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サイクル ロードレース コラム 2016年8月28日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016 第8ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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てっぺんを勝ち取ったのは、「激坂ハンター」と呼ばれる部類に属する人間ではなかった。適切な逃げ集団に乗って、適切なタイミングでアタックを打ったセルゲイ・ラグティンだった。連日のように、グランツール区間初勝利の喜びを分け与えている2016年ブエルタが、この日は35歳のベテランの夢をかなえた。後方では、ついに大物たちが、本格的な戦闘モードに切り替えた。ナイロ・キンタナが鮮やかな加速を披露して、マイヨ・ロホをつかみ取った。

追い風に背中を押されて、プロトンは猛スピードで走り始めた。スタートから173km地点までは、道がほぼ平坦だったことも手伝って、走行時速は常に45km/hを超えた。9km地点で11選手が飛び出すと、後方集団からは最大10分半もの差を奪い取った。なにより全長8.5kmの最終峠の入り口にたどり着いた時も、いまだ9分近いリードをつけていた。つまり逃げ切り勝利は、早々に決まった。

11分の1の栄光を求めて、ジーコ・ワイテンスが真っ先に飛び出した。ガティス・スムクリスとヨナタン・レストレポが反応し、いつしか後者のコロンビア人クライマーが単独先頭で壁を登り始めた。カチューシャのチームメートであり、後の勝者でもあるラグティンは、すぐに20秒ほど離されるも、決して焦らなかった。ほかの逃げ選手たちと協力しつつ、自分のペースを保ち続けた。

カンペローナの激坂は、ラスト3kmからが正念場だ。20%近い壁が延々と続き、決して勾配が緩むことはない。そこで、レストレポの脚は動きが鈍り、ついには次々と追い抜かれていった。一方で、そこまで淡々と一定リズムを刻んできた男たちが、パワー全開でペダルを踏みこんだ。特に今大会、すでに2勝を挙げているフランス勢が、この日も積極的だった。ペーリ・ケムヌールはフラムルージュで力任せに前に飛び出し、アクセル・ドモンはゴール前200mまで先頭に立っていた。

しかし、果敢なるスプリントでフレンチを蹴散らしたのは、ウズベキスタン生まれのロシア人だった。……それにしても、普通なら喜びを爆発させ、感激の表情を世界中に披露すべき瞬間に、ラグティンは頭を抱えた。信じられない、という様相で。

2003年の春にU23版パリ〜ルーベを勝ち取り、秋にはU23世界チャンピオンの座に上り詰めたラグティンは、2004年に颯爽とプロデビューを果たした。しかし「元」期待の新人の、13年間のプロ生活は、決して輝かしい勝利に彩られたものではなかった。ただウズベキスタン国内タイトルばかりが増えていった(ロード7回、タイムトライアル2回)。7度出場したグランツールでは、2011年ブエルタで総合15位に入る健闘も見せた。ただ、どうしても、区間勝利には縁がなかった。

ひたすら信じ続けて、35歳まで走り続けた努力が、ついに報われる日がやって来た。表彰台の上では思い切り笑顔を見せた。しかも、山岳賞の青玉ジャージ授与式にさえ、引っ張り上げられた。こうしてラグティンが今大会5人目の「グランツール初勝利」を祝ったのだとしたら、所属チームのカチューシャは「2016年全3大ツールステージ優勝」を成し遂げた今大会5チーム目となった。

クリス・フルームが目指すものは、1978年のベルナール・イノー以来となる、ツール・ド・フランス&ブエルタ・ア・エスパーニャ同一年総合優勝だった。この夏のマイヨ・ジョーヌもまた、ラグティンと同じように——むしろ第3ステージと同じやり方で——、登坂序盤に無理はしなかった。ライバルたちの加速に心惑わされることなく、あくまでも自己のリズムを貫いた。こうして一旦は姿を消しつつ、徐々に位置を戻してきて……。

肝心のゾーンに突入すると、くるくるっと高速でペダルを回した。いつものように。ただツール時と違ったのは、大部分の選手はあっという間に振り払ったものの、最大のライバルであるキンタナを振り払えなかったこと。しかもアルベルト・コンタドールもきっちり反応してきた。前日フィニッシュ直前の集団落車に巻き込まれ、左半身に包帯やテーピングを巻き付けたチャンピオンは、粘り強くしがみついた。前夜の時点では「もう続けられないかもしれない」とさえ考えたというのに。

ツール閉幕の1週間後にライド・ロンドンを走り、1週間後にはリオ五輪でロードレースに出場し、4日後に五輪個人タイムトライアルで銅メダル獲得し、その10日後にブエルタ開幕を迎えたフルームは、さらにもう1度スピードを上げた。コンタドールは(一旦)脱落するも、やはりキンタナは振り切れなかった。それどころか、ツール後の4週間をしっかり休養にあてたコロンビア人に、カウンターアタックを決められてしまう。

