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情熱の赤のレースが、2日連続で、青白赤のトリコロールに染められた。しかも、この日のヒーローは、無名のネオプロだった。生まれて初めてのグランツールに挑むリリアン・カルメジャーヌが、21人の大きな逃げ集団の中から力いっぱい飛び出すと、23年間の人生で最も大きな勝利を手に入れた。エスケープ仲間のダルウィン・アタプマは、生まれて初めてのグランツールリーダージャージを身にまとい、メイン集団のビッグネームたちは揃って1日を終えた。
前夜、大会3日目にして、早くも逃げが許された。多くの選手が後悔したようだ。俺も逃げてさえいれば……、と。だから4日目の朝、大量の飛び出しが繰り返された。一時はマイヨ・ロホ姿のルーベン・フェルナンデスさえ、大胆にエスケープに滑り込んだほど!さすがに、クリス・フルーム擁するスカイが、すぐさま回収に向かったけれど。
高速の追いかけっこは40km近く続いた。最終的にはトーマス・デヘントのイニシアチヴで、本日の逃げが出来上がった。大逃げでジロの名峰ステルヴィオとツールの魔の山モン・ヴァントゥを征服し、ジロ総合3位にさえ上り詰めた、そんなプロトン屈指のエスケープマスターが、20人を引き連れて前方へと飛び出していった。ちなみにベルギー人本人は、この夏のツールではついに果たせなかった、山岳賞ジャージ獲得の夢の続きを見るつもりらしい。序盤2つの3級峠で先頭通過を成功させると、前日のステージ勝者アレクサンドル・ジェニエ(10pt)に続き、山岳賞争いで総合2位(6pt)に食い込んでいる。
後方のメイン集団は、すぐに4分半ほどのリードを与えた。そこからはモヴィスター・チームが主導権を握り、タイム差コントロールに努めた。2日連続の逃げ切りを、許すつもりなどなかった。アタプマの存在が、特にスペインチームを追走に駆り立てた。総合でわずか1分35秒遅れでしかない上に、コロンビア人ヒルクライマーは、放っておくと、後々総合表彰台争いの驚異になりかねない。
しかし、モヴィスターの思惑通りには、物事は運ばなかった。なにしろ前を行く集団はとてつもなく巨大だった。しかもデヘントやアタプマ以外にも、ゼネック・スティバールやエンリコ・バッタリン、ピエール・ローランという強豪選手が潜んでいた。しかも前方には計14チームが選手を送り込み、つまり6チームが、それぞれ2選手ずつ有していた。たとえばキャノンデールはベンジャミン・キングとローランが協力し合った。好調キングは力を出し惜しみせず、ヒルクライムに強いローランのために牽引役を買って出た。
だから、どれほどモヴィスターが奮闘しても、一旦開いたタイム差を縮めることはできなかった。ゴール前40km、後方では追走作業が静かに打ち切られた。さらにじわじわと、タイム差は開いていった。これを合図に、前方では、協力体制が打ち切られた。逃げ切りが許されたことを悟った21人は、区間勝利へ向けた壮大なるアタック合戦へと乗り出したのだ。
デヘントが貪欲に狙い、ローランが加速し、スティバールも試みた。しかし、いわゆる「強者」たちの動きは、全てが極度に警戒され、全てがライバルの手によって封じ込まれた。その隙をついて、アクセル・ドモンは3度飛び出した。3度目はとりわけ強力で、そのまま最終峠の山道を、ひとり先頭で上り始めた。残された者たちは、牽制と牽引の間で揺れ動いた。やはりこの時も、キングが率先して牽引役を務め、ローラン……を含む逃げ集団全員を連れてドモンをきっちり回収した。ゴール前9.5km。再びエスケープはひとつになった。
その直後だった。カルメジャーヌがトライした。誰もすぐには動かなかった。「逃げの中でも、僕の名前を知っている選手は、それほどいなかったんじゃないかな」なんて冗談とも本気ともつかないコメントを本人は残したが、たしかに、ライバルたちはそれほど危険視していなかったのかもしれない。数人がきょろきょろと顔を見合わせた。同じフランス人であり、昨季までは同じ組織——ローランはプロチームに、カメルジャーヌはU23チームに——に属していたローランが、追走の責任を負うことにした。……しかし、無名選手の捨て身のアタックに、名うてのヒルクライマーたちはことごとくノックアウトされた。もはや誰一人として、追いつくことはできなかった。
2016年1月にプロデビューしたばかりの23歳は、がむしゃらにペダルをこぎ続け、その一方では、山頂にたどり着く直前に、ジャージの前を閉める明晰さも残していた。記念すべきプロ1勝目の勝利であり、グランツール初挑戦4日目でつかんだ、思いもかけない大金星だった。しかも所属チームのディレクトエネルジーに、今シーズン初めてのグランツール区間勝利をプレゼントしただけでなく……、設立17年目の同チームに初めてのブエルタ・ア・エスパーニャ区間勝利を献上したのだ!
