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サイクル ロードレース コラム 2016年7月21日

ツール・ド・フランス2016 第17ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ジロ・デ・イタリアでの鎖骨・肩甲骨骨折から、ツール・ド・フランスの独走勝利まで、たったの8週間。自らを光の当たる場所へと押し出してくれた、2015年ツール・ド・ロマンディの舞台で、イルヌール・ザカリンが見事なる復活劇を果たした。マイヨ・ジョーヌのクリス・フルームは、2015年まで自らの忠実なアシストを務めてくれた盟友の後輪に、思わず飛び乗った。おかげで自らの体力を無駄遣いすることなく、大部分のライバルたちから数秒をかすめとった。特に「3週目の危険人物」であるナイロ・キンタナを、さらに28秒突き放した。

2度目の休息日を終えて、パリへまた一歩近づいた。8月のリオ五輪に向かうマーク・カヴェンディッシュとローハン・デニスは、ちょっとだけ早めに帰宅の途に付いた(ファビアン・カンチェラーラも、故郷ベルン発のステージを走り終わってから、やはり五輪準備のためにリタイアした)。ほんのひとまわりだけ小さくなったプロトンは、35度を超える猛暑の中に、猛スピードで飛び出していった。

走り出しの1時間目が、なにしろ時速51.8kmという超高速レースだったものだから、すぐには逃げ集団は決まらなかった。延々70kmほども走って、この日最初の3級峠に差し掛かると、ようやくひとつ、またひとつ、と複数の塊が前方へと飛び出した。合流と離脱を繰り返し、最終的には14人の大きな先頭集団が出来上がる。

その逃げを沸かせたのが、ティンコフの2人だった。一方は山岳賞首位のラファル・マイカ。もう一方がポイント賞首位のペーター・サガン。しかも、この日の世界チャンピオンが成し遂げたのは、いわゆるおなじみ「山岳ステージでポイント収集」だけではなかった。

「ペーターが僕を逃げ集団まで連れて行ってくれた。まるで機械のように、登りでも牽引を続けてくれた。おかげで僕はポイントを取れた。今日の彼は本当に強かった」(マイカ、チーム公式リリース)

2つ目の3級峠では、緑ジャージが赤玉ジャージを引くという、ひどく貴重なシーンが目撃される。まあ、今年の第11ステージには、緑ジャージと黄色ジャージが手と手を取り合って、風の中を逃げ出す……という仰天な展開もあったわけだけれど。

「今日は最初から、2人でトライするつもりだった。でも序盤の平地は猛スピードだったし、そこから後は山だったから、逃げを制御するのがすごく大変だったよ。あまりにラファのために働いて、エネルギーを消耗したものだから、中間ポイントでスプリントできるかどうかすら定かじゃなかった」(サガン、ミックスゾーンインタビュー)

もちろんサガンは、きっちりと中間ポイントで一位通過を果たす。チームメートのために働きつつ、20ptを確実に手に入れた。ポイント賞2位だったカヴが大会を去り、新2位マルセル・キッテルとの差は197ptで、しかも残り4日間で収集できるポイントは全部で170ptしかない。つまるところ、この時点で、サガンの5年連続5度目のポイント賞受賞がほぼ確定したのである。残された条件はふたつだけ。1)制限時間アウトの救済処分を受けて、ポイントをマイナスされないこと。2)パリまで完走すること!

中間ポイントを過ぎ、1級フォルクラ峠へと入ると、サガンは静かに消えていった。先頭集団も10人に絞り込まれた。それでも、ずっと働いてくれたチームメートの努力に報いるかのように、山頂を先頭通過したのはマイカだった。ちなみに、アルプスの3日間を残しているせいで、いまだ山岳ジャージは確定していない。

このフォルクラの下りで、先頭はさらに2人に絞り込まれる。真っ先にダウンヒルへと飛び込んだマイカに、ハリンソン・パンタノが共鳴したからだ。いや、むしろ第15ステージと同じように、コロンビア人こそが見事なダウンヒルテクニックを発揮した。3日前は、マイカが上りで2度突き放し、パンタノが2度下りで追いついた。勝負の行方は一騎打ちスプリントに持ち込まれ、パンタノに軍配が上がった--。

ただし、今回は、下りフィニッシュではないのだ。だから当然、レース展開は異なる方向へと進んでいった。3日前に両者と共に先頭を走りながら、「コンタクトレンズがずれた」という理由で下りで千切れたザカリンは、この日もやっぱり下りでは遅れた。ところが、最終峠を上り始めて、ほんの1.5kmほどで、ロシアンクライマーがまんまと前を行く2人を捕らえた。それどころか、さらに2kmほど先で、あっさり両者を振り切った。ザカリンが単独で先頭に立った。

ここはブエルタか……と錯覚を覚えるほどの、ひどく細くて急な坂道が、最終峠には待ち受けていた。それでも、上り詰める価値ある山だった。ラスト3kmのヘアピンカーブを抜けると、モン・ブランの白く崇高な姿が、感動的なほどにはっきりと見える。どん詰まりのその先には、白濁した青緑の湖が隠されていた。第103回目のツールが史上初めて訪れたエモッソンダムに向けて、ザカリンは夢中で上り続けた。

