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自分向きの地形だと確信していた。最高のタイミングも、見逃さなかった。ステージ最後の上り坂で、サイモン・イェーツはメイン集団から毅然と飛び出すと、鮮やかに独走勝利をさらいとった。生まれて初めてのグランツール区間勝利で、この春の苦労は、全て過去のものとなった。起伏に満ち満ちたコースで、ダルウィン・アタプマは危なげなくメイン集団に留まり、嬉しい3度目のマイヨ・ロホ表彰式に臨んだ。
熾烈なアタック合戦で1日は始まった。前日はスタートと同時に2人を逃がし、極めて静かにステージ序盤を過ごしたプロトンは、この日はクレイジーな打ち合いを延々1時間近く繰り広げた。猛スピードの激戦をかいくぐって、45km地点を過ぎたころ、ようやく11人が前方で小さな塊を作り上げた。
後方のメイン集団では、赤いリーダージャージを擁するBMCが、責任をもってタイム差制御に心がけた。タイム差「0」の2チーム、スカイとモヴィスターが睨み合ったせいで、まさかの逃げ切り勝利が実現した第3ステージや第4ステージとは状況が違った。逃げ集団には最小限のリードしか与えられなかった。3分が、この日の精一杯のタイム差だった。唯一の山岳を利用して、前方集団からオマール・フライレが単独で仕掛けた直後のことだった。
1年前の夏は、カハ・ルラルのジャージ姿で、フライレは初めてのグランツールに乗り込んだ。連日エスケープに奮闘し、マドリードでさえ逃げ、大会の終わりには白地に青玉の山岳ジャージを身にまとっていた。今季はディメンションデータのジャージに着替えたが、やはり狙いは同じだったようだ。前日第5ステージでは、逃げ選手のはるか後方で、3級峠最後の1ptをちゃっかり手に入れた。この日はしっかり逃げに飛び乗ると、2級峠の1位通過=5ptを獲りに行った。しかも、山岳ポイント収集だけで努力を打ち切ろうとはせず、そのまま独走態勢へと突入した。
抜け駆けを決して許すまいと、残された10人の半分が追撃を始めた。後方のメイン集団も、複数のチームが競り上がり、本格的な追走を始めていた。5人からさらに2人が脱落し、残す3人、つまりアンドレイ・ゼイツ、ヤン・バークランツ、マティアス・フランクが必死にフライレとの差を縮める一方で、モヴィスターやオリカ、エティックスの3チームは積極的に牽引を繰り返した。危険なまでにスピードは上がっていった。
ゴール前19km、フライレはついに捕らえられた。吸収と同時に、代わってフランクが賭けに出た。2年前、総合リーダーとして母国のチームIAMに迎え入れられながらも、2014年ツール・ド・スイス総合2位以上の成績をもたらすことはできなかった。今季末限りでチームは消滅し、来季からはAg2rでロマン・バルデの山岳アシスト役を務める。つまり、29歳のルーラー・クライマーが自分のために走れる機会は、この先そう多くは巡ってこない……。だから単独先頭でペダルを回す脚に、夢中で力を込めた。
しかし、後方との差は、すでに1分を切っていた。カーブやうねりの多い道で、集団はますます勢いを増していった。あまりに急ぎすぎたものだから、ランプレ・メリダやロット・ソウダルの総合リーダー格、つまりルイ・メインチェスとバルト・デクレルクがカーブを曲がり損ねて激しく地面に転がり落ちてしまったことさえ(幸いにも前者は、チームメートの自転車に飛び乗ると、メイン集団にすぐに復帰した)。せっかちなプロトンは、しかも、フランクを吸収する前に、ステージ優勝争いを終わらせてしまった!