過去のツールでは、しばし、キンタナの「待ち」の姿勢が批判の対象となってきた。チーム総出でレースを展開しておきながら、肝心のリーダーが動かない。ようやく動き始めるのは、すでにフルームのマイヨ・ジョーヌがほぼ確定した、3週目に入ってから。ところが、このブエルタでは、今までのような悠長な態度とはすっぱり縁を切ったようだ。8日目で大きな一発を打ち込むと、激坂の果てのフィニッシュへと一心不乱に突き進んだ。

フルームのペダルは空回りを続けた。キンタナに置き去りにされ、さらには自らが置き去りにしたはずのコンタドールに、再び追い抜かれた。キンタナの25秒後に、コンタドールはステージを締めくくった。さらに遅れること8秒、英国人はアレハンドロ・バルベルデと共に1日を終えた。前日までキンタナと同タイムにつけていたエステバン・チャベスに至っては、そのキンタナから57秒ものタイムを失った。

4日間マイヨ・ロホを守り続けてきたダルウィン・アタプマは撃沈し、大切なジャージを同郷コロンビアのキンタナに引き継いだ。首位が入れ替わっても、第3ステージから変わらず総合2位の座を守り続けているバルベルデが、やはり19秒差の総合2位についた。総合3位はフルーム(27秒差)、4位チャベス(57秒差)。コンタドールは1分39秒差と、いまだタイム的な遅れは大きいものの、順位は12位から7位と大幅に上昇させている。

<選手コメント>

■セルゲイ・ラグティン(チーム カチューシャ)
「とうとう夢が叶った。小さい頃から、グランツールのステージを勝つことを夢見ていたんだ。いまそれが現実になって、でもまだそれが自分に起こったことが信じられない気持ち。35歳になって、もしかしたらこのまま終わりなのかなあと心のどこかで考えていた。けれど、今日のおかげで、また新しいスタートを切ることができたらいいなと思う。ビッグ・リーダーなしだから、機会があればみんな自由に何かトライしてみる、というのが今回のブエルタ。まだ力もやる気もあるし、この先が楽しみだ。ぼくの人生の中でこの先ずっと、この勝利をうれしく、誇らしく思うだろう。この勝利はぼくにより大きな自信をくれた。必ず、この先のステージでもチャンスを探したいと思う。ブエルタはまだ始まったばかりで、あと2週間もあるからね。(中略)そしてこの山岳賞ジャージを、これから数日キープできるようにがんばってみるよ」(出典:チームによるプレスリリースより)

■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
「ブエルタにはいつも、良いレベル、良いレースができるコンディションでやってきている。マイヨ(・ロホ)のチャンスがあって、手に入れることができた。このジャージを、最終日まで守り続けられたらいいと思っている。 今日のステージはハイスピードで風が強く、ハードなステージだった。最後の峠はとても急で、とても厳しかった。それでもぼくたちは、アタックに反応して、よく防衛できたと思う。 たくさんの山岳ステージが残っているし、総合にとって極めて重要なタイムトライアルもある。どの日も本当にナーバスなステージになるだろうし、最後の日まで誰がブエルタを勝つかはわからない」(出典:レース主催者によるプレスリリースより)


■アルベルト・コンタドール(ティンコフ)
「今日のステージで何秒差を目標にしていたとか、言えることがないよ。とにかく生きている!できることなら(クリス・)フルームに対してタイムを失いたくない、ということだけはあったけれど。彼を追い越す脚があるとわかったとき、このチャンスを自分の有利に使わなくてはいけない、と自分に言い聞かせた。今日よりもっと多くの峠が登場する明日は明日。落車の痛みが2日以上あとになってもっと痛み出すときもあるから、これからしばらくはバスではなくチームカーでホテルに帰り、フィジオセラピーにより多く時間を取るようにする。 間違いなく、ぼくのブエルタは終わりだと思った。(落車後)ホテルに戻ったとき、本当にひどい状態だとわかった。ふくらはぎの筋肉の痛みで、まともに歩くこともできなかった。本当に、ぼくのブエルタは終わりだと思ったんだ。でも、たくさんの人がメッセージを送ってくれたり、何キロも何キロも、沿道からぼくの名前を呼んでくれる。これで、家に帰ることはできないよ。 とにかく、これからしばらくは今日みたいに走るしかない。たくさんたタイム差を取り返すことはできなかったけれど、ほんのわずかでも重要だから。近頃のレースは、数秒差で勝負が決まる。チームTTでのタイムロスや、エサロ(第3ステージ)でのぼくのバッド・デーと、ブエルタ序盤戦は本当に悪いこと続きだったけれど、とにかく一日一日進んで、どうなるか見てみたい。 バッド・ラックは信じないようにしているけれど、ツールで落車したときも、昨日(第7ステージ)も、黒いバイクに乗っていたんだ。だから悪いけど、もう黒いバイクではレースを走らないよ!」(出典:レース主催者によるプレスリリース)


■クリス・フルーム(チームスカイ)
「タフな上りだった。ナイロ(・キンタナ)は好調で、脱帽だ。アルベルト(・コンタドール)もすばらしかった。ファイターだということを見せてくれた。ぼく? なんとか生き延びているよ」(出典:レース主催者によるプレスリリースより)


コメント翻訳:寺尾真紀

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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