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8月最後の日曜日、スペイン一周は、今大会初めてのスペイン人勝利に大いにわいた。それにしても、なんと大胆な試みだったのだろう。ダヴィド・デラクルスは、意図的に、あのナイロ・キンタナからマイヨ・ロホを奪いとりにいったのだ。賭けは見事に成功した。収穫は初めてのプロ勝利に、初めてのグランツール勝利に、初めてのグランツールリーダージャージ!マイヨ・ロホ移譲はまた、モヴィスターチームの意志でもあった。
運命の逃げ集団が出来上がったのは、スタートからほんの12kmほど走った頃だった。ハイスピードのアタック合戦を制したのは12名。すでに1勝を上げているアレクサンドル・ジェニエを筆頭に、いわゆる「逃げ常連」が数多く飛び込んだ。なにより青玉候補者が3人も揃っていた。5日間守り続けてきた大切な青玉ジャージを、前日奪い去られてしまったヒルクライマージェニエ(10pt)に、2pt差で追いかける逃げ職人トーマス・デヘント(8pt)、さらには2012年に山岳ジャージを持ち帰ったサイモン・クラーク(2pt)。行く手に待ち構える小さな峠で、三つ巴の火花を散らした。
特にデヘントとジェニエは一歩も譲らず。山頂で激しく競り合ったかと思えば、はるか遠くから取りに行ったり。この日だけでデヘントが11pt、ジェニエが9ptを積み上げ、……つまり両者19ptで並んだ!大会規則によれば、同点で並んだ場合、山頂先頭通過の数が重要になってくる。2級峠の先頭通過は両者ともに1回ずつ。3級峠の先頭通過はデヘント4回に対して、ジェニエは2回のみ。こうして、山登りは嫌いだけど山岳ジャージは好き、というデヘントに軍配が上がった。今ツールでは「赤玉」を6日間着用したが、「青玉」は生まれて初めての体験となる。
赤いジャージを狙う存在も、逃げ集団に潜んでいた。前日の時点で総合でわずか2分46秒遅れのデラクルスは、とてつもなくだいそれた夢を抱いていた。ただし後方メイン集団からは、最大でも5分程度のリードしか許されなかった。コース半ばで夢から覚めたカタルーニャ生まれのヒルクライマーは、より現実的な、「区間優勝」の目標1本に絞り込んでいた。……ところが肝心のスペインチームが、実は、ジャージを手放そうと考えていた。真意はむしろ、この先待ち受ける長く厳しい山の戦いに備えて、ジャージと共にプロトンを統率する責任も手放すこと。だから地元スペイン人のデラクルスの存在は、パーフェクトだった!
山をひとつ越えるたびに、逃げ切りの可能性は色濃くなっていった。協力しあって先を急いだエスケープの仲間たちは、いつしかライバルに変わっていった。3つ目と4つ目の山の間の「無印」峠では、ヤン・バークランツとドゥリース・デーヴェニィンスが抜け駆けを試みた。4つ目の峠を終えた直後に、またしてもデーヴェニィンスと、そして「暫定マイヨ・ロホ」のデラクルスが飛び出した。ラスト10km。これが決定打となった。
デーヴェニィンスのチームメートのマティアス・フランクが、後方支援を請け負い、追走の試みをことごとく潰したおかげでもあった。残された9人が、極度の警戒ごっこを繰り広げたのにも助けられた。逃げ集団内でおそらく最も決定力のある男、ルイスレオン・サンチェスの動きに怯え、誰もイニシアチヴを取りたがらなかった。デヘントだけはお見合い合戦に付き合わず、単独で追いかけ始めたが、すでに2人は遠くへ行ってしまった後だった。
最終ナランコ峠には、4分20秒差で飛び込んだ。ベルギーチームのスペイン人と、スイスチームのベルギー人は——ちなみに来季2017年は両者はエティックスのチームメートになるのだが——、全長5.7kmの山道でせっせと先頭交代を繰り返した。ひたすら区間勝利だけが目的のデーヴェニィンスは、山頂スプリントに向けて力を出し惜しみしなかった。道の果てにマイヨ・ロホが待っていると信じて飛び出したものの、この時点のデラクルスはむしろ区間勝利のことだけを考えて……。
フィニッシュラインまで残り700mだった。エティックスの試した小さな加速に、IAMの脚が止まった。ギアチェンジのミスでまごつくライバルを尻目に、そのままデラクルスは、栄光に向かって飛び立った。プロ入り7年目にして初めて勝ち星が、山のてっぺんでは待っていた。常勝軍団エティックスには、今ブエルタ3勝目、今季グランツール8勝目、シーズン通算45勝目をプレゼントした。もちろん初物が大好きな2016年ブエルタで、グランツール区間初勝利を手にした6人目の選手となった。
