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グランツール開幕わずか3日目に、ステージ序盤からの逃げが決まった。ブエルタ・ア・エスパーニャでは、2011年の第3ステージで、パブロ・ラストラスが大逃げ勝利をつかみ取って以来の、極めて珍しい現象だった。独走を決めたアレクサンドル・ジェニエがガッツポーズを握りしめた背後では、メイン集団のルーベン・フェルナンデスが、両手を天に突き上げてマイヨ・ロホ獲りを成功させた。直後にはアレハンドロ・バルベルデ、クリス・フルーム、エステバン・チャベスが揃って力強く1日を終え、アルベルト・コンタドールは新たにタイムを失った。
スタートから15kmほど走った先で、7選手がまんまと逃げ出した。ジェローム・クザン、サイモン・ペロー、ダビ・アローヨ、ガティス・スムクリスがまずは飛び出し、しばらく先でジェニエ、リュトガー・ゼーリッヒ、ピーター・シェリーが合流した。メイン集団からはあっさり7分近いリードが許された。マイヨ・ロホのミハウ・クフィアトコフスキーと、3週間後のマイヨ・ロホ候補クリス・フルームを擁するスカイは、極めて淡々と集団制御に努めた。
行く手には2つの山岳と、激坂フィニッシュが待ち受けていた。ゴール前約60km、1つ目の山頂をさらいとった勢いそのまま、ペローが独走態勢に突入する。前ステージ終了時点でわずか総合1分13秒遅れの23歳は、どうやら「暫定」マイヨ・ロホの名誉だけでは満足できなかった。なにしろ所属チームのIAMは数か月後に解散するというのに、生粋のスイス人は、いまだ来季の行く先を見つけられていない。直前のツアー・オブ・ユタでも、幾度となく「就活」アタックを繰り返した。明るい来季を追い求めて、ペローはこの日も夢中でペダルを回した。
一方のジェニエは慌てなかった。逃げ切り勝利を手に入れようと、心に固く誓っていたからだ。だから前日の平坦ステージでも、タイム喪失などお構いなく、ひたすらエネルギー温存だけに努めた。この日も体力配分に注意しながら、逃げの友シェリーとできる限り協力体制を取った。後方メイン集団の動向をうかがいつつ、執拗に追走を続けた。ゴール前22km、2つ目の山頂手前で、ついに孤軍奮闘を続けるペローを捕らえた。
3人になった逃げ集団は、ラスト10kmに迫っても、いまだ4分近いタイム差を保っていた。なかなかリズムを上げようとしないスカイに、ついにしびれを切らしたモビスターやオリカ・バイクエクスチェンジが、急激なスピードアップを試みた。しかし、時すでに遅し。ステージを締めくくる激坂の麓に、3人はきっかり2分リードでたどり着いた。残すはたったの1.8km。たとえ目の前に立ちはだかるのが、平均13.8%、最大勾配29%という恐ろしい壁だったとしても......!
5月のジロでは、逃げもで総合でも好きなように狙ってよい......との「自由カード」を与えられながら、ジェニエは落車で手首を痛め、第4ステージで涙のリタイアを余儀なくされた。約2か月半の長く苦しいリハビリの果てに、7月末、クラシカ・サンセバスティアンでようやくレース復帰を果たした。同時に精神的にも、フレンチヒルクライマーは強く生まれ変わった。8月中旬にはツール・ド・ランの山岳ステージを勝ち取り、直後には「新しいチャレンジがしたい、今の場所で眠り込んでしまいたくない」と来季からのAg2r移籍を決意した。だから坂道突入と同時に、ためらわずペローを振り払った。さらにゴール前1km、力強い加速を切ると、シェリーも置き去りにした。
祖国のグランツールでは閉幕2日前まで待たされたフランスが、皮肉にもスペイン一周では、開幕わずか3日目にして区間勝利を祝った。ジェニエにとっては2013年ブエルタ第15ステージ以来、人生2度目のグランツール勝利。あの日のフランス側ピレネーは、ひどく寒くて、山道にはまばらにしか観客がいなかった。この日の激坂は、勝者の言葉を借りれば、まるでラルプ・デュエズのようにたくさんのファンに埋め尽くされていた。勝利の味は格別だった。
ジェニエが山岳賞とポイント賞も一挙に懐にしまい込んだ21秒後に、フェルナンデスが歓喜のフィニッシュを迎えた。現在フランスで行われている——そして日本代表チームも参加している——ツール・ド・ラヴニール、いわゆる「U23版ツール・ド・フランス」を2013年に制した25歳が、グランツールで初めてのリーダージャージを手に入れたのだ!
