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焼け付くような太陽の下で、前と後ろの、ふたつのレースが繰り広げられた。30人の巨大な逃げ集団は、最後には2人になってフィニッシュラインへ飛び込んできた。スプリントでハリンソン・パンタノが初めてのツール区間勝利を手に入れ、精力的に加速を繰り返したラファル・マイカは山岳ジャージ奪還で満足するしかなかった。総合勢からは軽いジャブを繰り出した選手もいたが、結局のところ、誰一人としてスカイのかけた閂をぶち壊すことはできなかった。ほぼ全員が引き分けで1日を終えた。
前方のレースは、マイカこそが、間違いなく中心人物だった。スタートから20km過ぎの1級峠で、真っ先に飛び出すと、勢いよく先頭で駆け上がっていったのだ。なにしろ2014年に山岳賞を持ち帰ったヒルクライマーは、赤玉ジャージにほんの13ポイント足りなかった。もちろん6つの難峠が一気に登場するこの日は、大逃げ=ポイント収集の旅におあつらえ向けだ。こうして得意の山の脚を思う存分発揮すると、1つ目の山からさっそく満点10ptを懐に入れた。
山を下るころには、逃げ集団は30人にまで膨らんでいた。マイカにとっては、決して心穏やかな状況ではなかったはずだ。山岳賞3位のダニエル・ナバーロ、4位トム・デュムラン、6位セルジュ・パウエルス、7位スタフ・クレメントと、うっかりすると危険人物になりかねない選手たちもグループに滑り込んでいたからだ。
特にパウエルスは3つ目と4つ目の3級山岳で、マイカにタイマンを張ってきた。アンドラで山頂フィニッシュを制したデュムランは、超級手前の小さな登りを利用して、独走態勢に持ち込もうとさえした。またヴィンチェンツォ・ニーバリやドメニコ・ポッツォヴィーボ、パンタノという山岳巧者も、先へと突進した。しかし抜け駆けの企みは、全て上手く握りつぶした。あまりに大きすぎた先頭集団も、13人にまで絞り込んだ。
超級のグラン・コロンビエでは、イルヌール・ザカリンが最初に仕掛けた。今ジロ最終盤、ダウンヒル中の落車負傷で……総合5位のままリタイアしたロシア人に、最終的な今ジロ総合5位のマイカはすかさず飛び乗った。どうやらザカリンは山岳賞には興味がなかったから、争わずして超級の満点25ptも手につかんだ。
上りも難しいけれど、グラン・コロンビエは、テクニカルな下りでも有名だ。そんな細く曲がりくねった危険な道を利用して、ジュリアン・アラフィリップとパンタノはまんまとマイカ&ザカリン先頭に追いついた。それどころかアラフィリップは、ひとりでどんどん先へと行ってしまった!
ところが、すぐに、フレンチパンチャーが道端に立ち止まっている姿が目撃される。チェーンの調子がおかしく、ついには完全に外れてしまったのだ。
「前で戦えて満足してる。でも、些細な問題で足止めを食らったことには、がっかりしているんだ。だって本当に全力を尽くしたし、最終盤の地形は僕にぴったりのはずだったから」(アラフィリップ、ゴール後TVインタビュー)
フランス人による今大会初ステージ勝利の希望は消え去り、また、ロシア人による優勝の可能性も吹き飛んだ。ザカリンはいつの間にか、先頭集団から姿を消していた。原因はどうやらメカトラブルのせいでも、ジロ落車によるトラウマでもなかった。
「下りの途中に、片方のコンタクトレンズが外れたんだ。つけ直そうとしたけれど、戦いは緊迫していたし、スピードも速かった。だから結局はつけ直せなかった。片方のレンズだけで走り続けなきゃならなかった。片目は良く見えて、もう片目はまるでよく見えないから、難しかったんだ。僕にできることは何もなかった」(ザカリン、チーム公式リリース)
そしてマイカとパンタノは2人になった。最終峠1級ラセ・デュ・グラン・コロンビエの上りで、マイカは力強いアタックを決める。先頭通過10ptを獲得するためであり、もちろん、区間勝利をつかみ取るためでもあった。しかし、またしても下りで--超級グラン・コロンビエからの下りの下半分がそのまま使用された--、パンタノは追いついてきた。
「山岳ジャージとステージ優勝を両方獲りにいくのは、決して簡単なことではない。それでも全てが欲しかった。もしもゴールが山頂だったら、結果は違っていただろう。でも下りでは、あまりリスクを冒したくなかった。4日前に落車したせいで、腕を痛めていたから。未だに道路の振動が腕に響いて痛いんだ」(マイカ、ミックスゾーンインタビュー)
ゴールは下った先だった。だから下りで2度追いついてきたパンタノに、勝利の女神は微笑んだ。スプリント力でも一歩上回り、本人にとっては人生初めてのグランツール区間勝利をつかみ取った。ちなみに、ほんの1か月ほど前に、ツール・ド・スイスでプロ初勝利(欧州初勝利)を手に入れたばかり。
「去年の僕はプロとしての走り方を学んだ。今年は確認の年だった。ツール・ド・スイスを勝った後でさえ、今日の勝利をつかむために、さらに成長を遂げたのさ」(パンタノ、公式記者会見)