しかも、中間ポイント2位通過=ボーナスタイム2秒と、区間優勝=ボーナスタイム10秒をかき集めたおかげで、歓喜の瞬間から2分34秒後には、今大会5人目の「グランツールリーダージャージ初着用」さえも許された。諦めかけていた夢が、現実のものとなった。
2週間後のマドリードで、マイヨ・ロホを着ていたいと願う集団は、最終峠の大半は淡々とスピードを上げるにとどまった。モヴィスターは文字通りのトレインを走らせ、細かい飛び出しには目をつむり、ひたすら直接的ライバルの動きだけに警戒を続けた。
フィニッシュ直前で総合10位サムエル・サンチェスが加速を切り、9位ジャンルーカ・ブランビッラが張り付いた時だけは、複合賞の白いジャージをまとうアレハンドロ・バルベルデが潰しに走った。その背後に小さな空間が生まれ、アルベルト・コンタドールとナイロ・キンタナは穴を埋めるのに少々苦戦するも、クリス・フルームの加速で全てが丸く納まった。ただ12位ゴールのブランビッラが1秒の分断を作り出すことに成功した以外は、メイン集団内の総合候補には揃って同タイムが記録された。
<選手コメント>
■ダヴィド・デラクルス(エティクス・クイックステップ)
とても特別な瞬間だった。これは過去数シーズン、たくさんの辛い時間を乗り越えてきたことに対するご褒美なんだ。ブエルタでステージを制して、しかもマイヨ・ロホを手にすることが出来たなんて、本当に驚きだ。逃げに乗ろうと考えたのは、マイヨ・ロホ獲得のチャンスがあるかもしれないと考えたから。でもプロトンはそれほどタイム差を与えてくれなかったし、リードは常に4分半程度で変わらなかった。きっと難しいだろうと考えた。8分か9分くらいのリードを開けたらと願ったけれど、プロトンがそれを許してはくれなかった。最終峠ナランコに入ったときは、もはや諦めかけていた。プロトンは2分位あっさり縮めてくるだろうと分かっていたからね。だからステージ勝利のためだけに走った。そうしたらおまけでレッドジャージがついてきたんだ。
この先に待っているのがスプリントステージなら、良かったんだけど。でも明日は、たとえコバドンガへの最終峠がなくとも、とてつもなく難しい1日となるだろう。昨日はあまり調子が良くなかった。それにぼくには厳しすぎる上りだった。でも、ぼくの登坂能力は、かなりいいほうなんだよ。ジャージを守ることは考えず、むしろチームのみんなと楽しみたいと思ってる。もちろん必死に戦って、自分がどこまでやれるか挑戦するつもり。でも、このジャージが、ぼくのキャリアの進路を変えるとは思わない。これからもステージ勝利を手にするために戦い続ける。(出典:大会公式リリースより)
■トーマス・デヘント(ロット・ソウダル)
ステージ優勝のために戦った。でも、上手く逃げに乗り込めたあと、ポイントも狙いに行こうと考えた。アレクサンドル・ジェニエとのバトルは熾烈だった。まだ逃げにトライできる機会はたくさん残っているけれど、とにかく、自分が今日成し遂げたことに満足しているよ。かつてのジロや、今年のツールのように、ブエルタでも区間勝利を決めたいと夢見ている。でも、今大会中にそれが可能かどうかは分からない。もしも出来なかったら、将来またトライするだけさ。グランツール区間勝利のコンプリートは、ぼくにとって、素晴らしい達成となるだろうね。(出典:大会公式リリースより)
■ナイロ・キンタナ(モヴィスターチーム)
このレッドジャージを譲り渡したことは、他の選手たちにとっては驚きだったようだね。でもぼくらはまるで心配していない。ぼくらが強くて、自信に満ちていることに変わりはない。ぼくには素晴らしいチームがついている。レースのリーダーは変わったけれど、ただぼくらは自分のすべきことを続けていくだけ。明日の重要なコバドンガフィニッシュに向けて、切り替えていくだけ。(出典:チーム公式ホームページより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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