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ステージ終盤を活気づけたのはアスタナ プロチームで、ステージを制したのはイアム サイクリングだった。ヨナス・ヴァンヘネヒテンがスプリント勝利をむしり取り、今季限りの消滅が決まっているスイスのチームは、皮肉にも、今季だけで一気にジロ、ツール、ブエルタの3大ツールステージ勝利を手に入れた。ラスト1kmで追走列車を牽引したのはティンコフで、その列車から滑り落ちたリーダーが……、落車に巻き込まれた。同じく今季限りで解散するロシアチームは、7月のフランス一周に続き、8月のスペイン一周でもアルベルト・コンタドールの不運に嘆いた。
めまぐるしいアタック合戦は、比較的早く決着がついた。12km地点で6選手が飛び出すと、勇壮に前進を続けた。アップダウンがたっぷりと盛り込まれた道で、逃げ切りのかすかな可能性を追い求めて。しかしこの日のメイン集団は、いつになく厳しくタイム差制御に励んだ。リードは最大3分半しか許さなかった。ステージも折り返し地点を過ぎると、じわじわと、タイム差を縮めていった。
ゴールまで50km。すでに差は1分に小さくなった。そこで、突如として、アスタナが動いた。1年前のカザフ集団は、ファビオ・アルを見事に総合優勝へ導いた。しかし今年はリーダー格のミゲルアンヘル・ロペスモレーノが、落車の影響で前日に自転車を降りた。つまり急速に目標を切り替え、それに向けて行動を開始せねばならない。
まずは集団前方に競り上がり、コントロール権を力ずくで奪い取ると、猛スピードで牽引を開始した。前を行く6人を、ほんの数キロ先で飲み込んだ。吸収して勢いが衰えるどころか、ますます速度を上げた。メイン集団から邪魔者を振るい落とそうと、分断さえ生み出した。さらには、フィニッシュ手前30kmの「無印山岳」ゾーンで、ダリオ・カタルドを前方へと送り出した。すべてはルイスレオン・サンチェスを勝たせるための準備だった。
前日は、本人としては1位だと思いながらフィニッシュするも、結果は区間2位だった。がっかりしたが、好調さは実感できた。だから調子のピークが来ている間に、もう1度勝負したかった。なにより、フィニッシュへと続く道は、得意なダウンヒルだ。
切り込み隊長カタルドの後を追うように、ルイスレオン・サンチェスは駆け出していった。この春にピンク色の喜びを味わったジャンルーカ・ブランビッラや、すでに第5ステージにアタックを仕掛けたサイモン・クラークは、すかさずアスタナの企みに飛び乗った。さらにはスタート直後からのエスケープの一員で、ついさっき吸収されたばかりのルイス・マテマルドネスさえ、行動を共にした!
……このフランスチームのスペイン人は、実は、第1の逃げで3級峠×2回を先頭通過している。そして第2の逃げでも、同じように、3級峠で首位をさらった。つまり1日2回の逃げで、山岳9ポイントをつかみ取った。フランスチームのフランス人、アレクサンドル・ジェニエの首位10ptにも、あっという間に1pt差に迫った。もちろん現時点では青玉ジャージはお預けで、敢闘賞だけはきっちりとマテマルドネスが持ち帰った。
アスタナコンビにブランビッラ、クラーク、マテマルドネスの実力者5人は、勇敢に逃げ続けた。最終3級峠の上りでは、メイン集団で飛び出しが相次いだが、前の5人はこれっぽっちも脅かされなかった。むしろ、山頂からの長い下りが、鬼門だった。大きな塊となった集団が、急速に追い上げてきた。3級山頂=ゴール前18.5km地点で30秒あったタイム差は、ラスト10kmでは15秒にまで減っていた。
ルイスレオン・サンチェスは最後まで悪あがきを続けた。ゴール前9kmで再加速を切ると、クラークと共に先を急いだ。残り5kmで15秒、2kmで12秒。しかし、後方でティンコフが牽引を開始すると、リードは急速に溶けていく。ラスト1kmで8秒差。ティンコフの蛍光イエローは3人隊列で、フラムルージュをくぐった。
このラスト1kmに、2つのドラマが待ち受けていた。1つ目は集団落車。しかもティンコフ列車の3両目が連結解除された直後に——つまりミハエル・ゴグルとダニエーレ・ベンナーティの背後に潜んでいたコンタドールが、2人の後輪から離れた直後に——、それは発生した。
ゴール前550m、道が大きくうねった地点で、プロトンの一部がなぎ倒された。コンタドールも巻き込まれ、左半身を大きく打ち付けた。総合優勝を狙って乗り込んだ今年のツールでは、初日・2日目に落車の犠牲となり、志半ばで途中棄権を余儀なくされたというのに……。幸いだったのは、全治4か月と診断された7月の負傷とは違って、今回はおそらく擦過傷だけで済んだこと。また「ラスト3kmのタイム救済措置」のおかげで、タイムロスも一切なかった。
その他の総合争いの選手たちにも、みな揃って同タイムが与えられた。ダルウィン・アタプマの手元から、マイヨ・ロホが移動することはなかった。
そして2つ目は、ルイスレオン・サンチェスとクラークの逃走劇に、ギリギリで終止符が打たれたこと。リーダーの落車に気が付かず、猛進を続けたティンコフの両人が、着実に2人を追い詰めた。さらに畳みかけるように、落車を逃れた俊足たちが、2人の存在などお構いなくスプリント勝負へとなだれ込んだ。執念で粘り続けたものの、フィニッシュライン手前200mで、大きな流れに巻き込まれた。最終的にルイスレオン・サンチェスは11位、クラークは30位で1日を終えている。
フィナーレには、ヴァンヘネヒテンの歓喜が待っていた。29歳にして生まれて初めてのグランツールに出場した遅咲きが、ティンコフのダニエーレ・ベンナーティ、さらにはモヴィスターのアレハンドロ・バルベルデという強豪ベテランを退けて、生まれて初めてのステージ勝利をさらい取った。ちなみに現時点までの2016年ブエルタ区間勝者は5人。うち4人が、グランツール初区間勝利を祝っている!