ところで所属チームのIAMは、ジロ開催中に「今シーズ末での解散」を発表したものの、皮肉にもその2日後にチーム創設以来初めてのグランツール勝利を祝っている。どうやらその後、オーナーのミシェル・テタズ氏は、改めて「来季」に向けたサブスポンサーを探し始めているらしい。偶然か必然か、翌日第16ステージから3日間、ツール一行はIAMの登録国スイスで過ごす。パンタノの快挙が、もしかしたら、何か明るい話題につながるだろうか。
2位に終わったマイカは、この日だけで山岳ポイント50ptを荒稼ぎ。当然、念願の山岳ジャージに袖を通し、敢闘の証「赤いゼッケン」もご褒美に授与された。
後方のレースで、最初に動いたのはアスタナだった。スカイが制御するメインプロトンは、逃げに9分近いリードを許し、ただ淡々とリズムを刻んていた。ところが超級グラン・コロンビエにさしかかると、突如として、水色のカザフスタン軍が加速に転じた。しかも、下りでは、前に逃げていたニーバリとタネル・カンゲルトと合流し、隊列の強化を図った。メイン集団は一気に小さくそぎ落とされた。
そして、続く1級の「つづら折り」グラン・コロンビエで、満を持してリーダーのファビオ・アルがアタックを試みた。一度、二度、と加速を畳みかけた。
これをきっちり回収に向かったのが、スカイの山岳アシスト、ワウテル・ポエルスだった。総合ですでに5分以上遅れている選手の攻撃など、マイヨ・ジョーヌ自らが動くほどの謀反でもなかったのだろうか?この春リエージュ〜バストーニュ〜リエージュを制した「他のチームなら間違いなくリーダーに指名されるべき強者」(byフルーム)は、すぐに後輪に張り付くのではなく、ただテンポを一段上げることだけで対処した。
やはり最終峠の、もう少し山頂間際では、今度はロメン・バルデが攻撃に転じた。
「よく知っている道だったし、大好きな道だから。なにより、その後にカーブの多い下りが待っていたからね」(バルデ、ゴール後インタビュー)
総合7位の加速に対しても、やはりポエルスが引っ張り上げる役目を果たした。今回は、単に「淡々と」ではなかった。バルデに先頭でダウンヒルを行かせてはならない、とばかりに、山頂間際では少々「荒々しく」先頭を奪い返した。
「スカイ相手に、あんな攻撃の仕方は、必ずしも最良の選択肢ではなかったかもしれない。協力し合えるような誰かが、後ろから僕を追いかけてきてくれたらよかったんだけど、結局は誰も来なかった。だから僕自身も、それほど無理には粘らなかった」(バルデ、ゴール後インタビュー)
アルの時も、バルデの時も、実はモヴィスターのアレハンドロ・バルベルデが同調するような動きを見せている。またモヴィスターは、エスケープにも2人アシストを忍び込ませていた。いずれもチームリーダーのナイロ・キンタナのもしものアタックに備えて……とのことだったが、スペインチームのアシストは何も効果的な働きはできなかった。
フルームは有能なアシストの背後で、厳しい道のりにも、ひどい暑さにも負けず、落ち着いて走り続けた。ただ1度だけ、びっくりするような行動をとった。やはりラストの1級峠だった。突然アシストの後輪から飛び出すと、ほんの数回クルクルクル、とペダルを高速で回した。かと思うと、一瞬でまた、元の静かなリズムを取り戻した。これは、いわゆる、フェイントだった。
「ライバルたちの状態を見極めたかったんだ。誰が僕の後輪にはりついてくるのか、この先アタックを打ってきそうな選手は誰なのか。そんなことを把握しておきたかった。キンタナはすぐに、僕の後輪に飛び乗ってきたね」(フルーム、公式記者会見)
山頂間際での攻撃予告、も実は兼ねていた。結局それも前述のとおり、バルデとポエルスの一瞬の攻防に取ってかわった。下りでバルデとバルベルデが、もう1度だけ共謀を仕掛けるが、何も劇的なことは起こらなかった。
「もっと他のチームや他の選手が仕掛けてくるに違いない、って思っていたから、今日の状況には少し驚いている。おそらく誰もが体力的に限界で、違いを作り出せるほどの強さを持っていなかったのだろう」(フルーム、公式記者会見)
こうして総合の上から13人中、12人は仲良く揃って、同タイムでフィニッシュラインを越えた。ただ1人だけ、ティージェイ・ヴァンガーデレンが1分28秒を失い、総合6位から8位へと後退した。
翌第16ステージには、ツールはスイスのベルンへと入場する。今年限りの現役引退を宣言している、ファビアン・カンチェラーラの生まれ故郷だ。なにやらツールの現場では、ベルンでカンチェがツールをリタイアするらしい、という噂話が流れている。嘘か誠か。ただもしも本当だとしたら、ファンにとっては少々悲しい決断だけれど……。だったら堂々と、勝ち逃げを狙ってもらうしかない!
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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