スカイから主導権を奪い取ったモビスターは、激坂への突入と同時に、さらなる猛烈さで攻め立てた。バルベルデ、ナイロ・キンタナ、そしてフェルナンデスが麓からトップスピードで駆け上がり、スカイ列車をフルームごと一気に振り払った。ただチャベスだけがスペイン艦隊と対等に渡り合い、執念でしがみついたコンタドールも、ついには後方へと追いやられた。
しかし、チャベスとキンタナがジャブを撃ち合い、そしてフェルナンデスが優勝へ向かってがむしゃらに飛び出していった直後、7月のマイヨ・ジョーヌは再びライバルたちの前に姿を現した。それどころか、山頂スプリントを打ったバルベルデの後輪に張り付いて、区間4位できっちりと1日を終えさえした。すなわち区間3位のバルベルデに対する損失は、ボーナスタイムの4秒のみ。初日、2日目を「ゼロ秒差」で終えたスカイ&モヴィスターの2人に、つまり4秒の差がついた。エル・インバティド(無敵男)が7秒差の総合2位に浮上し、フルーミーはその4秒後、つまり首位から11秒差の総合3位に立つ。
バルベルデ&フルームと同タイムの区間5位にチャベスが滑り込んだのだとしたら、スプリント力不足がたたって、キンタナはトリオから6秒遅れでフィニッシュラインを横切った。両者ともに総合では首位から17秒遅れで、それぞれ4位と5位につける。ちなみにキンタナは2010年ラヴニール覇者で、チャベスが2011年総合勝者。ついでに2012年ラヴニールの総合覇者ワレン・バルギルは、副鼻腔炎の悪化で、今ステージ中に自転車を降りた。また2014年の覇者ミゲルアンヘル・ロペスモレーノは、この日のゴール前8kmで集団落車に巻き込まれ、12分半近くも失ってしまった。
コンタドールもまた、タイムを大きく損失した。激勾配での速いペースに苦しめられ、バルベルデ&フルーム&チャベスから28秒遅れで1日を終えた。総合では1分31秒差の12位に沈む。グランツール7勝の大チャンピオンは、もちろん白旗を上げるつもりはない。まだ大会は18日間も残っている。
<選手コメント>
■アレクサンドル・ジェニエ(FDJ)
「これは(辛かったシーズンの)ご褒美だ。シーズン序盤はかなり調子が良く、ジロ・デ・イタリアに向けてモチベーションも上がっていたのに、第3ステージで落車して、走り続けることができなかった。1か月後に手首の骨折が判明して、そこからギプス固定1か月。7月初めにバイクに乗り始めてからは、調子を取り戻すためにすべてのことをやってきた。このステージを勝てて、ぞくぞくしているよ。それがこのブエルタでの目標だった。本当にとてもうれしい。
勝つためには、難しいステージで逃げなくちゃならないとわかっていた。レースはたくさん走っていないけれど、ツール・ド・ランの区間優勝で、コンディションの良さは感じていた。それでも、勝つためにはリスクを取ることが必要だ。5~6分差で先行することができるか、メイン集団がどんな風に反応するか、逃げてみないことにはわからない。とにかくやってみるだけなんだ」
トップスプリンターの不在は、レースのコントロールがより難しくなることを意味している。みんな、誰もに勝利の可能性があることを知っているから。そしてそれは、大きなストレスとナーバスなフィナーレにつながってしまうんだ。幸運なことに、ラスト2kmで仲間たちがこの上ない働きをしてくれた。まずスティービー(ゼネック・スティバール)が牽きに牽き、それからイヴ(・ランパルト)が風よけになってくれた。それで、ゴール前200mで飛び出すことができたんだ。チームメートたちに『ありがとう』と、それからこの勝利は、ぼくの妻と娘に捧げたいと思う」(出典:チーム公式サイト)
■ルーベン・フェルナンデス(モビスター)
「赤いジャージを手に入れることができて、素晴らしい気持ち。これまでレースをしてきた中で、もっともすてきな幕開けの一つだと思う。グランツールのチームTTをチームスカイの仲間と勝つことができたのだから。ピート(ピーター・ケノー)には、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。スプリントをして、ボーナスタイムを、ひいてはレッド・ジャージ(マイヨ・ロホ)を狙うチャンスを今日ぼくにくれた。そして、実現を可能にしてくれたチームにお礼が言いたい。
ゴール前2kmで、彼(ケノー)にスプリントを狙い「まったく予期していなかったよ。(ツール・ド・)ポローニュと(ブエルタ・ア・)ブルゴスの総合6位があったから、良いフォーム(調子)でブエルタに来たことはわかっていたけれど、ここでのぼくの仕事は、ナイロとアレハンドロをサポートすることだから。けれど、今日のフィナーレで、自分のために走るように言われたんだ。そうしてここに、ぼくの手元にロホ(赤)があるんだ。アタックという考えはまったくなかった。ナイロのアタックに備えて、レースをよりタフにするためにペースを上げていた。最後になって、そのまま前に行くように指示され、少し差を開くことに成功したんだ。イヤホンから、総合リーダーになったことを聞いて、大きな喜びに包まれた。マイヨ・ロホを守ることができるようにできる限りのことはやってみるけれど、ぼくの一番の仕事である、チームリーダーたちのアシストは決しておろそかにしないよ」(出典:チーム公式サイト)
■クリス・フルーム(チームスカイ)
「あまり速いペースで上り始めてしまうと、あの上りはだめなんだ。たった1.8kmだし、行けるんじゃないかと思ってしまいがちだけれど、そのワナにはまり、ラスト500mで後悔した選手も何人かいるんじゃないかな。ぼくにとってはかなりうまくいったと思うから、うれしいよ。 ぼくは、ぼく自身のペースで上ろうとしていた。上りのふもとでリーダーたちに少し差を開けられたけれど、とにかくペダルを回し続けて、前方に復帰しようとした。7分の長さだけれど、短い上りというには・・・ね。ミュール・ド・ユイ(ユイの壁)に似ているけれど、もっと長く続く感じかな。 フィナーレでぼくがいい位置に入れるように、チームメートは本当にいい仕事をしてくれた。(ミカル・)クヴィアトコウスキーとピート(ピーター・ケノー)、彼らには大きな敬意を感じている。彼らのタイムもぼくと同じなのに、それでも素晴らしいチームメートとして、自分たちを犠牲にしてくれている。 脚の感触にはかなり満足しているし、3日目で総合のこのあたりにつけていることにも満足だよ。とにかくトラブルを避けて、自分のチャンスを見極めて、もう少し走りこんでいきたいね。自分にとって終盤のタイムトライアルがカギ、ということははっきりしている。今は、とにかくトラブルを避けよう、ということだね」(出典:チーム公式サイト)
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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