イアムにとっては最初で最後のブエルタ勝利になるかもしれない。2013年に創設されたスイスチームは、チームにとってたった6度目のグランツール(2016年ジロ)の期間中に、年度末での解散を発表している。投資家のオーナーが、グランツール区間勝利も挙げられないような集団にはスポンサーなどつかない、と判断したからだ。そのわずか2日後に、イアムは、チーム史上初めてのグランツール勝利(ジロ)を祝った。さらにはツールでも1つ勝ち、そしてこの日はブエルタでも1つ。運命は残酷だ……。もはや時計の針を戻すことはできない。ジロ区間覇者のロジャー・クルーゲは来季はオリカへ、ツール区間覇者のハルリンソン・パンタノはトレックへ、そしてブエルタ区間覇者のヴァンヘネヒテンはコフィディスへ(でナセル・ブアニの発射台)と、それぞれに違う道を歩いていく。
<選手コメント>
■ヨナス・ヴァンヘネヒテン(イアム サイクリング)
「(このグランツール初勝利は)ぼくのリザルトの中で、ベストの記録だ。これはぼくにとって初のグランツールで、こんな風に走り続けられたらすばらしいと思う。けれどこのブエルタで、残されたチャンスはペニスコラ(第16ステージ)とマドリッド(第21ステージ)だけだね。イアムサイクリングに入って2年目になるけれど、今年我々はすべてのグランツールで区間優勝することができた。チームにとってもこの上ないことだと思う。ここでたくさんトレーニングをするから、スペインは第2の故郷のようなもの。ここでの勝利は、自分にとってとても意味があるんだ。
前には2人の選手(ルイスレオン・サンチェスとサイモン・クラーク)がいて、それについてぼくができることはなかった。ティンコフがメイン集団を牽引していて、ぼくは自分のポジション取りに集中していた。ゴール前500mで、4番手か5番手につけていたと思う。スプリントに入ったところで、前の2選手が捕まった。バリアの脇で行く手をブロックされたくなかったから、左に行った。すごいことをやってのけたよ」(出典:レース主催者によるプレスリリースより)
■サイモン・クラーク(キャノンデール・ドラパックプロサイクリングチーム)
「ある意味がっかりもあるけれど、アタックしつづけなくてはならないし、そうすればいつか時は来る。レースの序盤から、アスタナが何かたくらんでいることは明らかだった。ルイスレオン(・サンチェス)だろうということがぼくにはわかっていたから、アンドリュー・タランスキーに気を配りながらも、ルイスレオンから目を離さなかった。ダリオ・カタルドを発射台にするだろうということも読んでいたから、彼が加速したときに前に飛び出して、そこにルイス(レオン・サンチェス)も加わったんだ。そこからはフィニッシュラインまでただフル出力だった。ロ−テーションでペースについていくのが難しいくらい、ルイスは強かった。いずれにせよ2位狙いで走っていたから、それほどの落胆を感じないんだと思う。彼がどれだけ一流のライダーであるか、どれだけの強さを持っているか、今日のルイスは見せてくれたと思う」(出典:レース主催者によるプレスリリースより)
■アルベルト・コンタドール(ティンコフ)
「ゴール前800mでぼくはとてもいいポジションにいたから、ベンナ(ダニエーレ・ベンナーティ)にスプリントするよう言った。ゴール前400mの左コーナーで、やたらとブレーキしたがる選手にぶつかられ、体の左側を下にクラッシュした。ふくらはぎと大腿四頭筋を強く打ちつけたのと、あとは体の左側の広範囲に擦過傷を負っている。ものすごく痛みがあるけれど、折れたりはしていないようだ。これからホテルまで120kmの長い移動がある。今夜一晩休んでみて、明日の朝に状況を検討するよ」(出典:チーム公式ウェブサイトより)
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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