ゼイツとバークランツを飲み込んだ直後だった。ゴール前4.5km、「無印」の上り坂で、モヴィスターからダニエル・モレノが発射された。ここでイェーツも、前に行く決心を固めた。当然ではあるけれど、モヴィスターにもオリカにも、もはや先頭牽引をする理由はなくなる。集団の統率が崩れ、勢いは緩むはずなのだ。その隙にスペイン人に追いつくと、イェーツは後輪にぴたり入り込んだ。 モレノの背後でほんの少しだけ足を休めると、ラスト4kmで再び加速した。独りになってすぐに、フランクにも追いついた。ここでも、ちょっとだけ後輪に入り込んで、息を整え直すことを忘れなかった。そして、「逃げの残党」が、もはや協力し合う力を残していないと見定めるや、非情にもあっさりと切り捨てた。ラスト3.6km、サイモン・イェーツは、勝利へと向かって飛び立った。
3月のパリ〜ニースは総合7位という好成績で終えた。ところが第6ステージのドーピング検査で、禁止薬物テルブタリン陽性が検出された。TUE治療使用特例の申請をチームが怠ったことが理由であり、意図的なドーピング行為ではない……という理由から、4か月という極めて短い出場停止処分だけで済んだ。しかし、ツール・ド・フランス出場には、ほんの10日間だけ間に合わなかった。双子の兄弟アダムは人生2度目のツール出場を果たし、総合4位&新人賞という、輝かしい成果を持ち帰ったというのに。
ただし、8月上旬に24歳になったばかりのサイモンは、苦悩や嫉妬の日々から自らの脚で抜け出した。後方からは数人が突進してきたが、過去の亡霊と一緒にすべて振り払った。2位以下に20秒、メイン集団には29秒のリードを奪って、悠々とフィニッシュで両手を上げた——。
3度目のグランツールで、アダムが双子にとって初めての副賞ジャージを手に入れたのだとしたら、同じく3度目のグランツールで、サイモンは双子にとって初めてのグランツール区間勝利を獲得したことになる。また所属チームのオリカ・バイクエクスチェンジは、創設5年目にして初めて、同一シーズンの3大ツール全てで区間勝利を手に入れた(ジロはチャベス、ツールはマシューズ)。
いわゆる「総合本命」たちは、みな揃って、29秒差の集団で1日を終えた。アタプマはマイヨ・ロホを危なげなく守り、一方では大会3日目のマイヨ・ロホ着用者ルーベン・フェルナンデスが、7位から一気に33位へと陥落した。また一撃を成功させたサイモン・イェーツは、総合でも15位から10位(1分28秒差)へと大きく躍進している。
<選手コメント>
■サイモン・イェーツ(オリカ・バイクエクスチェンジ)
「(出場停止処分を終えて)復帰して、レースに勝つことができてとてもうれしい。このために、これまで本当にハードなトレーニングを積んできた。だから、今はこの瞬間を楽しみたい。
曲がりくねって路面も悪い、スーパー・テクニカルなコースだとわかっていたから、なるべくハードなレースにしようと考えていた。いくつかのチームを不意打ちできたら、というのもあった。極めてハードなレースにできたと思う。そしてまさに絶好のタイミングで、アタックをかけることができたんだ」(出典:レース主催者の公式プレスリリースより)
■ダルウィン・アタプマ(ビーエムシー レーシングチーム)
「暑さに序盤のアップダウンもあって、今日のステージはかなりハードだった。チームは、ぼくがいつもいい位置にいられるように、逃げとの差が開き過ぎないように、本当にいい仕事をしてくれたと思う。フィナーレはとてもナーバスで、たくさんのアタックがあった。それでも常に良く反応できたから、ジャージをキープできるだろうという自信はあった。
マイヨ・ロホについては一日、一日ずつ進んでいって、そしてこの瞬間を楽しむようにしている。どれだけの間ジャージをキープすることができるかはっきりわからないけれど、それがどのくらいの間であっても、その瞬間をエンジョイし続けるよ。ぼくがこのジャージを身にまとい続けられるよう、チームはすばらしい働きをしてくれている。彼らのサポートに、本当に感謝しているよ」(出典:チームからの公式リリース)
■ルイスレオン・サンチェス(アスタナ)
「フィナーレはクレージーで、誰が前にいるのかまったくわからなかった。ゴール直前まで自分が勝ったと思っていたけれど、スコアボードを見て、2位だとわかった。後味は良くないけれど、勝利にもう少しのところまで行ったし、ブエルタは始まったばかりだ。あの上りに誰もがかなりのダメージを受けていたけれど、自分の脚の調子は最高だったし、あのタイミングのアタックは正しかったと思う。モビスターがハードにペースアップする中で、あのオリカの選手(サイモン・イェーツ)はうまくやったね。我々にとってはあまりいい結果ではないけれど、まだまだ1週目。不運なことに、ミゲル・アンヘル(・ロペス)はリタイアを余儀なくされたけれど、とにかくトライし続けるよ。我々のチームは5月のジロで勝ち、ツールでもアルをリーダーに戦ってきた。だからここでもできる限りのことをやらなくてはいけない」(出典:レース主催者による公式プレスリリースより)
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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