キッテルを連れて最前線へと競り上がると、第4ステージ勝者を最高のポジションへと解き放った。

「脚の調子は良かったし、ポジションも最高だった。そしてゴール前約250mでスプリントを切った。でも、僕が先頭を走っているときに、カヴェンディッシュが猛スピードで上がってくるのを感じた」(キッテル、ゴール後TVインタビュー)

道路の右端を駆け上がっていたキッテルの後輪には、実はしばらく前からカヴがぴったりと張り付いていた。そして、ラスト200m、「マン島特急」は左側へと飛び出した。

「僕の本能は『もっと早く飛び出せ』って言っていたんだけれど、とにかく我慢した。キッテルはかなり早くスプリントを切った。しかもフィニッシュの2km手前から、向かい風の中で、アシスト4人に猛烈な仕事をさせていた。だから、この頑張りが、逆に彼の足を引っ張るに違いないと予測していたんだ。僕はひたすら辛抱強く待った。彼のスピードが落ちた時に、追い越しをかけるだけでよかった」(カヴェンディッシュ、公式記者会見)

左側から抜き去りながら、しかしカヴェンディッシュは、ほんの少し右側へと体を傾けた。そのままカヴェンディッシュは先頭でフィニッシュラインを越え、4本の指を突き出した。キッテルは接触の危険を感じ、思わずブレーキをかけた。区間5位に沈んだ。

「単純に、落車の危険を避けるためだった。彼の動きは間違いなく、最終結果に大きな影響を及ぼした。彼はもっと正しい走りをするべきだった」(キッテル、ゴール後TVインタビュー)

「僕は前にいたから、何が起こったのかは見ていない。後で映像も見直したし、この後も見直すつもりだけれど、彼の方が僕に接触してきたのであって、その逆はあり得ない。彼とはまだ話をしていないけれど、単にこう言いたかっただけなんだと思う。『よくやったな』と」(カヴェンディッシュ、公式記者会見)

英国人とドイツ人の間には、アレクサンドル・クリストフ、サガン、ジョン・デゲンコルブの3人が割って入った。またグライペルは過去5回のツール出場時と同じように、バースデー勝利をつかみ取ることは叶わなかった。

時速36km台でゆっくりと走り終えたツール一行は、翌日からいよいよアルプスへと進路を取る。ピュアスプリンターたちにとっては、試練の日々がやってくる。それでも残り1週間で、スプリント機会は2回残っている。区間4勝のカヴェンディッシュにとって、2009年以来となる1大会6勝=ツール通算32勝も、決して無茶な夢ではない。

「ただ自分の限界を超えるつもりはないんだ。リオ五輪に行く前に、自分で自分の首を絞めるつもりはない。でも、今のところは、すべてが上手くいっている。精神的にも乗っている。だから、最後まで、この調子で続けていきたいね」(カヴェンディッシュ、公式記者会見)

一方の総合ライダーたちにとっては、翌日から、ついに山だらけの楽しい最終週がやってくる。特にモンブランを中心に、4日間のアルプス難関山岳ステージが待っている!!

「確かにこのタイム差(2位以下に1分47秒)のおかげで、僕はほんのちょっとだけ、ほっと息をつく余裕を持てる。でもパリはまだ遠い。アルプスのステージは、どれもすごく難しい」(フルーム、ゴール後インタビュー)

マイヨ・ジョーヌの意見によれば、1)ナイロ・キンタナは3週目にこそ真価を発揮するから要注意、2)アレハンドロ・バルベルデは絶好調だから要注意、3)ティージェイ・ヴァンガーデレンとリッチー・ポートのBMCコンビは要注意、4)バウク・モレマはタイムトライアルで絶好調さを証明したし、なによりモン・ヴァントゥで自分のアタックについてきたから要注意--とのこと。

「明日も、難しい上りと下りが待ち構えている。下見をしたから、よく分かってるんだ。もしかしたら、山頂フィニッシュではないから、過小評価している選手もいるかもしれない。でも、獲得標高は、実に4000mにも上る。きっと明日のステージは、今後の争いの鍵となるよ。特にコロンビエール峠からの最終ダウンヒルは、勝負を大いに左右するだろう」(フルーム、公式記者会見)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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