「ジロでの落車リタイアは、本当にがっかりしたんだ。だって表彰台を狙っていたのに、大会も残すところあと数日、というところで全てを失ってしまったんだから。すごく辛かった」(ザカリン、公式記者会見)

最終日前々日にチーマ・コッピの下りで落車し、肩甲骨と鎖骨を折った。人生2度目のグランツール出場で、総合5位と大健闘していたというのに、全てが一瞬で水の泡となった。事故翌日に区間を制したチームメート、レイン・タラマエの証言によれば、事故当夜にはすでに、チームメートたちに冗談を飛ばすほどまでに気持ちは回復していたようだが……。

「正直に言うと、精神的な面では、事故の2日後には再び自転車に乗る準備ができていたんだ。モチベーションはすごく大きかった。だから可能になるとすぐに、トレーニングを開始した。好調の波をツールの3週目に持ってこられるよう、ベストを尽くした」(ザカリン、公式記者会見)

1週目はボトル運びや、スプリントエースのための仕事を買って出た。そして、目標としていたツール3週目の、最初の日に、大きな栄光をつかんだ。ツール・ド・フランスには初出場で、だから初めての区間優勝だった!

「ツールはシーズンで最も重要なレースだ。いつの日か、1度は表彰台に上がりたいと夢見ているんだ」(ザカリン、公式記者会見)

ロシアの26歳がいつの日か……と夢見る場所を、後方のメイン集団は真剣に争っていた。マイヨ・ジョーヌ擁するスカイ列車に、真っ先に割って入ったのはアスタナだった。すでに3つのグランツールでそれぞれに優勝を手にしているヴィンチェンツォ・ニーバリが、後輩ファビオ・アルのために高速でリズムを刻んだ。また3つのグランツールでそれぞれに表彰台に上った経験を持つアレハンドロ・バルベルデは、やはり後輩ナイロ・キンタナのために、数度のアタックで集団をかく乱した。

しかし、いずれの陣営も、フルームの本気を引き出すことはできなかった。マイヨ・ジョーヌはただ黒い隊列を信頼し続けるだけでよかった。驚異的な山岳アシストのワウテル・ポエルスが、たいていの謀反人はしっかりと回収してくれたから。

「他のチームと僕のチーム違いは、8人のチームメート全員が、同じ目標を抱いていること。他のチームはたいていスプリンターがいて、総合狙いがいて、しかも他の選手は逃げに乗ったりすることもできる。僕らのチームは9人全員が、完全に、ツールの総合優勝だけに全力を捧げている」(フルーム、公式記者会見)

ゴール前約2km、リッチー・ポートが加速すると、ようやくフルームは自ら対応に向かった。……ただし、昨季までの信頼できるアシストの後輪に飛び移った後は、見慣れた背中を見つめながら、走り慣れたスピードに乗っただけ。リッチーを蹴落としてさらに先を行くこともせず、かといって先頭交代をすることもしなかった。総合2位以下に、すでに1分47秒以上の差をつけているマイヨ・ジョーヌにとって、どうやら積極的にタイムを奪いに行くべき日ではなかった。

「リッチー以上に速く走ることが、可能だったとは思わない。それに戦術的に考えると、僕にとっては、自分から前に出る必要も、牽引する必要性も感じなかった。だってアルプス巡り4日間の、まだ1日目にすぎないんだから。なにより明日は、極めて重要なタイムトライアルが待っているし」(フルーム、公式記者会見)

ただポートの後輪で1日を終えたフルームは、それでも、ポート以外のあらゆるライバルからタイムを奪い取った。総合3位アダム・イェーツから8秒、総合5位ロメン・バルデから11秒。最終峠で苦しめられた総合2位のバウク・モレマからは、この日だけで40秒もの差をつけた。そして、なにより、フルームが最も恐れているキンタナを、新たに28秒突き放した。

「キンタナもアタックしようと試みていたけれど、もしかしたら、去年のような脚の調子ではないのかもしれない」(フルーム、公式記者会見)

過去2回、フルームに次いでツール総合2位に終わっているキンタナは、遠ざかっていくポートとフルームの後ろで、加速を試みたこともあった。しかし、努力の直後に、脚が止まった。さらにはイェーツやバルデ、アルやルイ・メインチェスといった……年下の選手たちから、次々に置き去りにされていった。今現在は3分27秒差の総合4位につけている。表彰台までも34秒と、遅れは決して小さくはない。

「僕はまだ26歳。僕よりも前に位置しているのは、非常に経験豊かな選手ばかり。マイヨ・ジョーヌ獲りの夢はこれで終わりではないし、この先まだ何年もトライを続けていく。それに、今からパリまでだって、まだ何でも起こり得るさ」(キンタナ、ゴール後囲みインタビュー)

またモレマ、ホアキン・ロドリゲス、ティージェイ・ヴァンガーデレンなど次々と総合候補が崩れていった一方で、ポートは大会前半のメカトラでの遅れを、じわじわと取り戻しつつある。現在は4分27秒差の総合6位。つまりキンタナからまる1分遅れ、表彰台までは1分34秒遅れとなるが……。

「本気で表彰台に乗りたい。まだパリ到着前に、難しいステージが3つ残っている。特に明日の登坂タイムトライアルは大好きなタイプ。きっと総合を左右する、大切なステージになるだろう」(ポート、ゴール後インタビュー)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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