カルメジャーヌが大サプライズを演出した、ほんの15秒後に、アタプマがフィニッシュラインへ飛び込んだ。区間2位のボーナスタイム6秒も手に入れ、メイン集団の到着を待った。
モヴィスターが追走を放棄したプロトンは、最終峠の直前で、代わってティンコフが集団制御に務めた。スピードを上げるためではなく、前日の最終峠でタイムを失ったアルベルト・コンタドールを、確実に前方で山道へと送り込むためだった。全長11.2kmの2級峠では、ただマイヨ・ロホのフェルナンデスが集団から脱落していた以外は、特筆すべき動きは見られなかった。いわゆる「マイヨ・ロホ&表彰台候補」たちは、みな揃って区間勝者の2分05秒後にゴールした。
こうしてBMCのコロンビア人の肩に、生まれて初めてのグランツールリーダージャージが舞い込んだ。フェルナンデスは1分10秒差の総合7位に大きく後退し、アレハンドロ・バルベルデは総合2位と順位こそ変わらないものの、首位からの遅れは7秒から28秒と広がった。もちろんバルベルデと総合3位クリス・フルームのタイム差は、4秒のまま変わらず。4位エステバン・チャベスと5位ナイロ・キンタナとの差が10秒なのも、13位アルベルト・コンタドールとの差が1分24秒なのも、まったく変わりはない。
<選手コメント>
■リリアン・カルメジャーヌ(ディレクトエネルジー)
「とてもいい感触を持ってブエルタに入った。何か思い切ってやってみなくてはならなくて、まさにそれが、今日ぼくがしたことなのだと思う。最後まで行けるかなんて、まったくわからなかった。ゴール前30kmのちょっとした上りで、(トマス・)デヘントのような選手たちが少し苦しんでいるのが見えて、もしかしたら、と思った。でも、ステージを勝つとなると、それはさらに別物。チームカーからの応援は、ぼくを元気づけて、勝利のチャンスを信じさせてくれた。苦しかったけれど、チャンスは掴まなくちゃいけない。リスクはあった。もしカウンター・アタックがあったら、ぼくのアタックなど潰されてしまうかもしれない。それでも賭けに出るべきだったし、それが実を結んだんだ。
ブエルタでは予期せぬことが起こりうる、というのは知っていた。まだ心の準備ができていないのに、それが自分自身に今起きてしまった、という感じ。それでも、シーズン初めからずっといい感覚が続いていたし、ネオプロ・コンプレックス(ネオプロだからだめだ、というような気持ち)を持たずに、思い切ってやってみるのが大切だったのだと思う。昨年のアレクシス・グジャールが見せてくれたように、プロ入りしたばかりでも、勝利は可能なんだ(※)。グランツールは、ワンデーレースと比べて、より逃げ切りが成功しやすいレースだから」(出典:レース主催者の公式プレスリリースより抜粋)
※:プロ入り2年目の昨年、ブエルタ第19ステージで優勝
■ダルウィン・アタプマ(ビーエムシー レーシングチーム)
「ブエルタでマイヨ・ロホを手に入れて、ぼくのキャリアの中で最高の日。今朝、今日のレースで逃げに乗ることを考えていて、チーム監督たちも同じ考えだった。スタート後の50kmではたくさんのアタックがあったけれど、メイン集団はなかなか逃げを許してくれなかった。メイン集団が前に行かせた、いいメンバーで構成された逃げに、何とか飛び乗れた。21人からなる強いグループで、かなりのアドバンテージを持つことができた。
ユタ一周レースからとても好調だったから、逃げグループの中では自信を感じていた。上りゴールが待ち受けていて、周りのみんなが自分より苦しんでいたことも、自信をくれた。最後の上りで何かやってみることができるだろう、と思ったんだ。最後の上りに到着したとき、メイン集団との差は3分。その時に、マイヨ・ロホ獲得が頭に浮かび始めた。リアルにその可能性があることがわかっていたから。ラスト5km、総合上位グループがかなりのスピードで上ってきていて、ジャージがどうなるかわからなかった。だからステージ勝利を狙って、アタックをかけてみたんだ。ステージは2位に終わったけれど、夢のマイヨ・ロホを手に入れた。
明日はものすごくハードなステージではないから、ジャージはキープできると思う。でも、たとえマイヨ・ロホ着用が1ステージでも、この上なく素晴らしいことだと思う。とにかく一日ずつ進んでいって、チームの目標のためにいい仕事をしたい」(出典:チーム公式サイト)
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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